はじめに
SNS上で自社の商品や従業員、取引先に対する批判的な投稿がなされたとき、企業は、投稿者の特定(発信者情報開示請求)や投稿の削除を検討することがあります。他方で、自社や自社の役職員がSNS等で、他社の商品や第三者の作品・写真を取り上げて、疑問を投げかけたり、比較・検証を行ったりする場面もあります。このような発信について、名誉棄損や著作権侵害、同一性保持権侵害として相手方から責任を追及されないかという問題も、実務上、しばしば検討を要します。
知財高裁令和4年10月19日判決は、プロのイラストレーターに対する「トレース疑惑」を指摘するツイートをめぐり、①名誉棄損における違法性阻却事由、②著作物の引用(著作権法32条1項)の適法性、③タイムライン上のトリミング表示と同一性保持権侵害、という論点について、判断を示したものです。
本判決は、発信者情報の一部開示を認めた原審(東京地裁)の判断を覆し、同一の事案・証拠関係のもとで、名誉棄損における真実性の評価、著作権法32条1項の引用の適法性、同一性保持権侵害の成否のいずれの論点についても、原審と対照的な結論を示した点でも注目されます。
今回のコラムでは、上記知財高裁判決を取り上げ、SNS運営者、コンテンツを発信する企業、クリエイターを抱える企業の担当者にとって、ポイントとなる点を解説いたします。
事案の概要
本件は、氏名不詳者(本件投稿者1及び2)によって、ツイッター上に、プロのイラストレーターである被控訴人(一審原告)Yのイラストについて、他人の作品をトレース(なぞって写し取る手法)して作成したものである旨を指摘する投稿(画像を含む)がされたことを受け、被控訴人が、ツイッターを運営する控訴人(一審被告・Twitter, Inc.)に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた事案です。
問題となったツイートは、主に次の4件です。
| ツイート | 主な内容 |
|---|---|
| ツイート1-1 | 被控訴人のイラストとA氏のイラストを重ね合わせた画像を添付し、「これどうだろうww」「ゆるーくトレス?」「普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と投稿 |
| ツイート1-2 | 被控訴人のイラスト(鏡餅)と楽天市場掲載の鏡餅写真を重ね合わせた画像を添付し、「この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。」「トレス常習犯ですわ。」などと投稿 |
| ツイート2-1 | 被控訴人作成のイラスト2枚を添付し、「横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?」などと投稿 |
| ツイート2-2 | 被控訴人作成のイラストに赤枠を付した画像と女性の横顔イラスト6枚を並べた画像を添付し、デッサンが不自然である旨を指摘する投稿 |
原判決(東京地裁令和4年4月15日判決)は、①本件各投稿以前にされた本件各アカウントへのログインのうち、令和2年4月3日午前零時以降で最も新しいものに係るIPアドレス及びタイムスタンプ、②本件アカウント1の管理者の電話番号、③本件アカウント2の管理者の電子メールアドレスの開示を認め、その余の請求を棄却しました。これに対し、控訴人が敗訴部分について控訴し、本判決に至ったものです。本判決は、後述のとおり、原判決の敗訴部分を取り消し、被控訴人の請求を全部棄却する内容となっています。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件ツイート1-1の投稿による権利侵害の明白性(名誉棄損・著作権侵害・同一性保持権侵害・営業権侵害) |
| 争点② | 本件ツイート1-2の投稿による権利侵害の明白性(名誉棄損・著作権侵害・同一性保持権侵害・営業権侵害) |
| 争点③ | 本件ツイート2-1の投稿による権利侵害の明白性(著作権侵害・営業権侵害) |
| 争点④ | 本件ツイート2-2の投稿による権利侵害の明白性(著作権侵害・同一性保持権侵害・営業権侵害) |
いずれの争点も、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らか」といえるかが共通の判断枠組みとなっています。
裁判所の判断
「権利侵害の明白性」の判断枠組み
裁判所は、まず「権利侵害の明白性」の意義について、以下のとおり判示しました。
発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、プロバイダ責任制限法4条1項1号が、発信者情報の開示請求について厳格な要件を定めていることに照らすと、同号が規定する「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならないと解される。
争点① 本件ツイート1-1の投稿による権利侵害の明白性について
裁判所は、まず、本件ツイート1-1は、被控訴人が他人のイラストをトレースして本件イラスト1を作成したとの事実を摘示するものであって、プロのイラストレーターである被控訴人の社会的評価を低下させる内容であると認定しました。
しかし、裁判所は、違法性阻却事由(摘示事実の真実性)について、以下の事情を踏まえて、真実である蓋然性が高いと判断しました。
| 観点 | 考慮事情 |
|---|---|
| イラスト同士の類似性 | 被控訴人のイラストのベースになったとされる線画とトレース元とされるイラストを比較すると、構図が類似し、横顔の輪郭部分が額から頚部に至るまでほぼ一致し、首の角度や耳の位置もほぼ一致していること |
| 偶然の一致の可能性 | これらの全てが偶然一致したものとは考え難いこと |
| 再現動画の検討 | 被控訴人が提出した再現動画においても、作成されたイラストとトレース元とされるイラストを対比すると、首の角度及び耳の位置が大きくずれており、輪郭についても顎部分が重ならないこと |
| アクセスの可能性 | トレース元とされるイラストは、被控訴人がイラスト作成の依頼を受けた時点で既に公開されており、被控訴人が参照可能であったこと |
その上で、著作権(複製権・自動公衆送信権)侵害については、著作権法32条1項の「引用」として適法であると判断しました。
本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。…本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用方法は、前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるのが相当である。
また、同一性保持権侵害についても、裁判所は、①重ね合わせ表示及び②タイムライン上での一部のみの表示について、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるとしました。
投稿者が改変主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」に当たるというべきである。
以上から、裁判所は、本件ツイート1-1の投稿について権利侵害の明白性を否定しました。
争点② 本件ツイート1-2の投稿による権利侵害の明白性について
本件ツイート1-2は、「トレス常習犯ですわ。」との文言とともに、被控訴人の鏡餅のイラストと楽天市場掲載の鏡餅写真とを重ね合わせた画像を含む投稿です。
裁判所は、当該ツイートが被控訴人の社会的評価を低下させる事実を摘示するものであると認めた上で、違法性阻却事由について、以下の事情を総合し、摘示事実が真実である可能性が高いと判断しました。
| 観点 | 考慮事情 |
|---|---|
| イラストと写真の類似性(モチーフ) | 鏡餅、鏡餅の上に載せられた蜜柑、蜜柑の葉について、形状、色調及び輪郭が一致すること |
| イラストと写真の類似性(背景) | 鏡餅が載せられた板について、位置、奥行きの長さ、厚さ、茶系色であることが一致すること |
| 偶然の一致の可能性 | これらが全て偶然に一致するとは考え難いこと |
| 被控訴人提出の反証資料の検討 | 被控訴人が提出したラフ画や動画では、線対称の楕円形を用いた作画であるのに対し、本件被控訴人イラスト2における鏡餅は、線対称の楕円形からなるものではないこと |
| 過去の同種行為(常習性) | 被控訴人が、少なくとも複数回、他人の写真又はイラストをトレースしてイラストを作成し、自ら作成したイラストであるものとしてツイッターやブログで公表していたこと |
著作権侵害及び同一性保持権侵害についても、争点①と同様に、引用として適法であり、やむを得ないと認められる改変に当たるとして、権利侵害の明白性を否定しました。
争点③ 本件ツイート2-1の投稿による権利侵害の明白性について
本件ツイート2-1は、被控訴人の画力の差を指摘するため、被控訴人作成のイラスト2枚を添付したものです。
裁判所は、本件投稿者2がイラストを利用した目的は批評にあると認め、以下のとおり判示しました。
本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、女性の横顔のイラスト以外のイラストにおける被控訴人の画力をみるには、被控訴人の作成した複数のイラストを比較観察することが相当である。
その上で、引用の目的上正当な範囲内で行われており、公正な慣行に反すると認めるべき事情もないとして、著作権法32条1項の「引用」として適法と判断しました。
争点④ 本件ツイート2-2の投稿による権利侵害の明白性について
本件ツイート2-2は、被控訴人のイラストに赤枠を付した画像と、女性の横顔のイラストを6枚並べた画像を添付したものです。
裁判所は、本件投稿者2のイラストの利用目的は批評にあると認定した上で、次のとおり判示しました。
トレース行為が疑われる女性の横顔のイラストが複数並べられているもの(本件被控訴人イラスト5)と、比較対象となるイラスト(本件被控訴人イラスト3)を添付することは、画力を比較するために便宜でかつ客観性が担保できる態様で利用されているということができ、また、特に比較してほしい箇所を赤色枠で囲うことは、本件投稿者2の主張の理解を助けるものであるといえ、さらに、上記赤色枠は、本件被控訴人イラスト3とは判別容易な態様で付されており、一般の読者を混乱させるおそれはない。
同一性保持権侵害についても、①赤枠の付記は比較する部分を示すために必要な範囲での改変であり、②タイムライン上で一部のみが表示される点は争点①と同じ理由により、いずれも「やむを得ないと認められる改変」に該当するとして、権利侵害の明白性を否定しました。
コメント
1 原審と控訴審で結論が逆転していること
本判決は、SNS上の批判的投稿をめぐる発信者情報開示請求について、同一の事案・証拠関係でありながら、原審(東京地裁)と控訴審(知財高裁)で結論が逆転した事例です。主要な論点における両裁判所の判断は、次のとおり対照的です。
| 論点 | 原審(東京地裁) | 控訴審(知財高裁) |
|---|---|---|
| ツイート1-1・1-2の名誉棄損 | 被控訴人はトレースの手法によって本件イラスト1を作成していない→摘示事実は重要な部分について真実ではない→違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しない | 本件イラスト1がトレース元のイラストをトレースして作成されたものである蓋然性が高い→違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の存在しないことの立証が足りない |
| ツイート2-1の引用 | 本件投稿画像2-1-2は正面視を描いたもので構図が大きく異なり、添付する必然性がない→引用の目的上正当な範囲内といえない | 被控訴人の画力をみるには複数のイラストを比較観察することが相当→引用の目的上正当な範囲内で行われた |
| ツイート2-2のトリミング表示 | 原告の意に反して本件イラスト5を改変するもので、やむを得ないと認められる改変とはいえない | ツイッターの仕様又はクライアントアプリの仕様により決定されるもので、投稿者が自由に設定できず、やむを得ないと認められる改変に当たる |
同一の証拠関係のもとで結論が分かれた背景には、事実認定とその評価の違いがあります。特に、被控訴人が提出した再現動画(本件被控訴人イラスト1の作成過程を再現する目的で撮影されたもの)の評価は、両裁判所で正反対の方向に働いています。
原審は、再現動画について、被控訴人が本件イラスト1と同様の女性の横顔のイラストを作成する技能を身に付けていることを認め、トレースによらずにイラストを作成することができた事実を裏付けるものと評価しました。
これに対し、本判決は、次のとおり判示しています。
再現動画において作成された女性の横顔のイラストは、本件被控訴人イラスト1とは別の機会に作成されたものであるにしても、乙1の2イラストと比べて首の角度及び耳の位置が大きくずれており、輪郭についても顎部分が重ならないものであるところ、前記のとおり乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1とが首の角度や耳の位置もほぼ一致していることに照らすと、再現動画において作成された女性の横顔のイラストは、本件被控訴人イラスト1とも、首の角度及び耳の位置が大きく異なり、輪郭の顎部分が重ならないものであると認められる。
本判決は、再現動画を、被控訴人が作成した本件イラスト1と偶然に一致することは困難であることを示す事情として評価しており、原審と逆の結論を導いています。
このように、同一の証拠が、それを取り巻く事情(トレース元とされるイラストとの一致度の精査、スレッド内の他のツイートで指摘されていた複数のトレース疑惑事例の認定など)とともに検討されることで、裁判所の判断が分かれ得ることが分かります。
2 本判決の意義
本判決は、以下の点に意義があると考えられます。
(1)「権利侵害の明白性」の判断枠組みの確認
本判決は、発信者情報開示請求における「権利侵害の明白性」について、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならないとする判断枠組みを改めて確認しています。請求者側は、権利侵害の事実だけでなく、違法性阻却事由の不存在についても、一定の主張立証を尽くす必要があります。
(2)SNSにおける批評目的の引用の適法性
本判決は、SNS上で他人の著作物を添付して批評する投稿について、著作権法32条1項の「引用」として適法と認める判断を示しています。本判決は、①添付の目的が批評にあること、②記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保できる態様であること、③独立した鑑賞目的等で利用されていないこと、などを考慮して、引用の適法性を判断しています。引用の「必要性」について、本判決は、原審よりも柔軟に判断しており、画力の検証という目的のためには、構図の同一性にかかわらず、複数のイラストを比較観察する方法が相当であるとしています。
(3)タイムライン上のトリミング表示と同一性保持権
本判決は、ツイッターのタイムライン上で画像の一部のみが表示されること(トリミング表示)が、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるとしています。これは、投稿者がSNSの仕様に従って画像を投稿した場合に、投稿者の意図と関係なく生じる表示態様について、同一性保持権侵害を否定する方向に働く判断です。
3 企業の担当者に求められる対応
企業の担当者に求められる対応として、次の点を指摘することができます。
(1)SNS上で批判的な投稿を受けた場合の対応
自社の商品や役職員に対してSNS上で批判的な投稿がされた場合、発信者情報開示請求や削除請求を検討することになりますが、その際、単に社会的評価が低下したというだけでは足りず、摘示された事実が真実ではないこと(または、真実であると信じるについて相当の理由がないこと)を裏付ける証拠を準備する必要があります。特に、比較検証を伴う投稿の場合、客観的な証拠(オリジナルのデータ、作成過程の記録、作成日時を客観的に示す資料等)を日頃から整理しておくことが、紛争になった際の対応を左右します。
また、本判決のように、同一の証拠であっても、裁判所によって評価が分かれ得ることを踏まえると、訴訟になった場合の証拠の選別・提出方法や、事実関係の主張立証方針を慎重に設計することが求められます。特に、作成過程の再現動画やラフ画等を立証手段として用いる場合には、それらが問題となっているイラスト等との一致・不一致の関係でどのように評価されるかを事前に検討しておくことが有益です。
(2)自社がSNS等で検証・批評を発信する場合の対応
逆に、他社や他者に関する検証・批評をSNS等で発信する場合には、①目的の公益性、②摘示事実の真実性又は真実相当性、③意見論評として相当な範囲、④引用としての適法性(目的の正当性、必要な範囲性、明瞭区別、主従関係等)に留意することが、事後的な紛争リスクを低減する手掛かりとなります。
おわりに
SNS上の投稿に関する権利侵害の有無や発信者情報開示請求の可否は、投稿の文言、添付画像、スレッドの構造、投稿の目的など、個別の事情を丁寧に検討する必要があり、判断には専門的な知見が不可欠です。また、発信者情報開示請求は、プロバイダ責任制限法の令和3年改正により手続が見直されており、最新の法令・実務動向を踏まえた対応が求められます。
当事務所では、発信者情報開示請求、SNS上の投稿の削除請求、著作権侵害対応、名誉棄損対応など、本判決に関連する分野のご相談・ご依頼を承っており、SNS炎上対応の初動、発信者の特定、投稿の削除、損害賠償請求まで、事案に応じた対応をサポートしております。
SNSでの批判的投稿への対応や、逆に自社の発信が紛争化するリスクの検討でお悩みの企業のご担当者は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、ご連絡ください。
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