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株主総会に弁護士を代理人として出席させることができるか?(東京地裁令和3年11月25日判決)

非公開会社における弁護士の議決権代理行使と定款規定の効力

――東京地方裁判所令和3年11月25日判決

「代理人は当会社の株主に限る」という定款規定は、多くの非公開会社で採用されている一般的な条項です。この規定は、株主総会に外部の第三者が関与して議事を混乱させることを防止する趣旨から、実務上広く定着しています。

もっとも、株主が病気や高齢などの事情で自ら総会に出席することが困難であり、かつ、会社内の他の株主と対立関係にある場合には、この規定を形式的に適用することで、当該株主が実質的に議決権行使の機会を奪われてしまうという問題が生じます。このような状況において、弁護士を代理人として委任することも認められないのでしょうか。

東京地裁令和3年11月25日判決は、まさにこの問題について一定の解釈規範を示し、非公開会社による弁護士の代理出席拒否を違法と判断した裁判例です。

今回のコラムでは、上記東京地裁判決について、概要を紹介いたします。

 

事案の概要

被告会社は、建築金物の製造販売等を目的とする非公開会社(取締役会設置会社・監査役設置会社)であり、発行済株式総数は394万8000株でした。株主は、原告を含む計7名(原告、原告の兄弟2名、取引関係者3名、従業員持株会)で構成されていました。

被告会社の定款には、「株主は、代理人により議決権を行使することができる。但し、代理人は当会社の株主1名に限る」(以下「本件規定」)という定めがありました。

原告は被告会社の元代表取締役社長(昭和23年生まれ)でしたが、令和2年6月時点では取締役を辞任しており、うつ病(重いうつ症状、判断力・思考力の低下等)および過活動膀胱に罹患していました。また、被告会社の経営方針について、他の株主と意見を異にしており、原告と意見を共にする株主は存在しない状況にありました。

令和2年6月11日、被告会社は定時株主総会(本件総会、同月25日開催)の招集通知を発しました。これに対し、原告の代理人である弁護士(杉村弁護士)は、令和2年6月17日付け書面で、①原告は持病等のため出席が困難であること、②他の株主と意見が対立していること、③過去の株主総会(平成31年3月22日開催)においても杉村弁護士が原告の代理人として出席して議事が滞りなく終了した実績があること等を理由に、本件総会への代理出席を認めるよう要請しました。さらに同月23日には、原告作成の委任状、うつ病の診断書および過活動膀胱の診断書を送付して、改めて代理出席を求めました。

これに対し被告会社は、総会前日(同月24日)になって、本件規定があるとして杉村弁護士の代理出席を認めない旨を回答し、代替案として他の株主が自家用車で原告を送迎することを提案するにとどまりました。

令和2年6月25日、原告本人も杉村弁護士も出席しないまま本件総会が開催され、各議案が満場一致で可決されました(本件各決議)。

原告は、弁護士による議決権の代理行使を拒否したことが決議方法の法令違反にあたるとして、会社法831条1項1号に基づき本件各決議の取消しを求める訴訟を提起しました。

 

争点

本件では、被告会社が本件総会において本件各決議を行うに当たり、原告の代理人(弁護士)による議決権の行使を認めなかったことが、決議の方法の法令または定款違反にあたるか、が争点となりました。

原告の主張は、①持病等のため自ら出席することが困難であり、②被告会社の株主の中に意見を同じくする者がいないため他の株主を代理人に選任できない状況にあり、③代理人となる弁護士は株主総会を攪乱するおそれがなかったのであるから、本件規定のみを根拠として弁護士による議決権代理行使を拒否することは許されない、というものでした。

被告会社の主張は、①原告本人の出席や株主の中から代理人を選任することが不可能ではなかった、②杉村弁護士は原告の長男の指示に基づいて代理人活動を行っていたため、原告の長男が実質的に被告会社の経営に関与することになり、株主総会が攪乱されるおそれがあった、というものでした。

 

裁判所の判断

裁判所は、以下のとおり判示し、原告の請求を認容し、本件各決議を取り消しました。

会社法310条1項

裁判所は、会社法310条1項が代理人による議決権行使の合理的・相当な範囲での制限まで禁止したものではないとする最高裁の立場(最高裁昭和43年11月1日第二小法廷判決・民集22巻12号2402頁)を確認した上で、代理人資格を株主に限定する定款規定の趣旨について次のとおり判示しました。

「株式会社が定款をもって株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該株式会社の株主に限る旨を定めた場合,その定款の定めは,株式会社の利益ひいては株主の共同の利益を保護する趣旨から,株主総会が株主以外の第三者により攪乱され株式会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されるおそれがあるようなときに,その定款の定めを理由に株主が当該第三者に議決権の代理行使をさせることを拒否することができることとする趣旨のものと解すべきである。」

弁護士が代理人となる場合の判断

裁判所は、弁護士が代理人となる場合の性質について、善管注意義務・弁護士倫理(懲戒制度を含む)等の職業的規律により、依頼人である株主の意図に反する行動をとることは通常想定されないことを指摘しました。また、非公開会社においては株主間で信頼関係が損なわれる場面があり得ることを踏まえ、以下のとおり結論を示しました。

「非公開会社が定款をもって株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該非公開会社の株主に限る旨を定めた場合においても,株主が,当該非公開会社に対し,その代理人として弁護士を出席させ,当該弁護士に議決権を代理行使させる旨をあらかじめ申し出たときは,当該非公開会社が,その定款の定めを理由に,当該株主がその代理人として弁護士を出席させ,当該弁護士に議決権を代理行使させることを拒否することは,株主総会が当該弁護士により攪乱され当該非公開会社の株主の共同の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情のない限り,会社法310条1項に違反するというべきである。」

本件への当てはめ

裁判所は、本件の具体的事情として以下の点を重視しました。

・原告は本件総会の約1週間前に、うつ病・過活動膀胱の診断書を添えて弁護士による代理出席を事前に申し出ていたこと

・平成31年3月の臨時株主総会では同じ杉村弁護士の代理出席が認められ、議案に対する質問・反対意見を述べたものの、議事進行の混乱は生じなかったこと

・令和元年6月の定時株主総会では本件規定のみを理由として出席が拒否され、その総会において原告に対する退職慰労金贈呈の件が否決されていること

・被告会社が提案した自動車による送迎は、うつ病による判断能力の低下等や過活動膀胱という原告の病状に照らして「的確に対応して原告自身の出席を可能とするものであったとはいえない」こと

以上を総合し、裁判所は次のとおり判示しました。

「被告において,原告がその代理人として杉村弁護士を出席させ,杉村弁護士に議決権を代理行使させることを許容した場合に,杉村弁護士が専ら原告の長男らの意向に基づいた言動に及ぶなどして本件総会を攪乱させ被告の株主の共同の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情があったとはいえない」

その結果、本件各決議は決議の方法が法令に違反するとして取り消されました。

 

本判決の意義

議決権代理行使制限規定をめぐる従来の議論

議決権行使の代理人資格を株主に限定する旨の定款規定の有効性については、最高裁昭和43年11月1日第二小法廷判決(民集22巻12号2402頁。以下「昭和43年最判」という。)が、株主総会が株主以外の第三者により攪乱されることを防止するという合理的な理由に基づく相当程度の制限として、これを有効と判示しています。

一方で、この定款規定の適用が問題となるのは、株主自身が総会に出席できない事情がある場合や、株主間で利害が対立しており他の株主を代理人に選任できない場合です。このような場面において、株主以外の第三者、とりわけ弁護士に議決権の代理行使を委任することが許容されるかという問題は、下級審裁判例においても結論が分かれてきた論点です。

弁護士を代理人とする議決権行使の拒否の可否について、下級審裁判例は以下のように分かれていました。

結論裁判所・年月日出典
拒否を適法東京地判昭57.1.26金判650号33頁
拒否を適法宮崎地判平14.4.25金判1159号43頁
拒否を適法東京高判平22.11.24判例秘書
拒否を適法名古屋地判平28.9.30金判1509号38頁
拒否を違法神戸地尼崎支判平12.3.28判タ1028号288頁
拒否を違法札幌高判令元.7.12金判1598号30頁

判断枠組み

最高裁昭和51年12月24日第二小法廷判決(最二小判昭51.12.24民集30巻11号1076頁以下「昭和51年最判)は、株主である地方公共団体や株式会社の職員・従業員が代理人として議決権を行使する場合について、当該職員等は上司の命令に服する立場にあり株主の意図に反する行動をとることができないことを根拠に、定款の制限規定が及ばないと判断しています。

本判決は、この昭和51年最判の判断枠組みを弁護士のケースに敷衍したものと評価することができます。すなわち、弁護士には、法律上の資格要件・善管注意義務・弁護士倫理(懲戒制度を含む)という職業的規律が備わっており、依頼人である株主の意図に反する行動をとることは通常想定し難いことを根拠としています。これにより、定款上の代理人資格制限規定の効力が及ばない場面を明確にした点が、本判決の特徴です。

「事前申出」の重要性

なお、本判決が示した解釈枠組みにおいては、「株主があらかじめ申し出る」ことが判断の重要な前提となっていると考えられます。事前の申出があることで、会社は「特段の事情」(株主総会が攪乱されるおそれ等)の有無を事前に検討する機会を得ることになります。言い換えれば、株主から事前の申出を受けた会社が、合理的な根拠なく定款規定のみを盾に拒否することは、会社法310条1項に反するというのが本判決の立場と言えます。

もっとも、本判決は、非公開会社において弁護士が株主から委任を受けて議決権を代理行使する場面に関する判断であり、公開会社における同種の問題や、弁護士以外の専門職(税理士、司法書士等)が代理人となる場合にも同様の判断が妥当するかについては、判示されていません。これらの点については、今後の裁判例の展開に注目する必要があります。なお、本判決の控訴審である東京高裁令和4年6月22日判決(公刊物未登載)も、原審の判断を維持しています。

実務上の留意点

本判決を踏まえ、非公開会社の株主総会実務においては、以下の3点に留意することが重要と考えられます。

①弁護士からの代理出席申出には慎重な個別判断を
株主から弁護士を代理人とする旨の事前の申出があった場合、定款規定のみを根拠として一律に拒否することは会社法310条1項違反のリスクがあります。拒否するためには「株主総会が当該弁護士により攪乱されるおそれ」等の特段の事情の有無を具体的に検討することが求められます。

②代替手段の提案は株主の実情に即した内容とする
株主の出席が困難な場合に代替手段を提案する際には、当該株主の実際の状況(病気の内容や程度等)に照らして実現可能かどうかを十分に検討することが求められます。形式的な提案では「特段の事情」の不存在を否定する材料とはならない可能性がある点に留意する必要があります。

③事前の申出への迅速・誠実な対応
株主から弁護士による代理出席の申出があった場合、特段の事情の有無について遅滞なく検討し、適切な時期に対応することが必要です。本件においては、事前の申出があったにもかかわらず前日まで対応が先延ばしにされたことが問題の一因となりました。

非公開会社において代理人資格を制限する定款規定は引き続き有効ですが、その運用にあたっては、株主の実質的な議決権行使の機会を確保する観点から、個別の事情に即した柔軟な対応が求められます。


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