はじめに
ベンダーに委託して開発したソフトウェアについて、開発契約が終了した後もユーザー企業が使い続けることができるのか、という問題は、システム開発の実務でしばしば争いになるテーマです。とくに、納入の対象外とされたソースコードや、ベンダーが既存資産を流用して作成したプログラムについては、契約上の地位の整理が複雑になりやすく、契約終了をきっかけに著作権侵害の主張がなされることも少なくありません。
今回のコラムでは、この問題を正面から扱った知財高裁令和元年6月6日判決(新冷蔵庫システム開発事件)を取り上げ、企業の担当者の方に向けて、判決のポイントと実務への示唆をわかりやすく解説いたします。
事案の概要
本件は、ソフトウェア開発契約の終了後にユーザー企業が引き続き当該プログラムを使用していたことにつき、ベンダーが著作権侵害等を主張した事案です。
当事者
本件の当事者は、以下のとおりです。
| 当事者 | 立場 |
|---|---|
| 控訴人(一審原告) | ソフトウェア開発会社(以下「ベンダー」といいます。) |
| 被控訴人(一審被告)① | 卸売会社(以下「ユーザー」といいます。) |
| 被控訴人(一審被告)② | 人材派遣会社(ユーザーに保守管理要員を派遣) |
| 被控訴人(一審被告)③④ | 上記人材派遣会社の従業員(いずれもベンダーの元従業員) |
事実関係
ベンダーは、ユーザーから、新冷蔵庫等システム(冷蔵庫管理システム及び社内受発注システム)の開発を受注しました。
ベンダーは、当該システムに組み込む「共通環境設定プログラム」(以下「本件プログラム」といいます。)について、自社が従来から保有していた既存プログラムを当該システム向けに改変することで作成し、そのソースコード(以下「本件ソースコード」といいます。)からDLLファイル及びEXEファイルを生成して、ユーザーに提供しました。本件プログラムの開発対価は300万円でした。本件プログラムのDLLファイル及びEXEファイルは、新冷蔵庫等システムを構成する他のプログラム(冷蔵庫管理システム及び社内受発注システム)と一体となってはじめて機能するものでした。また、本件ソースコードは、本件プログラムの保守管理を行う際に必要なものでした。
ベンダーとユーザーとの間の基本契約(以下「本件基本契約」といいます。)では、ソースコードはユーザーへの納入対象外とされ、DLLファイル及びEXEファイル形式での納品とされていました。もっとも、ベンダーは、保守作業の便宜のため、本件ソースコードをユーザー所有のサーバに保存していました。
その後、ユーザーは、サーバの老朽化対策等のために、本件プログラムを別の仮想サーバへ移行させました。また、本件基本契約終了後も、第三者である人材派遣会社の派遣社員(ベンダーの元従業員)を通じて、本件プログラムを保守管理しながら使用し続けていました。
本件に至る経緯(時系列)
本件に至る経緯は、以下のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成20年9月 | ベンダーとユーザーとの間で本件基本契約締結 |
| 平成20年10月~平成21年2月 | 本件プログラムを含む新冷蔵庫等システムの開発・納品 |
| 平成21年8月 | ベンダーとユーザーとの間で保守管理契約締結 |
| 平成25年11月 | 旧サーバから新サーバへの移行 |
| 平成26年9月 | 本件基本契約終了(更新拒絶による) |
| 平成29年 | ベンダーが本件訴訟を提起 |
| 平成30年6月 | 第一審判決(東京地裁、ベンダーの請求棄却) |
| 令和元年6月 | 本判決(知財高裁、ベンダーの控訴棄却) |
本件基本契約の関連条項(要旨)
本件における争点・判断は、以下の本件基本契約の条項の解釈に関わるものです。
| 条項 | 内容(要旨) |
|---|---|
| 2条(2) | 「成果物」の定義(コンピュータプログラム、設計書、仕様書等のうち、ユーザーが作成を委託するシステムに関わる有体物又は無体物全般) |
| 21条3項(1) | 新規に作成された成果物の著作権は、検収完了をもってユーザーに2分の1が譲渡され、ベンダーとユーザーの共有とする |
| 21条3項(2) | ベンダーが従前から有していた成果物の著作権はベンダーに帰属するが、ユーザーは自ら対象ソフトウェアを使用するために必要な範囲で、無償で利用できる |
| 26条 | 契約終了後も、「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」の定めは有効とする |
ベンダーの主張
ベンダーは、サーバ移行に伴う本件ソースコードの複製・翻案、及び本件基本契約終了後の本件プログラムの複製・翻案が複製権又は翻案権を侵害するなどと主張し、損害賠償等を請求しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 争点の内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件ソースコードが本件基本契約にいう「成果物」に該当するか |
| 争点② | サーバ移行に伴う本件ソースコードの複製・翻案が本件基本契約により許されるか |
| 争点③ | 本件基本契約終了後の本件プログラムの複製・翻案が本件基本契約により許されるか |
裁判所の判断
争点① 本件ソースコードの「成果物」該当性について
裁判所は、本件ソースコードが本件基本契約2条(2)にいう「成果物」に該当すると判断しました。
該当判示部分は、以下のとおりです。
被控訴人マルイチ産商は、控訴人に対し、コンピュータシステムたる本件新冷蔵庫等システムの開発を委託し、その一環として、本件共通環境設定プログラムの開発を300万円で委託し、控訴人はそれに応じて、控訴人が有していた既存のプログラムのソースコードを本件新冷蔵庫等システムに合わせて改変し、それによって作成された本件ソースコードをコンパイル等して本件共通環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイルを生成し、その対価として300万円の報酬を得たものと認められる。
そうすると、本件ソースコードは、上記のように被控訴人マルイチ産商の委託に基づいて作成されたものであるから、本件基本契約2条(2)の「成果物」に該当するというべきである。
ベンダーは、本件ソースコードが本件個別契約における納入の対象とされていなかったことや、既存プログラムを流用する前提で代金が減額された経緯を理由に、本件ソースコードは「成果物」に該当しないと主張しました。しかし、裁判所は、以下のとおり判断し、ベンダーの主張を採用しませんでした。
本件基本契約16条及び17条は、「成果物」の納入及び検収について定めているが、「成果物」の定義規定たる本件契約2条(2)は前記のように納入や検収について何ら規定していない。また、上記定義規定の内容からすると、「成果物」については多種多様なものが該当し得るのであって、一概に全てのものについて納入・検収が必須であるとはいい難い。さらにいえば、本件ソースコードのように汎用性があって控訴人の重要なプログラム資産となり得るようなものについては、それが「成果物」であっても社外への流失等を防ぐために納入がされないということもあり得るのであり、この点からしても「成果物」であるためには納入・検収が必須であったとまではいえないところである。
他方、ユーザーは、本件ソースコードは新冷蔵庫等システムの開発に伴って新たに作成されたものであるから、本件基本契約21条3項(1)(新規作成の成果物について著作権を共有とする規定)に基づき、ユーザーが本件ソースコードの著作権の2分の1を取得していると主張しました。しかし、裁判所は、以下のとおり判断し、ユーザーの主張を採用しませんでした。
他方、上記③について、本件ソースコードは、新たに開発されたものではなく、控訴人が有していた既存のプログラムを改変して作成されたものであるから、本件基本契約21条3項(1)ではなく、同項(2)が適用され、被控訴人マルイチ産商が、同項(1)に基づいて本件ソースコードの著作権の2分の1を取得することはない。
争点② 本件基本契約終了前のサーバ移行に伴う複製・翻案について
裁判所は、サーバ移行に伴う本件ソースコードの複製・翻案は、本件基本契約21条3項(2)により許される利用の範囲に含まれると判断しました。
該当判示部分は、以下のとおりです。
本件基本契約21条3項(2)は、控訴人が従前からその著作権を有していた「成果物」についても、被控訴人マルイチ産商が、自ら使用するために必要な範囲で著作権法に基づく利用を無償でできると規定しているところ、旧サーバから新サーバへの移行に伴って、本件ソースコードを複製したり、新サーバ移行に必要な限度で翻案したりすることは、上記自ら使用するために必要な範囲に該当するものといえる。
したがって、仮に控訴人が主張するとおり、旧サーバから新サーバへの移行に伴って本件ソースコードが複製又は翻案されたとしてもそれが複製権又は翻案権の侵害となることはないというべきである。
争点③ 本件基本契約終了後の本件プログラムの複製・翻案について
裁判所は、本件基本契約26条(契約終了後の権利義務)の解釈を通じて、本件基本契約終了後も、ユーザーは本件基本契約21条3項(2)に基づき、本件プログラムを自ら使用するために必要な範囲で利用できると判断しました。
該当判示部分は、以下のとおりです。
本件基本契約26条は、「(契約終了後の権利義務)」との見出しの下、「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合でも、本契約に定める……著作権・知的財産権および諸権利の帰属」についての定めが有効であると定めている。本件基本契約26条の「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」との文言は、本件基本契約21条の見出しと同一である。そして、本件基本契約21条3項は、成果物についての著作権の帰属を定めるとともに、著作権が共有となる場合(同項(1))と控訴人のみに帰属する場合(同項(2))とに分けて、著作権の利用範囲をそれぞれ定めているものであるところ、そのような規定において、本件基本契約終了後、著作権等の帰属の定めの部分のみが有効に存続すると解するのは不自然であり、むしろ、本件基本契約26条がいう契約終了後も有効とされる「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」の定めとは、本件基本契約21条の定め全体を指し、同条が規定する利用に関する定めも含んでいるものと解釈するのが相当である。
また、裁判所は、本件基本契約終了後の保守管理のための複製・翻案についても、ユーザー自身が使用するために必要な範囲に含まれるとして、複製権又は翻案権の侵害は成立しないと判断しました。
保守管理のために、本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することは、自己使用のために必要な範囲でされるものといえるから、本件基本契約終了後に、控訴人が主張するように被控訴人らが保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することがあったとしても、それについて複製権又は翻案権の侵害となることはないというべきである。
加えて、裁判所は、本件プログラムのDLLファイル及びEXEファイルが、新冷蔵庫等システムを構成する他のプログラム(冷蔵庫管理システム及び社内受発注システム)と一体となってはじめて機能するものであり、これらのプログラムの著作権の2分の1がユーザーに譲渡されている(本件基本契約21条3項(1))ことを踏まえ、本件基本契約の終了によりユーザーが本件プログラムを利用できないと解すると、本来自由に利用できる部分も含めてシステム全体の利用が妨げられる結果となり、そのような解釈は不合理であると指摘しました。
コメント
本判決は、システム開発契約におけるソースコードの法的位置付け、及び契約終了後のソフトウェア利用権限について、契約条項の解釈を通じて踏み込んだ判断を示したものとして、実務上参考になります。
本判決から論理的に導き出される企業に求められる対応としては、以下の点が挙げられます。
1 「成果物」の定義条項の整理
ベンダー・ユーザーの双方にとって、「成果物」の定義条項の重要性が再確認されたといえます。本判決は、納入の対象とされていなくとも、委託に基づいて作成されたものであれば、定義規定に従って「成果物」に該当し得ると判断しました。なお、第一審(東京地裁平成30年6月21日判決)は、納品物件一覧の記載などから、本件ソースコードも納入の対象に含まれていたとの事実認定を踏まえて「成果物」該当性を肯定したのに対し、本判決(控訴審)は、納入の有無を「成果物」該当性と切り離して判断したうえで、汎用性のあるベンダーの重要なプログラム資産については「成果物」であっても社外への流出防止のために納入されないこともあり得ると判示した点に特徴があります。ベンダーが既存資産を流用して開発する場合や、ソースコード等を納入対象から除外する場合であっても、それらが「成果物」に該当するか否か、該当する場合の権利関係はどうなるかについて、契約条項上、明確に整理しておくことが望まれます。
2 契約終了後の権利義務に関する条項(残存条項)の整備
契約終了後の権利義務に関する条項(残存条項)は、その対象範囲及び効果を、契約条項の文言から無理なく読み取れるように規定しておくことが望まれます。本判決は、契約終了後の効力を定める条項について、見出しや文言を踏まえて、利用許諾に関する規定も契約終了後に効力を持つと解釈しました。残存条項の効力範囲は、契約終了後の紛争を左右する重要な要素であるため、起案段階で意識的に整理しておく必要があります。
3 既存プログラム流用時の利用許諾範囲の明確化
ベンダーが既存プログラム(自社資産)を流用してシステムを開発する場合、ユーザーにどの範囲で利用許諾を与えるか、及び、契約終了後にその利用許諾が存続するか否かについて、契約条項上、明確に定めておくことが望まれます。本判決は、ユーザーに「自ら使用するために必要な範囲」での無償利用を認める条項について、サーバ移行や保守管理のための複製・翻案も含むと解釈しました。ベンダーとして契約終了後に利用権限を制限したい場合には、その旨を明確に契約上規定する必要があります。
逆に、ユーザーの立場からは、開発委託したシステムを長期にわたって安定的に利用するために、契約終了後の利用権限、サーバ移行・保守管理のための複製・翻案権限、第三者を通じた保守の可否などについて、契約条項上、明確にしておくことが望まれます。
4 プログラムの性質・利用形態を踏まえた条項設計
本判決の判断の背景には、本件プログラムが新冷蔵庫等システム全体と一体となってはじめて機能するものであるという事実認定があった点に留意する必要があります。本判決は、ユーザーがシステムを構成する他のプログラムについては自由に利用できることを前提に、本件プログラムのみを契約終了によって利用できないと解すれば、本来自由に利用できる部分も含めてシステム全体の利用が妨げられる結果となり、不合理であると指摘しました。また、本判決及び第一審は、ソースコードがプログラムの保守管理を行う際に必要なものであることを踏まえて、保守管理のための複製・翻案も「自ら使用するために必要な範囲」に含まれると判断しました。これらの判示からは、契約条項の解釈にあたって、契約対象となるプログラムがシステム全体の中でどのような位置付けにあり、その継続的な利用のために何が必要となるかという観点が重要になることがうかがえます。契約起案にあたっては、対象プログラムの性質や利用形態を踏まえて、利用許諾の範囲や契約終了後の取扱いを具体的に規定することが望まれます。
おわりに
システム開発契約に関する紛争は、契約条項の文言と、当事者間の事実関係の積み重ねを丁寧に検討する必要があり、専門的な知見が求められる分野です。とくに、契約終了後のソフトウェア利用権限、ソースコードの取扱い、既存資産の流用、第三者を通じた保守管理などの論点は、契約起案の段階から意識しておかないと、後に重大な紛争に発展しかねません。
契約書の作成・レビュー段階での整理はもちろん、現に紛争が生じてしまった場合の対応についても、早期に弁護士に相談することが、想定外のリスクを回避し、適切な解決を図るために有益です。
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