はじめに
知的財産高等裁判所は、令和7年3月26日、著名デザイナーの絵柄を商品化したタオルのライセンス紛争に関し、①絵柄を除いたタオル部分の著作物性(応用美術の著作物性)の有無、及び②許諾料のみを得ている著作権者に対する著作権法114条2項(侵害者利益の損害額推定規定)の適用可否について判断し、いずれも否定した原審判決(東京地裁令和6年3月28日判決)を維持しました(控訴及び附帯控訴をいずれも棄却)。
本判決は、著作権ライセンスビジネスに関与する企業にとって、損害賠償請求の実務上、参照すべき裁判例です。
今回のコラムでは、事案の概要と裁判所の判断を整理し、企業実務への示唆を考えます。
事案の概要
原告は、著名デザイナーX(ATSUKOブランド)の著作物(絵柄)の著作権を管理する会社であり、被告タオル美術館との間でマスターライセンス契約(以下「基本契約」といいます。)を締結しました。タオル美術館は、基本契約に基づき被告一広にサブライセンス契約を締結し、被告らは、Xの絵柄をタオルに付して商品化・量産・販売しました。
しかし、原告は、タオル美術館に違法コピー等の重大な契約違反があったとして、基本契約を解除しました。その後、被告らは損害賠償金の一部弁済として3億円を支払い、残額については別途協議する旨の中間合意を締結しました。
本件の本訴は、原告らが3億円を超える損害があると主張し、著作権侵害等を理由として損害賠償を請求した事案です。これに対し、反訴は、被告らが原告による中間合意違反を理由として損害賠償を請求した事案です。
本件には多数の争点が含まれますが、本コラムでは実務上の影響が大きい争点①(タオル部分の著作物性)と争点②(著作権法114条2項の適用可否)に絞って解説します。
本件の争点
争点① タオル部分(絵柄を除く部分)の著作物性の有無
被告商品は、Xの絵柄が付されたタオル商品(量産品)です。原告らは、絵柄を除いたタオル部分に凹凸・陰影・配色・色合い・風合い・織り方等の特徴があるとして、独自の著作物性(応用美術としての著作物性)を主張しました。
争点② 著作権法114条2項の適用可否
著作権法114条2項は、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を著作権者等の損害額と推定する規定です。Xは、デザイナーとして著作物の使用許諾料(ロイヤリティ収入)を得るにとどまり、タオル等の製造・販売には直接関与していませんでした。このような場合に、同項の推定規定が適用されるかが争点となりました。
裁判所の判断
争点①について
裁判所は、タオル部分の著作物性を否定しました。
まず、裁判所は、応用美術の著作物性に関する判断基準として、次のとおり示しました。
美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても,実用目的に係る機能と分離して,それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には,美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして,著作物に該当すると解するのが相当である。
この基準を踏まえ、本件タオル部分については次のとおり判断しました。
被告商品は,本件タオル部分において,凹凸,陰影,配色,色合い,風合い,織り方その他の特徴があったとしても,凹凸,陰影,配色,色合いなどは,本件絵柄と共通しその実質を同じくする部分であると認めるのが相当であり,また,風合い,織り方などは,タオルとしての実用目的に係る機能と密接不可分に関連する部分であるから,当該機能と分離してそれ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
裁判所は、被告商品において美的鑑賞の対象となるのは飽くまでXが制作した本件絵柄部分であり、タオル部分については著作物性を認めることができないと結論付けました。
争点②について
裁判所は、著作権法114条2項の適用を否定しました。
裁判所は、同項の趣旨を次のとおり説示した上で、許諾料のみを得ている場合の問題点を指摘しました。
著作権法114条2項は,著作権の排他的独占的効力に鑑み,著作権者,出版権者又は著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)においてその侵害の行為により売上げが減少した逸失利益の額と,侵害者が侵害行為により受ける利益の額とが等しくなるとの経験則に基づき,当該利益の額を著作権者等の売上げ減少による逸失利益の額と推定するものである。しかしながら,著作権者等がその著作物の許諾によって得られる許諾料の額は,売上げ減少による逸失利益の額とは明らかに異なるものであり,両者が等しくなるとの経験則を認めることはできないことからすると,著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には,上記の推定をする前提を欠くことになる。
その上で、次のとおり結論を示しました。
著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には,著作権法114条2項の規定は適用又は類推適用されないと解するのが相当である。
本件では、Xは自身の著作権を管理する原告会社を通じてロイヤリティ収入を得るにとどまり、タオル等の製造・販売は行っていませんでした。そのため、著作権法114条2項の推定規定は適用されないと判断されました。
コメント
1 本判決の意義
本判決(及びその原審)は、著作権ライセンスビジネスの実務に関わる二つの重要論点について判断を示したものです。一つは、絵柄が付された量産品(タオル)における応用美術の著作物性の有無という事例判断であり、もう一つは、許諾料収入のみを得ている著作権者への著作権法114条2項の適用可否という、法令解釈上の一般的重要性を持つ論点です。
知財高裁は、上記2つの論点について原審の判断を維持しました。
2 応用美術の著作物性について
応用美術の著作物性については、一般に、知財高判平26.8.28判時2238号91頁(ファッションショー事件。最新の裁判例として知財高判令3.12.8裁判所Web〔タコ滑り台事件〕)と、知財高判平27.4.14判時2267号91頁(TRIPP TRAPP事件)の2つの流れ(考え方)があると指摘されているところ、本判決は前者の流れに属する判断基準を採用したと評価できます。
本判決の当てはめからは、絵柄が付されたタオル商品において、絵柄部分を除いた部分に著作物性が認められる可能性は、一般的には低いといえます。凹凸・陰影・配色・色合いなどは絵柄と実質的に共通する部分にすぎず、風合い・織り方などはタオルとしての実用目的の機能と不可分であるためです。
絵柄をライセンスして商品化する際には、著作権として保護されるのはあくまで絵柄自体であることを前提として、商品の素材や仕様等の品質管理に関してはライセンス契約上の義務条項として手当てすることが現実的な対応といえます。
3 著作権法114条2項の適用範囲について
著作権法114条2項は、侵害者の利益額を著作権者の損害額と推定する規定で、損害立証の困難を和らげるために設けられています。しかし、本判決は、許諾料のみを得ている著作権者については同項が適用されないことを明確にしました。
この論点については、同種の構造を持つ特許法102条2項の解釈において議論が積み重ねられており(知財高判平25.2.1判タ1388号77頁〔紙おむつ処理容器判決〕等参照)、許諾料のみを得ているケースでは推定の前提を欠くとする否定説が有力な見解として示されていました。本判決は、著作権法114条2項について、その立場を明確にしたものといえます。
許諾料のみを得ているビジネスモデルの著作権者・著作権管理会社にとって、侵害者の利益額がどれほど大きくても、それをそのまま自己の損害額と推定してもらうことはできないということになります。損害額の立証は、著作権法114条3項(侵害がなければ受けられたと認められる使用料相当額)による方法が基本となる点に注意が必要です。
4 企業が押さえておくべき実務上のポイント
本判決を踏まえ、著作権ライセンスビジネスを行う企業は、以下の点に留意する必要があります。
(1)損害額算定に関する契約条項の整備
著作権法114条2項が利用できない場合、侵害時の損害立証はより困難になります。ライセンス契約に、侵害が生じた際の損害額算定方法(例えば、相当使用料の倍額とする違約金条項など)を明確に定めておくことで、立証上の負担を軽減することが可能です。
(2)ライセンス管理体制の強化
本件では、違法コピー・未報告等の問題が長期間にわたって発覚しなかったことが、紛争が大きくなった背景の一つです。定期的な監査・報告義務やライセンシーの業務確認の仕組みを契約に組み込み、不正の早期発見と予防に取り組むことが求められます。
(3)ビジネスモデルに応じた権利保護の検討
許諾料のみを受け取るビジネスモデルでは、著作権侵害が生じた際の損害賠償請求において不利な立場に置かれやすい構造となっています。著作権者や著作権管理会社が自ら又は関連会社を通じて製造・販売に一定程度関与することで、損害賠償請求における選択肢が広がる可能性があります。自社のビジネスモデルを踏まえ、権利保護の方策をあらかじめ検討しておくことが有用です。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

