はじめに
SNSを通じて18歳未満の女子に性的目的で接触する行為を繰り返し、保護観察中の遵守事項に複数回違反した元少年(申請当時21歳)について、家庭裁判所が施設送致申請を認容し、第1種少年院への送致を命じた事案があります。
金沢家庭裁判所令和5年3月9日決定(令和5年(少ハ)第400001号、施設送致申請事件)は、令和3年の少年法改正以前に保護観察に付されていた元少年に対し、改正法施行後に一般遵守事項違反(同種再犯)を理由とする施設送致申請がなされた事案です。
家庭裁判所は、申請を認容し、本人を第1種少年院に送致するとともに、少年法26条の4第2項の規定に従い、本人が23歳を超えない範囲内で収容期間を定めました。20歳以上の元少年が施設送致申請の対象となった事案は全国的にも例が少なく、令和3年の少年法改正後の制度的な位置づけを考える上でも参考となる先例です。
今回のコラムでは、上記金沢家裁決定の内容をわかりやすく解説するとともに、保護観察制度の実務や少年法改正との関係における本件の意義について解説いたします。
事案の概要
本件の本人(以下「本人」という。)は、令和2年、SNSを通じて知り合った18歳未満の女子に対し、18歳未満の青少年であると知りながらわいせつな行為をしたという条例違反の非行(以下「前件非行」という。)により、令和3年、家庭裁判所から保護観察決定を受けました。
保護観察の開始にあたり、本人は、「再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること」という一般遵守事項のほか、就職・就労に関する特別遵守事項および未成年とSNSをしない旨の生活行動指針の内容について説明を受け、違反した場合には少年院収容の可能性がある旨もあわせて告知されていました。
しかし、本人は、保護観察下に入った後も18歳未満の女子に対してSNSを通じた性的目的の接触行為をやめず、保護観察所長から2回の警告を受けました。しかし、2回目の警告を受けた約10日後にも同種の行為を行ったため、保護観察所長から家庭裁判所に施設送致が申請されました。本人は、申請当時21歳(20歳以上)でした。
本件の争点
本件の争点は以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 遵守事項違反の程度が重いといえるか(更生保護法67条2項・少年法26条の4第1項の要件) |
| 争点② | 保護観察によっては本人の改善更正を図ることができないといえるか(少年法26条の4第1項の要件) |
裁判所の判断
施設送致申請の制度的な仕組み
施設送致申請(更生保護法67条2項・少年法26条の4第1項)は、保護処分として保護観察に付された者が遵守事項に違反した場合に、保護観察の実効性を確保するための手続きです。平成19年の少年法改正によって導入されたもので、①保護観察所長が対象者に警告を発し、②それでもなお遵守事項違反が続き、その程度が重いと認めるときは家庭裁判所に申請を行います。家庭裁判所は、③保護観察によっては本人の改善更正を図ることができないと判断した場合に、少年法24条1項2号または3号の保護処分(少年院送致等)に付すことができます。
争点①:遵守事項違反の程度が重いか
裁判所は、遵守事項違反の程度が重いかどうかについて、以下のとおり認定しました。
本人が、前件非行の原因となった行為と同種の、SNSを通じた性的目的での未成年者の誘い出し行為を、本件行為以外にも繰り返し行い、今回の警告が2回目の警告であったこと、本件行為は2回目の警告のわずか10日程度後になされたこと等上記1の経過に照らして、その違反の程度は重いと認められる。
遵守事項違反の程度が重いかどうかの判断においては、違反の内容(遵守事項違反を理由とする少年院送致等の措置が妥当な内容かどうか)、違反の態様(違反の継続性・原因・社会的危険性)、指導の内容とそれへの対応状況などが総合的に考慮されます。本件では、前件非行と同種の違反行為が繰り返され、2回の警告を経ても行動が改まらなかった点が、この要件を充足する主な根拠となりました。
争点②:保護観察によって改善更正を図ることができないか
裁判所は、本人の問題性について具体的に分析した上で、保護観察による対応の限界を認定しました。
まず、本人の問題性について、裁判所は次のように認定しました。
本人には、未成年者の女子に対して性的欲求を即物的に満たそうとして連絡を取ったり、会いに行こうとしたりする統制の悪さと、保護観察等の指導を受け流し、抑止が働かないという問題性がある。これは、本人の知的能力にやや制約があることに加え、家庭で以前から父から体罰も伴うような厳しい指導を受けてきた中で、恐怖心が先立つと、従順若しくは受け身的な態度を示して指導をやり過ごす構えを身に着けているためとみられる。
さらに、裁判所は、本人にとって本件行為と同種の行為は「もはや嗜癖化しており、このままでは、同種再非行のおそれは著しく高い」とした上で、保護観察の限界について次のように判断しました。
そうすると、本人の改善更正を図るため、すなわち、既に嗜癖化した本件行為と同種の行為を繰り返させず、また他の性的犯罪に発展させないためには、保護観察ではこれを実現することができず、より強力な枠組みでの指導が必要であり、具体的には、少年の知的能力や思考の癖を踏まえたきめ細かな矯正教育を受けさせるのが相当であって、少年を少年院に収容し、専門家による適切な指導の下、内省を深めさせ、自身の問題性に向き合わせる必要があると認められる。そして、本人の理解の程度を確認しながら、本人が指導を受け流さず自身の問題に向き合うように動機付けを図っていくところから始める必要があること、具体的に考え方を示すなどして本人自身が主体的に考え、遵守事項違反を抑止する現実的な方策を立てて身に付けさせて行く必要があることを踏まえると、処遇には相応の期間を要すると考えられる。
なお、本人は、身柄拘束後に徐々に反省の意識を示し、「暇な時間をなくす」「携帯を毎回見せる」「注意事項を紙に書いて壁に貼る」などの具体的な抑止策を述べていました。しかし、裁判所は、こうした抑止策がいずれも外的統制に偏っており、自身の内面の問題への気づきには至っていないと評価しました。また、保護者による監督についても、本人の問題性を考えれば十分な指導が期待しがたいと指摘しています。
コメント
1 本決定の意義——20歳以上の元少年への施設送致申請と令和3年改正との関係
本決定が注目される点の一つは、申請当時に20歳以上であった元少年が、施設送致申請の対象となり、少年院送致が命じられた点にあります。
令和3年の少年法改正により、18歳・19歳の「特定少年」が保護観察中に遵守事項違反をした場合には、施設送致申請ではなく、あらかじめ収容期間を定める「収容決定申請」(少年法66条、更生保護法68条の2)の手続きが新設されました。しかし、本件のように、改正前の少年法24条1項1号に基づいて保護観察に付された者については、その後に特定少年またはそれ以上の年齢になっていたとしても、従来どおり施設送致申請事件の手続きが適用されます。
令和3年改正によって特定少年制度が新設されたからといって、改正前の規定に基づく保護処分を受けた者への施設送致申請がなくなるわけではありません。本件は、この点を実務的に確認した先例として意義があります。
2 行動の「嗜癖化」と保護観察の限界——本決定が示した判断枠組み
本決定は、遵守事項違反の態様として、違反行為が繰り返されるだけでなく、本人の問題行動が「嗜癖化」していると認定した上で、保護観察による改善には限界があると判断しました。
この判断は、保護観察の実効性に関する重要な視点を示しています。遵守事項違反が繰り返される背景に、違反を抑止する内発的な動機や自己認識の問題がある場合には、外的統制(警告・指導)だけでは行動の変容は期待しがたく、専門的な矯正教育による内省の促進が必要であるとしたものです。
保護観察中の方やその家族にとって、保護観察所からの警告や指導を形式的に受けるだけでは十分ではなく、問題行動の根本にある自身の課題に向き合うことが、こうした申請を未然に防ぐ上で重要なポイントとなります。
3 SNSと未成年者被害——背景にある社会的な状況
本件は、SNSを利用した未成年者への性的接触という行為類型に関わる事案でもあります。警察庁は、SNSに起因する子どもへの性的被害について毎年統計を公表しており、被害件数は依然として高水準で推移しています。
警察庁「令和5年におけるSNSに起因する事犯の被害児童の現状と対策について」
https://www.npa.go.jp/cyber/statics/r5/sns-higai.html※ URLは公表時の情報をもとに記載しています。最新の統計は警察庁ウェブサイト(https://www.npa.go.jp/)からご確認ください。
こうした状況の中で、SNSを事業として運営する企業には、年齢確認機能の充実や不審なメッセージの検知・通報の仕組みなど、未成年者保護のための技術的・運用的な対策を継続的に検討することが求められています。
4 保護観察中や遵守事項違反に関わる方へ
保護観察中に遵守事項違反が問題となる場合、手続きの流れは次のとおりです。
- ①保護観察所長による警告
- ②それでも違反が継続し、その程度が重いと認められる場合 → 家庭裁判所に施設送致申請
- ③家庭裁判所が保護観察では改善更正を図ることができないと判断 → 少年院等への送致決定
本件では、2回目の警告からわずか10日という短期間で申請に至りました。一度でも警告を受けた段階で、その後の対応が非常に重要になります。
また、本件のように、知的能力の制約や家庭環境といった背景事情が問題行動に影響している場合には、そうした事情を家庭裁判所に適切に伝え、審判に向けた準備を整えることが、審判の結論に影響することがあります。
警告を受けた後の段階、あるいは施設送致申請がなされた後の段階であっても、弁護士に相談することで、手続きの流れや本人・家族としてとり得る対応について、具体的なアドバイスを受けることが可能です。遵守事項違反に関わる問題に直面している場合は、早期にご相談ください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁判所 | 金沢家庭裁判所 |
| 決定日 | 令和5年3月9日 |
| 事件番号 | 令和5年(少ハ)第400001号 |
| 事件種別 | 施設送致申請事件 |
| 裁判結果 | 認容(第1種少年院送致)、確定 |
| 参照条文 | 少年法26条の4第1項・2項、24条1項3号、更生保護法67条2項 |
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

