インターネット記事の「時の経過」による公共性喪失と名誉権保護
――名古屋地方裁判所令和6年8月8日判決
インターネット上に一度投稿された記事は、意図的に削除しない限り、半永久的に誰でも閲覧・検索できる状態が続きます。かつて報道されたネガティブな情報が何年・何十年も検索結果に表示され続け、社会復帰しようとする人の前に立ちはだかるという問題は、今日の社会における深刻な課題の一つです。
このような問題に関し、名古屋地方裁判所は令和6年8月8日、投稿から11年以上が経過したブログ記事について、「掲載当初は公正な論評として適法であったとしても、口頭弁論終結時点においてはもはや公共の利害に関する事項に係るものとはいえない」として、原告の削除請求を認容する判決を下しました。
今回のコラムでは、インターネット上の情報と名誉権保護の関係を考える上で重要な指針を示した上記判決を紹介いたします。
事案の概要
当事者
原告:ある会社(以下「本件会社」)の代表取締役
被告:ブログサービス「Blogger」の運営会社(Googleグループ)
経緯
平成25年4月、被告の運営するBloggerに、匿名の第三者によって以下のような内容のブログ記事(以下「本件記事」)が投稿されました。本件会社が「詐欺のように元本保証と高配当により資金調達を行っていたが突然閉鎖したようであり、計画的な倒産の可能性がある」などとするものでした。この記事は当時の新聞報道を根拠としていました。
その後、平成26年12月、原告は出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)違反の罪で懲役2年・5年間執行猶予の有罪判決を受け、同判決は確定しました(受け入れた出資金額は約3310万円)。
原告はその後、執行猶予を取り消されることなく猶予期間を満了し、刑の言渡しは効力を失いました(いわゆる「前科の消滅」に相当する状態)。また、本件記事が引用していた新聞記事もインターネット上で閲覧できない状態となっていました。
本件提訴時点で、本件記事の掲載からすでに11年以上が経過していましたが、原告の氏名を検索エンジンで検索すると本件記事は依然として表示される状態が続いていました。原告は中古パソコン販売事業の起業を目指していましたが、取引先に本件記事を見られて取引を断られるおそれがあるとして、被告に対し本件記事の削除を求めて提訴しました。
争点
本件の主な争点は次の3点です(原告はプライバシー侵害による削除請求も主張しましたが、下記3点で削除が認められたため、裁判所は判断を示しませんでした)。
争点①:本件記事は原告の社会的評価を低下させるか
「詐欺のような」「詐欺の可能性が高い」という記載が、一般の読者に対して原告の社会的評価を低下させるものかどうかが問われました。
争点②:本件記事が「公正な論評」に当たらないことが明白か
名誉権侵害を理由にブログ記事の削除を請求する場合、裁判所は「当該記事が公正な論評に当たらないことが明白」かどうかを判断します。表現の自由への配慮から、記事によって評判が下がるというだけでは削除は認められず、「公正な論評とはいえないことの明白性」が必要とされています。
本件で問題となったのは、掲載から11年以上が経過したことにより、当初は公共性を有していた記事がもはや「公共の利害に関する事項」に係るものとはいえなくなっているか否かという点でした。
被告(ブログ運営会社)は、「本件会社は依然として存続し、原告がその代表取締役である」「本件会社が預かった出資金を返還している途中であれば問題は未解決」などと主張し、記事の公共性は失われていないと争いました。
争点③:原告が著しく回復困難な損害を被るおそれがあるか
削除請求が認められるためには、具体的で重大な被害のおそれが必要です。11年以上前の記事がいまも検索に表示されることが、起業準備中の原告の事業に与える影響が「抽象的な可能性」にとどまるのか、「十分に現実的な」ものかどうかが争われました。
裁判所の判断
判断の枠組み
裁判所はまず、本件記事の削除請求(表現の差止め)が認められる要件として、次の判断枠組みを示しました。
「他人の社会的評価を低下させる意見又は論評の差止めは、当該意見又は論評が公正な論評に当たらないことが明白である場合、すなわち、それが公共の利害に関する事項に係るものでないこと、専ら公益を図る目的に出たものでないこと、又は、その前提としている客観的事実の主要な点が真実でないことが明白であるか、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものであることが明白である場合において、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限って許されると解するのが相当である。」
争点①について(社会的評価の低下)
裁判所は、本件記事が原告の社会的評価を低下させることは「明らかというべき」と認定しました。
「本件記事は、原告が本件会社の代表取締役を務めていることを明記した上で、本件会社の行為について「詐欺のような」、「詐欺の可能性が高い」と言及したものであり、原告が経営する会社が詐欺のような悪性の強い行為をしたとして非難するものであるから、これが、その一般読者に対し、原告の社会的評価を低下させるものであることは、明らかというべきである。」
争点②について(公正な論評でないことの明白性)
裁判所は、以下のとおり、判断しました。
(掲載時点の評価)
裁判所は、有罪判決や新聞報道があった当時の時点では、本件記事は「公正な論評」に当たるものであったと認めました。
「前提事実⑵のとおり、原告が、不特定多数の者から元本を保証するともに配当を支払うことを約して現金を受け入れたことにより有罪判決を受けていること、本件会社が元本保証と高配当をうたって全国から約6億円を集めて事業を停止した旨の新聞報道がされていること(乙15)からすれば、上記事実の主要な点は真実であると認めるべきであり、また、上記の有罪判決や新聞報道の時点においては、上記事実は公衆の正当な関心事として公共の利害に関する事項に当たるものであったというべきであって、本件記事の記載内容自体も、原告に対して人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものとは認められないから、本件記事は公正な論評に当たるものであったというべきである。」
すなわち、①前提事実が真実であること、②有罪判決・新聞報道の時点では公共の利害に関する事項であったこと、③人身攻撃など論評の域を逸脱するものではないこと、の3点から、掲載当初の本件記事は「公正な論評」として適法であったと認定しています。
(口頭弁論終結時点の評価)
しかし、裁判所は、11年以上が経過した口頭弁論終結時点においては、状況が変わっていると判断しました。
「そうすると、本件記事が前提とする本件会社の上記行為に係る事実は、本件の口頭弁論終結日の時点においては、公的な立場にあるわけでもない原告の社会的評価を低下させる意見又は論評である本件記事を今後も長期にわたり掲載し続けることを正当化するに十分な程度に公衆の正当な関心事であるとはいえず、もはや公共の利害に関する事項に係るものとはいえないことが明白であると認めるのが相当である。」
この結論の根拠として、裁判所は次の5つの事情を挙げました。
| 事情 | 内容 | |
|---|---|---|
| ① | 刑の失効 | 有罪判決による刑の言渡しは、執行猶予期間の満了によりすでに効力を失っており、その時点からさらに4年半以上が経過している。 |
| ② | 記事の当初の性質 | 本件記事は「捜査が行われるか注目」などと言及したもので、刑事手続終了後にまで長期にわたって閲覧され続けることを想定して投稿されたものとは認め難い。 |
| ③ | 元報道記事の消滅 | 本件記事が引用した新聞記事もインターネット上で一般的に閲覧できる状態ではなくなっている。 |
| ④ | 継続的な社会的関心の不存在 | 本件会社の行為が判決後も継続的に社会の関心事となっていることをうかがわせる事情がない。 |
| ⑤ | 原告の立場 | 原告は公的な立場にある者ではない。 |
また、被告が主張した「本件会社が依然として存続し原告が代表取締役であること」「出資金返還が途中の可能性」については、本件会社が出資の受入れを継続しているような事情はうかがわれないとして、いずれも判断を左右しないと退けました。
争点③について(回復困難な損害のおそれ)
裁判所は、起業準備中の原告にとって検索結果への表示が続くことによる損害のおそれは、「単なる抽象的な可能性にとどまらず、十分に現実的なもの」であると認定しました。
「これを閲覧した当該関係者が原告との取引等を回避するという事態を生ずることが想定され、結果的に原告が事業等を続けることが困難になるおそれがあるということは、上記の状態が今後も長期にわたり継続することを考慮すると、単なる抽象的な可能性にとどまらず、十分に現実的なものとして考えられるというべきである。」
結論
以上の判断から、裁判所は原告の削除請求を認容し、被告に対してBlogger上の本件記事を削除するよう命じました。
本判決の意義
「時の経過」による公共性の喪失という考え方
本判決の最も重要な点は、掲載当初は適法な「公正な論評」であっても、時間の経過によって公共の利害との関連性が失われれば、削除請求が認められうるという考え方を正面から示した点です。
インターネット上の情報は、意図的に削除しない限り半永久的に閲覧・検索できる状態が続きます。当初は社会的意義のあった情報も時間の経過とともに公共的価値は薄れていく一方、当事者が被る不利益は検索のたびに繰り返されます。本判決は、このような「インターネット上の情報の特性」を正面から認識した上で、名誉権保護の観点から削除請求を認めたものです。
最高裁令和4年判決との比較
インターネット上の投稿削除請求に関しては、最高裁令和4年6月24日判決(Twitter・逮捕事実ツイート削除事件、民集76巻5号1170頁)が先例として重要です。同判決はプライバシー侵害を理由とする削除請求について、①逮捕から約8年経過・刑の失効、②元の報道記事の削除、③速報目的の投稿(長期閲覧を想定しないもの)、④公的立場にない人物、という事情を総合考慮して削除を認容しました。
本判決が注目されるのは、名誉権侵害(意見・論評による)という、最高裁令和4年判決とは法的枠組みの異なる事案において、同判決と同様の考慮要素(刑の失効・元報道の消滅・長期閲覧を想定しない投稿・非公人)を検討し、同じく削除を認めた点です。「時の経過による公共性の喪失」という考え方が、プライバシー侵害だけでなく、名誉権侵害の場面にも及びうることを示したものと評価できます。
実務上の示唆
本判決は、下級審裁判例ではあるものの、実務上、一定の重要な指針となるものと考えます。
【削除を求める側】
過去の報道や投稿による風評被害に苦しんでいる場合でも、一定の時間が経過した後であれば削除請求が認められる可能性があります。特に、①有罪判決であれば刑の執行猶予期間満了後、②元になった報道記事がネット上から消えている場合、③ご自身が公的な立場にない一般人である場合には、削除請求の根拠として有力な事情になり得ます。
「投稿したり、投稿を掲載する側】
掲載当初は適法であった記事でも、時間の経過によって掲載継続が違法となりうることを示しています。ブログ運営者やプラットフォーム事業者は、削除請求を受けた際に「当初は公正な論評だった」という事実だけでは免責されない場合があることを認識しておく必要があります。
本判決は、大量の情報が半永久的にインターネット上に蓄積され続ける現代において、被害者が削除請求という手段でどのように救済を求められるかについて、重要な指針を示した裁判例として注目されます。本コラムが皆様の一助になれば幸いです。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

