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他社の製品カタログを流用する行為と著作権侵害の成否(東京地裁平成28年2月16日判決)

はじめに

製品カタログやパンフレットは、多くの企業にとって営業活動の基本となるツールです。同じメーカーの製品を扱う同業他社のカタログを「参考」にして自社のカタログを作る、という場面は実務上少なくありませんが、どこからが著作権侵害になるのかは、意外と知られていません。また、カタログは顧客に無償で配布されるものであるため、流用されたとしても損害額をどのように算定するのかという問題もあります。

今回のコラムでは、米国のキッチン・バス製品メーカーの日本正規代理店が作成した製品カタログを、同じメーカーの製品を扱う競合の販売代理店が流用してカタログを作成・配布したことについて、著作権侵害と著作者人格権侵害が認められ、180万円の損害賠償が命じられた裁判例(東京地裁平成28年2月16日判決)をご紹介いたします。

本判決は、①カタログのどの部分が著作物として保護され、どの部分が保護されないのかを、製品の選択・配列(編集)、説明文、図表のそれぞれについて具体的に線引きし、②無償配布されるカタログについて、著作権法114条2項・3項・114条の5を用いた損害額の算定方法を示したものです。カタログ等の販促物を制作・利用するすべての企業のご担当者にとって、有益な裁判例です。

事案の概要

Xは、米国のキッチン・バス製品メーカー(判決文では「米国コーラー社」と表記されています。)の日本正規代理店として同社製品の輸入販売を行う会社であり、Yは、同じく同社の販売代理店であって、Xと競合関係にある会社です。

Xは、製品説明の文章を制作会社に、写真撮影やデザインを外部のカメラマン・デザイン会社にそれぞれ依頼し、各成果物の著作権の譲渡を受けた上で、平成25年1月、自社名義の製品カタログ(以下「Xカタログ」といいます。)を完成させました。Xカタログは、米国メーカーの英文カタログから、日本の住宅事情や生活習慣等を考慮して製品を選択し、独自の分類・配列で掲載したものです。

Yは、平成25年10月頃、Xカタログを参考にして自社のカタログ(以下「Yカタログ」といいます。)を作成し、発行しました。Yは、訴訟において、Yカタログの作成に当たりXカタログを参考にしたことを認めており、争点は、Xカタログの記載の著作物性と損害額に絞られました。

Xは、Yに対し、編集著作物であるXカタログ全体並びに掲載された文章及び図表に係る複製権・翻案権・譲渡権と著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)の侵害を主張して、損害賠償の一部請求として1000万円及び遅延損害金の支払を求めて提訴しました。

本件の争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①Xカタログの記載(製品の選択・配列、説明文、図表)に著作物性が認められるか
争点②YがXカタログの流用によりカタログ作成費用の支出を免れたことは、著作権法114条2項の「利益」に当たるか
争点③無償配布されるカタログについて、損害額をどのように算定するか

裁判所の判断

争点① カタログの記載の著作物性について

裁判所は、Xカタログの記載を、(1)製品の分類・選択・配列(編集)、(2)製品説明等の文章、(3)図表の3つに分けて、著作物性を判断しました。判断の結果は、以下のとおりです。

対象判断理由
製品の分類・選択・配列創作性あり日本の住宅事情、生活習慣、担当者の経験等を考慮して製品を選択し、独自の順序で配列した点に作成者の個性が表現されている
価格・サイズ・材質等の基本情報と製品写真の組合せ創作性なし製品カタログにおいてこうした情報を掲載するのは一般的である
製品説明等の文章創作性あり言葉の選択及び表現方法に工夫がみられる
カタログの見方を1ページにまとめた図表、色見本創作性あり情報を分かりやすくまとめて表現する点に表現上の工夫がある
サイズ・重量等のスペック表、機能一覧表、部材一覧表創作性なし製品情報を表形式で整理することは一般的であり、罫線で区切ったありふれた表現である

編集(選択・配列)についての判示部分は、次のとおりです。

「原告カタログに掲載する製品の分類、選択及び配列に作成者の個性が表現されているということができるから、これら選択及び配列は、思想又は感情を創作的に表現したものと認めるのが相当である。」

他方、スペック表等について、裁判所は、次のとおり判示し、創作性を否定しました。

「製品に関する情報を表形式で整理することが一般的であることに加え、その表現も文字又は写真を黒色の細罫線又は太罫線で区切ったありふれたものであるといわざるを得ないから、これらの点に作成者の個性が発揮されているということはできない。」

その上で、裁判所は、創作性が認められた部分について、Yカタログの対応部分がXカタログとほぼ同一であることとYが依拠を認めていることから複製に当たるとし、Yカタログの作成は複製権侵害、配布は譲渡権侵害に当たり、また、一部を改変した点で同一性保持権を、Xの名称を表示しなかった点で氏名表示権を侵害すると判断しました。

争点② 作成費用の支出を免れたことは114条2項の「利益」かについて

Xは、著作権法114条2項(侵害者の利益額を権利者の損害額と推定する規定)の「利益」には、支出を免れたという消極的利益も含まれるとして、Xカタログの作成費用相当額(約718万円)が損害になると主張しました。

しかし、裁判所は、次のとおり判示し、この主張を退けました。

「同項は、著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから、同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが、原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから、原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても、そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。」

すなわち、Xのカタログ作成費用は、侵害の有無にかかわらずXが負担するものであるため、Yが支出を免れたことは、Xの「損害」に対応する「利益」とはいえない、という整理です。

争点③ 無償配布カタログの損害額の算定について

裁判所は、XとYがともに同じメーカーの販売代理店として競合関係にあり、XがYに複製を許諾することは通常考えられないから、侵害により損害が発生したこと自体は認められるとしました(著作権法114条3項)。しかし、カタログが無償で配布されるものであり、使用料等の算定基準が明らかでないため、損害額の立証は「その性質上極めて困難」であるとして、相当な損害額を認定できる著作権法114条の5を適用しました。

裁判所が損害額の認定に当たり考慮した事実は、以下のとおりです。

観点考慮された事実
カタログの改訂サイクルXカタログは、2年ごとに改訂される
Xの作成費用Xは、Xカタログの作成のために500万円程度の費用を要した(従業員の作業分は、現実の出費を示す証拠がないため、主張額の約半分の限度で認定)
Yの配布・回収の状況Yは、Yカタログ3000部の納品を受け、記念パーティーで約200部を配布するなどした後、Xから警告を受けてYカタログの回収・廃棄に努めたが、約650部は回収されていない
Yの差替えの時期Yは、約5か月後に、Yカタログと内容の異なる新たなカタログの納品を受けた
Yの作成費用・原価Yカタログの作成費用(外部への依頼分)は、278万2500円(1冊当たり約927円)であった

その上で、裁判所は、Xが無償配布するカタログの作成費用を2年間の営業活動により回収することを企図していたところ、Yカタログの配布期間中はこれを妨げられたとみることができるとし、Yカタログの部数・原価や、Yカタログには独自の部分も少なからず存在することを考慮して、著作権侵害による損害額を120万円と認定しました。これに、著作者人格権侵害の慰謝料30万円(氏名表示権・同一性保持権につき各15万円)と弁護士費用30万円を加えた合計180万円の賠償が命じられました。

コメント

本判決は、個別のカタログの記載内容に即した事例判断ですが、販促物の制作・利用をめぐる著作権の考え方について、以下の点で実務上の示唆に富むものといえます。

1 製品カタログも著作物として保護されること

本判決は、製品カタログについて、製品の選択・配列という編集の側面、説明文、図表のそれぞれに著作物性を認めました。カタログは事実情報の集積にすぎないと考えられがちですが、どの製品をどのような順序・分類で掲載するかの工夫や、説明文の表現には著作権が成立し得ます。本件のYは、Xカタログを参考にしたことを認めており、対応部分がほぼ同一であったため、複製権等の侵害が認められました。同じメーカーの製品を扱う代理店同士であっても、他社のカタログの流用が侵害になることを示す事例です。

2 保護される部分と保護されない部分の線引きが示されたこと

他方で、本判決は、価格・サイズ等の基本情報と製品写真の組合せや、スペック表・機能一覧表などのありふれた表形式については、創作性を否定しました。製品情報そのものやその一般的な整理の仕方は、誰が作成しても似たものになるため、著作権では保護されないという整理です。もっとも、保護されない部分があるからといって、カタログ全体を流用してよいことにはなりません。本件でも、創作性のある部分の複製が認められた結果、カタログの作成・配布行為全体が侵害と評価されています。自社のカタログを制作する際には、他社のカタログに依拠せず、自社の視点で製品の選択・配列や説明文を作成することが、リスク回避の基本となります。

3 無償配布物でも損害賠償は認められること

本判決は、無償配布のカタログについて、①作成費用の支出を免れたことは114条2項の「利益」に当たらないとしつつ、②競合関係にあり許諾があり得ない以上、損害の発生自体は認められるとし、③使用料の算定基準がないため114条の5により相当な損害額(120万円)を認定するという段階的な判断を示しました。「無償で配っているものだから損害はない」という理屈は通らない一方、権利者側にとっては、作成費用の全額(本件の主張額は約718万円)を回収できるわけではないという現実も示されています。

また、Yが警告を受けた後にカタログの回収・廃棄に努め、約5か月後には別のカタログに差し替えたという経過が、損害額の認定の考慮事実とされている点も参考になります。侵害の指摘を受けた場合に、速やかに配布を停止し、回収・差替えを行うことは、損害の拡大を防ぐ対応として重要です。

4 企業に求められる対応

本判決を踏まえると、企業には、①カタログ等の販促物の制作過程で他社の制作物に依拠しない体制の整備(制作会社任せにせず、参考資料の取扱いをルール化することを含みます。)、②外注した文章・写真・デザインについての著作権譲渡等の権利処理(本件のXは、外注先から著作権の譲渡を受けていたことが権利行使の基盤となりました。)、③他社から侵害の指摘を受けた場合の速やかな配布停止・回収等の初動対応、④自社の販促物を流用された場合の証拠保全と請求の組立て、といった対応が求められます。販促物をめぐる著作権の問題は、制作の外注関係が絡んで権利関係が複雑になりやすいため、弁護士に相談しながら進めることが有益です。

おわりに

本判決が扱ったカタログの流用の問題は、業種を問わず、販促物を制作・利用するすべての企業に起こり得るものです。どの部分が著作権で保護されるのかの判断や、侵害が生じた場合の損害額の見通しには、裁判例を踏まえた専門的な検討が必要となります。

当事務所は、著作権をはじめとする知的財産権に関する紛争対応・予防法務について、ご相談・ご依頼をお受けしております。カタログ・ウェブサイト等の制作時の権利処理、他社制作物との類似についての社内チェック、流用被害への対応をご検討中の企業のご担当者は、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。