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株主総会が流会後の第三者割当増資と「著しく不公正な方法」による発行(東京地裁令和6年8月8日決定)

東京地裁令和6年8月8日決定は、定時株主総会が流会となった後に取締役権利義務者が行った第三者割当ての方法による新株及び新株予約権の発行について、「著しく不公正な方法」(会社法210条2号・247条2号)による発行とはいえないとして、差止めの仮処分申立てを却下する決定を下しました。

本件は、東証グロース市場に上場する会社の筆頭株主でもある創業者が代表取締役を解職された後、定時株主総会が流会という異例の事態を経て、取締役権利義務者らが第三者割当増資を決議したという特殊な経緯をたどっています。主要経済紙等でも大きく報道され、企業法務の実務家の間で広く注目を集めた事案です。

今回のコラムでは、上記東京地裁決定の内容を簡単にご紹介したいと思います。

事案の概要

当事者・会社の状況

本件の当事者は、次のとおりです。

当事者概要
債務者(会社)コンピュータシステムの設計・維持管理等を事業とする東証グロース市場上場の株式会社。第21期(令和4年3月期)から3期連続で営業損失・当期純損失を計上し、令和6年3月期末には純資産が約403万円(自己資本比率1%未満)まで落ち込んでいました。その後、令和6年6月末時点では約5700万円の債務超過に転落したとみられます。
債権者(創業者・筆頭株主)平成13年の創業時から令和6年5月9日まで代表取締役を務めた創業者。発行済株式の35.36%(148万3000株)を保有する筆頭株主でした。
割当先(a社)企業ガバナンスに関するコンサルティング等を事業内容とする会社。本件新株及び新株予約権の割当予定先として、債務者との間で資本提携の基本合意をした後、増資の引受けに合意しました。

対立のきっかけ

事態の発端は、債権者(創業者)が令和6年5月9日の取締役会において、自己の保有株式の大半(発行済株式の約33%)を市場価格の1.5倍の価格でc社に譲渡する意向を表明したことでした。この表明は、直前まで他の役員には知らされておらず、取締役会においても譲渡先等の詳細な説明はありませんでした。これを受けた取締役会は、債権者を代表取締役から解職し、後任にBを選定しました。

定時株主総会の流会

令和6年6月28日に開催された定時株主総会では、債権者と議長を務めた代表取締役Bとの間で議事進行をめぐる対立が生じました。その結果、いかなる議案についても採決がされないまま、継続会とする会社提案を債権者自身が反対して否決したことにより、流会となりました。これにより、Bら取締役は任期が満了し、後任が選任されなかったため、取締役権利義務者となりました。

本件新株等発行の決議

その後、債務者は、令和6年7月26日の取締役会において、a社を割当先とする次の第三者割当増資を決議しました。

 本件新株発行本件新株予約権発行
発行数普通株式76万6300株新株予約権1万2013個
払込期日令和6年8月13日令和6年8月13日
調達資金約2億4300万円約4億3343万円
割当方法第三者割当て第三者割当て
割当先a社a社

本件新株発行により、債権者の持株(議決権)比率は35.36%から29.92%に低下し、単独で特別決議を阻止できる地位(3分の1超の議決権)を失うこととなります。さらに、新株予約権が全て行使された場合には、持株比率は24.10%まで低下し、a社が債権者に代わって筆頭株主となります。

なお、債務者は、本件新株等発行に先立ち、令和6年7月11日の取締役会において、外部弁護士・公認会計士及び社外取締役3名からなる特別委員会(以下「本件特別委員会」)を設置し、「特別委員会の意見の内容にかかわらずその意見に従って結論を下す」旨を決議していました。本件特別委員会は、令和6年7月26日、本件新株等発行の必要性・相当性を認める意見書を提出しました。

債権者は、令和6年7月29日、本件新株等発行は現経営陣の経営支配権維持を主要目的とするものであって著しく不公正な方法によるものであると主張して、差止めの仮処分命令申立てをしました。

本件の争点

本件の争点は以下のとおりです。

 争点債権者(申立人)の主張債務者(相手方)の主張
争点①被保全権利の有無(本件新株等発行の方法が著しく不公正といえるか)本件は経営支配権をめぐる争いがあり、本件新株等発行は経営支配権維持を主要目的とする著しく不公正な発行に当たる。また、定時株主総会における不公正な議事運営がなければ取締役権利義務者の権限は失われており、その状態を前提とする本件取締役会決議に基づく新株等発行は著しく不公正である。本件新株等発行は、深刻な財務状況を踏まえた資金調達を主要目的とするものであり、著しく不公正な発行には当たらない。特別委員会の意見も踏まえており、手続的公正性も確保されている。

裁判所の判断

法的枠組み(主要目的ルール)

裁判所は、まず、会社法210条2号及び247条2号に規定する「著しく不公正な方法による」の意義について、次のとおり解釈を示しました。

「著しく不公正な方法による」とは、不当な目的を達成する手段として新株発行又は新株予約権発行が利用される場合をいうものと解される。そして、当該株式会社において、その経営者と既存の株主との間に経営支配権についての争いがあり、既存の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株又は新株予約権の発行がされ、それが第三者に割り当てられる場合に、当該新株発行又は新株予約権が既存の株主の持株比率を低下させ、経営者の経営支配権を維持することを主要な目的としてされるものであるときは、当該新株発行又は新株予約権は、不当な目的を達成するための手段として利用される場合に当たるというべきである。

これは、従来の裁判例が積み重ねてきた「主要目的ルール」と呼ばれる判断枠組みです。

経営支配権をめぐる対立の有無

裁判所は、本件において双方が典型的な意味での経営支配権の奪い合いをしているとはいえないと認定しました。Bら取締役権利義務者らは、自らを取締役候補者としておらず、自ら経営支配権を維持することを意図していたとは認められません。また、債権者は、自己の持株の大半を第三者に譲渡することを事実上決定しており、経営に復帰して会社支配を取り戻すことを企図していたとも認められません。

その上で、裁判所は次のとおり判断しました。

債権者と債務者取締役権利義務者らは、典型的な意味で経営支配権を奪い合う関係にあるとはいえないが、より広い意味では、債務者の経営支配権をめぐって対立関係にあると認めることができる。

この点は、本決定の特徴のひとつです。双方が自ら会社を支配しようとはしていないという事情があるにもかかわらず、裁判所は、誰を次の取締役とすべきかについて激しい対立があり、本件新株等発行の差止めの可否がその帰趨に重大な影響を及ぼし得ることを重視して、経営支配権をめぐる争いが存在するものとして主要目的ルールに従い判断しました。

本件新株等発行の主要目的(資金調達の必要性・緊急性・合理性)

裁判所は、債務者の財務状況について、次のとおり具体的に認定しました。

認定事実内容
連続損失第21期(令和4年3月期)から3期連続で営業損失・経常損失・当期純損失を計上
債務超過令和6年6月末時点で約5700万円の債務超過に転落
GCノート継続企業の前提に関する重要な疑義(いわゆるGCノート)が令和6年3月期末の決算短信・有価証券報告書に付され、独立監査法人も重要な不確実性を指摘
将来見通し令和7年3月末時点には1億円超の債務超過となる可能性が高い

そして、裁判所は、債務超過が解消されない場合の影響として、①金融機関からの借入金について期限の利益を喪失する事由となり得ること、②取引先大企業から契約を解除される可能性があること、③上場基準に抵触すること、④人材確保にも問題が生じることを挙げ、決算短信の適時開示(令和6年8月14日)前に増資を実行する「切迫性・緊急性」があるとの判断を示しました。また、次のとおり、手元流動性の有無のみによって増資の切迫性を否定することはできないと述べています。

債務者における問題は資金繰りではなく債務超過自体であり、収益性が継続的に不足している小規模な上場会社である債務者において信用の問題は軽視できないから、増資等の手段により可能な限り早期に債務超過の状態を解消することは取締役の善管注意義務の内容というべきであって、債務者の手元流動性に問題がないからといって増資の切迫性がないとはいえない。倒産寸前の状態に至るまで増資の切迫性が認められないわけではないから、債権者の上記主張は採用することができない。

また、裁判所は、資金使途、調達規模、第三者割当という方法の選択、割当先の合理性についても、以下のとおりいずれも不合理とはいえないと評価しました。

事項裁判所の判断(要旨)
資金使途「本件新株等発行による資金の使途は、主力のサービスにおける品質改善・AIプロダクトへの投資、人材採用・組織再整備とされており、不合理とはいえない。」
調達規模「債権者自身、令和6年5月9日の時点において、6億円規模の増資をする必要がある旨述べていることに照らしても、本件新株等発行に係る資金調達の規模については、合理性があるといえる。」
第三者割当という方法「上場会社としては規模が小さく、財務に問題がある債務者にとって公募増資によることは現実的ではない。また、株主割当増資やライツプラン等は増資の金額に確実性が欠けることから、第三者割当増資を選択したことが不合理であるとはいえない。」
割当先の合理性「従前の候補先のうち、同年8月14日より前に必要な資金規模の増資に応じてくれる者がa社であったものであり、引受先が小規模な会社であるなどの事情があるからといって、a社に対して新株を発行することが資本強化の目的に照らして不合理というわけではない。」

さらに、特別委員会の設置・検討プロセスについて、裁判所は次のように述べました。

債務者取締役権利義務者らは、特別委員会の意見の内容にかかわらずその意見に従って結論を下すことを前提として、本件特別委員会を設置したところ、本件特別委員会においては、本件新株等発行の必要性及び相当性を認める旨の意見が出されている。なお、本件特別委員会の構成員や検討経過等について、公正性を否定すべき事情はうかがわれない。

これらを総合して、裁判所は、本件新株等発行は資金調達を主要な目的とするものであり、経営支配権の維持を主要な目的とするものではないと認定しました。

定時株主総会の議事運営について

債権者は、定時株主総会における議長(B)の議事運営が著しく不公正であったとして、❶その議事運営から経営支配権維持の意図が推認される、❷公正な議事運営がなされていれば取締役権利義務者らの権限は消滅し本件取締役会決議もできなかった、と主張しました。

裁判所は、Bの対応次第では修正動議が可決され、本件取締役会の決議もできなかった可能性があることを一定程度認めつつも、次のとおり述べました。

修正動議を可決できていた可能性があることをもって、直ちに本件新株等発行が著しく不公正な方法により行われるものであるとはいえず、本件新株等発行に至る経緯その他の事情と総合して検討する必要がある。

そして、裁判所は、本件株主総会に至る経緯として次のとおり認定した上で、議事運営の問題点を踏まえても差止めは認められないと評価しました。

本件において、債権者が債務者の代表取締役から解職されて債務者取締役権利義務者らと対立関係を生じたのは、債権者が、自らも構成員として入った取締役会において繰り返し資金調達等に関して検討してきた上記の流れから外れて、令和6年5月9日の取締役会の数日前に突如として、自己の保有株式の大半(公開買付規制にかからない発行済株式の約33%)を市場価格の1.5倍で(コントロールプレミアムを他の株主と分かち合うことなく)同取締役会の6日後に譲渡すると言い出し、同取締役会においてその譲渡先等について十分な説明をしなかったことを主な原因とするものであり、その経緯からは、債権者において、代表取締役として株主共同の利益を追求する責任を果たすことよりも、持株の大半を高値で売却することを優先したと評価されてもやむを得ない。こうした経緯等も併せ考慮すると、債権者の上記主張に係る本件定時株主総会の議事運営の問題点を踏まえても、本件新株等発行が著しく不公正な方法によるものに当たるということはできない。

結論

裁判所は、以上の諸事情を総合的に検討した結果、次のとおり結論づけました。

本件新株等発行は、資金調達を主要な目的とするものであることが認められ、債権者の持株比率を低下させることで債務者取締役権利義務者らが自ら又はその推薦する経営陣の経営支配権を維持することを主要な目的としてされるものであるとは認められない。

これにより、被保全権利(差止請求権)の疎明がないとして、申立ては却下されました。

コメント

1 本決定の位置づけ

本決定は、第三者割当増資の差止めの可否を主要目的ルールの枠組みで判断したものであり、判断枠組み自体は従来の裁判例の延長にあります。しかし、株主総会の流会や取締役権利義務者による決議など特殊な事実関係のもとで、主要目的ルールの各考慮要素がどのように評価されるかを具体的に示した点で、企業法務の実務家にとって参照価値の高い決定です。以下では、本決定から読み取れる実務上のポイントを整理します。

2 「典型的な」経営支配権争いがない場面にも主要目的ルールを適用

主要目的ルールが問題となる典型的な事案では、現経営陣と敵対的買収者、あるいは経営陣と反対派株主が、それぞれ「自分が会社を支配したい」という明確な意思を持って対峙しています。しかし、本件では、取締役権利義務者らは自らを取締役候補者にすらしておらず、債権者(筆頭株主)もまた持株の大半を第三者に売却する意向を固めていたため、双方とも自ら経営権を握ろうとしていたわけではありません。

この点について、裁判所は、双方が典型的な意味で支配権を争っているとはいえないことを認めつつ、次の取締役に誰を据えるかという点をめぐって激しい利害対立が存在し、本件新株等発行の差止めの帰趨がその対立の結果を事実上決することになるという構造に着目しました。そのうえで、「より広い意味では経営支配権をめぐる対立がある」と認定し、主要目的ルールに基づく慎重な審査に進んでいます。

この判断は、経営支配権をめぐる争いの有無を広くとらえ、主要目的ルールを適用する場面を広げる可能性を示すものとも評価することができます。第三者割当増資を検討する企業にとっては、経営陣と大株主の間に「典型的な支配権争い」がなくても、取締役の選解任をめぐる利害対立が存在する局面では、主要目的ルールによる司法審査の対象となり得ることに留意する必要があります。。増資の検討にあたっては、大株主との間に取締役人事等をめぐる対立がないかを確認し、対立がある場合には、増資の目的・必要性を客観的な資料で十分に説明できる状態を整えておくことが望まれます。

3 財務危機下での第三者割当増資と「緊急性・切迫性」

本決定は、増資の必要性・緊急性の判断において、債務超過の事実それ自体に加え、上場会社としての信用維持の観点(金融機関との関係、取引先との関係、上場維持基準、人材確保)を幅広く考慮しています。

また、「倒産寸前の状態に至るまで増資の切迫性が認められないわけではない」として、手元流動性に問題がなくても増資の緊急性が認められ得ることを明確に示した点は、実務上重要な指摘です。上場会社が財務状況の悪化を背景に第三者割当増資を行う場合、増資の必要性・緊急性を客観的な資料で説明できるよう準備しておくことが求められます。

なお、この点に関連し、東京証券取引所の有価証券上場規程では、希薄化割合が25%以上(または支配株主が異動する)第三者割当増資について、原則として独立した第三者機関からの意見入手や、株主への通知・確認手続を求めています。

4 特別委員会の実効性の確保

本決定は、取締役会が「特別委員会の意見の内容にかかわらずその意見に従って結論を下すことを前提として」特別委員会を設置したこと、及び特別委員会の構成員・検討経過に公正性を否定すべき事情がないことを、本件新株等発行の手続の公正性を裏付ける重要な事情として評価しています。

第三者割当増資において利益相反のおそれがある場合、特別委員会の設置は手続の公正性を担保するための有力な手段です。本決定を踏まえると、特別委員会を設置するだけでは足りず、①外部専門家(弁護士・公認会計士)及び社外取締役で構成すること、②設置・検討のプロセスが適切であること、③委員会の意見に取締役会が拘束される旨を事前に決議すること、といった点まで整えることが求められます。

5 株主総会の運営と議事進行の備え

本決定は、定時株主総会の流会が本件新株等発行の著しく不公正性の根拠となり得るかについても詳細に検討し、最終的にはこれを否定しました。その主要な理由のひとつは、継続会の否決という結果を招いたのは債権者自身の反対によるものであって、経営陣の恣意によるものとは評価されなかったことです。

この点は、株主総会の議事運営のあり方について重要な示唆を与えています。会社(経営陣)が株主総会における議事運営について恣意的な行動をとったと疑われると、その後の取締役会決議の正当性が問われるリスクがあります。対立株主が存在する株主総会を迎える場合には、議事進行の適正性(議長の公正な進行・採決手続の適正性・時間管理・会場手配等)について、事前に弁護士等の専門家と連携して十分に備えておくことが重要です。

6 本決定から導き出される企業の対応

本件のような事態(財務危機と経営権をめぐる対立が重なる状況)は、特定の企業に限らず、上場会社一般にとって他人事ではありません。本決定を踏まえ、企業の実務担当者としては、以下の点に留意することが有益です。

確認事項内容
増資の必要性・緊急性の説明資料の整備財務状況の悪化が見込まれる局面では、増資の必要性を裏付ける資料(財務分析・取締役会議事録等)を早期から整備しておくことが有用です。
特別委員会の実効的な設置利益相反のおそれがある第三者割当増資においては、委員会の構成・権限・手続に十分な配慮が必要です。単なる形式的な設置では手続の公正性が否定されるリスクがあります。
株主総会の適正な議事運営対立株主が存在する場合の株主総会は、議事進行の適正性について事前に弁護士と確認し、記録を残しておくことが重要です。
支配株式の移転に伴う法的問題の事前確認大株主が保有株式を第三者に売却する場合には、公開買付規制・株主共同の利益への配慮・取締役会への情報提供義務など、関連する法的問題を事前に弁護士に相談することが求められます。

第三者割当増資の検討・実施に際しては、法的な適法性確保にとどまらず、手続の公正性・透明性を高める取組みを早期から弁護士等の専門家と協議を重ね進めることが大切です。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。