SNS上で他人の投稿を「リツイート」や「リポスト」で拡散する行為は、日常的に行われています。自分でコメントを付けず、他人の投稿をそのまま転送するだけであれば、法的責任は生じないと考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、大阪高裁令和2年6月23日判決(令和元年(ネ)第2126号)は、コメントを一切付けない「単純リツイート」であっても、元の投稿の内容が他人の社会的評価を低下させるものであれば、名誉毀損として不法行為責任を負い得ると判断しました。
今回のコラムでは、この判決の内容と、企業や個人がSNSを利用するうえで留意すべきポイントについて、解説いたします。
事案の概要
本件の当事者は、以下のとおりです。
| 当事者 | 属性 |
|---|---|
| 被控訴人(原告)X | ある政党の創設者であり、知事・市長を歴任した弁護士。ただし、本件投稿の時点では知事・市長を退任していた。 |
| 控訴人(被告)Y | ジャーナリスト。ツイッター(現X)上に約18万人のフォロワーを有していた。 |
事案の経緯は、以下のとおりです。
Xが自党所属の国会議員に対し、言葉遣いを叱責する趣旨のツイートを複数回投稿したところ、これを見た第三者(元ツイート主)が、次の内容のツイート(本件元ツイート)を投稿しました。
「Xが30代でA知事になったとき、20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」
Yは、この本件元ツイートに対してコメントを一切付けず、そのまま単純リツイートしました(以下「本件投稿」)。その結果、Yの約18万人のフォロワーのタイムラインに本件元ツイートの内容がそのまま表示されました。
Xは、本件投稿が自身の名誉を毀損するとして、Yに対し不法行為に基づく損害賠償を請求しました(本訴)。一方、Yは、Xの提訴が訴権の濫用(いわゆる「スラップ訴訟」)であるとして、Xに対し損害賠償を請求しました(反訴)。
本件の争点
本件の争点は以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 単純リツイートである本件投稿がXの名誉を毀損するか |
| 争点② | 違法性阻却事由(真実性・真実相当性)が認められるか |
| 争点③ | Xに生じた損害の有無及びその額 |
| 争点④ | Xによる本件提訴が訴権の濫用(スラップ)に該当するか |
裁判所の判断
争点①:単純リツイートによる名誉毀損の成否
裁判所は、まず、ツイッターにおける投稿であっても、表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるか否かの判断基準は、新聞記事等における基準と同様であるとしました。すなわち、「一般閲読者の普通の注意と読み方」を基準として判断すべきであるとしています。
そのうえで、単純リツイートの法的性質について、裁判所は次のとおり判示しました。
「単純リツイートに係る投稿行為は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、ツイートに係る投稿内容に上記のツイート主のアカウント等の表示及びリツイート主がリツイートしたことを表す表示が加わることによって、当該投稿に係る表現の意味内容が変容したと解釈される特段の事情がある場合を除いて、元ツイートに係る投稿の表現内容をそのままの形でリツイート主のフォロワーのツイッター画面のタイムラインに表示させて閲読可能な状態に置く行為に他ならないというべきである。」
そして、裁判所は、次の要件を満たす場合には、リツイート主は投稿の経緯・意図・目的・動機等のいかんを問わず不法行為責任を負うと判断しました。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 要件① | 元ツイートの表現の意味内容が、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準として、他人の社会的評価を低下させるものであること |
| 要件② | リツイート主が、当該投稿によって元ツイートの表現内容を自身のフォロワーの閲読可能な状態に置くことを認識していること |
| 要件③ | 違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められないこと |
本件では、「Xが30代でA知事になったとき、20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだ」という表現(本件部分)について、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、「Xが、Aの幹部たちに生意気な口をきいたことによって、その口のきき方をされた職員の中に自殺に追い込まれた者がいた」という事実を摘示するものと解されるとしました。
Yは、本件投稿の閲読者は、過去に実際に発生した別の職員の自殺事件(本件自殺事件)のことと理解するはずであると主張しましたが、裁判所は、次の理由からこの主張を退けました。
| 考慮事実 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| 投稿当時の一般閲読者の認識 | 本件自殺事件等に関する報道から約5年以上が経過しており、一般閲読者が本件自殺事件についての知識を広く共有していたとは認め難い |
| フォロワーの属性 | Yのフォロワーが18万人を超えていることからすると、閲読者を、被控訴人の言動に関心を持つ者のみに限定することはできない |
| 拡散の危険性 | リツイートによる投稿は、容易な操作により瞬時に不特定多数の閲読者の閲読可能な状態に置くことができ、さらにリツイートが繰り返されることで表現内容が短期間に際限なく拡散する可能性がある |
| 前後の文脈 | 本件部分の前後の文脈からすると、Xの生意気な口のきき方を問題視し糾弾する趣旨の表現であると無理なく解釈できる |
以上から、裁判所は、本件部分はXの社会的評価を低下させるものであると判断しました。
争点②:違法性阻却事由の有無
裁判所は、名誉毀損について、摘示された事実の重要な部分が真実であると証明された場合には違法性が否定され、真実と信じるについて相当の理由がある場合には故意又は過失が否定されるという判断枠組みを示したうえで、Yの主張を退けました。
「本件投稿中の本件部分の意味内容は、被控訴人が、30代でA知事になった当時、20歳以上年上のAの幹部たちに随分と生意気な口をきいたことによって、被控訴人から生意気な口のきき方をされた職員の中に自殺に追い込まれた者がいたという趣旨のものと解されるから、本件投稿についての真実性の立証は、(中略)その重要な部分について真実であることを証明すべきものである。」
「そうであるところ、控訴人は、本件投稿にいう自殺に追い込んだという事件が本件自殺事件を指すと主張しており、被控訴人から生意気な口のきき方をされた職員の中に自殺に追い込まれた者がいたという事実の真実性については何ら主張も立証もしていないのであるから、上記事実が真実であるとは認められない。また、控訴人が上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があることについての主張、立証もない。」
「したがって、控訴人が本件投稿を行ったことについて違法性がないとはいえないし、控訴人の故意又は過失が否定されるともいえない。」
さらに、裁判所は、Yが本件自殺事件について先行報道等に目を通していたことを踏まえても、なおYの過失は否定されないとし、その理由について次のとおり判示しました。
「リツイートによる投稿をも含めて、ツイッターにおける投稿が、当該投稿に係る表現内容を容易な操作により瞬時にして不特定多数の閲読者の閲読可能な状態に置くことができる特性を有するものであるにとどまらず、当該投稿を閲読した者が実にその投稿内容をリツイート等することによってその表現内容を容易な操作により更に多くの閲読者の閲読可能な状態に置き、そのような行為が繰り返されることによって、当該投稿の表現内容が〔短〕期間のうちに際限なく拡散していく可能性を秘めており、そのような危険性は抽象的危険の域にとどまらないものというべきであることからすれば、単純リツイートの場合を含めて、ツイッターにおける投稿行為を行う者には、投稿行為に際し、その投稿内容に含まれる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであるか否かについて、相応の慎重さが求められるものというべきである。」
裁判所は、このような慎重さの要請は表現の自由の内在的制約にすぎないと述べたうえで、むしろこのような配慮の下に投稿が行われることが担保されることによって、ツイッターの表現媒体としての特性が活かされ、自由かつ双方向的な言論空間の形成・発展に資すると判示しました。
争点③:損害額
裁判所は、以下の事情を総合考慮し、慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の合計33万円の損害賠償を認めました。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 投稿方法 | 単純リツイートという方法によるものであること |
| 閲読可能者数 | Yのフォロワーは18万人を超えており、その表現内容が18万人超のフォロワーのタイムラインに表示されたこと |
| 拡散の危険性 | フォロワーがさらにリツイートすることにより、短期間に際限なく拡散していく可能性があったこと |
| Yの注意義務 | Yは先行報道等の知識を有していたにもかかわらず、本件元ツイートの意味内容を普通の注意で客観視すれば容易に理解し得たこと |
| Yの社会的地位 | Yはフリーのジャーナリストとして一定の知名度を有し、そのツイートの影響は小さいとはいえないこと |
| 違法性の程度 | 本件投稿行為は、その内容及び態様等に照らし、違法性の程度が軽いとはいえないこと |
争点④:訴権の濫用(スラップ)の成否
Yは、Xの提訴が言論抑圧を目的とするスラップ訴訟であると主張しましたが、裁判所は、次のとおり判示してこの主張を退けました。
「被控訴人が本件訴訟において主張した権利が事実的、法的根拠を欠くものということはできず、本件提訴が裁判制度の趣旨、目的に照らして著しく相当性を欠くということはできない。したがって、本件提訴が訴権の濫用に該当するということはできず、また、控訴人に対する違法な行為として不法行為を構成するものということもできない。」
コメント
1. 本判決の位置づけ
本判決は、「単純リツイート」(コメントを付けずに他人の投稿をそのまま転送する行為)について、名誉毀損に基づく不法行為責任が成立し得ることを正面から判示した裁判例です。
名誉毀損の成否を判断する際の基準として、従来から「一般閲読者の普通の注意と読み方」が用いられてきましたが、本判決は、この基準がSNS上の投稿にも同様に適用されることを確認しました。
本判決が示した考え方は、現在のX(旧ツイッター)における「リポスト」だけでなく、Instagram、Facebookなど他のSNSにおける類似の拡散機能(シェア、リグラムなど)にも当てはまり得るものと評価できます。
2. 本判決から導かれる実務上のポイント
本判決は、SNS上での情報拡散行為について、以下の点を示しています。
(1)「単に拡散しただけ」は免責理由にならない
本判決は、単純リツイートの法的性質について、元ツイートの表現内容をそのままの形でフォロワーの閲読可能な状態に置く行為であると位置づけました。したがって、「自分は元の投稿を転送しただけで、自分の意見ではない」という弁解は、名誉毀損の成否の判断においては考慮されません。
(2)元ツイートへの賛否にかかわらず責任を負い得る
本判決の解説(判タ1495号127頁)も指摘するとおり、単純リツイートは、元ツイートの表現内容をそのまま閲読可能な状態に置く行為であることから、元ツイートの内容が他人の社会的評価を低下させるものである場合には、元ツイートに賛同する趣旨であるか反対する趣旨であるかを問わず、不法行為責任が生じ得ると考えられます。
つまり、「問題提起のつもりだった」「批判的な意図で拡散した」といった主観的な動機があったとしても、それだけでは責任を免れることはできません。
(3)SNS投稿者には「相応の慎重さ」が求められる
裁判所は、ツイッターにおける投稿(リツイートを含む)は瞬時に不特定多数に閲読可能な状態に置くことができ、短期間に際限なく拡散する可能性があることから、投稿者には「相応の慎重さ」が求められると判示しました。この判断は、SNSの利用者全般に向けられたメッセージといえます。
(4)フォロワー数が多いほどリスクは高まる
本判決では、Yのフォロワーが約18万人であったことが、損害額の判断において考慮されています。フォロワー数が多いほど、名誉毀損による損害が大きく評価される可能性があります。加えて、本判決の解説(判タ1495号127頁)は、Yのフォロワーが18万人に及んでいることを踏まえ、投稿の閲読者を、投稿の背景事情や意図を十分に理解する特定の関心層に限定して捉えることはできないと指摘しています。
すなわち、フォロワー数が多い場合、投稿の閲読者には多様な層が含まれるため、特定の文脈や業界知識を前提とした読み方を期待することはできず、表現の意味内容は、より広い一般閲読者を基準に判断されることになります。この点は、多数のフォロワーを抱える企業の公式アカウントにおいて特に留意が必要です。
3. 企業に求められる対応
本判決の趣旨を踏まえると、企業においては以下の対応を検討することが望ましいと考えられます。
(1)ソーシャルメディアポリシーの策定・見直し
企業の公式アカウントの運用だけでなく、従業員個人によるSNS利用についても、他者の投稿の拡散(リポスト・リツイート・シェア等)が法的リスクを伴い得ることを明記したガイドラインを策定することが有用です。
総務省は、業務としてSNSを利用する際には、組織の情報セキュリティポリシーに従い、ブランドイメージを損なう発言をしないよう注意すべきことを指摘しています(総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト:SNSの正しい利用」)。
(2)従業員教育の実施
政府広報オンラインは、「相手がどのような人であっても、単に再投稿(リツイート、リグラム、リポストなど)しただけであっても、民事上・刑事上の責任を問われる可能性がある」と注意喚起しています(政府広報オンライン「あなたは大丈夫? SNSでの誹謗中傷 加害者にならないための心がけと被害に遭ったときの対処法とは?」)。
企業としては、こうした公的資料も活用しながら、リポスト・シェア等の拡散行為のリスクについて、定期的に従業員に対する研修や注意喚起を行うことが望ましいといえます。
(3)公式アカウント運用時の確認体制の構築
企業の公式アカウントで他者の投稿をリポスト・シェアする場合には、その内容が第三者の名誉やプライバシーを侵害しないかを事前に確認する体制(ダブルチェック等)を整備することが考えられます。特に、フォロワー数の多い公式アカウントの場合、拡散による影響が大きくなることから、より慎重な運用が求められます。
(4)被害を受けた場合の対応
逆に、企業や役員が名誉毀損的な投稿のリツイート・リポストによって被害を受けた場合には、本判決が示すとおり、リポストした者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することが可能です。
早急に証拠保全をした上で、どのように対応するか、弁護士に相談することが大切です。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

