土地の売買において、引渡後に土壌汚染や地中障害物が発見されることは、買主にとって大きなリスクとなります。特に、学校や住宅など人が日常的に利用する施設の建設を目的とした土地取引では、土壌汚染の存在は事業計画そのものに影響を及ぼしかねません。
今回のコラムでは、学校法人間の土地売買において、引渡後に土壌汚染対策法の基準値を超える鉛・砒素が検出された事案に関する大阪地方裁判所令和3年1月14日判決を取り上げます。
本判決は、土壌汚染が民法570条(改正前)の隠れた瑕疵に該当するかどうかの判断基準、売買契約の特約条項(土壌改良条項)の解釈、そして損害賠償の範囲について、実務上の指針を示した裁判例です。
事案の概要
学校法人X(原告・買主)は、中学校及び高等学校の新キャンパスを開設するため、学校法人Y(被告・売主)から土地及び建物を代金37億3000万円で購入しました。売買契約には、売主が引渡しまでに土壌汚染調査を実施し、「土壌改良が必要な場合は売主の費用で改良を行う」旨の特約条項(本件特約条項)が設けられていました。
引渡後、新キャンパスの建設工事に伴い、本件土地の土壌から土壌汚染対策法の土壌溶出量基準値(0.01mg/L)を超える鉛(最大0.019mg/L)及び砒素(最大0.018mg/L)が検出されました。また、土地の地中からは、建設工事の支障となるコンクリート塊や水槽等の障害物が多数発見されました。
原告は、被告に対し、瑕疵担保責任等に基づき、土壌汚染調査・対策工事費用、工事計画変更に伴う追加費用等として合計約11億2800万円の損害賠償を請求しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件土地の土壌に鉛及び砒素が含まれていたことが民法570条の隠れた瑕疵に当たるか |
| 争点② | 本件土地に地中障害物が存在していたことが隠れた瑕疵に当たるか |
| 争点③ | 本件売買契約について被告の債務不履行があるか |
| 争点④ | 被告が本件特約条項により本件土地の土壌改良に必要な費用を負担する義務を負うか |
| 争点⑤ | 土壌汚染による原告の損害額又は費用額 |
| 争点⑥ | 地中障害物による原告の損害額 |
裁判所の判断
争点①(土壌汚染と隠れた瑕疵)について
裁判所は、本件土地の土壌に土壌溶出量基準値を超える鉛及び砒素が含まれていたことは、民法570条の隠れた瑕疵に当たると判断しました。
まず、裁判所は、瑕疵の判断枠組みとして、以下のとおり判示しました。
「民法570条の「瑕疵」とは、目的物が当該売買契約において予定された品質・性能を欠いていることである。そして、売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきである」
その上で、裁判所は、本件売買契約の交渉経過や特約条項の内容等を考慮し、本件土地について予定されていた品質・性能について、以下のとおり判示しました。
「本件売買契約においては、本件土地の土壌に土壌溶出量基準値を超える特定有害物質、土壌含有量基準値を超える特定有害物質のいずれも含まれないことが本件土地の品質、性能として予定されていたものと認められる」
裁判所が上記結論を導くにあたり考慮した事実は、以下のとおりです。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 交渉経緯 | 原告が被告に提示した「覚書(案)」等に、被告が費用を負担して土壌汚染調査及び改良を行う旨の記載があったこと |
| 特約条項の存在 | 売買契約に、土壌改良が必要な場合は被告が費用を負担する旨の特約条項が設けられたこと |
| 合意の内容 | 土壌汚染調査及び土壌改良費用に関する事項が特約条項として明示的に合意されたこと |
| 土壌汚染対策法の規制内容 | 土壌溶出量基準値又は土壌含有量基準値を超える場合、要措置区域又は形質変更時要届出区域に指定され、土地の形質変更が制限されること |
なお、裁判所は、原告の「本件土地に土壌汚染が一切存在しないことが契約内容」との主張については、以下のとおり述べて退けました。
「本件売買契約書には、本件土地に土壌汚染が一切存在しないことを契約条件として定めた条項はなく、本件特約条項において、「土壌改良が必要な場合」に限り被告が費用を負担することが明示的に合意されるにとどまる。本件土地の土壌に特定有害物質が含まれる場合であっても、土壌汚染対策法所定の汚染状態に関する基準(土壌溶出量基準及び土壌含有量基準)に適合する限り、本件土地は同法の規制の対象外となり、原告は本件土地を自由に使用することができる」
争点②(地中障害物と隠れた瑕疵)について
裁判所は、本件土地の地中に存在したコンクリート塊、水槽、ハンドホール等の障害物について、いずれも民法570条の隠れた瑕疵に当たると判断しました。
裁判所は、本件売買契約で予定されていた品質・性能について、以下のとおり判示しました。
「本件売買契約においては、本件土地の地中に既存建物の基礎や本件既存建物図面から想定される構造物等の埋設物を除き、建設工事の支障となる障害物が存在しないことが本件土地の品質、性能として予定されていたものと認められる」
既存建物の位置と重なる範囲内で発見されたコンクリート塊についても、裁判所は、以下の点を考慮し、隠れた瑕疵に該当すると判断しました。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 構造の相違 | 既存建物の基礎は鉄筋コンクリートであったが、発見されたコンクリート塊は無筋であったこと |
| 関連性の不明 | 地中障害物と既存建物との関連性を認める証拠がなかったこと |
| 認識可能性の欠如 | 基礎以外の通常存在することが想定できない地中障害物については、建物との関連性を当事者が認識していない限り、認識可能性があるとはいえないこと |
争点④(特約条項の解釈)について
裁判所は、特約条項にいう「土壌改良が必要な場合」の意義について判断し、被告は本件特約条項に基づく費用負担義務を負わないと判断しました。
裁判所は、「土壌改良が必要な場合」の解釈について、以下のとおり判示しました。
「本件売買契約に至る交渉経過、本件特約条項の文言等に鑑みれば、「土壌改良が必要な場合」とは、土壌の改良を法令により義務付けられる場合、すなわち土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を講じることが義務付けられる場合をいうものと解される」
その上で、本件土地は要措置区域相当ではなく形質変更時要届出区域相当の土地であり、原告が土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を講じる義務を負わないとして、原告が行った掘削除去等は本件特約条項の要件を満たさないと結論づけました。
争点⑤(土壌汚染の損害額)について
裁判所は、原告が請求した土壌汚染関連費用のうち、認容した項目と否定した項目を以下のとおり判断しました。
| 費目 | 請求額 | 認容額 | 裁判所の判断 |
|---|---|---|---|
| 土壌汚染調査費用 | 約4909万円 | 約4909万円 | 土壌汚染がなければ生じなかった費用であり、瑕疵との因果関係あり |
| 土壌汚染対策工事費(掘削除去) | 約3億3806万円 | 0円 | 掘削除去は社会通念上相当とはいえず、瑕疵との相当因果関係なし |
| 土壌汚染対策工事費(封じ込め工事) | 約144万円 | 約144万円 | 健康被害防止の観点から必要かつ相当な措置 |
| 工事計画変更に伴う追加費用 | 約2億8321万円 | 0円 | 掘削除去を原因とする延長費用であり、因果関係なし |
| 監理業務委託費用 | 2268万円 | 0円 | 掘削除去に起因する委託期間延長であり、因果関係なし |
| 物価上昇費用 | 約4億2819万円 | 0円 | 掘削除去に起因する工期延長によるものであり、因果関係なし |
裁判所は、掘削除去が瑕疵と相当因果関係のある損害にあたらないと判断した理由として、以下の事実を考慮しました。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 区域指定の性質 | 本件土地は要措置区域相当ではなく形質変更時要届出区域相当であり、汚染除去等の措置は義務付けられないこと |
| 健康被害のおそれの不存在 | 本件土地周辺に飲用井戸が存在せず、地下水汚染も生じていなかったこと |
| 法改正の趣旨 | 中央環境審議会答申及び平成21年法改正は、汚染の状況や健康被害のおそれに応じた合理的な区域分類と対策の明確化を目指すものであること |
| 代替手段の存在 | 地下水の水質調査、原位置封じ込め、盛土、舗装等の掘削除去以外の有効な方法が存在しないとは認められないこと |
| 比較検討の不実施 | 原告が掘削除去を採用するにあたり、掘削除去以外の方法の有無やコスト比較を行わなかったこと |
| 行政指導の性質 | 乙訓保健所の指導は法的強制力を背景としたものではなく、原告は自らの判断で掘削除去を選択したこと |
争点⑥(地中障害物の損害額)及び結論
裁判所は、地中障害物の撤去工事費用536万0150円全額を瑕疵と相当因果関係のある損害と認めました。
以上の結果、裁判所は、原告の請求(約11億2800万円)のうち、5589万6585円の限度で請求を認容しました。
コメント
1. 土壌汚染と瑕疵該当性の判断基準 ― 本判決の先例法理上の位置づけ
本判決は、売買の目的物である土地に瑕疵があるかどうかを判断するにあたり、改正前民法570条の「瑕疵」の意義及びその判断枠組みを示した最高裁判所平成22年6月1日第三小法廷判決(民集64巻4号953頁、判タ1326号106頁)を引用しています。同最判は、売買の目的物が「通常有すべき品質・性能」を備えているかどうかは、売買契約の趣旨に照らし、取引通念を考慮して判断すべきことを明らかにしたものです。
本判決は、上記最判が示した枠組みに沿って、売買契約の交渉経緯や特約条項の文言等の具体的事実関係を踏まえ、土壌汚染対策法の基準値(土壌溶出量基準及び土壌含有量基準)への適合が本件土地に予定された品質・性能であったと認定しました。この意味で、本判決は、同最判の判断枠組みを土壌汚染の事案に具体的に適用した裁判例として位置づけることができます。
土地の売買に携わる企業等においては、売買契約の締結に先立ち、土壌汚染対策法の基準値を踏まえた品質に関する条項を契約書に明記しておくことが重要です。
2. 特約条項(土壌改良条項)の解釈と起草上の留意点
本判決は、売買契約の特約条項にいう「土壌改良が必要な場合」の意義について、土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置が法令により義務付けられる場合をいうと解釈しました。
この判断の背景には、特約条項に「土壌改良」や「土壌改良が必要な場合」の定義が設けられていなかったこと、交渉過程でこれらの意味内容について具体的な協議がなされていなかったことがあります。
買主の立場からは、土壌汚染が発見された場合にどのような対策を求めるのか(たとえば、法令上義務付けられる措置にとどまらず、掘削除去を含む原状回復まで求めるのか)を契約交渉の段階で明確にし、特約条項に具体的な定義や基準を盛り込んでおくことが、紛争の予防につながります。
環境省が公表している「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第3.1版)」(令和4年8月)は、土壌汚染対策法に基づく調査や措置の内容を解説しており、契約条項の起草に際して参考となります。
3. 損害賠償の範囲と対策工事の選択
本判決において注目すべき点は、原告が実施した掘削除去(約3億3806万円)が瑕疵と相当因果関係のある損害として認められなかったことです。裁判所は、本件土地が形質変更時要届出区域相当にとどまること、周辺に飲用井戸がなく健康被害のおそれがなかったこと等から、掘削除去は社会通念上相当な対策とはいえないと判断しました。
この判断は、土壌汚染が発見された場合の対策工事の選択が、損害賠償の範囲に直結することを示しています。土壌汚染対策法は、汚染の状況や健康被害のおそれに応じて複数の措置を定めており、必ずしも掘削除去のみが対策ではありません。
環境省の「土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」によれば、要措置区域においても、指示された措置の多くは地下水の水質測定や原位置封じ込めであり、掘削除去は必ずしも必須とも限りません。本判決もこの調査結果を引用しています。
なお、土壌汚染の瑕疵が認められた場合であっても、汚染土壌の除去まで当然に必要とはいえないとした裁判例として、東京地判平成27年8月7日(判タ1423号307頁)があります。同裁判例は、土壌汚染の瑕疵が存在しても、それを確実に除去しなければならないとまではいえず、除去費用相当額を減額した契約を締結していたとも認められないとして、除去費用の賠償を認めなかった事案です。
本判決も、同裁判例と同様に、土壌汚染の瑕疵の存在を肯定しつつも、対策手法として掘削除去を選択したことの相当性を否定しており、土壌汚染対策費用をめぐる損害賠償請求の場面では、対策手法の合理性が問われることを改めて示したものといえます。
買主としては、土壌汚染が発見された場合、複数の対策手法を比較検討し、汚染の状態や健康被害のおそれの程度に応じた合理的な対策を選択することが、後日の損害賠償請求においても有利に働くといえます。
4. 地中障害物についての留意点
本判決は、既存建物の位置と重なる範囲内で発見されたコンクリート塊であっても、無筋コンクリートであり既存建物の基礎(鉄筋コンクリート)とは構造が異なる場合には、既存建物の基礎には該当せず隠れた瑕疵になりうることを示しました。
売主の立場からは、売却対象地の地歴を調査し、既存建物の基礎以外に埋設物が存在する可能性について、買主に情報提供することが、瑕疵担保責任のリスクを軽減する上で有効です。
5. 本判決の実務的意義
本判決における瑕疵該当性の判断自体は、前記最判平成22年6月1日の枠組みに沿ったものです。本判決の実務的な意義は、むしろ損害賠償の範囲の判断にあります。すなわち、本判決は、土壌汚染の瑕疵を認めながらも、買主が自ら選択した掘削除去の費用については、汚染の程度や周辺環境に照らして過剰な対策であったとして、賠償の対象から除外しました。この判断は、土壌汚染対策の費用負担が問題となる土地取引において、どのような対策を講じるかという選択そのものが法的な評価の対象となることを示すものであり、売主・買主の双方にとって重要な示唆を含んでいます。
6. 企業に求められる対応
本判決を踏まえると、土地の売買に関わる企業等には、以下の対応が求められます。
買主側の対応
| # | 対応事項 | 本判決から得られる教訓 |
|---|---|---|
| 1 | 売買契約において、土壌汚染が発見された場合の対応(調査の方法、対策の範囲、費用負担)について、具体的かつ明確な条項を設けること | 本判決では、「土壌改良が必要な場合」の定義が契約上明確でなかったため、その解釈が争点となった |
| 2 | 土壌汚染が発見された場合には、汚染の態様や健康被害のおそれを踏まえ、複数の対策手法を比較検討した上で、合理的な手法を選択すること | 本判決では、掘削除去以外の方法との比較検討を行わなかったことが、掘削除去費用の損害性を否定する一因となった |
| 3 | 掘削除去以外の対策手法についても、その費用を損害として予備的に主張できるよう準備しておくこと | 本判決では、原告が掘削除去以外の方法による費用を予備的に主張しなかったため、封じ込め等の費用を損害として認定できなかった |
売主側の対応
| # | 対応事項 | 本判決から得られる教訓 |
|---|---|---|
| 1 | 売却対象地の地歴調査を十分に行い、土壌汚染や地中障害物の存在について可能な限り情報を収集・開示すること | 本判決では、売主が地中障害物の存在を把握・説明していなかったため、隠れた瑕疵と認定された |
| 2 | 売買契約の特約条項について、「土壌改良が必要な場合」の定義や基準を明確にし、売主が負担すべき費用の範囲を合理的に限定しておくこと | 本判決では、特約条項の文言が抽象的であったことが紛争の原因の一つとなった |
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

