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プログラムの著作物性と逆コンパイルによる著作権侵害(大阪地裁令和3年1月21日判決)

自社で開発したソフトウェアを他社に販売したところ、購入者や第三者がそのソフトウェアを逆コンパイル(リバースエンジニアリング)して類似のソフトウェアを作成・販売してしまう──ソフトウェア開発に携わるクリエイターや企業にとって、決して珍しくないトラブルです。

こうしたとき、「自社のプログラムは著作物として保護されるのか」「逆コンパイルは著作権侵害になるのか」「一部機能を追加すれば別物と言えるのか」「販売に関与した関係者にも責任を問えるのか」といった点が論点になります。

大阪地裁令和3年1月21日判決は、競艇の勝舟投票券(舟券)を自動購入するソフトウェアを開発・販売していた原告らが、購入者を介して原告ソフトウェアを入手し、逆コンパイル・難読化解除を行って類似ソフトウェアを作成・販売した被告らに対し、著作権侵害に基づく損害賠償を請求した事案です。

上記大阪地裁判決は、プログラムの著作物性の判断方法、逆コンパイルによる複製・翻案の成否、および関係者の共同不法行為責任について、実務に示唆の多い判断を示しました。

今回のコラムでは、ソフトウェア開発に携わるクリエイター・企業のご担当者向けに、本判決のポイントをわかりやすく解説いたします。

事案の概要

原告らは、競艇の舟券を自動的に購入する機能を有するソフトウェア「BoatSniper」(ボートスナイパー)を共同で開発・販売していた個人です。原告らは、事務機器販売業者である訴外事業者の依頼を受けて、平成27年11月、ボートスナイパーのOEM製品として「SPECTER9」(スペクターナイン。以下「原告ソフトウェア」といい、これに係るプログラムを「原告プログラム」といいます。)を制作し、訴外事業者に提供しました。訴外事業者は、ワイブキーによるハードウェアベースのコピープロテクトと難読化ツールを施した形で原告ソフトウェアをインストールしたパソコンを、顧客に販売していました。

その後、被告ガルヒJAPAN株式会社(以下「被告ガルヒ」といいます。)の取締役である被告(以下「被告取締役」といいます。)は、訴外事業者から原告ソフトウェアをインストールしたパソコンとワイブキーの交付を受けました。被告取締役は、被告ガルヒの代表取締役でありプログラマーである被告(以下「被告代表者兼プログラマー」といいます。)に対し、期待値と称する機能を追加するよう依頼し、被告代表者兼プログラマーは、1か月ほどかけて原告プログラムの逆コンパイルを行い、難読化を解除したうえで、期待値の機能を追加した以外は原告プログラムの機能をそのまま利用して被告プログラムを作成しました。

被告ガルヒは、被告プログラムを「BOAT HACKER」(ボートハッカー)の名称でパソコンにインストールし、被告有限会社エーワンリサーチ(以下「被告エーワン」といいます。)に卸し、被告エーワンは、その宣伝・販売を被告(以下「被告販売担当者」といいます。)に委託しました。被告販売担当者は、平成28年3月頃から、被告ソフトウェアを購入すれば年利300パーセントに相当する利益が得られる旨を宣伝し、1本60万円から100万円で約70本を販売しました。

原告らは、被告プログラムが原告プログラムを複製または翻案したものであるとして、著作権侵害の共同不法行為による損害賠償を求めて、本件訴訟を提起しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号内容
争点①原告プログラムの著作物性
争点②被告プログラムは、原告プログラムを複製または翻案したものか
争点③被告らが原告プログラムを複製または翻案することについて権利者から許諾を受けていたか
争点④被告らが共同不法行為責任を負うか
争点⑤損害の発生および損害額

裁判所の判断

争点① 原告プログラムの著作物性について

裁判所は、まずプログラムの著作物性に関する一般論について、次のとおり判示しました。

プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピューターに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合せ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。

したがって、プログラムに著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない

そのうえで、裁判所は、原告プログラムについて、ソースコードを個別の行でみれば標準的な構文やありふれた指令の表現が多用されており、独創的な関数等は用いられていないとしつつも、次の各ソースコードの具体的記述に、選択の幅の中で一定の意図のもとに独自の指令の組合せがされているとして、創作性を肯定しました。

ソースコードの種類創作性が認められた記述内容
自動運転中の画面レイアウト生成のソースコード処理の高速化と見やすい表示のため、市販ソフトの自動生成コードを使わず、独自のメソッドを作成し、オブジェクトを配列化・構造化して記述
自動運転の設定を保存するための構造体のソースコードコードの軽量化・処理の高速化のため、構造体を画面表示項目に対応させた構成・配列として記述し、一部を固定配列として記述
自動運転を制御するための構造体のソースコードデータベースの繰り返し呼び出しを省くため、多数の構造体を定義し、画面表示の記述に適合した入れ子式の構造を採用
DEMEDAS情報を取得する処理のソースコードメンテナンス性を考慮して、HTMLの記述を省略せず文字列パターンを指定して記述
舟券購入サイトへの投票処理のソースコード人間の操作を想定したサイト仕様に対応するため、WebBrowser ActiveXコントロールを利用したエミュレート方式とJavaScript対応方式を適宜使い分けて記述

裁判所は、これらのソースコードには表現上の創作性があるといえ、これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも表現上の創作性が認められると判断しました。被告らは、原告プログラムの機能は競艇公式ウェブサイト等で人間が実行できる、原告プログラムが利用するデータは公知である、類似のソフトウェアが多数存在するなどと主張しました。しかし、裁判所は、次のとおり判示して、被告らの主張を退けました。

また、被告らは、原告プログラムが利用しているデータが競艇公式ウェブサイトで公知であると主張するが、プログラムに入力される変数であるレース情報等のデータが公知であるか否かはプログラムの著作物性とは関係がなく、失当である。

さらに、被告らは、原告プログラムのうち自動運転機能の部分は、既存のソースコードを単純作業により組み合わせたものであり、「Boat Advisor」等の類似のソフトウェアが多数存在すると主張する。しかしながら、前記のとおり、原告プログラムは、独自の指令の組合せ、構造体等の設定、構成によって記述されており、ありふれたものとはいえず、証拠(乙2)をみても、「Boat Advisor」はレース予想、データ分析を主たる機能とするソフトウェアであり、原告プログラムのように舟券を自動購入するものであるとは認められず、原告プログラムがありふれたソースコードによって構成されているものとはいえない。

争点② 被告プログラムの複製・翻案該当性について

裁判所は、被告代表者兼プログラマーが原告プログラムのソースコードの提供を受けることなく、約1か月かけて原告プログラムの逆コンパイルを行うとともに難読化を解除し、期待値と称する機能を追加した以外は原告プログラムの機能をそのまま利用して被告プログラムを作成した事実を認定し、少なくともそのまま利用した部分において、被告プログラムは原告プログラムを複製したものと判断しました。

裁判所は、さらに、原告プログラムと被告プログラムの対比として、次の事実を認定しました。

比較の観点認定内容
GUID値原告プログラムを構成するBoatRaceCom.DLLおよびKcommon.DLLのGUID値が、被告プログラムを構成する同名のプログラムファイルのGUID値と一致している。GUIDはMicrosoft Visual Studioで自動生成される128ビットのランダムな識別子であり、偶然一致することはほぼあり得ず、GUID値が一致する場合は当該プログラムファイルが複製されているといえる
モジュール名被告プログラムにセキュリティチェック関連等5つのモジュールが追加されているほかは、モジュール名が一致している。被告プログラムにも原告プログラムと同じ「Specter9」名のモジュールがある
実行時の画面表示ロゴ、インフォメーションの情報、買目の推奨設定、「払戻情報」と「投票情報」の記載の違いを除き、ほぼ同一である
マニュアルソフトウェア名や問い合わせ先を除き、ほぼ同一であり、被告プログラムのマニュアルは原告プログラムのマニュアルのデータにpdf上でテキストボックスを貼り付けて改変して作成されたものと認められる

被告らは、被告プログラムには独自のアルゴリズムで算出された期待値(人気指数)に基づく予想機能があり、原告プログラムとは全く異なると主張しました。しかし、裁判所は、次のとおり判示して、被告らの主張を退けました。

原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化、発展させたものと理解し得るものであると共に、既に認定したとおり、被告プログラムは、期待値の機能を追加した以外の部分については、原告プログラムを複製したものをそのまま利用しているとされるのであり、全体として、被告プログラムは、原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるから、少なくとも翻案にあたることは明らかというべきであり、被告プログラムの作成は、原告プログラムについての原告らの著作権を侵害するものである。

争点③ 権利者からの許諾の有無について

被告らは、原告プログラムの権利者はこれを販売していた訴外事業者であり、被告取締役は訴外事業者の許諾を得て原告プログラムを複製・改変したと主張しました。しかし、裁判所は、次のとおり判示して、被告らの主張を退けました。

原告らは、ワイブキーによりコピープロテクトを施した上で、原告ソフトウェアを〔訴外事業者〕に交付し、その都度代金の支払いを受けているのであって、〔訴外事業者〕が、原告らより原告プログラムの著作権を譲り受けたと解し得る関係にはない。

また、〔訴外事業者〕の証言では、〔被告取締役〕に対し、原告プログラムの複製や改変を許諾したことはなかったとされているし、……〔被告代表者兼プログラマー〕は、〔訴外事業者〕又は原告らから、原告プログラムのソースコードの提供を受けることなく、逆コンパイルを行うと共に難読化を解除して原告プログラムを複製しているのであるから、〔訴外事業者〕の許諾があったとする被告らの主張は採用できず、これに沿う〔被告取締役〕の供述は措信できない。

(なお、判決文中の匿名化表記「P7」「P4」「P3」は、本コラムにおける呼称に合わせて〔訴外事業者〕〔被告取締役〕〔被告代表者兼プログラマー〕と置き換えて引用しています。)

争点④ 被告らの共同不法行為責任について

裁判所は、各被告の関与について、次の事実を認定しました。

被告関与の内容
被告代表者兼プログラマー被告ガルヒの代表取締役として、被告ガルヒの製品として販売する目的で、原告プログラムの逆コンパイルを行うとともに難読化を解除して被告プログラムを制作し、被告販売担当者が行った被告ソフトウェアの宣伝内容も知っていた
被告取締役被告ガルヒの取締役として、販売すると称して訴外事業者から原告ソフトウェアを入手したが実際には販売せず、原告プログラムの改変に関するアイデアを出すとともに、原告プログラムのデータを被告代表者兼プログラマーに提供した
被告販売担当者勧誘メール、プロモーション動画、勧誘セミナー等を利用して被告ソフトウェアを宣伝し、被告エーワン名義で被告ソフトウェアを販売した
被告エーワン代表者において、訴外事業者に被告取締役を紹介し、被告ガルヒより被告ソフトウェアを仕入れ、被告販売担当者に販売を委託して、被告ソフトウェアをインストールしたコンピューターを被告エーワン名義で発送した
被告ガルヒ代表取締役である被告代表者兼プログラマーおよび取締役である被告取締役において、原告プログラムの複製・翻案、被告プログラムの複製、販売に直接関与していた

裁判所は、被告販売担当者も被告プログラムが原告プログラムを複製または翻案したものであることを知りながら宣伝・販売をしており、被告エーワンも代表者において被告プログラムが作成された経緯を知りながら販売に関与していたと認められるから、被告らは被告プログラムの作成および被告ソフトウェアの販売について共同不法行為責任を負うと判断しました。

争点⑤ 損害の発生および損害額について

原告らは、被告らが被告ソフトウェアを140本販売し、1本100万円で合計1億4000万円の利益を得たと主張しました。これに対し、裁判所は、次のとおり判断しました。

被告ガルヒが被告ソフトウェアを販売するためのセキュリティ認証キーを140個用意したことは認められるものの、これに対応する140本が販売されたと認めるに足りる証拠はない一方で、被告販売担当者が被告エーワンの名義で約70本の被告ソフトウェアを1本60万円から100万円で販売した事実が認定できるとしました。そのうえで、裁判所は、次のとおり判示しました。

以上によれば、被告らは、被告ソフトウェアを少なくとも70本販売し、うち少なくとも1本は平成28年5月2日に100万円で販売し、その余は少なくとも1本60万円で販売したと認めるのが相当であり、ここから控除すべき経費等の主張はないから、被告ソフトウェアの販売により被告らが受けた利益は、少なくとも4240万円であると認められる。

そうすると、著作権法114条2項により、原告らの受けた損害額は4240万円、著作権を共有する原告各人について2120万円ずつと推定される。

これを踏まえ、裁判所は、被告らに連帯して原告各人に対して1400万円およびこれに対する遅延損害金を支払うよう命じました。

コメント

本判決の意義

本判決の意義は、次の3点に整理できます。

⑴ プログラムの著作物性は「全体の構成」から判断されること

第一に、プログラムの著作物性は、個々のソースコードの行だけをみて「標準的な構文」「ありふれた表現」と判断されるのではなく、指令の組合せ、構造体の設定、配列・構造化などの全体的な構成において、作成者の選択・工夫が表れているかどうかで判断されるという点を明示した点です。被告らは、個別のソースコードがありふれていること、利用するデータが公知であること、機能が他のソフトで代替可能であることなどを理由に著作物性を争いましたが、裁判所はこれらを著作物性と無関係の事情として退けました。プログラムの著作物性を主張する側は、どのソースコードが、どのような選択の幅の中で、どのような意図のもとに記述されているのかを、具体的に示していくことが重要です。

⑵ 逆コンパイル後に一部機能を追加しても翻案に該当すること

第二に、逆コンパイル・難読化解除を行ったうえで一部の機能を追加して作成されたプログラムは、追加機能の部分に独自性があったとしても、本質的特徴が維持されている限り、少なくとも翻案に該当するということを明確にした点です。本判決は、「期待値」と称する機能を追加したこと自体は認定しつつも、これは原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化・発展させたものと理解でき、全体として被告プログラムは原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるとして、翻案該当性を認めました。「一部機能を追加すれば別物になる」という発想は、法律上、通用しないことを示す判断です。

⑶ GUID値等の客観的一致事実が複製・翻案の立証に有効であること

第三に、GUID値の一致、モジュール名の一致、画面表示の同一性、マニュアルの複製といった客観的な一致事実が、複製・翻案の立証に有効であることを示した点です。特にGUIDは128ビットのランダム識別子であり偶然一致することはほぼあり得ないという裁判所の認定は、ソフトウェアの著作権侵害訴訟における立証実務において参考となります。

企業・クリエイターに求められる実務対応

以上を踏まえて、ソフトウェア開発に携わるクリエイターおよび企業のご担当者に求められる対応は、次のとおりです。

対応のポイント具体的な内容
① 技術的保護措置(コピープロテクト・難読化)の実装本件でも、原告らはワイブキーによるコピープロテクトと難読化ツールを施していましたが、これが逆コンパイルの敷居を上げるとともに、権利意識が高いことを客観的に示す事実として、権利者性の認定にも資することになりました。技術的保護措置は、紛争が生じたときに自社の権利を守る材料になります。
② OEM提供先・販売代理店との契約における権利関係の明確化OEM製品を第三者に提供する場合、提供先が「買い取った」と誤解しないよう、著作権の帰属、利用範囲、逆コンパイル・改変の禁止、再譲渡・再販の可否等を契約書で明確にしておく必要があります。
③ ソースコードの創作的記述の記録化著作物性が争われたときに、どの部分に創作的な選択・工夫があるのかを具体的に立証できるよう、設計段階での判断や技術的工夫を開発ドキュメント・コメント等として残しておくことが有効です。
④ 逆コンパイル・リバースエンジニアリングの監視自社ソフトウェアと機能・画面・マニュアルが酷似した製品が市場に出回っていないか、定期的にモニタリングを行い、早期に発見・対応することが重要です。GUID値やモジュール名の一致は、複製・翻案を立証する手がかりになります。
⑤ 関係者全員を射程に入れた権利行使本判決は、直接の開発者だけでなく、アイデア提供者、販売委託先、代理店、販売主体である法人に至るまで、共同不法行為責任を認めました。権利行使を検討する際は、侵害品の流通に関与した関係者の全体構造を把握し、適切な相手方を選定することが重要です。

ソフトウェアの開発・販売に携わるなかで、「自社の製品が不正に複製されているのではないか」「OEM提供先や代理店との権利関係を整理しておきたい」「逆コンパイルによる侵害に対してどのように対応すべきか」といったお悩みをお持ちの方は少なくありません。当事務所では、ソフトウェア・プログラムの著作権に関する契約書の作成・レビュー、著作権侵害への対応、損害賠償請求の検討について、クリエイター・企業双方のお立場からご相談を承っております。プログラムの著作物性や侵害の立証は、証拠の積み重ね方によって結論が大きく左右される分野です。紛争が大きくなる前に、ぜひ一度ご相談ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。