はじめに
新商品を発表する場として、企業や個人デザイナーは、商品展示会・見本市を活用しています。もっとも、未だ量産・販売を開始していない展示品が、第三者に模倣された場合、不正競争防止法上の保護を受けられるのでしょうか。また、量産品が市販された段階で「保護期間」(3年)の起算点はいつになるのでしょうか。
知財高裁平成28年11月30日判決(スティック型加湿器事件)は、商品展示会に出展された段階の「商品化」の意義と保護期間の始期について判断を示すとともに、応用美術(実用品のデザイン)の著作物性についても、知財高裁の判断枠組みを示した重要な裁判例です。
今回のコラムでは、本判決のポイントと、本判決を踏まえた企業のプロダクト開発・商品調達に関わる実務上の留意点について、簡単に解説いたします。
事案の概要
控訴人ら(一審原告)は、デザインユニットを結成して活動するプロダクトデザイナーです。控訴人らは、試験管様のスティック形状をした携帯用加湿器(以下「控訴人加湿器1」「控訴人加湿器2」)を開発し、それぞれ平成23年11月の「TOKYO DESIGNERS WEEK 2011」、平成24年6月の「インテリアライフスタイル東京2012」に出展しました。
その後、平成27年1月から、控訴人らは、自らのウェブサイトで、量産品である「控訴人加湿器3」の販売の申出を開始しました。
これに対し、被控訴人(一審被告)は、平成25年9月及び11月、控訴人加湿器1・2と類似する形態のスティック型加湿器(以下「被控訴人商品」)を中国から輸入し、国内の取引先に販売しました。
控訴人らは、被控訴人による輸入販売行為が、①不正競争防止法2条1項3号の「形態模倣」に該当する、②控訴人加湿器1・2は応用美術として著作物性を有するから著作権侵害に該当するとして、差止め・廃棄及び損害賠償を求めました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 区分 | 争点 | 関連条文 |
|---|---|---|
| 争点① | 「他人の商品」該当性(展示会出展品が「商品」に当たるか) | 不正競争防止法2条1項3号 |
| 争点② | 「模倣」の有無(実質的同一性及び依拠性) | 不正競争防止法2条5項 |
| 争点③ | 保護期間終了の成否(保護期間の始期はいつか) | 不正競争防止法19条1項5号イ |
| 争点④ | 善意無重過失の有無(被控訴人の責任の有無) | 不正競争防止法19条1項5号ロ |
| 争点⑤ | 著作物性の有無(応用美術の著作物性) | 著作権法2条1項1号、10条1項4号 |
| 争点⑥ | 損害額 | 不正競争防止法5条3項2号 |
裁判所の判断
争点① 「他人の商品」該当性について
裁判所は、控訴人加湿器1・2が、いずれも、不正競争防止法2条1項3号にいう「他人の商品」に該当すると判断しました。
裁判所は、形態模倣の禁止の趣旨にかんがみ、「他人の商品」とは「商品化」を完了した物品をいい、現に販売されていることまでは要しないと解した上で、商品化が完了したというためには、客観的に確認できるものであって、販売に向けたものであるべきであり、販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要があるとの一般論を示しました。
裁判所は、次のとおり判示しています。
「商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護するとの上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて、『他人の商品』を解釈すると、それは、資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること、すなわち、『商品化』を完了した物品であると解するのが相当であり、当該物品が販売されているまでの必要はないものと解される。」
「もっとも、不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することによって事業者の営業上の利益を保護するものであるから(同法3条、4条参照)、取引の対象とし得る商品化は、客観的に確認できるものであって、かつ、販売に向けたものであるべきであり、量産品製造又は量産態勢の整備をする段階に至っているまでの必要はないとしても、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要があると解される。」
「商品展示会は、商品を陳列して、商品の宣伝、紹介を行い、商品の販売又は商品取引の相手を探す機会を提供する場なのであるから、商品展示会に出展された商品は、特段の事情のない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認めるのが相当である。」
控訴人加湿器1が、被覆されていない裸銅線で電源を供給する形態であった点については、量産化に向けた事後的な改変の余地があるとしても、それは販売可能な段階に至っていることを妨げないとされました。
争点② 「模倣」の有無について
裁判所は、被控訴人商品と控訴人加湿器1・2との間に実質的同一性及び依拠性を認め、被控訴人商品は、控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2を模倣したものであると判断しました。
裁判所は、まず、商品の内部構造について、不正競争防止法2条4項にいう「商品の形態」(需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状)に当たらないとして、内部構造の差異は、模倣の判断の考慮要素から除外しました。
その上で、外部形状については、両者が試験管を模したシンプルなデザインである点で共通し、その美観を左右する要素である「リング状の部分の配置」と「上端から下端までの長さと円筒部分の直径との比」について差異が大きくないと評価しました。
「被控訴人商品又は控訴人加湿器1について、上記共通点として認定される、試験管を模した形状である加湿器との両製品の特徴的部分の印象は極めて強いものであり、その影響の下においては、上記差異点程度の構成比の相違は印象からほぼ排除されてしまうものと認められ、被控訴人商品と控訴人加湿器1との形態が異なるということは困難である。」
被控訴人が主張した電源部分(裸銅線かUSBメス端子か)の差異についても、付属部分におけるデザイン上の微差にすぎないとして、実質的同一性の判断に影響しないとしました。
依拠性については、被控訴人商品と控訴人加湿器1・2との形態の同一性が、商品の機能を確保するための不可欠な形態の選択ではない以上、偶然の一致では合理的に説明できないこと、控訴人加湿器1・2が国際展示会・見本市に出展され、控訴人らのホームページにも掲載されていたため、海外を含めて多数の者が容易に控訴人加湿器1・2の形態を知り得たことから、被控訴人商品は控訴人加湿器1・2の形態に依拠したものと推認しました。
裁判所は、次のとおり判示しています。
「上記(1)にて認定判断のとおり、被控訴人商品と控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2は、実質的に同一の形態を有するものであるところ、リング状の部分の配置や電源の供給箇所をリング状の部分にしたことなども含めて、両者がこのように同一性を有する形態になっていることは、これらが商品の機能を確保するための不可欠な形態の選択ではない以上、単なる偶然の一致では合理的に説明できない。そして、控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は、いずれも、被控訴人商品の輸入前に国際展示会又は国際見本市に出展されていたほか、控訴人らのホームページにも、控訴人加湿器2の写真、すなわち、控訴人加湿器1と実質的に同一の形態を表示する写真が掲載されており、海外を含めて多数の者が、容易に控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を知り得たものである。」
「そうすると、被控訴人商品は、控訴人加湿器1の形態、又は、これと実質的に同一の控訴人加湿器2の形態に依拠したものと推認することができる。」
争点③ 保護期間終了の成否について
裁判所は、不正競争防止法19条1項5号イの「最初に販売された日」には、見本市への出展等の宣伝広告活動を開始した時、すなわち、商品の販売が可能となった状態が外見的に明らかとなった時を含むと解し、控訴人加湿器1の展示会出展日である平成23年11月1日を保護期間の始期と認定しました。
「上記『最初に販売された日』は、規定の趣旨からみて、実際に商品として販売された場合のみならず、見本市に出す等の宣伝広告活動を開始した時を含むことは、立法者意思から明らかであるから、商品の販売が可能となった状態が外見的に明らかとなった時をも含むと解するのが相当である。このように解さないと、商品の販売が可能になったものの実際の販売開始が遅れると、開発、商品化を行った者は、実質的に3年を超える保護期間を享受できることになってしまうが、これは、知的創作に関する知的財産法との均衡、先行開発者と後行開発者の利害対立などの調整として、保護期間を3年に限定した形態模倣の趣旨に合致しない。」
その結果、保護期間は平成26年11月1日の経過により終了したと判断され、差止請求は理由がないとされました。
もっとも、被控訴人商品の輸入は平成25年9月及び11月であり、保護期間内の行為であったため、後述のとおり、損害賠償請求は一部認容されました。
争点④ 善意無重過失の有無について
裁判所は、被控訴人の善意無重過失を否定し、過失を認めました。
裁判所は、まず、被控訴人の過失について、被控訴人の取引先であったスタイリングライフの担当者(A)が現に控訴人加湿器2の存在を認識し、その販売に意欲を有していたという事実を前提に、被控訴人の担当者(B)が控訴人らのホームページを検索・閲覧するなどすれば、容易に控訴人加湿器の存在等を知り得たこと、また、被控訴人が同時に提案した同種商品の一部について模倣品の疑義を指摘されていたことから、その他の同時に紹介された商品についても、模倣商品が含まれている具体的な可能性を推測すべきであったとしました。
裁判所は、次のとおり判示しています。
「上記(1)に認定のとおり、スタイリングライフの担当者であるAが、少なくとも控訴人加湿器2の存在を現に知っていたのみならず、その販売に対して意欲を有していたのであるから、同業者として同様の地位、立場にあるとみられるB(Bは、Aの後任者であるCの取引上の相手にほかならない。)が、控訴人らのホームページを検索、閲覧するなどすれば、少なくとも、控訴人加湿器2の存在や、控訴人らが自己の製作した作品を商品展示会に出展していることを容易に知り得たことが明らかである。まして、上記認定のとおり、Bは、Cから、被控訴人商品と同時に提案した同種商品の一部が模倣品であるとの疑義を指摘されていたというのであるから、その他の同時に紹介された商品についても、模倣商品が含まれている具体的な可能性を推測すべきであったといえる。」
その上で、裁判所は、善意無重過失の主張立証責任が侵害者側にあることを確認した上で、控訴人加湿器1・2が市場に流通していなかったとしても、同業者が現にその形態を知っていた以上、被控訴人もその形態を容易に知り得たといえ、市場に流通していなかったことは善意無重過失を基礎付ける事情として不十分であるとし、また、被控訴人が、輸入の際の具体的な事情や自らの商品市場調査の有無など善意無重過失を基礎付ける事実について何ら主張立証をしていないとして、被控訴人の善意無重過失の主張を採用しませんでした。
「不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為が、同法19条1項5号ロの事由により不正競争に当たらないとする場合には、侵害者において、同法19条1項5号ロの該当事由、すなわち、譲受時に形態模倣商品が他人の商品を模倣したものであることについて善意無重過失であることを主張立証しなければならない。」
「同業者において控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を現に知っていた者があるというのであるから、控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態は容易に知り得たといえ、控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2が市場に流通していなかったことは、善意無重過失を基礎付ける事情としては不十分なものである。そのほか、被控訴人は、被控訴人商品の輸入の際の具体的な事情や自らの商品市場調査の有無など善意無重過失を基礎付ける事実について何ら主張立証をしていないから、被控訴人が被控訴人商品を輸入した時点において善意無重過失であったとは、認めるに足りない。」
争点⑤ 著作物性の有無について
裁判所は、控訴人加湿器1・2について、応用美術としての著作物性を否定しました。
応用美術の著作物性の判断基準について、裁判所は、「高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべきである」として、通常の著作物と同様の基準(作成者の何らかの個性が発揮されたものであること)で判断する立場を採りました。
その上で、本件では、加湿器を「ビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬したもの」にすることはアイディアにすぎず、その表現はアイディアを具現したものにすぎないとして、個性の発揮を認めませんでした。
「ビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬した加湿器を制作しようとすれば、ほぼ必然的に控訴人加湿器1のような全体的形状になるのであり、これは、アイディアをそのまま具現したものにすぎない。」
リング状パーツが取外し可能となっている点についても、吸水棒の交換のために必要な構成にすぎず、個性を発揮する余地はないとされました。
争点⑥ 損害額について
裁判所は、不正競争防止法5条3項2号に基づき、被控訴人商品の小売価格1900円、販売数1万6739個、相当使用料率5%として、逸失利益を約159万円と認定し、弁護士費用30万円とあわせて、控訴人らに各94万5000円の支払を命じました。
コメント
本判決は、企業の商品開発・調達実務に対し、次の示唆を与えるものといえます。
1 「展示会出展」は形態模倣の保護対象となり得るとともに、保護期間の起算点ともなる
本判決は、商品展示会への出展時点で、不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」該当性が認められ得ることを示しました。これは、展示会への出展者にとって、保護の入口を広げるものといえます。
他方で、本判決は、同じく展示会への出展時点を不正競争防止法19条1項5号イの保護期間の始期(起算点)と判断しました。展示会出展から3年が経過した後は、形態模倣を理由とする差止請求はできません。したがって、量産・販売開始までに時間を要する開発者にとっては、3年の保護期間を実質的に短縮することにもつながり得ます。
2 商品開発者は、展示会出展前後の知財戦略の検討が求められる
上記のとおり、展示会出展は不正競争防止法2条1項3号の保護期間の起算点となり得るため、量産までに長期を要することが見込まれる場合には、展示会出展前に意匠登録出願を行うことを検討する必要があります。
なお、新規性喪失の例外(意匠法4条2項)の適用には所定の要件・期間制限があるため、展示会出展前後の手続については、専門家への早期の相談が有益です。
3 商品輸入・調達を行う事業者には、形態模倣品でないことの調査義務がある
本判決は、被控訴人の善意無重過失を否定する判断において、同業者が現に控訴人加湿器を認識していた事実、ホームページ検索による調査の容易性、同時に提案された他の商品に模倣品の疑義があった事実などを考慮しました。
商品輸入を業とする事業者は、輸入元から提案された商品について、商品名や形態についてのウェブ検索・展示会情報の確認等の調査を行うことが求められると解されます。社内における仕入時の権利確認フローの整備が、紛争予防の観点から有益です。
4 応用美術の著作物性は、通常の著作物と同じ基準で判断されるが、ハードルは依然として高い
本判決は、応用美術の著作物性について、知財高裁平成27年4月14日判決(TRIPP TRAPP事件)と同様、通常の著作物と同じ「個性の発揮」基準で判断する枠組みを採用しました。
もっとも、その「個性」については、アイディアと表現の区別を踏まえた上で、当該実用目的に必要な構成や、ありふれた形状を除外して評価される結果、応用美術の著作物性が認められる範囲は依然として狭いものとなります。本件でも、試験管を模した加湿器という着想自体はアイディアであり、その具現は個性の発揮ではないと判断されました。
実用品のデザイン保護を考えるに当たっては、著作権法による保護に過度に期待せず、意匠権・不正競争防止法による保護を組み合わせる戦略の検討が求められます。
おわりに
本判決は、商品展示会への出展がもつ法的な意味(保護対象としての位置づけと保護期間の起算点としての位置づけ)について、商品開発者・調達者の双方に重要な指針を与えるものです。
もっとも、不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」該当性、保護期間の起算点、模倣の有無、善意無重過失の評価などは、いずれも個別事情に応じた事実認定が大きく影響する論点です。また、応用美術の著作物性については、なお裁判例の蓄積が続いている分野であり、商品開発・商品調達の現場では、紛争の未然防止と早期対応の観点から、専門家による検討が有益となる場面が少なくありません。
当事務所では、不正競争防止法(形態模倣)、著作権法(応用美術)、意匠法その他の知的財産関連法令に関する相談・ご依頼を多数取り扱っております。商品開発時の知財戦略の整理、展示会出展前のリスク確認、模倣品が発見された場合の警告書送付・差止請求・損害賠償請求の対応、輸入商品が他社の権利を侵害していないかの事前調査体制の整備など、貴社の事業段階に応じた対応を支援しております。
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