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マンションの建築設計図の著作物性と複製権・翻案権侵害の成否(知財高裁平成27年5月25日判決)

はじめに

建築設計図は、設計者の専門的知識と創意が凝縮された図面として、著作権法上「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)に位置付けられ、著作物に該当し得ます。もっとも、建築設計の場面では、敷地の形状、法令上の制約、依頼者の要望、既存建物の状況など、設計者が自由に選択できない制約が多く存在し、どこまでが著作権法で保護される「創作的な表現」で、どこからが保護されない「アイデア」にとどまるのかは、実務上しばしば問題となります。

今回のコラムでは、マンションの建替計画において、控訴人が作成した設計図を参照して被控訴人らが別の設計図を作成したとして、著作権(複製権・翻案権)侵害が争われた知財高裁平成27年5月25日判決を紹介いたします。

建築設計、不動産開発、リフォーム・リノベーション等に携わる企業のご担当者にとって、建築設計図の著作物性と保護範囲を理解する上で有益な裁判例です。

事案の概要

控訴人は、建築設計を主たる業とする株式会社です。被控訴人らは、東京都渋谷区所在の宅地(本件土地)上にかつて存在したマンション「A」の区分所有者であった被控訴人Y2ら、同マンションの建替事業を担当した不動産開発会社である被控訴人日神不動産、建替後のマンションの設計図を作成した建築設計会社である被控訴人飛鳥設計および同社の代表者である被控訴人Y1です。

本件土地および旧マンションA(メゾンA)の物理的な特性は、以下のとおりです。

項目内容
本件土地の規制商業地域1(高度40m制限)、商業地域2(高度50m制限)、第一種住居地域(20m制限)の3種類の規制地域にまたがる敷地総面積437.75平方メートルの土地
本件土地の形状北東側は道路幅員約18.4mのオペラ通り、南西側は幅員約2.5mの私道に接し、長辺の長さの異なる長方形を2つ接して並べたようなL字形の形状
旧マンションAの住戸構成5階建て、総戸数16戸。1階・5階を除き南西面に3戸、北東面1戸の住戸が配置され、内部廊下が設置されていた
既存杭旧マンションAには合計17本の杭が配置されており、建替え時の建築費低減のためには、既存杭の位置を考慮する必要があった

本件の事実経過は、以下のとおりです。

時期出来事
平成18年4月頃被控訴人Y2らが、本件土地上のマンションA(5階建て、総戸数16戸)の建替計画を開始。等価交換事業として、当初は株式会社東急コミュニティーと進める方針であった
平成20年7月頃東急コミュニティーが建替計画から撤退。被控訴人Y2らは新たな共同事業者の選定を開始
平成21年6月9日控訴人の紹介により、有楽土地株式会社が共同事業者の候補者の1人となる。有楽土地の依頼を受けて、控訴人が基本設計図(控訴人図面)を作成し、同日、被控訴人Y2らに提示
平成21年6月頃被控訴人Y2らは、有楽土地の提案を不服として、有楽土地への建替え依頼を見合わせる
平成22年4月頃被控訴人日神が建替事業を担当することとなり、被控訴人日神が被控訴人飛鳥設計に新マンションの設計図面(被控訴人図面)の制作を依頼
平成22年10月6日被控訴人日神が建築確認済証の交付を受ける(建築確認申請に被控訴人図面を添付)
平成23年11月25日建替後の新マンション(本件建物、9階建て、専有部分30戸)が完成

控訴人は、被控訴人らが共同して控訴人図面に依拠して被控訴人図面を制作し、控訴人が有する控訴人図面の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したと主張して、設計料相当額3285万円等の損害賠償を求めて提訴しました。

原審(東京地裁)は、控訴人が主張する控訴人図面の創作性は作図上の工夫に当たらず、控訴人図面と被控訴人図面の共通点はアイデアが共通するにすぎないとして、著作物性を否定し、控訴人の請求を棄却しました。控訴人がこれを不服として控訴したのが本件です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①控訴人図面の著作物性(創作性の有無)
争点②被控訴人図面が控訴人図面の複製物ないし翻案物に当たるか(著作権侵害の成否)
争点③控訴人図面について、有楽土地に著作権譲渡がされており、控訴人は被控訴人らに対し著作権に基づく権利行使ができないか(著作権の帰属)

なお、争点③(著作権の帰属)については、争点①・争点②の判断を理由とする請求棄却の結論により、本判決・原審判決ともに実質的な判断は行われませんでした。もっとも、発注元への著作権の譲渡の有無は、設計委託に関連する実務上重要な論点であるため、以下では争点①・争点②についての本判決の判断を中心に紹介いたします。

裁判所の判断

裁判所は、控訴人図面には限定的な範囲で創作性が認められるものの、被控訴人図面は控訴人図面の複製物ないし翻案物に当たるとは認められないとして、控訴を棄却しました。

なお、本判決と原審判決は、いずれも著作権侵害を否定する結論においては一致していますが、控訴人図面の著作物性の判断において、以下のとおり異なるアプローチを採用しています。

項目原審判決(東京地裁平成26年11月7日判決)本判決(知財高裁平成27年5月25日判決)
控訴人図面の著作物性否定(控訴人が主張する創作性は、いずれも作図上の工夫ではなく、設計思想の特徴であるアイデアにすぎない)肯定(ただし、限定的な範囲で)
原告図面の性質の評価「極めて概略的な図面」であり、「原告図面のみに基づいては本件建物を完成させることはできない」と評価設計与条件・物理的制約の下での具体的表現には、控訴人の一級建築士としての専門的知識・技術に基づく個性が発揮されている
保護範囲著作物性を否定するため、保護範囲の問題は生じないデッドコピーのような場合に限って保護され得る

以下、争点①、争点②について、本判決(知財高裁判決)の判断を順に紹介します。

争点① 控訴人図面の著作物性について

裁判所は、建築設計図の著作物性の判断枠組みについて、以下のとおり述べました。

参照条文:著作権法10条1項6号

控訴人図面は、本件建物の設計図面であるから、著作権法10条1項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ、建築物の設計図は、設計士としての専門的知識に基づき、依頼者からの様々な要望、及び、立地その他の環境的条件と法的規制等の条件を総合的に勘案して決定される設計事項をベースとして作成されるものであり、その創作性は、作図上の表現方法やその具体的な表現内容に作成者の個性が発揮されている場合に認められると解すべきである。もっとも、その作図上の表現方法や建築物の具体的な表現内容が、実用的、機能的で、ありふれたものであったり、選択の余地がほとんどないような場合には、創作的な表現とはいえないというべきである。

その上で、裁判所は、作図上の表現方法について、以下のとおり述べ、この点の創作性を否定しました。

一般に建築設計図面は、建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって、建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり、作図上の表現方法の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。(中略)表現方法における個性の発揮があるとは認められず、この点に創作性があるとはいえない。

次に、建築物の具体的な表現内容について、裁判所は、本件マンション設計における選択の幅が限定されていたことを指摘しました。具体的には、以下の事情が考慮されています。

制約の類型制約の内容
法令上の一般的制約マンションは一般に、敷地の面積・形状、予定建築階数や戸数、道路・近隣との位置関係、建ぺい率、容積率、高さ、日影等に関する法令上の各種の制約が存在すること
等価交換事業上の制約等価交換事業としての性質上、上記制約の範囲内で敷地を最大限有効活用する必要性があること
旧マンション由来の制約住居スペースの広さや配置等は、旧マンションにおける住居面積・配置、住民の希望、建築後の建物の日照条件等に依ることがあること
設計与条件本件では、①本件建物を9階建てとすること、②被控訴人Y2らの住戸位置・階数は原則としてAの状態を踏襲すること、③エレベーター・階段は北側に設置し、エレベーターは住戸に接しないことが設計与条件とされていたこと
既存杭による物理的制約マンションAには合計17本の既存杭が配置されており、同杭を避けた場所に建替後のマンションの杭を配置することが合理的であったこと

その上で、裁判所は、各部屋や通路等の具体的な形状・組合せについては限定的ながら設計者の個性が発揮される余地があることを踏まえ、これらの具体的表現が反映された控訴人図面には創作性が認められるとしつつ、その保護範囲は「デッドコピー」のような場合に限定されると判断しました。判示は以下のとおりです。

各部屋や通路等の具体的な形状や組合せ等も含めた具体的な設計については、その限定的な範囲で設計者による個性が発揮される余地は残されているといえるから、控訴人の一級建築士としての専門的知識及び技術に基づいてこれらが具体的に表現された控訴人図面全体については、これに作成者の個性が発揮されていると解することができ、創作性が認められる。ただし、以上に説示したところからすれば、本件においては設計者による選択の幅が限定されている状況下において作成者の個性が発揮されているだけであるから、その創作性は、その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるにすぎず、その著作物性を肯定するとしても、そのデッドコピーのような場合に限って、これを保護し得るものであると解される。

争点② 被控訴人図面が控訴人図面の複製物ないし翻案物に当たるかについて

裁判所は、控訴人図面と被控訴人図面を各階平面図ごとに対比し、両図面は建物の全体形状に由来する構造や、旧マンションと同様の配置に由来する各部屋の概略的配置は類似するものの、各部屋や通路等の具体的な形状・組合せは異なる点が多くあることを認定しました。その上で、以下のとおり述べ、実質的同一性を否定しました。

控訴人図面と被控訴人図面とを比較すると、建物の全体形状に所以する各階全体の構造や、Aと基本的に同様の配置とすることに所以する内部の各部屋の概略的な配置は類似するものの、各部屋や通路等の具体的な形状及び組合せは異なる点が多くあり、もともと控訴人図面の各部屋や通路の具体的な形状及び組合せも、通常のマンションにおいてみられるありふれた形状や組合せと大きく相違するものではないことを考慮すれば、控訴人図面及び被控訴人図面が実質的に同一であるということはできない。

控訴人は、控訴人図面の創作性を基礎づける要素として、建物階数・建物配置、柱位置・柱数・柱間寸法、住戸配置、バルコニーの形式、エレベーター・階段の配置、1階配置について個別に主張しました。これに対し、裁判所は、以下のとおり、これらは設計与条件となっていた事項またはアイデアにすぎず、著作権法上の保護の対象とはならないと判断しました。

控訴人の主張裁判所の判断
本件建物を9階建てとすること控訴人図面を作成する際の設計与条件であり、9階建てとすることを最初に提案したこと自体もアイデアにすぎず、著作権法上の保護の対象とはならない
既存杭を避けた柱位置設定、柱本数、柱間寸法既存杭を避けることは設計与条件であった。柱本数・柱位置は、本件建物の全体形状・内部配置を前提とした場合の合理的な選択の幅は限られていた
住戸配置(南西面すべて住戸、北東面住戸数最小化等)設計与条件となっていた事項であり、この配置を最初に提案したこと自体もアイデアにすぎない
バルコニーの跳ね出し形式・幅1900mm跳ね出し形式とするかの選択はアイデアであり、バルコニーの全体形状も直線的なものにすぎず、幅員のみが一致することをもって著作権侵害とはならない
エレベーター・階段の配置設計与条件となっていた事項であり、屋外階段の骨格を建物の正面に外部に露出させることもありふれたものである
1階配置(診療所・店舗・サブエントランス等)いずれもアイデアにすぎず、また、具体的な1階平面図には控訴人図面と被控訴人図面との間に相違点があることから、著作権侵害とはならない

以上を踏まえ、裁判所は、被控訴人図面は控訴人図面の複製物ないし翻案物に当たるとは認められないとして、控訴人の著作権侵害の主張を排斥しました。

コメント

1 本判決の意義

本判決の意義は、以下の諸点に整理することができます。

(1)建築設計図の著作物性の判断枠組み

本判決は、建築設計図は著作権法10条1項6号の「学術的な性質を有する図面」に該当するとした上で、その創作性は、作図上の表現方法および建築物の具体的な表現内容に作成者の個性が発揮されている場合に認められるとしました。

その上で、作図上の表現方法については、施工担当者が理解できる共通のルールに従うため選択の幅がほとんどないとして創作性を否定し、建築物の具体的表現内容における創作性の有無を中心的な判断対象とする枠組みが示されています。

(2)設計与条件・制約による保護範囲の限定

本判決は、マンション設計における法令上の制約、等価交換事業としての制約、依頼者からの設計与条件、既存杭等の物理的制約を詳細に検討し、これらの制約により選択の幅が限定されている場合には、控訴人図面全体としての著作物性は肯定されるものの、その保護範囲は「デッドコピーのような場合」に限定されるとの判断を示しました。

著作物性の有無と保護範囲の広狭は別途の問題であり、著作物性が認められても、直ちに広い保護範囲が及ぶわけではないことが示されています。

(3)アイデアと表現の区別

本判決は、建物の階数、柱・住戸・エレベーター・階段の配置方針、バルコニーの形式の選択、1階施設の配置方針等について、これらの「方針」や「考え方」は、具体的な作図上の表現とは区別される「アイデア」にとどまるとして、著作権の保護の対象とはならないと判断しました。

設計者が最初に提案した方針や工夫であっても、それがアイデアにとどまる限りは、他の設計者が同様の方針を採用したことをもって著作権侵害とはならないことが確認されています。

(4)著作物性の有無と保護範囲の広狭を独立して検討する枠組み

本判決は、原審判決が控訴人図面の著作物性自体を否定したのに対し、控訴人図面全体としての著作物性を肯定した上で、保護範囲を「デッドコピーのような場合」に限定するアプローチを採用しました。

実用性・機能性が高く、かつ、設計与条件・法令上の制約により選択の幅が限定される著作物(設計図、工業製品のデザイン図等)の保護を検討する際には、著作物性の有無と保護範囲の広狭を独立して検討する本判決の枠組みが、参考となる判断手法を示しているといえます。

2 企業等に求められる対応

本判決を踏まえ、企業等に求められる対応としては、以下のような点が挙げられます。

場面対応の内容
自社作成の建築設計図の保護を検討する場面作図上の表現方法よりも、各部屋・通路等の具体的な形状・組合せといった具体的な表現内容における創意工夫を整理・記録化しておくことが、後日の著作物性主張に有益となり得ます。設計方針や発想といった抽象レベルの工夫は、アイデアとして保護されない可能性があります。
他社の建築設計図を参照する場面他社設計図の「具体的な表現」と「設計方針・アイデア」を区別し、前者をそのまま用いないよう留意することが望まれます。設計与条件・法令上の制約・既存杭位置等により選択の幅が限られる部分については、共通点が生じても直ちに侵害と評価されにくい一方、具体的な部屋・通路の形状・組合せまで同一にした場合には、侵害と評価される可能性があります。
建替計画・リノベーション計画で複数の設計者が関与する場面先に関与した設計者の設計図を後続設計者に提示する場合、提示された設計図に含まれる具体的表現を転用しないよう留意することが望まれます。先に関与した設計者との契約において、設計図の利用範囲、著作権の帰属、契約解除時の取扱い等について明示的に合意しておくことが、後日の紛争予防に有益です。
設計委託契約を締結する場面設計図の著作権の帰属、設計図の利用範囲(他の設計者への提供可否を含む)、計画変更時・契約解除時の設計図の取扱い、設計方針・アイデアの取扱い等について、契約書で明示的に定めておくことが、後日の紛争予防に有益です。

おわりに

建築設計図の著作物性、複製・翻案該当性、アイデアと表現の区別の判断は、設計与条件、法令上の制約、依頼者の要望、既存建物の状況等を総合的に勘案して行う必要があり、実務上の判断には専門的な検討が不可欠です。自社が作成した設計図が第三者により無断で模倣されているとお感じの場合や、他社の設計図を参照しての設計制作をご検討される場合、あるいは建築設計委託契約の作成・見直しをご検討される場合には、後日の紛争を回避するためにも、早期に弁護士にご相談いただくことが有益です。

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