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故人の未発表・全集未収録作品を収録した書籍の編集著作物性と編集著作者の認定(知財高裁平成28年1月27日判決)

はじめに

書籍や雑誌の出版物は、素材(収録作品)の選択又は配列に工夫が加えられることで、「編集著作物」として著作権法上の保護を受ける場合があります(著作権法12条1項)。もっとも、編集著作物の著作者は、実際に編集方針を決定し素材の選択・配列について創作的関与を行った者は誰かという観点から、事案ごとに慎重な判断が必要となります。

今回のコラムでは、故人の未発表・全集未収録作品を収録した書籍について、遺族代表者が自らを編集著作者であると主張し、出版社に対して著作権及び著作者人格権侵害に基づく差止め、損害賠償、謝罪広告の掲載等を請求した事案において、知財高裁がいずれも棄却した平成28年1月27日判決(知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10064号)を取り上げます。

本判決は、書籍の編集著作物性の判断方法、編集過程に複数の関係者が関与した場合の編集著作者の特定方法、著作権承継者・編者・出版社の役割整理の在り方等を示した判決であり、出版実務や著作権実務に携わる企業担当者の方にとって参考となる事例です。

事案の概要

控訴人は、私小説作家である故甲Ⅰの長女の子(孫)に当たる人物です。被控訴人は、書籍雑誌の企画・編集・出版等を目的とする株式会社であり、平成24年12月9日、故甲Ⅰの未発表作品及び全集未収録作品合計125編を収録した書籍「ツェッペリン飛行船と黙想」(以下「本件書籍」といいます。)を発行しました。本件書籍には、故甲Ⅰの作品のほか、控訴人が執筆した「解題」、甲Ⅰ略年譜、甲Ⅰ著作目録及び初出一覧が収録されていますが、奥付には「著者 甲Ⅰ」との記載のみがあり、編者に関する記載はありませんでした。

本件書籍は、125編の作品を以下の6項目に分類したうえ、各項目内では冒頭の「ツエペリン飛行船と默想」を除き、初出又は執筆時期に基づく年代順に配列する構成となっていました。

項目分類
創作(詩・小説)
随筆
評論・感想
アンケート
自作関連
観戦記

控訴人は、本件書籍の編集方針、素材の選択及び配列並びに題号の決定を自らが行ったものであり、控訴人が本件書籍の編集著作者であると主張して、被控訴人に対し以下の各請求を行いました。

#請求内容法的根拠
本件書籍の複製及び販売の差止め著作権法112条1項
本件書籍の在庫の廃棄及び版下デジタルデータの消去著作権法112条2項
損害賠償238万円(印税相当額38万円及び慰謝料200万円の合計額)の支払著作権・著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求権
自社出版案内及びホームページにおける謝罪広告の掲載著作権法115条

一審(東京地裁平成27年1月22日判決)は、「原告が本件編集物の編集をしたか否か」を争点とし、本件書籍の編集著作物性については明示的な判断に踏み込むことなく、控訴人の関与は「企画案や構想の域を出るものとはいえない」として編集著作者性を否定し、控訴人の請求をいずれも棄却しました。控訴人が控訴したところ、知財高裁は、本判決により控訴を棄却しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件書籍が編集著作物に該当するか
争点②控訴人が本件書籍の編集著作者に該当するか
争点③本件書籍が編集著作物でない場合における差止請求等の可否(編集契約違反の成否及び著作物利用許諾契約の錯誤無効の成否)

裁判所の判断

争点① 本件書籍の編集著作物性について

裁判所は、本件書籍は素材の配列において創作性を有する編集著作物に該当すると判断しました。他方で、収録作品の選択自体には創作性を認めませんでした。具体的には、素材の選択、分類項目の設け方と作品の振り分け、分類項目内の配列の3つの要素に分けて検討し、次のとおり整理しました。

#検討対象創作性の有無
素材の選択(未発表・全集未収録作品であることを基準として収録・除外する判断)否定
分類項目の設け方及び各作品の項目への振り分け(特にⅣ・Ⅴ・Ⅵを独立させた点)肯定
各分類項目内における年代順配列否定

素材の選択について、裁判所は、次のとおり判示しました。

本件書籍を構成する故甲Ⅰの作品125編の選択は、上記のとおり、未発表、全集未収録作品であることという観点でされたものであって、前記1のとおり、収集された作品(原稿)は、判読不能なもの、未完成のもの、一部しかなく完全でないもの、全集と重複するものや対談等の記事を除き、本件書籍を構成する作品として本件書籍に収録されている。上記作品の収録及び除外基準は、ありふれたものであって、本件書籍は、素材の選択に編者の個性が表れているとまでいうことはできない

あわせて、控訴人が被控訴人に対し作品を提供した行為の法的性質について、次のとおり判示しました。

控訴人が被控訴人にいかなる作品を提供するか選択したことは、著作権者が編集物に収録を許諾する作品を選択する行為、すなわち、素材の収集に係るものであって、創作行為としての素材の選択であるとはいえない

他方、素材の配列のうち分類項目の設定については、次のとおり判示し、創作性を認めました。

これに対し、「Ⅰ 創作(詩・小説)」、「Ⅱ 随筆」、「Ⅲ 評論・感想」、「Ⅳ アンケート」、「Ⅴ 自作関連」、「Ⅵ 観戦記」の分類項目を設け、特に、上記Ⅳ、Ⅴ、Ⅵの分類項目を独立させたこと、さらに選択された作品をこれらの分類項目に従って配列した点には、編者の個性が表れているということができる。なお、個々の分類項目の中で年代順に配列したことは、ありふれたもので、編者の個性が表れているとまでいうことはできない。

争点② 控訴人の編集著作者性について

裁判所は、本件書籍の素材の配列について創作性を有する行為を行ったのは被控訴人であり、控訴人は編集著作者には該当しないと判断しました。この認定の前提として、裁判所は、以下の事実関係を指摘しています。

#裁判所が認定した事実
本件書籍は、被控訴人(担当者は従業員の甲Ⅳ)の企画に基づいて発行されたものであること
当初の故甲Ⅰの日記を中心とする企画が、著作権承継者の同意が得られなかったため断念され、未発表・全集未収録作品による書籍の刊行を目指すこととなったこと
甲Ⅳは、控訴人から編集の方向性を示すよう求められ、「一般の読者に向けて、故甲Ⅰの新たな面に光を当て、読み直しを促すような、資料的でありながら読み物としても読むことができる単行本としたい」との方針を示したこと
甲Ⅳは、提供を受けた作品を「Ⅰ(創作的)」等に分類し、項目内を年代順に並べた構成案(甲21)を作成し、控訴人に示したこと
控訴人が構成案について希望や意見を述べたのに対し、甲Ⅳは、取り入れるべきと判断したもののみ取り入れ、異なる見解のものについては取り入れないという対応を行ったこと
甲Ⅳは、平成24年10月12日頃、自作関連を独立させて最後の分類項目とする構成案(甲19)を立案したこと
初校ゲラの段階でも、被控訴人は「自作関連」を最後に配置する方針であったこと
最終的に「自作関連」を「観戦記」の前に配置したのは、著作権承継者の子であり代理人的立場にあった控訴人の意向を無視できないとの配慮に基づくものであったこと

そのうえで、裁判所は、次のとおり判示しました。

以上の事実に照らせば、「Ⅰ 創作(詩・小説)」、「Ⅱ 随筆」、「Ⅲ 評論・感想」、「Ⅳ アンケート」、「Ⅴ 自作関連」、「Ⅵ 観戦記」の分類項目を設け、特に、上記Ⅳ、Ⅴ、Ⅵの分類項目を独立させ、選択された作品をこれらの分類項目に従って配列することを決定したのは、被控訴人であると認められる。

控訴人の各主張についても、裁判所は、以下のとおり個別に排斥しました。

控訴人が本件書籍の編集方針を決定し素材の選択及び配列を行ったとの主張について、裁判所は、次のとおり判示しました。

控訴人の行為は、著作権承継者の代理人的な立場で編集方針や素材の配列についての希望や意見を述べたものにすぎず、直接創作に携わる行為ということはできない。

また、控訴人は、自らが甲Ⅳに示した構成案を備忘するために作成したメモを清書したものとして配列案メモ(甲22)を提出しましたが、裁判所は、次のとおり判示し、甲22の基となったメモの存在を認めませんでした。

甲22は、原審において同書証の証拠調べを請求する直前である平成25年8月頃に控訴人が作成したものであるところ、その基となったというメモは本訴において証拠として提出されておらず、また、控訴人が当該メモを被控訴人に示したこともないというのであるから、甲22の基となったメモが存在したという控訴人の上記陳述は、容易に信用することができず、他に、上記メモの存在を認めるに足りる証拠は存在しない。

解説の執筆を依頼されたから編集著作者であるとの主張について、裁判所は、次のとおり判示しました。

しかし、かかる事実をもって、被控訴人が控訴人に対して、本件書籍の編集行為を控訴人に委任したとの事実を認めるに足りない。かえって、前記1認定のとおり、控訴人は、同日以降も、被控訴人に対し、「分類については最終的に被控訴人において判断して構わない」などと表明していたのであって、かかる事実に照らしても、本件書籍における作品の分類、配列の決定を控訴人が行ったものであるとはいえない。

本件書籍の題号を決定したから編集著作者であるとの主張について、裁判所は、次のとおり判示しました。

しかし、題号の選択それ自体が、編集著作物としての創作性を基礎付けるものではないから、本件書籍の題号が、控訴人の提案どおりのものと決定されたからといって、このことから直ちに、控訴人を本件書籍の編集著作者とすべきことになるわけではない。

争点③ 編集契約違反及び著作物利用許諾契約の錯誤無効の成否について

控訴人は、本件書籍が編集著作物でないと判断された場合に備え、予備的に、①被控訴人との間で締結された編集契約に基づく契約上の地位、及び②著作権承継者の代理人として締結した著作物利用許諾契約の錯誤無効を主張しました。裁判所は、これらの主張についても、次のとおり判示し、いずれも理由がないとしました。

また、上記(2)の点を措くとしても、控訴人と被控訴人との間に本件書籍の編集を控訴人に委任する旨の編集契約が締結されたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、上記①の主張は理由がない。

さらに、控訴人が故甲Ⅰの著作権承継者ではない以上、上記②の主張は、主張自体失当である。

コメント

本判決は、書籍の編集著作物性及び編集著作者の認定について、具体的な事実関係を踏まえた判断を示した事例です。出版実務や著作権実務上、以下の示唆が得られます。

(1)編集著作物性は素材の選択と配列を要素ごとに検討するとの枠組みが示された

本判決は、編集著作物性の判断に当たり、①素材の選択(収録・除外基準)、②分類項目の設け方と作品の振り分け、③項目内における配列方法という要素ごとに創作性を検討しました。

原審が「原告が本件編集物の編集をしたか否か」を単一の争点とし、本件書籍の編集著作物性については明示的な判断に踏み込まなかったのに対し、本判決は、編集著作物性と編集著作者性を分けて正面から検討した点に特色があります。その結果、本件書籍については、②の分類項目の設定と作品の振り分けの部分に創作性が認められるとしつつ、①及び③については創作性を否定しています。

編集物の著作物性を主張する場合、編集行為のどの部分に編者の個性が表れているかを具体的に特定して主張立証することが求められる点で、実務上参考となります。

(2)素材の収集(著作権者による収録許諾対象の選別)と創作的な素材の選択とは区別される

本判決は、著作権承継者の代理人的立場にある者が出版社に対して作品を提供する行為は、素材の収集に係るものにとどまり、創作行為としての素材の選択には当たらないと判断しました。著作権者(承継者)として収録を許諾する作品を選別する行為と、編集著作物の著作者として創作的に素材を選択する行為とは、法的性質が異なることを示した点に意義があります。

著作権承継者が編集過程にも関与する場合、その関与の性格が「著作権者の立場での許諾」であるのか「編集著作者としての創作的関与」であるのかを整理することが重要となります。

(3)編集著作者の認定は配列について決定権を有していた者は誰かという観点から行われる

本判決は、構成案の作成、分類項目の最終決定、収録作品の取捨選択の判断等を行ったのは被控訴人であり、控訴人の関与は希望や意見の表明にとどまるとして、編集著作者は被控訴人であると認定しました。編集過程において複数の関係者が意見を交換する場合、誰が最終的な意思決定権を有していたかが、編集著作者認定の中心的な判断要素となる点に注意が必要です。

他方、本判決は、控訴人の希望を反映して「自作関連」の配置が修正された事実を指摘しつつも、これは著作権承継者への配慮によるものであり、創作的関与とは区別されるとしています。

(4)題号の決定や解説の執筆は、編集著作者性を直ちに基礎付けるものではない

本判決は、題号の選択自体は編集著作物としての創作性を基礎付けるものではなく、控訴人の提案どおりに題号が決定されたことをもって直ちに編集著作者になるわけではないとしました。また、解説の執筆を依頼されたからといって、編集行為そのものの委任が認められるわけではないとしています。

編集著作者の認定は、あくまで素材の選択・配列についての創作的関与の有無という観点から行われる点を確認した判示といえます。

(5)出版物制作に複数関係者が関与する場合は編集の役割分担と著作権帰属を書面で明確化することが望ましい

本件では、本件書籍の奥付に編者の記載がなく、当事者間で編集契約も締結されていませんでした。こうした事案では、編集著作者の帰属に関する事実認定が後日の紛争の対象となりやすいといえます。

出版物の制作に著作権承継者、編者、出版社等の複数関係者が関与する場合、①編集方針の決定権者、②素材の選択・配列に関する決定権者、③編者としての氏名表示の要否、④編集著作権の帰属といった事項について、企画段階から書面で明確化しておくことが、紛争予防の観点から有益です。

(6)編集過程における自らの関与は同時期に作成した客観的証拠によって裏付ける必要がある

本判決は、控訴人が自らの編集への関与を裏付けるものとして提出した配列案メモ(甲22)について、①訴訟提起後の平成25年8月頃に控訴人が作成したものであること、②その基となったとされる手書きメモが本訴において証拠として提出されておらず、被控訴人に示されたこともないこと等を指摘し、甲22の基となったメモの存在は認め難いとして、控訴人の陳述を採用しませんでした。

編集過程における自らの関与を主張する場合、メールのやり取り、議事メモ、校正ゲラ、構成案の履歴、当事者間で共有した書面等、同時期に作成された客観的な資料を保存しておくことが重要です。訴訟提起の段階において過去の経緯を再構成した書面は、証拠としての信用性が限定的となる点に留意が必要です。

おわりに

編集著作物の著作物性、編集著作者の認定、編集過程における関係者の創作的関与の有無、編者・出版社・著作権承継者間の契約条項の設計等は、出版実務や著作権実務において論点となることが多く、事実関係の評価と証拠の整理が複雑になりがちであるため、早い段階から弁護士にご相談いただくことが有益です。

当事務所は、出版契約・編集契約の作成及びレビュー、編集著作物を含む著作権及び著作者人格権に関する紛争対応、著作物利用許諾契約に関するご相談・ご依頼を、企業の皆様から広く受けております。出版物の企画段階における役割分担の整理、刊行後の紛争対応まで、幅広くご相談に応じておりますので、お悩みの企業担当者の方は、お気軽にご相談ください。

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