盗撮行為を行った従業員に対し、企業はどのような懲戒処分を行うべきでしょうか。不起訴処分となった場合や、報道されていない場合であっても、懲戒解雇は有効と認められるのでしょうか。
令和5年7月13日に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下「性的姿態撮影等処罰法」といいます。)が施行され、盗撮行為に対する社会的非難は一層高まっています。このような社会情勢の中、企業として盗撮行為に対しどのような懲戒処分を行うべきかは、実務上の重要な課題です。
今回のコラムでは、通勤途上の電車内での盗撮行為を理由とする懲戒解雇の有効性が争われた名古屋高裁令和7年3月25日判決を紹介し、企業実務への示唆を解説いたします。
事案の概要
一審被告は、郵便事業を営む会社です。一審原告は、一審被告の社員でした。
一審原告は、勤務時間外である通勤途上、名古屋市営地下鉄の電車内において、自己の所有する小型カメラを録画状態にしてリュックサック内に設置し、口を開いたリュックサックを足元に置いて、被害者のスカート内を撮影しようとする盗撮行為(以下「本件行為」といいます。)を行いました。一審原告は、令和4年の夏頃から同様の手口で盗撮を繰り返していたと供述しています。
一審原告は逮捕されましたが、その後不起訴処分となりました。また、被害者との間で示談が成立しており、本件行為について報道はされていませんでした。
一審被告は、令和5年9月21日付けで一審原告を懲戒解雇としました(以下「本件懲戒解雇」といいます。)。なお、一審被告は、退職金についてはその3割相当額を支給しました。
一審原告は、本件懲戒解雇が無効であるとして、地位確認及び賃金等の支払を求めて提訴しました。
原審(第一審)は、本件懲戒解雇は懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したもので無効であると判断し、一審原告の請求を一部認容しました。これに対し、一審原告及び一審被告がそれぞれ控訴しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 争点の内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件懲戒解雇の有効性 |
| 争点② | 賃金支払請求の可否及び額 |
裁判所の判断
争点① 本件懲戒解雇の有効性について
名古屋高裁は、原審の判断を覆し、本件懲戒解雇は有効であると判断しました。
懲戒標準の枠組み
まず、裁判所は、本件行為が就業規則所定の懲戒事由に該当することを確認した上で、一審被告の懲戒規程における懲戒標準の枠組みを整理しました。
一審被告の懲戒標準は、職務外の非違行為について、有罪判決の有無に応じて処分の量定を区分しており、その内容は以下のとおりです。
| 区分 | 処分の量定 |
|---|---|
| 刑事事件により有罪とされた者 | 懲戒解雇~減給 |
| 上記以外の非違行為(有罪でない者) | 基本:減給~注意 |
| 上記以外の非違行為のうち「重大なもの」 | 懲戒解雇~停職 |
裁判所は、この枠組みについて以下のとおり判示しています。
一審被告が定める懲戒規程には、懲戒を行う場合には懲戒標準により量定を決定するとされ、懲戒標準においては、職務外の非違につき、刑事事件により有罪とされた者は「懲戒解雇~減給」とされているのに対し、上記の者以外の非違行為については、基本は「減給~注意」とし、「重大なもの」は「懲戒解雇~停職」とされているところ、本件行為については不起訴処分がされている。
本件行為は不起訴処分とされていたため、有罪判決を受けた場合の「懲戒解雇~減給」には直接該当しません。そこで、裁判所は、本件行為が有罪でない非違行為のうち「重大なもの」に該当し、「懲戒解雇~停職」の対象となるか否かを、以下のとおり検討しました。
そこで、一審被告が、本件行為を上記の「重大なもの」、すなわち重大な非違行為に該当するものとして、一審原告を懲戒解雇としたこと(本件懲戒解雇)が、社会通念上妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱するものであるのか、あるいは、社会通念上相当であるといえるかのかについて、以下検討する。
裁判所が考慮した事情
裁判所は、以下の事情を総合的に考慮し、本件懲戒解雇は社会通念上相当であると判断しました。
| 考慮要素 | 内容 |
|---|---|
| 行為の態様・常習性 | 小型カメラをリュックサック内に設置するという手口で被害者のスカート内を撮影しようとしたものであり、その態様からみて繰り返し行われていたことがうかがわれ、現に令和4年夏頃から同様の盗撮を行っていたと供述している |
| 盗撮行為に対する社会的非難の高まり | 性的姿態撮影等処罰法が令和5年6月23日に制定され、本件行為日の翌日である同年7月13日に施行されるなど、盗撮行為に対する厳罰化が図られていた |
| 事業の公共性・公益性 | 一審被告は郵便事業という公共性、公益性の高い事業を営んでおり、職員による職場外での破廉恥行為により生ずる社会的非難は軽視できない |
| 社内方針の周知 | 一審被告は、令和2年4月以降、盗撮等の破廉恥事案について原則「懲戒解雇(退職手当一部不支給)」により措置する方針とし、ミーティング等で社員に周知していた |
| 処分の均衡 | 一審被告は、同種の盗撮行為をした職員に対し、有罪判決の有無、報道の有無にかかわらず懲戒解雇処分を行っていた |
| 退職金の一部支給 | 退職金についてはその3割相当額を支給した |
裁判所は、以下のとおり判示しました。
本件行為は、上記のとおり極めて卑劣な行為であり、社会的に厳しい非難を免れ得ないものであって、一審被告の定める懲戒標準にいう重大な非違行為に当たると解することは相当というべきであり、一審被告において、従前職員に周知していた上記の方針に従い、一審被告を懲戒解雇とした上で、退職金についてはその3割相当額を支給したものであることも踏まえれば、一審被告が一審原告を懲戒解雇としたことにつき裁量権の逸脱はなく、本件懲戒解雇は社会通念上相当なものということができる。
一審原告の主張に対する判断
一審原告は、被害者との示談成立、報道がないこと、欠勤が逮捕期間中の2日間にとどまることなどを主張しましたが、裁判所は、以下のとおりこれを退けました。
一審被告の行う事業の公益性、公共性に鑑みれば、一審被告に所属する職員が本件行為のような盗撮行為をしたことで、一審被告の信用が毀損されることはいうまでもなく、一審原告が被害者と示談をすることができたからといって、それが当然に回復するものではない。また、報道がされるか否かは一審被告において制御することができるものではなく、一旦報道等がされれば即時に広く世間に知れ渡る可能性があることからすると、偶々報道されていない状況であったからといって、本件行為による一審被告への信用毀損が生じないといえるものではない。
さらに、一審原告の良好な勤務成績、改悛の情、過去の懲戒処分歴がないことについても、裁判所は、以下のとおり判示し、これらの事情によっても懲戒解雇の相当性は否定されないとしました。
一審原告は、平素の勤務成績が良好であること、改悛の情が顕著であること、過去に懲戒処分歴を有していないこと等も主張するが、本件行為の重大性に鑑みれば、一審原告が主張する上記の事情を理由にして、本件懲戒解雇が社会的相当性を欠くものとみることはできない。
手続保障についても、裁判所は、一審被告が本件行為発覚後、一審原告と面談等を行い、詳細な聞き取りをしていることを認定し、手続上の問題はないと判断しました。
争点② 賃金支払請求の可否及び額について
裁判所は、本件懲戒解雇が有効であることから、争点②について判断するまでもなく、一審原告の賃金請求には理由がないとしました。
コメント
1. 本判決の意義
本判決は、職場外での盗撮行為を理由とする懲戒解雇の有効性について、原審の判断を覆し、懲戒解雇を有効と認めた控訴審判決です。
本判決は、不起訴処分となり、報道もされていない事案であっても、行為の態様・常習性、盗撮行為に対する社会的非難の高まり、事業の公共性、社内方針の事前周知と一貫した運用等を総合的に考慮した上で、懲戒解雇が社会通念上相当であると判断しました。
性的姿態撮影等処罰法の施行により、盗撮行為に対する法的評価は厳格化されています。本判決は、こうした社会情勢の変化を懲戒処分の相当性判断に反映させた点に意義があると評価できます。
2. 本判決のポイント
本判決の判断構造を読み解くと、懲戒解雇を有効とした背景には、以下の要素が相互に関連しながら機能していることがわかります。
(1)事業の公共性・公益性
本判決は、一審被告が郵便事業という公共性・公益性の高い事業を営んでいることを、懲戒解雇の有効性を基礎づける重要な要素として位置づけています。裁判所は、事業の公共性を踏まえ、従業員の私生活上の行為であっても企業の信用を毀損するものである場合には、示談の成立や報道がないことをもってしても信用毀損は否定されないと判断しました。
このことは、公共性・公益性の高い事業を営む企業においては、従業員の私生活上の非違行為に対し、より重い懲戒処分が正当化されやすいことを意味します。郵便事業のほか、鉄道・電力・ガス等のインフラ事業、金融業、医療・福祉事業など、社会的信頼を基盤とする事業を営む企業においても、同様の考え方が当てはまり得るものと考えられます。
(2)懲戒処分基準の事前の周知
本判決において、裁判所は、一審被告が令和2年4月以降、盗撮等の破廉恥事案について原則「懲戒解雇」とする方針を定め、ミーティング等で社員に繰り返し周知していたことを認定しています。
この点は、懲戒処分の相当性を基礎づける上で重要な意味を持ちます。処分基準を事前に周知することにより、従業員は自己の行為がどのような処分につながるかを認識することができ、企業側としても、あらかじめ定めた方針に基づく処分であることを示すことができます。
(3)方針に基づく一貫した運用
さらに注目すべきは、裁判所が、方針の周知にとどまらず、一審被告がその方針に基づき同種の盗撮行為をした職員に対し、有罪判決の有無や報道の有無にかかわらず一貫して懲戒解雇処分を行ってきた実績を認定している点です。
判決の結論部分では、「従前職員に周知していた上記の方針に従い」と判示されており、方針の策定・周知と、その方針どおりの一貫した運用が一体のものとして評価されています。事前に方針を周知していたとしても、実際の運用が場当たり的であったり、事案によって処分の軽重にばらつきがあったりした場合には、懲戒解雇の相当性が認められない可能性があります。
(4)刑事処分の結果や報道の有無を絶対視しない判断
本判決の判断構造において見逃せないのは、裁判所が、刑事処分の結果や報道の有無といった事後的な事情を、懲戒処分の相当性を否定する方向で重視していない点です。
本件では、一審原告は不起訴処分となり、被害者との示談も成立し、報道もされていませんでした。しかし、裁判所は、これらの事情をいずれも行為の重大性や企業の信用毀損を否定する理由とはならないと判断しました。特に報道の有無については、「報道がされるか否かは一審被告において制御することができるものではなく」、「偶々報道されていない状況であったからといって、本件行為による一審被告への信用毀損が生じないといえるものではない」と判示しており、報道の有無はあくまで企業が制御できない偶然の事情にすぎないとの評価を示しています。
この点は、上記(3)の一貫した運用とも整合しています。一審被告は、有罪判決の有無や報道の有無にかかわらず一貫して懲戒解雇処分を行ってきたのであり、裁判所はこのような企業の姿勢を肯定的に評価したものといえます。
このことは、企業が懲戒処分を検討するにあたり、刑事処分の結果や報道の有無に過度に左右されるべきではなく、行為自体の悪質性や企業の信用への影響を踏まえて対応すべきことを示唆しているものと考えられます。
3. 企業に求められる対応
本判決を踏まえると、特に公共性の高い事業を営む企業においては、以下の対応が求められると考えられます。
(1)懲戒処分基準の整備・周知と一貫した運用の確保
本判決が示すとおり、盗撮行為を含む私生活上の非違行為に対する懲戒処分基準を明確に定め、就業規則や懲戒規程に具体的に規定することが出発点となります。その上で、研修やミーティング等を通じて社員に繰り返し周知するとともに、同種事案が発生した際には、その基準に基づき例外なく処分を行うことが重要です。
基準を整備したにもかかわらず、個別の事案で基準と異なる運用をしてしまうと、その後の処分の相当性判断においてかえって不利に働く可能性があります。基準の策定・周知と一貫した運用は、懲戒処分の有効性を支える車の両輪といえます。
なお、国家公務員について、人事院は「懲戒処分の指針」(人事院「懲戒処分の指針について」参照)を公表しています。同指針では、盗撮行為は「停職又は減給」を標準的な処分量定としていますが、「日頃から指導していたにもかかわらず改善されない場合」や「行為の態様等が悪質である場合」等には、標準的な処分量定よりも重い処分を行い得るとされています。民間企業においても、処分基準の整備にあたり参考になるものと考えられます。
(2)非違行為を把握した際の対応
本判決を踏まえると、企業が従業員の非違行為を把握した際には、刑事処分の結果が出るまで判断を保留したり、報道されていないことを理由に処分を軽減したりするのではなく、行為自体の悪質性や企業の信用への影響を中心に懲戒処分の要否及び内容を検討することも可能です。刑事処分の結果や報道の有無も考慮要素の一つではありますが、本判決が示すとおり、これらは企業が制御できない外部の事情です。特に公共性の高い事業を営む企業においては、事後的な事情の推移を待つのではなく、行為が判明した段階で、その態様や企業の信用への影響を適切に評価し、事前に定めた基準に基づいて対応することが求められます。
その際には、事実関係の十分な調査と被処分者に対する弁明の機会の付与が不可欠です。本判決においても、裁判所は、一審被告が本件行為発覚後に一審原告と面談等を行い、詳細な聞き取りをしていたことを認定し、手続上の問題はないと判断しています。非違行為が発覚した場合には、事実確認のための面談や聞き取りを丁寧に行い、その経過を記録として残しておくことが重要です。
(3)過去の処分事例の記録・管理
本判決の論理に照らすと、一貫した運用を裏づけるためには、過去の懲戒処分事例を適切に記録・管理しておくことが不可欠です。処分の対象となった行為の内容、処分の種類、処分に至る経緯等を体系的に記録しておくことで、同種事案が発生した際に一貫した対応をとることが可能になるとともに、万一訴訟となった場合にも処分の均衡を立証するための資料となります。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

