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公益法人の顧問・コンサルタントの対価交渉義務と裏金受領による損害賠償責任(東京地裁令和4年6月8日判決)

はじめに

公益法人や企業が、外部の顧問やコンサルタントに業務を委託する場面は増えています。しかし、顧問等が取引先業者から金銭(いわゆる裏金)を受領していた場合、委託者である法人は、どのような損害賠償請求をすることができるのでしょうか。また、顧問等は、どのような義務を負うのでしょうか。

今回のコラムでは、公益財団法人日本相撲協会が、同協会の常任特別顧問およびその一人会社である顧問会社に対し、裏金受領・信用毀損・業務委託契約上の任務違背を理由として損害賠償を求めた東京地方裁判所令和4年6月8日判決を取り上げ、企業の法務・コンプライアンス担当者が押さえておくべき実務上の留意点を整理します。

上記東京地裁判決は、①顧問・コンサルタントが負う「対価交渉義務」の内容、②取引業者からの裏金受領行為の違法性、③業者選定への不当介入・金銭要求行為による信用毀損、④業務委託料相当額の損害算定といった、外部委託関係をめぐる論点について、実務上参考となる判断を示しています。

事案の概要

本件は、公益財団法人である原告(日本相撲協会)が、被告会社との間で危機管理業務等に関する業務委託契約を締結し、被告会社の代表取締役である被告aを原告の危機管理政策顧問(後に常任特別顧問)として受け入れていたところ、被告aが取引業者から斡旋手数料等の名目で金銭を受領するなどの行為をしたとして、被告らに対し、連帯して5億1732万5439円の損害賠償を求めた事案です。

原告の主な請求は、次のとおりです。

請求内容
請求①既払業務委託料相当額(8775万5080円)の損害賠償
請求②信用毀損による無形損害(5000万円)の損害賠償
請求③不要な工事代金相当額(木戸関連工事・雨水槽漏水対策工事合計1億4086万4400円)の損害賠償
請求④取引業者から受領した裏金相当額(2億0870万5959円)の損害賠償
請求⑤調査費用の一部(3000万円)の損害賠償

裁判所は、請求のうち合計9812万5758円の限度で認容し、その余の請求は棄却しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①被告会社に対する入金が裏金に該当するか、裏金の受領が被告aの義務違反行為といえるか(金銭受領関係)
争点②被告aが必要性・緊急性の認められない木戸関連工事および雨水槽漏水対策工事を原告に行わせたものか(木戸・雨水槽関係)
争点③被告aの行為により原告の信用が毀損されたか(信用毀損関係)
争点④被告aが本件業務委託契約の趣旨に反する行為をしていたか(業務委託関係)
争点⑤損害の有無およびその額

裁判所の判断

争点① 金銭受領関係について

裁判所は、被告会社の口座に入金された金銭のうち、A社、O社、H社、J社、P社、Q社、R社からの入金(合計)については、各取引業者と原告との間の契約締結・取引の見返りとして交付された裏金であると認定しました。他方、S社からの入金については、被告aへの裏金と認めることはできないと判断しました。

その上で、裁判所は、被告aの義務違反の内容について、以下のように判示しています。

被告aが業者との間で契約締結交渉を行うに当たっては、業者選定の公正さに疑義が生じるような行為を行わない義務があることはもとより、原告が対価を支払う契約においては、原告が支払う対価をできる限り減額できるよう、少なくとも減額交渉可能な事情を知った場合には自ら相手方業者と原告が支払う対価の減額交渉を行うか、又はかかる事情を原告に告げて、原告において減額交渉を行う機会を与える義務があったというべきであるし、逆に、原告が対価を受け取る契約においては、原告が受け取る対価をできる限り増額できるよう、少なくとも増額交渉可能な事情を知った場合には自ら相手方業者と原告が受け取る対価の増額交渉を行うか、又はかかる事情を原告に告げて、原告において増額交渉をする機会を与える義務(以下、この義務を「対価交渉義務」という。)があったというべきである。

裁判所は、この対価交渉義務を導くに当たり、以下の事情を考慮しています。

項目内容
委託契約の目的本件業務委託契約は、当初から危機管理業務を委託業務としており、原告のコンプライアンス管理を徹底することを企図していたものと認められること
原告の財務状況平成23年度、原告は50億円の赤字を計上し、財務状況の改善が求められる状況にあったこと
資金の有効活用の必要老朽化した国技館の改修工事において、限られた資金を有効活用する必要があったこと
業者選定の基本方針国技館改修工事の業者選定に関して、公正な評価・選定および信頼のおける施工者への安い発注という基本方針が建設委員会で示されていたこと
適正価格重視の姿勢NTTファシリティーズは、国技館改修請負契約締結後の理事会で、4億円余の契約金額を当初予算額の30億円に近づける努力をすると説明していたこと

裁判所は、被告aが上記の各義務に違反して取引業者から裏金を受領した行為は不法行為を構成し、被告会社も会社法350条の責任を負うと結論付けました。

争点② 木戸・雨水槽関係について

裁判所は、木戸改修工事、木戸サイネージシステム工事および雨水槽漏水対策工事のいずれについても、被告aの任務違背行為ないし不法行為を認めることはできないと判断しました。

木戸改修工事については、木戸担当親方らの要望を受けて実施が検討され、建設委員会で工事内容、方法、金額等が順次報告提案され、議論を経た上で承認されていること、工事実施判定承認書や注文書、見積書・請求書に所定の押印がされていたことから、被告aが顧問の立場を利用して一存で発注させたということはできないと述べています。雨水槽漏水対策工事についても、新菱冷熱の水位調査に基づく指摘を契機として、NTTファシリティーズが建設委員会に報告し、同委員会で工事実施が承認されたものであるとして、被告aに違法行為はないと判断しています。

争点③ 信用毀損関係について

裁判所は、以下の各行為が原告の信用を毀損する行為であると認定しました。

項目内容
鹿島建設への要求行為国技館改修工事をめぐる鹿島建設への斡旋手数料要求行為
業者選定過程への介入国技館改修工事の業者選定過程における被告aのK社およびA社に有利な発言、ならびに反対意見を述べたNTTファシリティーズ担当者の交替要求
仲介業者からの金銭受領パチンコメーカーの仲介業者からの1700万円受領および本件動画のインターネット投稿・週刊誌等による報道
電通への要求行為電通への金銭要求行為

裁判所は、以下のように判示しています。

かかる取引業者への金銭要求行為は、原告においては、顧問という内部関係者に金銭を支払えば取引業者として推薦してもらえて受注を見込める、逆に金銭を支払わない業者は推薦されず、受注を見込めないということを意味するのであって、相手方に対し、原告が不公正な方法で取引業者の選定を行っているコンプライアンス上問題がある法人であるとの印象を与えるものである。

裁判所は、信用毀損の損害額を500万円と認定しています。原告がパチンコ裏金受領疑惑を報道前に覚知していたにもかかわらず対処せず、報道後も仲介業者の事情聴取をせずに決着させたことを踏まえ、厳正な対処をしていれば信用を回復することもできたはずであるとして、原告の対応が損害の拡大を招いた面があると指摘しています。

原告が、被告aに対して、早期に顧問を解任するなど厳正な対処をしていれば、信用を回復することもできたはずであり、原告のかかる対応が損害の拡大を招いた面がある。これらの諸事情を総合考慮すると、被告aの信用毀損行為による損害賠償額は500万円とするのが相当である。

争点④ 業務委託関係について

裁判所は、被告aの原告内部における立場を踏まえた上で、業務委託契約の本旨履行の有無について、以下のとおり判示しています。

裁判所は、まず、被告aが原告内部で有していた影響力について、次のように認定しています。

項目内容
B前理事長との関係被告aは、B前理事長に重用され、近しい立場にいたこと
人事への影響力被告aは、職員の人事権を有するB前理事長に進言し、職員の降格・異動等を可能にしていたこと
職員への影響力被告aの意に沿わない職員は冷遇され原告から去り、指示に従う職員は重用されていたこと
役員への影響力被告aに明示的に反対意見を述べることができない雰囲気が原告内に醸成されていたこと
契約関係への関与新たな取引先との契約締結について、理事会を経ずに事前にB前理事長の承諾を得たり、事後報告にとどめたりしていたこと

その上で、裁判所は、以下の各行為について本件業務委託契約の本旨に従った履行とは認められないと判断しました。

項目内容
業者選定への介入国技館改修工事の業者選定や国技館改修工事請負契約の締結交渉に関わった業務
裏金受領に関連する交渉電通、O社、パチンコメーカーの仲介業者、P社といった被告aが金銭支払を要求しまたは実際に金銭を受領した取引先との間の契約締結交渉
省エネルギーサービス契約日栄サポートとの間の省エネルギーサービス契約の締結交渉
仕組債購入の勧誘仕組債の購入に関する意見具申

裁判所は、受託業務の一部につき本旨履行をしていないとして、被告会社の債務不履行責任および被告aの会社法429条1項の責任を認めました。

争点⑤ 損害の有無およびその額について

裁判所は、損害項目ごとに、以下のとおり判断しました。

裏金相当額

裁判所は、被告aが受領した金銭相当額が原告の損害と認められるためには、被告aの金銭受領行為によって、原告が契約の対価として当該金銭相当額を過分に支払うこととなった、または原告が本来得られたはずの契約の対価が得られなくなったといえることが必要であるとした上で、個別に損害の有無を検討しました。その結果、A社関係で2966万2500円、O社関係で629万2840円、P社関係で542万6639円、Q社関係で148万5429円、R社関係で579万4550円、合計4866万1958円の損害を認めました。

他方、H社・J社からの裏金(合計7452万5000円)については、原告が本件名称等利用許諾契約を合意解除してライセンス料2億1300万円を返還した結果、原告が義務の対価として本来得られるはずの許諾料が得られなくなったとはいえないとして、損害性が否定されています。

信用毀損による無形損害

裁判所は、前述のとおり信用毀損による損害を500万円と認定しました。

既払業務委託料相当額

裁判所は、本件業務委託契約の趣旨に沿って受託業務を履行したといえる割合は5割を超えるものではないと認定した上で、平成24年分から平成27年分の業務委託料総額8658万2560円の5割に当たる4329万1280円、および被告aが受託業務に従事していない平成28年1月分の業務委託料117万2520円の合計4446万3800円を損害として認めました。

調査費用

裁判所は、調査費用について、具体的調査業務の内容や支出の立証がなされていないこと等を理由に、被告aの任務違背行為と相当因果関係のある損害と認めることはできないと判断しました。

コメント

本判決は、公益法人等が外部の顧問やコンサルタントに業務を委託する場面で、受託者側が負うべき義務の内容と、その違反に対する損害賠償のあり方について参考となる判断を示したものであり、企業の法務・コンプライアンス担当者にとって示唆に富む内容を含んでいます。

(1)「対価交渉義務」の内容と射程について

本判決は、業務委託契約に基づき契約交渉・締結事務に従事する者について、「対価交渉義務」という概念を用いて善管注意義務の内容を具体化しました。すなわち、①原告が対価を支払う契約においては支払対価の減額交渉を、②原告が対価を受け取る契約においては受取対価の増額交渉を行うか、または委託者に交渉の機会を与える義務があるとの判断です。

この義務は、業務委託契約の趣旨(コンプライアンス管理、適正価格での契約締結)および委託者の置かれた財務状況等を踏まえて導かれたものであり、受託者側の具体的な行為規範として参考になります。

(2)裏金受領を不法行為として構成する意味について

顧問等が委託者の財産を直接取得したというわけではなく、第三者である取引業者から金銭を受け取ったにとどまる場合には、委託者にいかなる損害が生じているといえるかが問題となりえます。本判決は、対価交渉義務の違反を媒介として、顧問等が受領した金銭と同額の損害が委託者に発生したとの構成をとっており、この点に実務上の意義があるといえます。

この構成により、受託者が「自らは委託者の財産に手をつけていない」との反論を試みたとしても、委託者による損害賠償請求を基礎づけることが可能となります。

類似の判断を示した先例として、ある会社の従業員が、不動産の売買取引を進める場面で、自らの利得を図るため、配偶者が代表を務める別会社にコンサルタント報酬の名目で買主から金員を支払わせた行為について、所属会社との関係で不法行為の成立を肯定した東京地判平26.6.5判例秘書があります。

(3)取引業者からの金銭受領と利益相反について

本判決は、顧問等が取引業者から斡旋手数料等の名目で金銭を受領する行為について、対価交渉義務違反および業者選定の公正性を損なう行為として違法性を認めています。この判断は、顧問等が委託者に秘して金銭を受領する行為それ自体が、委託者の価格交渉機会を奪うものであることを根拠としています。

外部委託契約を締結する際には、受託者による取引業者からの金銭受領を明示的に禁止する条項を設けるなどの対応が考えられます。

(4)実質的影響力と内部統制について

本判決は、被告aが原告内部で事実上の影響力を有していたとの認定を踏まえ、業者選定・契約締結への介入を義務違反と評価しています。他方、木戸関連工事等について建設委員会での議論・承認を経ていたことを理由に任務違背を否定しており、組織内の意思決定手続が機能していたかどうかが結論に影響していることがうかがわれます。

外部者に対する事実上の権限集中を防ぎ、理事会・委員会等の機関による実質的な審議と承認を確保することが、紛争予防の観点からも有益であるといえます。

(5)裏金相当額と損害の相当因果関係について

本判決は、裏金相当額全額を自動的に損害と認めるのではなく、原告が過分に支払ったか、または本来得られたはずの対価が得られなくなったかを個別に検討する立場を明確にしています。本件名称等利用許諾契約が合意解除された結果、H社・J社からの裏金相当額について損害が否定された部分は、損害算定の考え方として重要です。

(6)業務委託料相当額の損害と本旨履行の割合について

本判決は、本件業務委託契約に基づく受託業務のうち本旨履行といえる割合を5割を超えるものではないと認定し、業務委託料の半額等を損害として認めました。受託業務の一部に任務違背があった場合に、支払済み委託料の全額ではなく、本旨履行の割合に応じて損害額が算定される枠組みを示した点が参考になります。

(7)信用毀損による無形損害の算定と事後対応について

本判決は、信用毀損による無形損害について、原告自身の対応(報道前に疑惑を覚知していたにもかかわらず対処しなかったこと、報道後も安易に弁解を信用して決着させたこと)が損害拡大を招いた面があるとして、損害額を500万円にとどめました。疑惑を把握した段階での迅速かつ実効的な調査・対応が、信用毀損の拡大防止の観点からも重要であるといえます。

損害額の水準についての参考として、企業関係者の行為による信用毀損を認めた近時の裁判例には、以下のようなものがあり、事案の性質や事後対応の適切性等の事情に応じて損害額に幅が見られます。

裁判例事案の概要と認定額
東京高判令元.5.16判時2459号17頁取締役らが損失隠しの事実を隠蔽しようとした事案で、1000万円の損害賠償を認容
東京地判平25.3.28判例秘書競業他社の役員に転じた元従業員が虚偽事実を告げた事案で、200万円の損害賠償を認容
本判決公益法人の顧問が取引業者に対し金員の交付を要求し、また裏金を受領した事案で、500万円の損害賠償を認容

また、本件では、被告ら側から、金銭授受の場面を隠し撮りした者によるインターネット上への動画公開や、これを受けた週刊誌・全国紙等の報道という外部者の行為が間に挟まっていることを理由に、被告aの行為と原告の社会的評価の低下との間の因果関係は遮断されるとの主張もされました。

裁判所は、被告a自身が金員の交付を求め、これを受け取ったという事実関係に照らして、この主張を斥けています。

不正な金員の授受を自ら主導した者が、当該事実を公にした別の関係者の存在を盾に取り責任追及を逃れることは難しいといえます。加えて、危機管理を職務とする立場にある者にとっては、不祥事が露見して報道の対象となるという事態は予見可能な事柄であり、こうした外部要因の介在を根拠とする因果関係否定の主張は受け入れられにくいものと考えられます。

おわりに

公益法人や企業が外部の顧問・コンサルタントに業務を委託する場面では、契約の設計から日常の運用、問題が発生した際の対応まで、多岐にわたる法的検討が必要となります。本判決が示した対価交渉義務、利益相反行為への評価、裏金相当額の損害算定、業務委託料相当額の損害算定の枠組みは、いずれも実務対応に直結する重要な視点です。

外部委託契約の設計、顧問・コンサルタントの行動規範の整備、取引業者との契約における内部統制の強化、顧問等の不正行為が発覚した場合の調査・損害賠償請求の方針検討などについてご不安がある場合には、紛争が顕在化する前に、弁護士にご相談いただくことが有益です。

当事務所は、各種法人・企業のガバナンス、外部委託契約をめぐる紛争、役員・顧問等の責任追及に関するご相談・ご依頼を受けており、契約段階から訴訟対応まで幅広くサポートしております。企業のコンプライアンスや不正調査、役員の責任追及等でお困りの方は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。