はじめに
漫画やアニメなどのコンテンツビジネスでは、原作者と出版社、制作会社、ライセンシーなど多くの当事者が関与し、二次的利用(アニメ化、商品化、配信、ぱちんこ機への利用など)が幅広く展開されます。こうしたビジネスでは、契約書の文言ひとつで、誰が、どの権利を、どの範囲で行使できるのかという結論が大きく変わります。
今回のコラムで紹介する知財高裁令和2年6月24日判決(「グラップラー刃牙」二次利用窓口業務契約事件)は、人気漫画「グラップラー刃牙」をめぐり、原作者と二次利用の窓口を担っていた事業者との間で争われた事案です。著作権譲渡契約における「特掲」要件(著作権法61条2項)、二次的著作物における原著作者の権利の範囲、ロイヤリティ受領と黙示の許諾の関係、商標権の移転義務、二次利用窓口業務契約の更新拒絶の可否といった、コンテンツ実務において重要な論点が網羅的に判断が示されています。
上記知財高裁判決は、コンテンツホルダーや、ライセンスを受けてビジネスを行う事業者にとって、契約書の作成・運用のあり方を見直すうえで実務上参考となるものです。また、本判決は、原審である東京地方裁判所令和元年6月19日判決の判断のうち、配信差止請求に関する部分などを覆し、原作者の請求を認容するなど、いくつかの重要な点で判断を変更しており、その点でも示唆に富む裁判例です。
事案の概要
本件は、漫画家である一審原告(「グラップラー刃牙」の作者)が、本件漫画のアニメ化・商品化等の窓口業務を行っていた一審被告(フリーウィルから権利・地位の譲渡を受けた事業者)に対し、本件アニメのインターネット配信、本件アニメのDVDの製造・販売、キャラクター商品の製造・販売、ウェブサイト上の画像掲載などが、本件漫画の著作権及び本件アニメについての原著作者の権利(複製権、翻案権、頒布権、送信可能化権)を侵害するとして、各行為の差止め及び商標権の移転登録手続を求めた事案(第1事件)です。
これに対し、一審被告は、一審原告らによる配信停止の通知、ライセンス申入れの拒絶、二次利用窓口業務に係る四者契約の更新拒絶などが共同不法行為又は債務不履行に該当するとして、損害賠償を求めました(第2事件)。
なお、本件で問題となる商品の中には、一審被告自身が販売していた商品のほか、一審被告のライセンス先である有限会社スパイダーウェブス(本件訴訟の当事者ではない第三者)が、一審被告との間のライセンス契約に基づいて製造・販売していたキャラクター商品も含まれます。一審原告は、一審被告に対し、これらの商品について「スパイダーウェブスをして(=スパイダーウェブスを介して)」譲渡又は送信可能化することの差止めを求めました。
原判決(東京地方裁判所)は、一審原告の請求を一部認容し、一審被告の請求を棄却しました。一審原告及び一審被告のいずれも控訴し、一審原告は附帯控訴により請求を追加しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
本訴請求関係(一審原告から一審被告に対する差止請求等)
| 争点番号 | 争点 |
|---|---|
| 争点① | 本件アニメ化契約により、本件アニメの原著作物の著作者としての権利が一審原告からフリーウィルへ譲渡されたか(著作権法61条2項の「特掲」の有無) |
| 争点② | 本件アニメ化契約により、本件アニメの送信可能化権の譲渡又は期間の定めのない許諾がされたか |
| 争点③ | 一審被告と中央映画貿易との間の本件送信許諾契約の締結及び更新について、一審原告の黙示の許諾があったか |
| 争点④ | 本件DVDの制作・販売について、本件アニメの複製権及び頒布権の侵害が成立するか |
| 争点⑤ | 本件漫画及び本件アニメの翻案の差止めの可否(一般的・抽象的な翻案の差止めを求めることができるか) |
| 争点⑥ | スパイダーウェブス販売商品(一覧表番号3-7、3-8、3-17、3-18)の譲渡の差止めの可否及び差止めの必要性の有無 |
| 争点⑦ | 一審被告販売商品(一覧表番号3-35ないし3-51、3-53ないし3-59)の譲渡の差止めの必要性の有無 |
| 争点⑧ | 本件DVDの画像(一覧表番号4-1)を被告ウェブサイトに掲載することの可否 |
| 争点⑨ | スパイダーウェブスのウェブサイトに掲載された商品画像(一覧表番号4-6、4-11ないし4-21、4-29ないし4-39)に係る送信可能化の差止めの可否 |
| 争点⑩ | 本件ニュース画像(一覧表番号5-2)を被告ウェブサイトに掲載することの可否 |
| 争点⑪ | 本件ニュース画像、本件クイズ画像(5-3)及び本件ブログ画像(5-4)等の送信可能化の差止めの必要性の有無 |
| 争点⑫ | 一審原告の一審被告に対する本件商標権の移転登録手続請求権の有無 |
反訴請求関係(一審被告から一審原告らに対する損害賠償請求)
| 争点番号 | 争点 |
|---|---|
| 争点⑬ | 一審原告らの本件配信停止通知について、共同不法行為が成立するか |
| 争点⑭ | 一審原告らがガンホー提案に係る本件漫画の利用許諾の申入れを拒絶したことについて、共同不法行為又は四者契約の債務不履行が成立するか |
| 争点⑮ | 二次利用窓口業務に係る四者契約の更新拒絶について、共同不法行為又は債務不履行が成立するか |
| 争点⑯ | 一審被告の損害額 |
裁判所の判断
1 本訴請求
争点① 本件アニメ化契約による原著作者の権利の譲渡(著作権法61条2項の「特掲」の有無)について
裁判所は、本件アニメ化契約により本件アニメについての原著作物の著作者としての権利が一審原告からフリーウィルへ譲渡されたとは認められないと判断しました。
判決は、本件アニメ化契約4条⑶は「本アニメの放送、再放送、上映、インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信」について規定したものに過ぎず、複製や翻案などその他の利用については一切触れられていないこと、6条⑴の「著作権表記 (C)A/秋田書店・フリーウィル」は本件アニメの原著作者が一審原告であることを示した表示とみるのが自然であること、フリーウィルから一審原告に支払われた制作協力費及び本件漫画の商品化権使用料等を考慮しても、原著作者の権利が一審原告から譲渡されたことを推認することはできないことなどを指摘し、以下のとおり判示しました。
本件アニメ化契約4条⑶は、「本件アニメの放送、再放送、上映、インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信」について規定したものに過ぎず、複製や翻案などその他の利用については一切触れられていないから、この条項をもって、原著作者の権利が一審原告からフリーウィルに譲渡されたことの根拠になるものではない。
また、本件アニメ化契約6条⑴の「著作権表記 (C)A/秋田書店・フリーウィル」については、以下のとおり判示し、原著作者の権利の譲渡を基礎づけるものではないと判断しました。
一審原告の著作権代行者である秋田書店も「同等の権利を有」するとされていること、本件アニメ化契約6条⑴の定める「著作権表記 (C)A/秋田書店・フリーウィル」は本件アニメの原著作者が一審原告(「A」)であることを示した表示とみるのが自然であること
さらに、一審被告が予備的に主張した、一審原告が単独では本件アニメに関する著作権を行使できないこと等を理由とする黙示の合意の主張についても、これを認めるに足りる証拠はないとして退けました。
争点② 本件アニメ化契約による送信可能化権の譲渡又は期間の定めのない許諾について
裁判所は、本件アニメ化契約により、本件アニメの送信可能化権の譲渡又は期間の定めのない許諾がされたとは認められないと判断しました(原審の判断を維持)。本件アニメ化契約4条⑶は、契約期間との関係でも独立して永続するものとは解されず、一審原告は、フリーウィルに対し、契約期間内に限り、本件アニメの送信可能化等を許諾したものと解されるとされました。
争点③ 配信許諾契約の締結及び更新についての黙示の許諾の有無について
この争点については、原審と本判決で結論が大きく異なります。原審は、一審被告が一審原告に対しロイヤリティの一部の支払を3年半以上にわたって行っており、支払明細書に中央映画貿易の社名が明記されていたことなどから、本件送信許諾契約の締結及びその更新(期間延長合意を含む)の双方について黙示の許諾を認め、令和2年10月31日までは差止請求を棄却していました。
これに対し、本判決は、一審原告は、一審被告から本件アニメの配信に係るロイヤリティの一部の支払を受けたことから、本件送信許諾契約の当初の締結については認識しつつ許容していたものの、平成25年の許諾期間延長合意(令和2年10月31日まで)については、黙示の許諾をしたものと認めることはできないと判断し、原審の結論を覆しました。
判決は、①一審被告が許諾期間延長の合意の際に一審原告に対し承認を求めていなかったこと、②一審原告は一審被告が仮処分の申立ての審尋の際に契約書等を疎明資料として提出するまで延長合意の内容を認識していなかったこと、③一審原告が四者契約の更新拒絶の通知をした際に、承認を得ていない契約は承認しない旨を明示的に表明していたことなどを指摘し、以下のとおり判示しました。
一審原告が一審被告から中央映画貿易による本件アニメの配信に係るロイヤリティの一部の支払を受けていたからといって、本件送信許諾契約の許諾期間を2020年(令和2年)10月31日まで延長する旨の期間延長の合意についてまで了承していたものと認めることは、当事者の合理的意思に反するというべきであるから、少なくとも上記期間延長の合意については黙示の許諾をしたものと認めることはできない。
その結果、一審原告の本件アニメの送信可能化の差止請求は理由があると判断されました。
争点④ 本件DVDの制作・販売についての複製権・頒布権侵害の成否について
裁判所は、一審被告が本件アニメの原著作者の権利を有するとは認められないこと、また、一審被告がいわゆるセル・オフ条項(本件アニメ化契約12条⑵)に基づき販売できる「契約終了までに製造された在庫」の存在を立証できていないことから、本件DVDの複製及び頒布の差止請求を認容しました。判決は、一審被告が現に保有している本件DVDが平成18年末日までに製造された在庫であると認めるに足りる証拠はないとし、以下のとおり判示しました。
一審原告が、本件漫画の二次的著作物である本件アニメの原著作者としての権利である複製権及び頒布権に基づき、一審被告に対し、一審被告が自ら又は第三者をして、本件アニメの複製の差止め及び本件アニメの複製物である原判決別紙一覧表の番号2-1、2-2の各商品(本件DVD)の頒布の差止めを求める差止請求は理由がある。
争点⑤ 本件漫画及び本件アニメの翻案の差止めの可否について
裁判所は、一審原告が求めた一般的・抽象的な翻案の差止めについては、差止めの対象となる侵害態様を具体的に特定することなく不作為を求めるものであり、翻案に当たるかどうかが一義的に明確であるとはいえず、その判断を強制執行の段階で執行機関に委ねることになるとして、差止めの必要性を認めませんでした。判決は、以下のとおり判示しました。
翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現を改変し、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい、翻案に当たるかどうかの判断は規範的な法律判断であり、しかも、翻案行為には広範かつ多様な態様があり得るものである。そうすると、差止めの対象となる侵害態様を具体的に特定することなく、一般的抽象的な翻案の不作為を求めることは、翻案に当たるかどうかが一義的に明確であるとはいえない上、翻案に当たるかどうかの判断を強制執行の段階で執行機関に委ねることととなり、相当ではないから、一般的抽象的な翻案の差止めの必要性は認められない。
予備的に求められた商品化、アニメーション映画化、実写映画化、舞台化、小説化等の差止めについても、翻案行為を類型的に特定したにとどまり、差止めの対象となる侵害態様を具体的に特定するものではないとして、同様に必要性が否定されました。
争点⑥ スパイダーウェブス販売商品(侵害行為の主体性)について
裁判所は、一審被告とスパイダーウェブスとの間の本件漫画の商品化に関するライセンス契約の内容を踏まえて、一審被告がスパイダーウェブス販売商品の販売の主体であると認めた上で、「一審被告自身が譲渡する場合」と「一審被告がスパイダーウェブスをして譲渡させる場合」とを厳密に区別し、それぞれについて差止めの必要性を個別に判断しました。
一審被告とスパイダーウェブスとの間の本件漫画の商品化に関するライセンス契約には、ライセンス商品の製造に関し、スパイダーウェブスが一審被告に対し、事前に試作品を提出して監修を受け、一審被告の承諾を得なければならない旨(3条5号)、スパイダーウェブスは、一審被告がライセンス商品ないしその広告宣伝物の製造・販売・頒布数量の確認を求めたときは、スパイダーウェブスの営業時間中いつでも、売上台帳その他必要書類を提示し、一審被告の調査に便宜を与えなければならない旨(11条)を定めた条項があること(乙1の1ないし4、52、53、弁論の全趣旨)からすると…したがって、一審被告はスパイダーウェブスによる上記各商品の販売の主体であると認めるのが相当である。
そして、スパイダーウェブスが販売主体である商品の差止請求については、以下のとおり判示し、一審被告自らの譲渡の差止めについては必要性を認めませんでした。
一審原告が、本件漫画の二次的著作物である原判決別紙一覧表の番号3-7、3-8、3-17、3-18記載の各商品の原著作者としての権利である譲渡権に基づき、一審被告に対し、上記各商品の譲渡の差止めを求める差止請求のうち、スパイダーウェブスをして譲渡することの差止めを求める部分は理由がある。
他方で、一審被告が上記各商品を自ら販売し、又は販売するおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、一審被告が自ら上記各商品を譲渡することの差止めの必要性を認めることはできない。
争点⑦ 一審被告販売商品の譲渡差止めの必要性について
裁判所は、一審被告自身が販売主体である商品(一覧表番号3-35ないし3-51、3-53ないし3-59)については、一審被告自らの譲渡の差止めの必要性を認める一方、スパイダーウェブスをしてする譲渡の差止めの必要性は認めませんでした。
一審原告が、本件漫画の二次的著作物である原判決別紙一覧表の番号3-35ないし3-51、3-53ないし3-59記載の各商品の原著作者としての権利である譲渡権に基づき、上記各商品の譲渡の差止めを求める差止請求のうち、一審被告が自ら譲渡することの差止めを求める部分は理由がある。
他方で、スパイダーウェブスが上記各商品を販売し、又は販売するおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、スパイダーウェブスをして上記各商品を譲渡することの差止めの必要性を認めることはできない。
争点⑧ 本件DVDの画像(一覧表番号4-1)の被告ウェブサイト掲載について
裁判所は、一審被告が、四者契約の期間満了後も被告ウェブサイトにおいて本件DVDの画像を掲載していたと認め、一審被告自身が当該画像を送信可能化することの差止めを認容する一方、スパイダーウェブスをしてする差止めの必要性は否定しました。
一審原告が、本件漫画の二次的著作物である原判決別紙一覧表の番号4-1記載の本件DVDの画像の原著作者としての権利である送信可能化権に基づき、上記画像の送信可能化の差止めを求める差止請求のうち、一審被告が自ら上記画像を送信可能化することの差止めを求める部分は理由がある。
争点⑨ スパイダーウェブスのウェブサイトに掲載された商品画像の送信可能化差止めについて
裁判所は、一審被告がスパイダーウェブス販売商品の販売の主体であるとともに、同商品を販売するためにスパイダーウェブスのウェブサイトに上記画像を掲載した主体であると認められるとし、スパイダーウェブスをしてする送信可能化の差止めを認容する一方、一審被告自らの送信可能化の差止めの必要性は否定しました。
一審原告は、本件漫画の二次的著作物である原判決別紙一覧表の番号4-6、4-11ないし4-21、4-29ないし4-39記載の商品の各画像の原著作者としての権利である送信可能化権に基づき、一審被告に対し、上記各画像の送信可能化の差止めを求める差止請求のうち、スパイダーウェブスをして上記各画像を送信可能化することの差止めを求める部分は理由がある。
争点⑩ 本件ニュース画像(一覧表番号5-2)の被告ウェブサイト掲載について
裁判所は、一審被告が、被告ウェブサイト中の「CLUB GRAPPLER」内の「ニュース」欄において、本件ニュース画像(本件アニメの静止画像、本件漫画の複製物及び翻案物の画像)を、四者契約の終了後に掲載していた事実を認め、これは一審原告の送信可能化権の侵害に当たると判断しました。
争点⑪ 本件ニュース画像、本件クイズ画像、本件ブログ画像等の差止めの必要性について
裁判所は、一審被告が、四者契約の期間満了による終了後も、本件ニュース画像に加えて、本件クイズ画像(本件漫画の翻案物の画像)及び本件ブログ画像(本件漫画の複製物又は翻案物の画像)を被告ウェブサイトに掲載していたことを認め、一審被告自身による送信可能化の差止めの必要性を認容しました。一方、スパイダーウェブスがこれらの画像を掲載している事実を認めるに足りる証拠はないとして、スパイダーウェブスをしてする送信可能化の差止めの必要性は否定されました。
一審被告は、四者契約の期間満了による終了後も、本件ニュース画像に加え、被告ウェブサイト中の「CLUB GRAPPLER」内の「刃牙クイズ」内に、原判決別紙一覧表の番号5-3の本件クイズ画像(本件漫画の翻案物の画像。甲62)を、「ブログ」内に、同一覧表の番号5-4の本件ブログ画像(本件漫画の複製物又は翻案物の画像。甲63ないし86)を掲載したことが認められ、一審被告のかかる行為は、一審原告の送信可能化権の侵害に当たる。
争点⑫ 本件商標権の移転登録手続義務の有無について
裁判所は、本件アニメ化契約3条⑶(フリーウィルが秋田書店の許諾を得て登録した知的所有権について、契約満了又は解除時にフリーウィル名義の知的所有権を無償で一審原告に移転する旨の規定)に基づき、一審被告は本件商標権を一審原告に移転する義務を負うと判断しました。
一審被告は、同条項は本件アニメ化契約の終了後には適用されないなどと主張しましたが、裁判所は、商標権及び意匠権は登録出願から登録に至るまで一定の期間を要することに照らせば、契約終了前に出願された商標について、契約終了後に登録された場合であっても移転義務の対象になるとして、以下のとおり判示しました。
本件アニメ化契約3条⑶は、「本契約が満了あるいは解除になったときは」と定めており、本件アニメ化契約終了後の移転登録義務について定めた条項であることは明らかである。そして、本件アニメ化契約3条⑶に掲げられた商標権及び意匠権は、登録出願から登録に至るまで一定の期間を要することに照らせば、同条項は、本件アニメ化契約が終了する前にフリーウィルが一審原告の許諾を得て商標登録出願を行った商標について、本件アニメ化契約の終了後に商標登録された場合であっても、商標登録によって生じた商標権を一審原告に移転する義務を負う旨を定めたものと解するのが相当である。
2 反訴請求
争点⑬ 本件配信停止通知についての共同不法行為の成否について
一審被告は、本件送信許諾契約の許諾期間延長の合意により、本件アニメの配信は令和2年10月31日まで適法であったから、一審原告らによる本件配信停止通知は不法行為に該当すると主張しました。
しかし、裁判所は、争点③において一審原告が許諾期間延長の合意について黙示の許諾をしたとは認められないと判断したことを前提に、一審被告は一審原告に対し許諾期間延長の合意の効果を主張することはできないとして、以下のとおり判示し、共同不法行為の成立を否定しました。
前記4⑴で説示したとおり、一審原告が本件送信許諾契約の許諾期間の期間延長の合意について黙示の許諾をしたものと認めることはできないから、一審被告は、一審原告に対し、上記期間延長の合意の効果を主張することはできないというべきである。そうすると、一審被告の上記主張は、その前提を欠くものであり、理由がない。
争点⑭ ガンホー提案の許諾を拒絶した行為についての共同不法行為又は四者契約の債務不履行の成否について
裁判所は、原審の判断を維持し、一審原告らがガンホー提案について許諾を拒絶した行為について、共同不法行為又は四者契約の債務不履行の成立を否定しました。原審は、本件漫画の二次的利用について許諾を与えるか否かは本来著作権者の自由であり、四者契約には許諾自体を義務付ける規定や、二次的利用の申込みがあった際にその提案内容の説明を受ける義務を負う旨の規定は存在しないことを指摘し、かえって、四者契約3条2項及び4条4項は、本件漫画の二次的利用の許諾に係る最終的な判断権が一審第2事件被告(著作権管理団体)にあり、一審被告はその判断に従わなくてはならないことが明記されていることから、提案内容の説明を聴取することなく許諾を拒絶したとしても四者契約に違反するとはいえないと判示していました。
争点⑮ 四者契約の更新拒絶についての共同不法行為又は債務不履行の成否について
裁判所は、一審原告らによる二次利用窓口業務に係る四者契約の更新拒絶は、共同不法行為又は債務不履行に該当しないと判断しました。
一審被告は、一審原告の希望を受けて社内体制を整備し、コンテンツを活性化させて成果をあげてきたにもかかわらず更新を拒絶されたことは「正当な理由」がない旨主張しましたが、裁判所は、以下のとおり判示してこれを退けました。
一審被告が四者契約に基づく業務を行うために社内体制を整備することは、自己の計算と判断に基づいて行うべきことであって、それに基づいて一審原告がコンテンツを活性化させ、一審原告の収益が増加してきたとしても、そのことから一審被告の四者契約の継続に対する期待が法的保護に値するということはできない。
争点⑯ 一審被告の損害額について
裁判所は、争点⑬ないし⑮について、いずれも共同不法行為又は債務不履行が成立しないと判断したことから、損害額については判断するまでもなく、一審被告の損害賠償請求はいずれも理由がないとして棄却しました。
コメント
本判決は、コンテンツビジネスにおける契約実務について、以下のような実務上の指針を示すものです。
1 著作権譲渡の「特掲」要件(著作権法61条2項)の重要性
著作権法61条2項は、著作権を譲渡する契約において、翻案権等及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利が譲渡の目的として「特掲」されていない場合には、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定する旨を定めています。
本判決は、契約条項に「配信」に関する規定があっても、複製や翻案などその他の利用について明示の文言がない以上、その条項を根拠に原著作者の権利の譲渡を認めることはできないと判断しました。
コンテンツの提供を受ける側の事業者にとっては、想定する利用態様を契約書に網羅的かつ明確に記載しておかなければ、後日、原作者から差止請求を受けるリスクがあることに留意する必要があります。
2 クレジット表記が権利帰属の判断材料となりうること
本判決は、本件アニメ化契約に定められた「(C)A/秋田書店・フリーウィル」というクレジット表記について、原著作者が一審原告であることを示した表示とみるのが自然であると判示し、原著作者の権利の譲渡を否定する一つの根拠としました。
クレジット表記は単なる対外的な表示にとどまらず、契約当事者間の権利関係を解釈する手がかりにもなりうるため、安易な合意は禁物です。
コンテンツ制作・利用に関する契約書を作成する際には、クレジット表記についても、想定する権利関係と整合するよう十分な注意を払う必要があります。
3 二次的著作物における原著作者の権利の広範さ
原作漫画をもとに制作されたアニメについて、原作者は、二次的著作物の原著作者として、アニメ自体について複製権、翻案権、頒布権、送信可能化権等を行使することができます。
アニメや実写化、ゲーム化などの二次的著作物を利用する事業者は、制作会社等との契約のみならず、原作者との関係においても権利処理が適切になされているかを確認することが求められます。
4 ロイヤリティの継続的な受領と「黙示の許諾」の関係(原審との結論の差異)
ロイヤリティの継続的な支払・受領があったとしても、それだけでは個別の利用許諾契約の締結や更新について「黙示の許諾」があったとは認められないという点も、本判決の意義を検討するうえで欠かせません。この点は、原審と本判決で判断が分かれた、本判決の独自の意義といえる箇所です。
原審は、ロイヤリティの一部の支払を3年半以上にわたって受領していたこと等から、配信許諾契約の締結及び更新について包括的に黙示の許諾を認めましたが、本判決は、当初の契約締結については黙示の許諾を認めつつも、その後の期間延長合意については、原作者がその内容を具体的に認識していたとはいえないとして黙示の許諾を否定しました。
ライセンサー側からすれば、ロイヤリティを継続的に受け取っているからといって、ライセンシーが行うあらゆる契約変更を承諾したことにはならないという、当事者の合理的意思を踏まえた判断といえます。一方、ライセンシー側からすれば、「ロイヤリティを支払っているから問題ない」という安易な認識は危険であり、契約締結や更新の都度、書面による明示的な承認を取得しておくことが、紛争を回避するうえで欠かせません。
5 契約条項の文言解釈と契約終了後の権利処理規定の重要性
本件商標権の移転登録手続に関する判断は、契約書の文言を素直に読み、その規定の趣旨や対象となる権利の性質に照らして解釈することの重要性を示しています。とりわけ、知的財産権の出願から登録までには一定の期間を要するため、契約終了前に出願された権利が契約終了後に登録される場合があり、本判決は、こうした事態についても契約条項の趣旨に照らして移転義務の対象となりうると判断しました。
契約書を作成する際には、契約期間中に出願された権利の事後処理についても、あらかじめ具体的かつ明確に規定しておくことが望まれます。
6 差止請求における侵害行為の主体の特定の重要性
本判決は、キャラクター商品の譲渡及び商品画像の送信可能化の差止請求について、一審被告自身が侵害主体である場合と、一審被告がライセンシーをして侵害させている場合とを厳密に区別し、それぞれについて差止めの必要性を個別に判断しました。
コンテンツホルダーが差止訴訟を提起する際には、侵害行為の主体が誰であるかを具体的事実に即して主張立証する必要があり、漫然と「自ら又は第三者をして」差止めを求めるだけでは十分でない場合があるということを示しています。
一方、ライセンシー側としては、自己とライセンス先との関係性(管理・支配の有無、利益取得の有無)次第では、ライセンス先の販売行為について自己が侵害主体と評価される可能性があることに留意する必要があります。
7 翻案の差止請求における侵害態様の特定の必要性
本判決は、一般的・抽象的な翻案の差止めや、商品化、アニメーション映画化、実写映画化、舞台化、小説化等という形で類型的に特定したにとどまる差止めについては、差止めの対象となる侵害態様を具体的に特定するものではないとして、差止めの必要性を否定しました。
コンテンツホルダーが将来の侵害行為を差し止めようとする場合には、想定される侵害態様をできる限り具体的に特定して主張する必要があり、抽象的な差止請求では認められないという、訴訟戦略上重要な指針を示しています。
8 継続的契約における更新拒絶と契約継続への期待の保護
二次利用窓口業務契約のような継続的契約であっても、契約に定める手続にしたがった更新拒絶は原則として認められるという点も、本判決から導かれる重要な指針です。
本判決は、事業者の側で社内体制を整備し、コンテンツの活性化に貢献したという事情があっても、それは「自己の計算と判断に基づいて行うべきこと」であり、それだけでは契約継続への期待が法的保護に値するとは限らないと判示しました。
継続的な取引関係においては、契約の終了リスクを踏まえた事業計画と契約交渉が重要であり、長期的な投資判断を行う際には、契約の更新や終了に関する条項の精査が欠かせません。
9 二次的利用の許諾の可否は著作権者の自由であること
本判決は、ガンホー提案についての許諾拒絶に関する争点について、本件漫画の二次的利用について許諾を与えるか否かは本来著作権者の自由であり、四者契約に許諾自体を義務付ける規定や提案内容の説明を受ける義務を負う旨の規定がない以上、許諾を拒絶したとしても契約違反や不法行為には該当しないとした原審の判断を維持しました。
窓口業務を担う事業者にとっては、ライセンス機会が事実上失われたとしても、それを直ちに法的責任の根拠とすることは難しいということを示しており、契約交渉の段階で、ライセンス提案に対する判断プロセスについてあらかじめ取り決めておく必要性を示唆するものといえます。
おわりに
コンテンツビジネスでは、契約書作成段階での想定の甘さや運用上の確認不足が、後日の紛争において大きな不利益として顕在化します。本判決のように、原審と控訴審で結論が分かれる事案も存在し、契約書の文言や契約運用の事実関係の積み上げが結論を左右することを如実に示しています。
当事務所では、漫画・アニメ・ゲーム・キャラクタービジネスをはじめとするコンテンツ分野について、契約書のレビュー・作成から、ライセンス交渉、紛争対応、訴訟対応まで一貫したリーガルサービスを提供しております。
「うちの契約書、これで大丈夫だろうか」「ライセンス先との関係でこんなトラブルが生じている」「過去に締結した契約について、権利の帰属関係を確認したい」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

