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著作権を相続しても差止めできない?創作者が会社に与えた無償の利用許諾と相続人への効力(大阪高裁令和2年8月28日判決)

はじめに

創業者や社内の中心人物が創作した著作物を、その人が関わる会社が長年にわたって事業に利用しているという例は、少なくありません。もっとも、その利用について契約書を取り交わさないまま時が経過し、創作者が亡くなった後になって、著作権を相続した親族と会社との間で、利用の可否をめぐって争いが生じることがあります。

今回のコラムでは、大阪高裁令和2年8月28日判決をご紹介いたします。本件は、著名な性格検査(矢田部ギルフォード性格検査。以下「YG性格検査」といいます。)の検査用紙の著作権を相続したとする個人が、その用紙を発行・販売する会社に対し、著作権侵害を理由に、発行等の差止めや損害賠償を求めた事案です。

本判決の意義は、著作権を相続によって取得した者であっても、創作者が生前に会社に与えていた無償の利用許諾に拘束され、会社の利用を差し止めることができない場合があることを、具体的な事実関係に即して示した点にあります。事例判決ではあるものの、自社の事業で継続的に他者の著作物を利用している企業にとっても、創作者から著作物の提供を受けている企業にとっても、参考になる判断です。

事案の概要

本件の当事者等は、次のとおりです(判決文上の「P2」をA、「控訴人(一審原告)」をX、「被控訴人(一審被告)」をY社と表記します。後掲の引用部分中の「控訴人」はXを、「被控訴人」はY社を、「P2」はAを指します。)。

表記内容
YG性格検査の昭和41年の検査用紙(以下「昭和41年用紙」といいます。)の著作者。平成13年9月に死亡
X(控訴人・一審原告)Aの子。Y社の設立当時の代表者を務めた。昭和41年用紙の著作権(以下「本件著作権」といいます。)の共有者であるとして請求
Y社(被控訴人・一審被告)YG性格検査に関する事業を行う会社。Xが問題とする各用紙(以下「被告各用紙」といいます。)を発行・販売・頒布
本件各相続人Aの死亡により、Xとともに本件著作権を法定相続分に従い共同相続した、X以外の相続人

昭和41年用紙は、Aが創作したYG性格検査の検査用紙です。Y社は、平成元年12月に設立され(それ以前はXが事業主として同様の事業を営んでいました。)、YG性格検査に関する事業を行う中で、昭和41年用紙の創作的部分(質問文の配列及びプロフィール表の構成)を複製した被告各用紙を発行・販売・頒布していました。

Aは平成13年9月に死亡し、本件著作権はX及び本件各相続人が相続しました。Xは、Y社による被告各用紙の発行等が本件著作権(複製権及び譲渡権)を侵害するとして、Y社に対し、本件著作権の持分権に基づく発行等の差止め及び用紙の廃棄を求めるとともに、損害賠償金2640万円等の支払を求めて提訴しました。

原審(大阪地裁令和元年12月23日判決)は、Xが本件著作権の共有者であることを認めた一方、Y社は昭和41年用紙について無償での利用許諾を得ているとして、Xの請求をいずれも棄却しました。Xは、これを不服として控訴しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです(このほかにも争点がありますが、本コラムでは、控訴審が判断を示した争点①及び争点②を取り上げます。)。

争点内容
争点①本件著作権の帰属(本件著作権を最終的に取得したのは誰か)
争点②昭和41年用紙の利用に係るAのY社に対する許諾の有無及びその範囲

裁判所の判断

大阪高裁は、争点①(本件著作権の帰属)についてXが共有者であることを認めた上で、争点②(利用許諾の有無等)について許諾の成立を認め、その結果としてXの請求を退けました。控訴審は、この2つの争点についての判断により結論を導いており、その余の争点(Xや相続人による許諾の有無、権利濫用の成否、損害額)については判断していません。

争点① 本件著作権の帰属について

裁判所は、本件著作権の帰属について、次のとおり判断しました。

当裁判所も、本件著作権は、著作者であるP2に帰属していたところ、P2の死亡により控訴人及び本件各相続人が法定相続分に従ってこれを共同相続したと認定する。

Y社は、Aが将来的に本件著作権をY社に帰属させる意思を有していたと主張しました。その根拠として、Y社が発行する用紙にY社を著作権者とする表示(ⓒ表示)を付すことをAが容認していたことなどを挙げました。しかし、裁判所は、次のとおり判断し、この主張を採用しませんでした。

しかし、P2は被控訴人に対し昭和41年用紙の利用を許諾しており、しかも、当時の被控訴人代表者であった控訴人とは親子であり、その関係も良好であったと窺われる。このような関係性の下では、昭和41年用紙の著作権者であるP2が上記のような付記を容認することは、たとえその著作権(本件著作権)を被控訴人に譲渡する意思がなかったとしても、不自然とはいえない。上記の付記を容認していたという事実があったからといって、P2が将来、本件著作権を被控訴人に承継させる意思を有していたと推認することはできない。

以上より、裁判所は、本件著作権はAの遺言等によってY社に帰属したとは認められず、X及び本件各相続人が共同相続したと認定しました。

争点② 昭和41年用紙の利用に係る許諾の有無及び範囲について

裁判所は、Aが昭和41年用紙の利用をY社に許諾していたか(利用許諾契約の成否)について、次のとおり判断しました。

当裁判所も、P2は、被控訴人設立の当初、被控訴人に対し、被控訴人がYG性格検査に関する事業を行うために昭和41年用紙を利用する必要がある期間において、その事業のための利用といえる範囲で、その利用を無償で許諾した(本件利用許諾契約が成立した)と認定する。

Xは、この利用許諾契約について契約書等の書面が取り交わされていないことを指摘し、黙示の契約の成立を基礎付ける事情はないと主張しました。これに対し、裁判所は、次のような事情を考慮しました。

考慮事実内容
Y社の設立前、Xが事業主であった当時の事業においても、昭和41年用紙を自由に使用する必要があり、現に使用していたこと
これを法人化してY社を設立したのは、当該事業を拡充強化するためであったこと
Y社はその事業のために昭和41年用紙を使用することが不可欠であったこと
Y社設立当時の代表者であったXとAとの間で、利用許諾契約の締結が当然の前提になっていたと考えられること

その上で、裁判所は、次のとおり判断しました。

したがって、控訴人とP2との間で明確に文書化されることがなかったとしても、被控訴人の設立に当たって本件利用許諾契約が成立したと認定することができる。

また、Xは、仮に許諾があったとしても無期限・無制限のものと解するのは不合理であるなどと主張しましたが、裁判所は、次のとおり述べ、この許諾が一定の限定を伴うものであることを示しつつ、Y社の利用はその範囲内であるとしました。

本件利用許諾契約は、被控訴人がYG性格検査に関する事業を行うために昭和41年用紙を利用する必要がある期間において、その事業のための利用といえる範囲で、その利用を許諾するというものであって、期間においても範囲においても限定が付いており、無期限でも無制限でもない。

そして、裁判所は、被告各用紙が昭和41年用紙を複製したものであることを踏まえ、次のとおり結論付けました。

本件利用許諾契約をもって、昭和41年用紙の利用を許諾したことにより、被控訴人は、被告各用紙の発行、販売、頒布をすることができる。

以上より、大阪高裁は、Xの請求は理由がないとして、控訴を棄却しました。

コメント

1 本判決の意義

本判決は、著作権を相続によって取得した共有者であっても、創作者が生前に会社に与えていた利用許諾の効力に拘束され、会社による利用を差し止めることができない場合があることを示したものです。契約書のないまま著作物の利用が続けられていた事案において、黙示の利用許諾の成立を認めた点や、その許諾の範囲を事業遂行に必要な限度で画した点は、実務上参考になります。

2 著作権を「保有すること」と「行使できること」は別であること

本判決で注目されるのは、Xが著作権の共有者であること自体は認められたにもかかわらず、その権利行使(差止め等)が認められなかったという点です。著作権を保有していても、その著作物について有効な利用許諾が存在する場合には、許諾を受けた者に対して権利を行使することはできません。自社が他者の著作物を利用する場面でも、逆に自社の著作物を他者に利用させる場面でも、権利の帰属そのものと、利用許諾によってその行使がどこまで制約されるかは、分けて整理して考える必要があります。

また、原審(大阪地裁令和元年12月23日判決)は、Y社が「遺言によって著作権を取得した」と主張したのに対し、Aの遺言を、①YG性格検査の出版による「印税」(金銭債権としての印税債権)、②「YG性格検査に関連する著作物(手引き、テープ等)に関する財産権」(有体物である著作物そのものの所有権)、③心理テストに関する「著作権」(知的財産権)の3つに区別して解釈し、本件著作権そのものについては遺言に定めがないと判断しました。「著作権」という権利、「著作物という物」の所有権、「印税を受け取る権利」は、いずれも別個のものです。これらは混同されやすいものですが、契約や遺言で権利関係を定める際には、どの権利について定めているのかを明確に区別しておくことが重要です。

3 黙示の利用許諾と無償許諾について

本判決は、契約書等の書面がない場合であっても、当事者の関係や事業の実態を踏まえて、黙示の利用許諾契約の成立を認め得ることを示しています。本件では、著作物の利用が会社の事業に不可欠であったことや、創作者と当時の会社代表者との関係などが考慮されました。もっとも、書面がないために、許諾の有無や範囲をめぐって長期の紛争に至った点は見過ごせません。著作物の利用関係は、口頭の了解や事実上の運用に委ねるのではなく、許諾の範囲・期間・対価の有無などを書面で明確にしておくことが、後日の紛争を防ぐ観点から望まれます。

なお、本件では、Y社がAに対して監査役報酬(月額10万円)を支払っていたところ、Xは、これに昭和41年用紙の使用料や監修の対価が含まれると主張しました。しかし、原審は、この報酬が助言・監修の程度や用紙の利用数量に応じて変動するものではなく、額も定額であったことなどから、使用料ではなく、事業の創始者に対する顧問料ないし生活費用の保障といった意味合いの支払であると判断し、利用許諾が無償であったことを裏付けました。金銭の授受があったとしても、その支払の性質によっては、著作物の利用許諾は無償と評価され得ます。後にその趣旨が争われることのないよう、支払の目的を明確にしておくことが望まれます。

4 黙示の利用許諾の有無・範囲は個別の事情によること

本件で参考になるのは、同じ著作者・同じ会社の間であっても、対象となる用紙が異なれば結論が分かれ得るという点です。本件に先立ち、Aの相続人の一人が、Y社に対し、本件とは別のYG性格検査用紙の発行等が著作権を侵害するとして訴えを起こしていました(別訴)。この別訴では、裁判所は、AがY社にその用紙の発行等を許諾していたとは認められないと判断しています。一方、本件の被告各用紙については、利用許諾が認められました。両者で結論が分かれた背景には、別訴の対象用紙には相続人が異議を述べていたのに対し、本件の被告各用紙にはそのような異議が述べられていなかったという、当事者の実際の対応の違いがあります。黙示の利用許諾が認められるか、また、その範囲がどこまで及ぶかは、対象となる著作物や製品、当事者の具体的な行動によって個別に判断されることを示すものといえます。

5 相続人に及ぶ利用許諾の効力について

本判決は、創作者が生前に与えた利用許諾の効力が、著作権を相続した相続人にも及ぶことを前提としています。相続人は、著作権を承継すると同時に、その著作権に付随する利用許諾等の負担も引き継ぐことになります。著作物を保有する個人から事業を承継する場合や、著作権を相続する立場になった場合には、その著作物について既にどのような利用許諾がされているかを確認しておくことが重要です。

6 企業に求められる対応

以上を踏まえると、企業には次のような対応が求められます。

(1)著作物の利用条件を書面で明確にする

創業者や社内の中心人物が創作した著作物を会社が利用している場合には、その利用について、許諾の範囲・期間・対価の有無等を明記した書面を整えておくことが望まれます。本件のように、書面がないまま利用が続けられると、許諾の有無や範囲をめぐって後日の紛争を招くおそれがあります。

(2)「権利の帰属」と「利用許諾」を区別して整理する

著作権が誰に帰属するかという問題と、その著作物の利用がどのような条件で許諾されているかという問題は、別個のものです。両者を区別し、それぞれについて権利関係を整理しておくことが望まれます。あわせて、著作権・著作物(有体物)・印税債権といった各権利の違いにも留意する必要があります。

(3)事業承継・相続を見据えて権利関係を明確化する

創作者の死亡や事業承継が生じ得ることを見据え、相続人との間で利用関係が問題とならないよう、あらかじめ権利関係を明確化しておくことが望まれます。利用許諾の効力は相続人にも及び得る一方、相続人の対応いかんによって利用関係の評価が変わり得ることにも注意が必要です。

著作物の利用許諾をめぐる評価は、当事者の関係や事業の実態など個別の事情に大きく左右されるため、具体的な対応を検討する際には、専門家の助言を得ることが有用です。

おわりに

著作権の帰属や利用許諾をめぐる紛争は、当事者間の関係や事業の実態に関する事実認定と法的評価が密接に関わり合う分野であり、弁護士に相談することが有益です。当事務所では、著作権に関するご相談や、著作物の利用許諾・権利関係の整理についてのご依頼を承っております。同様の問題でお困りの際は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。