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少年院送致における試験観察の要否と家庭裁判所の裁量(東京高裁令和4年11月18日決定:少年事件)

はじめに

令和4年4月1日、改正少年法が施行され、18歳・19歳の少年は「特定少年」として位置づけられました(法務省「少年法が変わります!」参照)。この改正により、特定少年に対する処遇の在り方が改めて注目されています。

今回のコラムでは、特定少年による恐喝保護事件において、家庭裁判所が試験観察を経ずに少年院送致を決定したことの当否が争われた東京高等裁判所令和4年11月18日決定(令和4年(く)第611号)を取り上げます。

上記東京高裁決定は、少年院送致決定に対する抗告事件において、試験観察を実施しなかったことと家庭裁判所の裁量権の範囲について判断を示したものであり、少年事件の実務において参考になる裁判例です。

事案の概要

本件は、少年が、女子少年を含む共犯少年らと共謀し、SNS(ツイッター)を利用していわゆる「美人局」(パパ活狩り)の手法で被害者を誘い出し、現金合計50万円及びイヤホン等24点(販売価格合計14万4878円)を脅し取った、という恐喝の事案です。

具体的な犯行の流れは以下のとおりです。

項目内容
犯行の手口共犯少女(A)を利用し、ツイッターで被害者を誘い出す「美人局」の手法
犯行日時令和4年○月○日午前3時10分頃~午前7時40分頃
犯行場所a市内の公園前路上
脅迫の態様少年が「誰の女に手出してんだ」と申し向け、共犯者らと被害者を取り囲み、「50万円出せ」と要求
被害額現金合計50万円+物品24点(販売価格合計14万4878円)

横浜家庭裁判所川崎支部は、短期間の処遇勧告を付した上で、少年を第1種少年院に送致する決定をしました。これに対し、原審付添人(弁護士)が、処分の著しい不当を理由として東京高等裁判所に抗告しました。

本件の争点

本件の争点は以下のとおりです。

争点内容
争点①少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は「著しく不当」といえるか
争点②試験観察に付して社会内処遇の可能性を検討すべきであったか(試験観察を経ずに少年院送致としたことの当否)

裁判所の判断

争点①について(少年院送致の相当性)

東京高裁は、原決定が考慮した事情を検討した上で、少年院送致の判断は不合理とはいえないと結論づけました。

原決定が指摘した少年の問題性に関する考慮事実は、以下のとおりです。

考慮事実具体的内容
犯情の重さ美人局の手法による卑劣な手口、長時間の連れ回し、多額の被害
少年の役割脅迫行為の実行、共犯少女(A)に対する指示
犯行動機・経緯知人から同様の手口で大金を得たと聞いて興味を持ち、金欲しさから関与
身勝手な行動傾向自己の利益のためには犯罪行為もいとわない行動パターンが身についている
被害的思考物事を被害的に受け止める思考が幼少期から形成されている
過去の問題行動親からの金銭持ち出し、バイクの無免許運転、占有離脱物横領(審判不開始)、窃盗等
保護環境の脆弱性両親の指導を被害的に受け止めて反発し、一人暮らしを開始、不良交友がエスカレート
本件直前の生活状況共犯者らの生活費負担や遊興費で困窮し、他にも犯罪行為に及んでいた

原審付添人は、以下の点を主張して原決定の不当性を訴えました。

主張の番号内容
少年は、審判において非行事実を認め、被害者への謝罪を深め、再非行防止の具体的方策を述べた
両親も審判に出席し、少年を実家に引き取って父親の職場で仕事をさせる旨述べた
少年には保護観察処分に付された前歴もない
直ちに少年院に送致するのではなく、試験観察に付して社会内処遇の可能性を検討すべきであった

これに対し、東京高裁は、原決定がこれらの事情を考慮した上でなお少年院送致を相当と判断していることを確認しました。その上で、以下のとおり判示しました。

「原決定が指摘する少年の問題性は、少年の幼少期からの成育歴に関係した根深いものであることからすると、これらを改善して少年の再非行を防止するためには、少年が強く抱いている両親への不満や被害感情を整理させることや、不良交友を含む対人関係の在り方や生活面での問題点を認識させた上、これらへの適切な対処方法を学ばせることなど、専門的な知識に基づく教育が必要であると認められる。」

さらに、東京高裁は、次のとおり述べて、社会内処遇では対応が困難であり、施設内での集中的な矯正教育が必要であるとしました。

「本件に至るまでの少年の家族関係や生活状況等に照らすと、これらの教育を社会内処遇によって十分に行うことは困難であり、少年を短期間であっても現在の生活状況から隔離した上で、安定的で強固な枠組みの中で集中的な矯正教育を行う必要があるとして、少年を第1種少年院に送致することが相当であるとした原決定の判断が、不合理であるとはいえない。」

争点②について(試験観察を経なかったことの当否)

争点②について、東京高裁は、以下のとおり判示して、試験観察を経なかったことは結論に影響しないとしました。

「もとより、少年の特性、年齢、保護環境や処遇の実効性等を考慮して実施の当否が検討されるべき試験観察(中間処分)を経なかったことが、上記結論を左右するともいえない。」

以上を踏まえ、東京高裁は、少年を第1種少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえないとして、抗告を棄却しました。

コメント

1. 本決定の意義

本決定は、少年院送致決定に対する抗告事件において、試験観察を実施しなかったことの当否について正面から判断を示した裁判例です。

少年事件の実務では、少年を少年院等の施設に送致した家庭裁判所の決定に対し、少年側が「処分の著しい不当」を理由に抗告し、その中で「試験観察に付して社会内処遇の可能性を検討すべきであった」と主張することが少なくありません。

試験観察とは、少年に対する終局処分を一定期間留保して行われる中間処分です。実務的には、おおむね3~4か月を目安に、家庭裁判所調査官が少年に対して面接指導や各種プログラムを活用した教育的働きかけを行いながら、少年の行動等を継続的に観察するものです(坂野剛崇ほか「特集 試験観察」家庭の法と裁判11号6頁以下参照)。

その機能としては、要保護性に関する判断をより的確にするための調査機能と、施設収容の猶予としての教育的処遇機能の二つがあると指摘されています(田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法〔第4版〕』343頁以下)。

もっとも、試験観察はあくまで終局処分を決するために必要がある場合に行われる中間処分です。少年の問題が根深く、保護環境等の状況から施設内での指導が不可欠と判断される場合には、保護処分歴のない少年であっても、試験観察を経ずに施設送致決定をすることが認められます。

少年法は、手続面においても家庭裁判所に広い裁量を認めており、判断資料の収集や処遇決定の時期は家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられています。

本決定は、このような試験観察の性質と家庭裁判所の裁量の範囲を確認した上で、試験観察を経なかったことが原決定の結論を左右しないと判断したものといえます。

2. 付添人による弁護活動の視点から

本決定を踏まえると、少年院送致が見込まれる事案において付添人(弁護士)が試験観察を求める場合には、単に「試験観察を行うべき」と主張するだけでは足りません。少年の問題の性質、保護環境の具体的な改善状況、試験観察を行うことで社会内処遇の実効性が見込まれる具体的な根拠を示す必要があります。

他方で、家庭裁判所が試験観察を経ずに少年院送致の決定をする場合には、本件の原決定のように、試験観察を実施しない理由を説示することが望ましいといえます。このことは、判断過程の透明性を確保し、抗告審における審査を実効的にする観点からも有益です。

3. まとめ

本決定は、事例判断ではありますが、少年院送致と試験観察の要否に関する家庭裁判所の裁量の範囲について一定の指針を示したものとして、実務上参照すべき価値のある裁判例です。

少年事件において適切な処遇選択を実現するためには、少年の特性や問題の根深さ、保護環境の状況等を多角的に検討する必要があります。付添人としての弁護士には、少年院送致の回避のみを目的とするのではなく、少年の改善更生に資する処遇は何かという視点から、家庭裁判所の判断過程に適切に関与していくことが求められます。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。