はじめに
子会社や関連会社を有するグループ企業において、取締役が外国の関係会社の業務に関し刑事上の有罪判決を受けた場合、少数株主は、その取締役を解任するために会社法854条1項の「役員解任の訴え」を提起することができるのでしょうか。また、外国の刑事有罪判決で認定された行為は、同条にいう「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実」(以下「不正行為等」といいます。)にあたるのでしょうか。
東京地方裁判所令和3年4月22日判決は、こうした論点に対して正面から判断を示した裁判例として、グループ企業を経営・管理する担当者にとって重要な示唆を含んでいます。
今回のコラムでは、上記東京地裁判決の概要を解説するとともに、企業の法務担当者が押さえておくべき実務上のポイントについて解説をいたします。
事案の概要
本件は、日本の持株会社(以下「Y会社」といいます。)の株式を総議決権の3%以上保有する少数株主(以下「X」といいます。)が、Y会社の取締役兼代表取締役(以下「Y1」といいます。)に対し、会社法854条1項1号に基づき、取締役解任の訴えを提起した事案です。
XとY1は、Y会社が属する企業グループ(以下「Lグループ」といいます。)の創業者Cの子(それぞれ長男・次男)の関係にありましたが、Xは平成27年1月にY会社の取締役を解任されており、以降、Y1との間で経営権をめぐる紛争が続いていました。
Y1は、韓国の関連会社(d社)の取締役として、映画館の売店を関係先に不利な条件で賃貸したことについて業務上背任罪(以下「本件賃貸借契約の締結」といいます。)で、また、韓国Lグループが経営する免税店の特許再取得に関連して韓国大統領の求めに応じ財団に70億ウォンを支給したことについて賄賂供与罪(以下「本件70億ウォンの支給」といいます。)で、韓国の裁判所から有罪判決を受け、令和元年10月17日、大法院(日本の最高裁判所に相当)の上告棄却により確定しました(以下「本件有罪判決」といいます。)。
Y1の現在の取締役任期は、本件有罪判決の確定から約4か月前の令和元年6月26日に開催されたY会社の定時株主総会(以下「本件選任決議」といいます。)に始まりました。この総会において、議長は、有罪判決はいまだ確定しておらず、Y1が引き続き無罪を主張して争っている旨を株主に対し明示的に説明した上で、Y1の資質・実績等に照らせば取締役候補者としてふさわしいと考える旨を述べ、選任議案を可決させました。
令和2年6月24日の定時株主総会において、XによるY1解任議案が否決されたため、Xは会社法854条1項1号に基づく解任請求訴訟を提起しました。裁判所は、Xの請求を棄却しました。
本件の争点
本件の争点は以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件訴えの提起が、訴権の濫用または実体法上の株主権の濫用にあたるか |
| 争点② | Y1の有罪判決確定を解任事由として、現任期中に会社法854条1項による解任の訴えを提起することが許されるか(解任事由の時的範囲) |
| 争点③ | 有罪判決で認定されたY1の行為が、Y会社の役員としての「職務の執行に関し」てされたものといえるか |
| 争点④ | 有罪判決で認定されたY1の行為が、「法令に違反する重大な事実」または「不正の行為」にあたるか |
裁判所の判断
争点①(訴権・株主権の濫用)について
裁判所は、Xが自らの解任後に経営権回復のための活動を続けていたという事実を認定しました。しかし、役員が法令に違反したとして有罪判決を受けた場合には、その行為の具体的な態様・程度等によっては株主が会社法854条に基づく解任の訴えを提起できる余地があり得ることを踏まえると、Xが本件訴えを提起すること自体は訴権や株主権の濫用にはあたらないと判断しました。
争点②(解任事由の時的範囲)について
裁判所は、まず、会社法854条1項の解任事由がいつの時点までに存在し又は判明している必要があるかという「時的範囲」の問題について、次のとおり判示しました。
役員の不正行為等が当該役員を選任する旨の株主総会の決議の時点で判明していた場合(ただし、当該役員の不正行為等により会社法331条1項3号又は4号所定の取締役の欠格事由が認められるときを除く。)において、その任期中に当該不正行為等について会社法854条を適用して株主が訴えをもって当該役員の解任請求をすることは、特段の事情がない限り、許されないと解するのが相当である。
その上で、本件への当てはめとして、次の事情を重視しました。
- ・本件選任決議の時点では、控訴審判決はいまだ確定しておらず、Y1が無罪を主張して争っていた。
- ・議長は、本件選任決議において、株主に対し、有罪判決が確定していない旨と無罪主張の事実を明示的に説明していた。
- ・本件控訴審判決が確定したのは、本件選任決議から約4か月が経過した後のことであった。
裁判所は、これらの事情を総合した上で、次のとおり結論づけました。
原告が主張する被告Y2の解任事由の基礎とされた「被告Y2が韓国刑法上の業務上背任罪及び賄賂供与罪に該当する行為をした旨の本件有罪判決が確定したこと」は、本件選任決議の時点で判明していたとは認められないというべきである。
このように判断することは、刑事手続の仕組み(有罪判決確定前の無罪推定の原則)とも整合するとして、本件においてXが解任の訴えを提起することは許されると判断しました。
争点③(「職務の執行に関し」の該当性)について
裁判所は、会社法854条1項の解任事由が成立するためには、問題となる行為がY会社の役員としての「職務の執行に関し」てされたものでなければならないとした上で、次の事情を認定しました。
- ・Y会社は、韓国LグループのC社株式(約19%)等を保有する持株会社であるが、韓国Lグループは独自のグループガバナンス体制を構築しており、Y会社の取締役会が韓国Lグループに対して具体的な管理監督を行うことを想定していなかった。
- ・有罪判決で認定された行為のうち、業務上背任罪に係る行為は、Y1のd社の取締役としての行為であり、賄賂供与罪に係る行為は、Y1の韓国Lグループでの地位に基づく行為であった。
裁判所は、これらを踏まえ、次のとおり結論づけました。
本件有罪判決で認定された被告Y2の業務上背任罪及び賄賂供与罪に該当する行為は、被告会社の役員としての「職務の執行に関し」てされたものと評価することはできない。
なお、裁判所は、原告が主張した「持株会社の定款に韓国子会社の管理目的が定められているのだから、Y1はY会社の取締役として韓国子会社を管理監督する義務を負う」という主張についても、定款の定めは株主としての関与(議決権行使等)を超えて子会社取締役への具体的な指示や業務執行の監督義務まで基礎付けるものとはいえないとして、退けました。
争点④(「重大な事実」・「不正の行為」の該当性)について
裁判所は、仮に「職務の執行に関し」の要件が充足されるとしても、なお「重大な事実」および「不正の行為」の要件を満たさないと、念のため、次のとおり判示しました。
「重大な事実」について
裁判所は、本件控訴審判決の認定内容(Y1の関与が概して受動的・従属的であったこと、業務上背任罪による財産的被害は事実上回復されたこと、賄賂に供した70億ウォンは財団から全額返還されたこと等)を踏まえ、次のとおり述べました。
〈ア〉上記認定に係る上記各罪に該当する行為は、被告Y2の関与形態が概して従属的又は消極的であり(略)、被害弁償又は事後の返還により被害会社等の財産的被害も事実上回復されており(略)、〈イ〉本件有罪判決が確定したことによって被告会社を含む○○グループに多大な損害が生じたともいい難いのであり(略)、被告会社の株主においても、本件選任決議の時点で本件控訴審判決で上記認定がされていたとの限度で考慮済みであった(略)というのであるから、これらの点を併せ考慮すると、原告の主張する上記の各法令違反が「重大な事実」であるとは断じ難いというべきである。
「不正の行為」について
裁判所は、会社法854条1項にいう「不正の行為」とは、取締役がその義務に違反して会社に損害を生じさせる故意の行為をいうと解した上で、次のとおり判断しました。
被告Y2は、本件有罪判決で認定された行為をする際、被告会社の取締役として、その義務に違反して被告会社に損害を生じさせるという故意を有していたとは認められず、取締役の義務に違反して会社に損害を生じさせる故意の行為をしたとはいえない。
結論
以上の判断から、裁判所は、Y1が業務上背任罪及び賄賂供与罪について有罪判決を受け確定したことは、会社法854条1項の解任事由にあたらないとして、Xの請求を棄却しました。
なお、本判決は控訴審において取り消され、訴えが却下されています。しかし、本判決が示した解任事由の解釈(特に時的範囲および「職務の執行に関し」の判断枠組み)は、実務上の参考になるものといえます。
コメント
1 本判決の意義
本判決は、会社法854条1項に基づく役員解任の訴えに関し、以下の二点について判断を示した点に意義があります。
(1)解任事由の時的範囲——刑事手続が進行中であった場合の取り扱い(争点②)
従前の裁判例(高松高決平18.11.27金判1265号14頁、京都地宮津支判平21.9.25判時2069号150頁、宮崎地判平22.9.3判時2094号140頁)および多くの学説は、役員の選任時点で判明していた事由は原則として解任事由に含まれないとの考え方をとってきました。しかし、刑事手続が進行中であった場合——有罪判決が出ていたものの未確定だった場合——における時的範囲の判断については、従来の公刊裁判例では取り上げられていませんでした。
本判決は、刑事手続においては有罪確定前の無罪推定の原則が働くことを踏まえ、有罪判決の「確定」という事実は確定前には判明していたとはいえないと判断しました。刑事手続が進行中の役員を再任する場面では、確定の有無・時期や株主総会における説明の有無・内容といった具体的事情が、後の解任事由の時的範囲に影響を与え得るという点を、実務として認識しておく必要があります。
なお、有罪判決で認定された犯罪事実が取締役の欠格事由(会社法331条1項3号・4号)に該当する場合には、直ちに取締役としての資格を失うことになりますから、本判決の射程はそのような場合には及ばない点にも注意が必要です。
(2)外国子会社における行為と親会社取締役の「職務の執行」の関係(争点③)
本判決は、親会社の取締役が外国の関連会社において行った行為が、親会社の役員としての「職務の執行に関し」てされたものといえるかどうかを、グループのガバナンス体制の設計と実態を中心に判断しました。すなわち、裁判所は、親会社の定款に子会社管理の目的が定められているだけでは足りず、グループガバナンス体制において親会社の取締役会が子会社に対して具体的な管理監督を行うことを実際に想定していたかどうかという実態面を重視しました。
グループ会社における取締役の義務の範囲と責任のあり方を考える上で、本判決は重要な視点を提供する裁判例といえます。
2 企業に求められる対応
(1)グループガバナンス体制の設計・整備と文書化
本判決は、Y会社の取締役会が韓国グループに対して「具体的な管理監督を行うことを想定していなかった」という事情を、争点③における「職務の執行に関し」の要件充足を否定する根拠の一つとしました。この判断の裏面として、グループ全体のガバナンス体制がどのように設計・運用されているかが、取締役の義務の範囲を画する上で重要な意味を持つことが示されています。
経済産業省は、令和元年6月に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(グループガイドライン)を公表しており(経済産業省ウェブサイト)、子会社管理に関する親会社取締役の義務の考え方や、実効的なグループガバナンス体制の構築方法が詳細に論じられています。国内外にグループ会社を持つ企業においては、同ガイドラインを参照しながら、各グループ会社に対する管理の方針と権限の所在を明確にし、それを取締役会規程や内部統制関連規程に明文化しておくことが望まれます。
(2)株主総会における取締役候補者に関する情報提供と説明の充実
本判決は、本件選任決議において、議長が「有罪判決は確定しておらず、Y1が無罪を主張して争っている」旨を株主に対し明示的に説明していたという事情を、争点②(解任の訴えの時的範囲)の判断において重視しました。この事情があったからこそ、「有罪判決の確定」という事実は選任時点で「判明していた」とはいえないと判断されたのです。
このことは、株主総会における取締役の選任・解任に関する議案の審議において、役員候補者に関してリスクとなり得る事情の有無や、それを踏まえた取締役会の判断を適切に説明することが、将来の法的紛争に影響し得ることを示しています。仮に候補者について刑事手続が進行中であったり、過去の法令違反が問題となったりするような場面では、会社として何をどこまで開示・説明するかを、事前に弁護士に相談の上で検討しておくことが重要です。
(3)外国子会社のコンプライアンスリスクへの対応
本件は、外国の関連会社における取締役の行為が刑事問題に発展した事案でもありました。海外にグループ会社を持つ企業においては、現地の法令や商慣行の違いを踏まえたコンプライアンス体制の整備、コンプライアンス研修の実施、現地法務担当者との連携、および内部通報制度の整備が求められます。
グループガイドラインは、子会社において法令違反等が発生した場合における親会社の対応のあり方についても言及しており(前掲・経済産業省ウェブサイト)、外国子会社を含めたグループ全体のコンプライアンスリスク管理を検討する際の参考となります。
3 まとめ
本判決は、外国の関連会社における刑事有罪判決が会社法854条1項の解任事由にあたるかを判断するにあたり、①解任事由の時的範囲に関して刑事手続の進捗状況と株主総会での説明内容が重要であること(争点②)、②「職務の執行に関し」という要件の充足においてグループガバナンス体制の実態が重要な考慮要素となること(争点③)を示しました。
会社法854条1項の解任の訴えは少数株主にとっての重要な権利行使手段である一方で、その要件の充足に関する判断は、事案の具体的な事情に大きく左右されます。経営権に関する紛争への対応や、グループガバナンス体制の設計・見直し、株主総会における開示内容の検討など、いずれの場面においても、個々の事情に応じた判断が必要となります。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

