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SNS上の差別的表現と名誉感情侵害——出自を理由とするTwitter投稿が不法行為とされた事例(東京地裁令和5年6月19日判決)

SNSの普及により、インターネット上での差別的な表現が問題となるケースが増えています。特に民族的出自を理由とする侮辱的な投稿は、国内外の法令においても許容されない行為として位置づけられており、民事上の損害賠償責任が問われる場面も生じています。

今回のコラムでは、フォトジャーナリストを原告とし、ツイッター(現X)上の差別的な投稿を行った被告に対して不法行為に基づく損害賠償が認められた東京地裁令和5年6月19日判決を取り上げます。

本判決は、差別的な表現を用いたSNS投稿が名誉感情を侵害するとして不法行為の成立を認めたものです。企業の担当者にとっても、役員・従業員のSNS投稿に潜む法的リスクを把握する観点から、参考となる裁判例です。

 

事案の概要

原告は、東南アジア・中東・アフリカなどで貧困や難民問題を取材するフォトジャーナリストです。原告の父は、いわゆる在日コリアン二世であり、韓国籍を有していました。令和2年12月、原告は、父親が韓国籍を有していたことを隠さざるを得なかった背景などを論じた記事をインターネット上に公表しました。これに対し、ツイッター上のアカウントから、次のような内容の投稿(本件投稿)がなされました。

「在日特権とかチョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか? 嫌韓流、今こそ韓国に謝ろう、反日韓国人撃退マニュアルとか読んでみろ チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」

原告は、発信者情報開示仮処分命令の申立て及び発信者情報開示訴訟を経て、プロバイダから発信者情報の開示を受け、投稿者として特定された被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として195万円の支払いを求める訴訟を提起しました。

 

本件の争点

争点①:本件投稿は被告が行ったものか

本件投稿の約1時間34分前にあったアカウントへのログイン(本件ログイン)に係るIPアドレスの契約者として被告の情報がプロバイダから開示されていましたが、それをもって被告が本件投稿を行ったと認められるかどうかが問題となりました。

被告は、開示に用いられたメールの真正性に疑問があること、パスワードなしで周辺から接続可能なルーターを使用していたため近隣住民が本件ログインを行った可能性があること、またログインと投稿の時間差が1時間34分あることなどを主張し、自らが本件投稿を行ったとは認められないと争いました。

争点②:不法行為の成否

原告は、本件投稿によって次の2つの権利・法益が侵害されたとして、不法行為の成立を主張しました。

(1)本邦外出身者がそのことを理由に差別され地域社会から排除されない権利

(2)本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティ(名誉感情を含む)

被告は、いずれの権利・法益も認められないか、仮に認められるとしても本件投稿によってそれらが侵害されたとはいえないと主張しました。

争点③:損害額

原告は、慰謝料150万円のほか、発信者情報開示手続及び本件訴訟のための弁護士費用合計45万円、合計195万円の損害賠償を請求しました。被告は、損害額の認定に異議を唱えました。

 

裁判所の判断

争点①について(投稿者の特定)

裁判所は、本件ログインのIPアドレスに係る契約者として被告の情報がプロバイダから開示された経緯を確認した上で、次のとおり判断し、本件ログインを行った者は被告であると認定しました。

「一般的に個人が契約したインターネット回線を利用するのは当該個人であるところ、本件全証拠によっても被告が契約したインターネット回線を事業目的や団体その他複数人で利用していたなどといった事情はうかがわれないから、本件ログインを行った者は被告であると合理的に推認できる。」

被告のルーター経由での第三者利用の主張については、次のとおり排斥しました。

「個人でルーターを利用する際にパスワードを設定しないで近隣住民が自由に利用できる設定とすることは通常考え難く、上記ルーターを使用してインターネットを利用するのは同ルーターの所有者である被告自身である蓋然性が高いところ、本件全証拠によるも、被告以外の第三者が本件ログイン日時に同ルーターを使用していたことを具体的に窺わせる事情は何ら認められないから、被告の主張は採用することができない。」

また、本件ログインから本件投稿まで1時間34分の時間差があることをもって被告が投稿者でないとの主張についても、次のとおり退けました。

「ログイン状態を1時間34分継続した後に投稿を行うといったことも事実経過として十分に考え得るし、本件投稿時に本件アカウントについて本件ログイン以外のログインが競合していたことをうかがわせる事情は認められず、仮にログインの競合があるとしても、団体によって共用されているなど、複数人によって管理運営されていることがうかがわれない本件アカウントについて被告以外の者がログインすることは通常考え難く、いずれにせよ被告の上記主張は、被告が本件投稿を行ったとの上記認定を左右するものではない。」

 

争点②について(不法行為の成否)

(1)地域社会から排除されない権利の侵害

裁判所は、本件投稿が著名人ではない被告個人による1件のツイートにとどまり、広く第三者に対して原告への批判や差別的言動を殊更に促すような表現は含まれていないとして、次のとおり判断しました。

「本件記事を閲覧した者に対して原告を地域社会から排除することを扇動するような表現であるとまではいえない」

したがって、差別的言動解消法2条に該当するとの原告の主張は認められず、この点に関する不法行為の成立は否定されました。

(2)名誉感情の侵害

裁判所は、原告が主張する「民族的アイデンティティ」という法益について、

「人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情(最高裁昭和43年(オ)第1357号同45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁参照)の内容を具体的に述べるものであり、要するに、自己の出自に関する人格権としての個人の名誉感情(憲法13条)の侵害を主張するもの」

と整理しました。その上で、裁判所は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿は在日コリアン二世である原告の父親のみならず、その子である原告をも韓国にルーツを有することを理由に侮辱する表現を含むものといえると判断しました。そして、このような侮辱的な表現行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には名誉感情を侵害するものと解されるとした上で(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)、次のとおり述べました。

「差別的言動解消法の前文において『不当な差別的言動は許されない』とされ、また、人種差別撤廃条約4条において『締約国は、〔中略〕差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する』と定められていることなどに照らせば、上記のような差別的な表現を用いて原告を侮辱する本件投稿は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる。」

こうして、本件投稿は原告の出自に関する名誉感情を侵害するものとして、不法行為の成立が認められました。

 

争点③について(損害額)

慰謝料については、差別的表現を用いた侮辱により原告が受けた精神的苦痛を軽視することはできないとしつつ、本件投稿が1件のツイートにとどまり、リツイート等による差別的表現の拡散がなかったことなども考慮し、30万円と認定しました。

発信者情報開示手続のための弁護士費用は、費用支出を裏付ける証拠がないとして認められませんでした。本件訴訟のための弁護士費用は3万円と認定されました。

最終的に、合計33万円の支払いを命じる判決が言い渡されています(なお、この判決は控訴されています)。

 

コメント

本判決の意義

本判決は、出自に関する差別的表現を含むSNS投稿が、名誉感情を侵害する不法行為を構成すると認めた事例です。本邦外出身者に対する差別的な言動については、これまでも裁判例において民事上の責任が認められてきました。その意味で、本判決は既存の学説や裁判例の積み重ねを受けたものであり、新たな法的判断を示したものではありません。

もっとも、差別的言動解消法や人種差別撤廃条約を参照しながら、出自を理由とする差別的表現が「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」に当たると認定した判断は、今後も実務上参照されることが予想されます。

なお、差別的言動解消法2条が定める「地域社会から排除されることを煽動する言動」については、本件では要件の充足が否定されました。本件はヘイトデモの事前差止めが問われた事案(横浜地川崎支決平28.6.2判タ1428号86頁)とは事案の性質が異なり、一私人による1件のツイートが問題となったものであるという事情も、この判断に影響していると考えられます。

他方で、差別的表現を用いた侮辱が名誉感情の侵害として不法行為を構成しうるという判断枠組みは、SNS上の差別的投稿をめぐる紛争において引き続き意義を持つと思われます。

企業担当者の方へ

本判決を踏まえ、企業の担当者の方は、以下の点に注意することが求められます。

① SNS投稿ポリシーの整備と周知

役員・従業員が業務と直接関係のない場面でSNSに差別的な表現を用いた投稿を行った場合でも、企業のレピュテーションへの影響や使用者責任(民法715条)が問題となりえます。民族的出自などを理由とする侮辱的な表現が不法行為となりうることを社内ポリシーに明記し、従業員に周知することが必要です。

② 差別的表現に関する教育・研修

SNS利用に関する研修において、差別的表現が名誉感情を侵害する不法行為となりうることを具体的な事例を交えて伝えることが有効です。本件のような裁判例は、研修教材としても活用できます。

③ 発信者特定リスクの周知

本件では、発信者情報開示仮処分及び発信者情報開示訴訟という法的手続を経て、匿名アカウントの投稿者が特定されました。匿名での投稿であっても、法的手続によって発信者が特定されうることを従業員に認識させることで、不用意な投稿を抑止する効果が期待されます。

差別的な表現を含むSNS投稿は、投稿者個人の法的責任にとどまらず、企業のブランドイメージや社会的信頼性にも影響します。本判決を一つの契機として、社内のSNS利用に関するルールの見直しや研修・教育の実施を検討することが望まれます。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。