はじめに
株式会社の経営において、株主間で深刻な対立が生じ、株主総会の決議や役員の選任が行えない、いわゆる「デッドロック」(膠着状態)に陥ることがあります。このような状態に至った場合に、株主は、裁判所に対し、会社の解散を請求することができるのでしょうか。会社法833条1項1号は、株式会社の解散事由として、「会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき」を定めていますが、その要件が問題となります。
今回のコラムでは、50%対50%の持株比率の株主間に深刻な対立が生じ、株主総会の開催も役員の選任もなされない状態が継続し、売上・利益が減少している株式会社について、会社法833条1項1号に基づく解散請求の可否が争われた大阪高裁令和4年3月24日判決を取り上げます。
本判決は、株式会社の解散請求に関する会社法833条1項1号の要件について、株主間にデッドロック状態が存在するというだけでは足りず、会社の運営上必要な意思決定ができないなどにより業務そのものが著しく停滞し、これに起因して会社に回復困難な損害が生じ、又は生ずるおそれがあると認められることが必要であるとの解釈を示した裁判例です。50%対50%の持株比率による合弁会社や、家族経営の同族会社、共同経営型の会社等、株主間デッドロックのリスクを抱える企業の関係者にとって、解散請求が認められる範囲を理解する上で参考となります。
事案の概要
当事者と被控訴人の事業内容
被控訴人Y株式会社は、平成3年12月27日に設立された、中古自動車の輸出入及び販売等を目的とする取締役会設置会社です。資本金は1000万円、発行済株式総数は200株です。被控訴人の主な業務は、日本国内で中古車を仕入れ、海外(主にニュージーランド)の顧客に輸出するものであり、ニュージーランドにa社(控訴人XとAが共同で設立)、フィリピンにb社(被控訴人が49%出資)を関連会社として保有していました。
控訴人Xは、被控訴人の設立以来、発行済株式の50%(100株)を保有する株主であり、設立時から平成30年5月31日までは被控訴人の代表取締役を務めていました。もう一方の株主はAで、同じく発行済株式の50%(100株)を保有し、設立時から取締役を務めていました。
対立の経緯と被控訴人の状況の推移
控訴人XとAとの間における対立の経緯及び被控訴人の状況は、以下のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成24年頃以降 | 控訴人XとAが、被控訴人の海外事業展開に関する経営方針等を巡って次第に対立するようになる |
| 平成24年9月以降 | 株主総会が開催されず、役員の任期満了に伴う新たな役員の選任もなされない状態が継続 |
| 平成28年3月 | Aが控訴人Xをフィリピンで刑事告訴 |
| 平成30年5月 | 被控訴人(当時の代表取締役は控訴人X)がニュージーランドにおいてAに対し訴訟を提起 |
| 平成30年5月30日 | 控訴人Xが、Aと協議することなく、被控訴人保有のb社株式(49%)全部を他社に譲渡 |
| 平成30年5月31日 | 取締役会において、控訴人Xが代表取締役から解任され、Aが代表取締役に選任 |
| 平成30年頃 | 被控訴人(代表取締役A)がフィリピンにおいて控訴人Xに対し訴訟を提起 |
| 平成30年9月10日 | 控訴人Xが、A及びCを被告として、取締役の善管注意義務違反等を理由とする株主代表訴訟を京都地方裁判所に提起 |
| 平成31年1月頃 | Aが、被控訴人とa社との契約関係を終了させ、d社との取引を開始 |
| 平成31年4月 | Aが、被控訴人とb社との契約関係を終了させ、業務委託先をc社に切替え |
なお、被控訴人の取締役は、控訴人X、A、Cの3名であり、いずれも取締役としての権利義務を有する状態にありました。取締役会は開催されており、Aが代表取締役として業務執行を行っていました。
売上高及び営業損益の推移
被控訴人の売上高及び営業損益の推移は、以下のとおりであり、特に第29期以降の減少幅が大きい状態となっていました。
| 期間 | 売上高 | 営業損益 |
|---|---|---|
| 第27期(平成29年7月~平成30年6月) | 約148億円 | 営業利益 約2億9000万円 |
| 第28期(平成30年7月~令和元年6月) | 約114億円 | 営業利益 約4696万円 |
| 第29期(令和元年7月~令和2年6月) | 約69億円 | 営業損失 約1億5204万円 |
| 第30期(令和2年7月~令和3年6月) | 約70億円 | 営業損失 約1億0765万円 |
訴訟提起及び訴訟経過
控訴人Xは、株主間でデッドロック状態が生じており、会社法833条1項1号(会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき)の解散事由があると主張して、被控訴人の解散を求めて訴えを提起しました。
原審(京都地方裁判所)は、控訴人の請求を棄却しました。これに対し、控訴人が控訴したのが本件です。本判決は、控訴を棄却し、原審の判断を維持しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 株主間デッドロック状態における会社法833条1項1号の解釈 |
| 争点② | 被控訴人について会社法833条1項1号の要件が充足されるか |
裁判所の判断
争点① 株主間デッドロック状態における会社法833条1項1号の解釈
裁判所は、まず、株式会社の解散請求の要件について、持分会社の解散請求(「やむを得ない事由」のみが要件)と比較して、より慎重かつ限定的に規定されていることを指摘しました。
判決文は、以下のとおり述べています。
持分会社の解散請求については、「やむを得ない事由」のみが要件とされている(会社法833条2項)のに比し、株式会社の解散請求については、同要件に加え、「業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがある」との要件が加重されている(会社法833条1項1号)ところ、その趣旨は、債権者などの会社関係者の利害も踏まえて会社の継続性を重視し、解散請求が認められる状況をより慎重かつ限定的に規定するものと解される。
その上で、裁判所は、会社法833条1項1号の解釈について、以下のとおり判示しました。
1号事由があるというためには、単に、デッドロック状態にあり株主総会で新たな役員を選任することができないため役員構成が事実上固定されていたり、更には、その一方の株主により他方の株主の意向に反する業務執行が行われ、他方の株主において、その意向が反映されないという状態が継続しているだけでは足りず、デッドロック状態などに伴って、会社の運営上必要な意思決定を行うことができないなどにより業務が著しく停滞し、かつ、これに起因して会社に回復困難な損害が生じ、又は生ずるおそれがあると認められることを要する
裁判所が示した、会社法833条1項1号が要求する要件を整理すると、以下のとおりです。
| 番号 | 要件 |
|---|---|
| ① | デッドロック状態などに伴って、会社の運営上必要な意思決定を行うことができないなどにより、業務が著しく停滞していること |
| ② | これに起因して、会社に回復困難な損害が生じ、又は生ずるおそれがあること |
また、裁判所は、控訴人による「デッドロック状態となっている場合には、同号前段の要件を満たすもので、かつ、後段の要件充足性も緩やかに認められると解すべき」との主張に対し、以下のとおり述べてこれを採用しませんでした。
会社法833条1項1号の要件をこれよりも緩やかに解してデッドロック状態により直ちに同要件が満たされるなどとする控訴人の上記主張は、同要件の形式的文言と離れている上、その趣旨に照らしてもそのまま是認できず、殊に相当小規模な閉鎖会社との関係では議論の余地があるとしても、被控訴人のような人的・物的規模の株式会社に対する解散請求を論じるに当たっては、採用することはできない
争点② 被控訴人について会社法833条1項1号の要件が充足されるか
裁判所は、被控訴人について、株主間でデッドロック状態に陥っていること自体は認めました。しかし、裁判所は、会社法833条1項1号の要件は充足されないと判断しました。
第一に、業務の停滞について、裁判所は、以下のとおり判示しました。
被控訴人においては、取締役の任期満了後の選任がされていないとはいえ、控訴人、A及びCの3名が取締役としての権利義務を有しており(会社法346条1項、351条1項)、取締役会も開催され、Aを代表取締役に選任する旨の決議を行い、Aを代表取締役として業務の執行そのものが継続されている。すなわち、株主間のデッドロック状態に伴って、役員選任など株主総会としての決議ができない状況が続いていることは、株式会社の運営として不正常といえるものの、…取締役の構成はいわゆるデッドロックを免れ、代表取締役を選任することもできており、株主総会の決議事項に及ばない限り、会社としての意思決定は適法に可能となっているのであって、本件全証拠によっても、現時点において、被控訴人の業務そのものが著しく滞っているとは認められない
第二に、被控訴人の売上・利益の減少について、裁判所は、以下の事情を考慮しました。
| 番号 | 考慮した事情 |
|---|---|
| ① | 第29期及び第30期は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴って、国内外いずれにおいても、経済活動が著しい制約を受けた時期と重なっていること(公知の事実) |
| ② | 被控訴人の事業も上記外的要因による多大な影響を受けたこと |
裁判所は、このような外的要因が存在する時期の売上・利益の減少をもって、直ちに833条1項1号後段の「損害」の要件が充足されるものではないと判断しました。
第三に、控訴人がAの「恣意的・専断的な経営」として指摘した事情(b社及びa社との契約関係の終了、海外法人との取引開始による資金流出の疑い等)について、裁判所は、以下のとおり述べました。
控訴人の指摘は、デッドロック状態に伴って、会社運営上必要とされる意思決定を行うことができないなど業務そのものが著しく停滞していることや、これに起因して会社に損害が生じていることを示すものではなく、むしろ、事業方針としての当否に議論があり得るとはいえ、会社運営上の意思決定及びこれに基づく業務執行そのものは行うことができていることを前提とするものといえる
控訴人の主張は、対立株主の一方であるAの事業方針が控訴人の意向に反するものであることを述べるにとどまり、デッドロック状態に起因する業務停滞や、これに起因する損害があることの論証にはなっていないとして、裁判所は、控訴人の主張を採用しませんでした。
結論として、裁判所は、被控訴人について会社法833条1項1号の解散事由は認められないとして、控訴人の請求を棄却した原審の判断を維持しました。
コメント
(1)本判決の意義と特徴
本判決は、株主間でデッドロック状態に陥っている株式会社について、会社法833条1項1号に基づく解散請求の可否を判断した裁判例として、実務上、参考となるものです。
本判決の特徴は、会社法833条1項1号の解釈について、以下の点を明確にしたことにあります。
第一に、株式会社の解散請求の要件は、持分会社の解散請求(「やむを得ない事由」のみが要件)と比較して、より慎重かつ限定的に解釈されるべきであることを示しました。これは、株式会社が債権者・従業員等の多数の関係者の利害に関わるものであり、その継続性が重視されるためです。
第二に、株主間でデッドロック状態が存在することそれ自体や、株主総会の不開催・役員選任の不実施、一方株主の意向が反映されないという状態が継続していることだけでは、解散事由を充足しないことを明らかにしました。
第三に、解散事由の充足には、(i)デッドロック状態などに伴って、会社の運営上必要な意思決定を行うことができないなどにより業務が著しく停滞していること、及び、(ii)これに起因して会社に回復困難な損害が生じ、又は生ずるおそれがあることが必要であることを明示しました。
(2)原審判決との判断枠組みの整理の違い
本判決の判断枠組みは、原審判決の判断枠組みをより明確に整理したものと評価できます。原審は、1号事由について、デッドロック状態に伴って業務が停滞すること、本来株主総会決議を要する業務執行がその決議がないまま行われたり、著しく恣意的・放漫な経営によって会社に回復困難な損害が生じるおそれがあることなどを挙げた上で、「当該会社が営利法人として存続することがほとんど不可能な状況に陥っていることを要する」との表現で要件を示していました。これに対し、本判決は、要件を、(i)デッドロック状態などに伴う業務の著しい停滞、及び(ii)これに起因する会社の回復困難な損害の発生又はそのおそれという2要件として整理して明示しました。両判決は、結論及び解釈の方向性において一致するものですが、本判決は、要件をより簡潔に整理した点で、実務における理解に資するものといえます。
(3)企業実務への示唆
本判決の判断は、企業実務、特に株主間デッドロックのリスクを抱える企業にとって、以下の示唆を与えるものといえます。
第一に、会社法346条1項及び351条1項により、役員の任期満了後も取締役・代表取締役は引き続き権利義務を有することから、株主総会の不開催だけでは業務遂行が継続可能であり、解散請求の要件は充足されにくいことを認識しておく必要があります。
第二に、解散請求を検討する際には、デッドロックの存在自体ではなく、デッドロックに起因する業務停滞の事実及び損害の発生・発生のおそれを具体的に主張・立証する必要があります。
第三に、株主間で業績悪化等の問題が生じている場合でも、それが外的要因(経済情勢、感染症等)や事業方針の対立に起因するものであれば、解散事由としての「損害」とは評価されない可能性があることに留意する必要があります。
(4)本判決の射程
もっとも、本判決は、被控訴人のような相当の人的・物的規模を有する株式会社を対象とした判断であり、「殊に相当小規模な閉鎖会社との関係では議論の余地があるとしても」とも述べています。したがって、相当小規模な閉鎖会社(オーナー2名による合弁会社等)の場合には、別途の判断がなされる可能性があり、個別事案ごとの慎重な検討が必要です。
(5)解散請求以外の救済手段とデッドロック解消の選択肢
加えて、原審判決は、株主間でデッドロックが生じている場合でも、解散請求以外に、株主や取締役としての権限行使を通じて代表取締役の業務執行を監督是正する手段があることに言及しています。具体的には、(ⅰ)株主としての会計帳簿の閲覧請求(会社法433条1項)、(ⅱ)取締役としての取締役会の招集請求(会社法366条)、(ⅲ)取締役会において代表取締役から職務執行状況の報告を受けることが挙げられます。デッドロック状態にある場合でも、これらの手段の活用により、代表取締役の業務執行に対する一定の監督・是正が可能であることに留意が必要です。
株主間デッドロックの問題は、合弁会社、家族経営の同族会社、共同経営型の会社等で発生しやすく、その解消方法には、株式譲渡、株式買取請求、解散請求、株主間契約に基づく対応など、複数の選択肢があり得ます。具体的な事案における対応方針の選択には、専門的な検討が必要となるため、事前に弁護士に相談することが有益です。
おわりに
株主間でデッドロックが生じた場合の対応や、株式会社の解散請求は、会社法上の要件解釈や実務上の判断が問題となる場面が多く、個別事案ごとに慎重な検討が必要となります。判断を誤ると、解散請求が認められない一方で、株主間の関係が悪化し続け、会社の運営に支障が生じ続けるリスクがあります。
当事務所は、株主間紛争、合弁解消、株式譲渡、株主間契約の策定、株式会社の解散・清算に関するご相談・ご依頼を承っております。デッドロック状態の解消方法や、解散請求の可否、その他の選択肢の検討について、お気軽にご相談ください。
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