はじめに
アプリケーションやWebサービスを開発・運用する事業者にとって、自社サービスのUI(ユーザーインターフェース)や画面構成が模倣された場合、どのように権利を守ることができるのでしょうか。画面に表示される「カテゴリー名」の選択や配列が、著作権法の保護対象となる「編集著作物」に該当するのでしょうか。
今回のコラムで紹介する東京地裁令和2年3月19日判決(LINEマーケティングツール開発事件)は、LINE@を利用した集客・マーケティング支援ツールの開発・販売事業者が、競合他社の類似ツールに対し、自社ツールの画面に表示される「カテゴリー名」の選択及び配列が編集著作物に該当するとして、差止め及び損害賠償を請求した事案です。
裁判所は、カテゴリー名は編集物の「素材」には該当せず、仮に素材該当性を認めたとしても、カテゴリー名の選択及び配列はありふれており創作性が認められないとして、原告の請求をいずれも棄却しました。
上記東京地裁判決は、ソフトウェアやアプリケーションのUI・画面構成が著作権法によってどの範囲まで保護されるかを検討する上で参考となる事例です。
事案の概要
本件は、インターネットを利用した各種サービスを提供する原告が、同様にインターネットを利用した各種サービスを提供する被告(株式会社及びその代表取締役)に対し、被告が原告商品「Linect」に依拠して被告商品(LINE@マーケティングツール)を製作・販売した行為が、原告の著作権(複製権、送信可能化権、公衆送信権)を侵害するとして、被告商品の複製・送信可能化・公衆送信の差止め、被告商品の廃棄、連帯して2376万円の損害賠償を求めた事案です。
原告商品及び被告商品は、いずれもLINE@を利用した集客・マーケティングを効果的に行うためのツールであり、パソコン等で操作して利用するものです。原告商品の表示画面は、「親カテゴリー」「大カテゴリー」「中カテゴリー」「小カテゴリー」の4段階の階層構造となっており、被告商品の表示画面も4段階の階層構造となっています。
原告は、原告商品のパソコン等の画面に表示される親カテゴリーから小カテゴリーに至る各カテゴリー名を「素材」とし、その選択及び配列に創作性が認められるとして、原告商品が編集著作物(著作権法12条1項)に該当すると主張しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 争点 |
|---|---|
| 争点① | 原告商品の編集著作物(著作権法12条1項)該当性 |
| 争点② | 被告商品の依拠性・類似性 |
| 争点③ | 被告会社の故意・過失の有無 |
| 争点④ | 被告代表者の悪意・重過失による任務懈怠の有無 |
| 争点⑤ | 損害の有無及び額 |
裁判所の判断
争点① 原告商品の編集著作物(著作権法12条1項)該当性について
裁判所は、原告商品が「カテゴリー名」を素材とする編集著作物には該当せず、仮にカテゴリー名が素材に当たるとしても、その選択及び配列に創作性は認められないと判断し、原告の請求をいずれも棄却しました。
なお、裁判所は、争点①について原告商品の編集著作物性を否定したため、その余の争点(争点②ないし争点⑤)については判断していません。
裁判所は、まず、原告商品におけるカテゴリー名の表示態様を認定した上で、カテゴリー名は編集物の「素材」には該当しないと判断しました。
原告商品は、パソコン等において各種の確認や作業等を行うことができるものであり、その確認、作業等を行ったりするためにパソコン等において、様々な内容が表示される複数の画面を表示することができるものである。(中略)このような原告商品とそこにおけるカテゴリー名の使用の態様に照らせば、これらの「カテゴリー名」は、原告商品の異なる画面において、他にも多くの記載がある画面の表示の一部として表示されるものであって、原告商品をもって、「カテゴリー名」を「素材」として構成される編集物であるとはいえない。
次に、裁判所は、原告の主張が実質的には「機能やその階層構造」を保護することを求めるものであるとして、以下のとおり判示し、原告商品における各カテゴリー名の選択・配列は、アイディアやその階層構造を主張するに等しいと指摘しました。
原告商品の各画面は、そのカテゴリー名に対応する機能を実現するために表示されるものである。そうすると、原告商品における各カテゴリー名と各画面の表示との関係は、何らかの素材をカテゴリー名やその階層構造に基づいて選択、配列したというものではなく、カテゴリー名に対応する機能を実現するための画面の表示があるといえるものである。(中略)それらの選択と配列が共通しているとの主張は、結局、ある商品において採用された機能やその機能の階層構造が共通していると主張しているのに等しい部分がある。ある商品においてどのような機能を採用するかやその機能をどのような階層構造とするか自体は、編集著作物として保護される対象となるものではない。
さらに、裁判所は、仮にカテゴリー名自体を検討するとしても、カテゴリー名の選択及び配列はありふれたものであり、創作性が認められないと判断しました。
具体的には、以下の他社商品の存在等を考慮し、原告商品の各カテゴリー名はありふれたものであると認定しました。
| 番号 | 考慮事実 |
|---|---|
| 1 | 原告商品と同様にLINE@を利用した集客・マーケティング支援ツールである「LINESTEP」の表示画面には、「1対1トーク」「メッセージ」「友だち属性」「統計情報」「コンテンツ」「LINE@設定」「サポート」等のカテゴリーが設けられ、「メッセージ」の下には「シナリオ配信」「一斉配信」「自動応答」「テンプレート」「回答フォーム」等のカテゴリーが設けられていること |
| 2 | 他社商品「Liny」の表示画面にも、「1対1トーク」「メッセージ」「友だち属性」「統計情報」「コンテンツ」等のカテゴリーが設けられ、原告商品と類似する下位カテゴリーが設けられていること |
| 3 | 他社商品「next」の表示画面にも、「1対1トーク」「メッセージ」「友だち属性」「分析機能」「コンテンツ」等のカテゴリーが設けられていること |
| 4 | 原告商品の「メッセージ」「統計情報」というカテゴリー名は他社商品でも用いられているほか、「メッセージ」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名や「統計情報」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名と同一ないし類似したカテゴリー名が他社商品においても用いられていること |
その上で、裁判所は、カテゴリー名の選択及び配列の創作性について、以下のとおり判示しました。
LINE@を用いた集客、マーケティング支援ツールという原告商品においてどのような機能を実装するかはアイディアに過ぎず、それ自体は著作権法の保護の対象になるものではない。そして、「素材」たる各カテゴリーの名称の選択についてみると、上記のような原告商品の性質上、各カテゴリーに付す名称は、各カテゴリーが果たす機能を一般化・抽象化し、ユーザーにとって容易に理解可能なものとする必要があるため、その選択の幅は自ずと限定される。そのような視点で選択された原告商品の各カテゴリー名は、それ自体をみてもありふれたものであり(中略)カテゴリー名の選択としてはありふれたものである。
また、カテゴリー名の配列についても、以下のとおり判示し、創作性を否定しました。
ユーザーによる操作や理解を容易にするという観点から、実装した機能の中から関連する機能を取りまとめて上位階層のカテゴリーを設定し、機能の重要性や機能同士の関連性に応じて順次下位の階層にカテゴリー分けをしていくというのは通常の手法であり、原告商品の各カテゴリー名の配列は、複数の選択肢の中から選択されたものではあるものの、ありふれたものというべきである。
以上より、裁判所は、原告商品は「カテゴリー名」を素材とする編集著作物であるとは認められず、また、カテゴリーの名称や配列についても著作権法上の創作性があるとは認められないとして、原告の請求をいずれも棄却しました。
コメント
1 本判決の実務上の意義
本判決は、アプリケーションやWebサービスのUI・画面構成の著作権法による保護の限界について、以下のような実務上の意義を有します。
(1)UI・画面構成の「素材」該当性に関する限定的な解釈
本判決は、パソコン等の画面に表示されるカテゴリー名について、画面の表示の一部として表示されるものに過ぎず、「素材」として構成される編集物とはいえないと判断しました。
アプリケーションやWebサービスの画面構成について編集著作物性を主張する場合には、当該構成要素が独立した「素材」として位置づけられるかという点が問題となります。本判決は、画面表示の一要素に過ぎない名称を「素材」として主張する構成は採用されにくいことを示した点で参考になります。
(2)機能・アイディアと表現の峻別
本判決は、「ある商品においてどのような機能を採用するかやその機能をどのような階層構造とするか自体は、編集著作物として保護される対象となるものではない」と明示しました。
ソフトウェアの機能やその階層構造は、著作権法上、アイディアに属するものであり、保護の対象とはなりません。開発者が時間と労力をかけて構築した機能体系であっても、それ自体は競合他社が自由に採用できるものであることを改めて確認した点に本判決の意義があります。
(3)ありふれた表現の創作性の否定
本判決は、カテゴリー名の選択について、「各カテゴリーが果たす機能を一般化・抽象化し、ユーザーにとって容易に理解可能なものとする必要があるため、その選択の幅は自ずと限定される」として、選択肢の幅が限定的であることを理由に創作性を否定しました。
ユーザビリティを重視する商品設計においては、機能を直感的に理解させるための名称選択が求められるため、結果としてカテゴリー名がありふれたものになりやすい構造があります。このような商品について著作権法による保護を期待することには慎重であるべきことを示しています。
(4)競合他社商品との比較による創作性の判断
本判決は、原告商品のカテゴリー名及びその階層構造について、他社商品のカテゴリー名及び階層構造との類似性を具体的に検討した上で、ありふれたものであると認定しました。
編集著作物の創作性の判断にあたっては、同種商品における慣行的な表現との比較が考慮されることを示しており、著作権侵害を主張する側は、自社商品の独自性を他社商品との比較を踏まえて具体的に立証する必要があります。
2 企業等に求められる対応
本判決を踏まえると、ソフトウェアやアプリケーションを開発・運用する事業者においては、以下の点に留意する必要があります。
(1)多層的な知的財産戦略の構築
アプリケーションのUIや画面構成については、著作権法による保護の範囲が限定的であることを前提に、不正競争防止法上の形態模倣規制、商標権、意匠権(画面デザインの意匠登録)、特許権(ビジネスモデル特許)など、他の知的財産法による多層的な保護を検討する必要があります。
特に、ソフトウェアのUIについては、画像意匠制度を活用した権利化が選択肢となります。本判決が示すとおり、著作権法の保護対象とならないソフトウェアの機能やアイディアについても、特許権等を活用できないか多角的に検討することが有益です。
(2)開発委託契約における工夫
自社商品の独自性を確保するためには、開発委託先との契約における工夫が有効です。秘密保持条項、競業避止条項、成果物の利用制限条項等を適切に設計し、自社の技術・ノウハウの流出を防ぐ必要があります。
本件のように、原告商品及び被告商品がいずれも外部のプログラマーに開発を委託していた事案では、委託先からの情報漏洩や類似商品の開発への関与が問題となる可能性があるため、契約段階での予防的な対応が重要となります。
(3)プログラムの著作物としての保護の検討
プログラムそのものの著作権(プログラムの著作物)については本判決では判断されていませんが、プログラムの著作物として保護を求める場合には、ソースコードの同一性や類似性を具体的に主張立証する必要があります。編集著作物としての保護を主張することに留まらず、プログラムの著作物としての保護の可能性も併せて検討することが望まれます。
(4)自社商品の独自性の具体的な立証
編集著作物として保護を求める場合には、自社商品のどの部分が「素材」に該当し、その選択・配列のどこに創作性があるのかを、同種商品における慣行的な表現との比較を踏まえて具体的に立証する必要があります。単に「時間と労力をかけて開発した」という事情だけでは、創作性は認められません。侵害主張にあたっては、事前に他社商品との比較検討を行い、立証の可能性を見極めておくことが肝要です。
おわりに
ソフトウェアやアプリケーションのUI・画面構成、機能・階層構造、プログラムの保護については、著作権法、不正競争防止法、意匠法、特許法など複数の法領域が関係する複雑な論点であり、事案ごとに適切な戦略を検討する必要があります。
また、自社商品の模倣被害に直面した場合や、自社商品の開発にあたって他社の権利侵害のリスクを回避したい場合、開発委託契約の内容に不安がある場合など、実務上の問題は多岐にわたります。
当事務所では、ソフトウェア・アプリケーションの開発・運用に関する知的財産権の保護、開発委託契約の作成・レビュー、侵害対応(差止請求・損害賠償請求)、侵害予防のための助言など、この分野の相談・ご依頼を幅広く承っております。
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