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LINEスタンプのキャラクターと著作権侵害(東京地裁令和2年10月14日判決)

LINEスタンプやSNS向けのキャラクターイラストが広く普及する中、「自分のキャラクターが他人に模倣されたのではないか」というご相談を受けることがあります。

今回のコラムでは、漫画「Mr. BEAK」の作者が、LINEスタンプ「うるせぇトリ」の作者に対して著作権侵害を主張した東京地裁令和2年10月14日判決を取り上げます。

本判決は、キャラクターイラストの著作権の保護範囲や、類似するキャラクター間で著作権侵害が成立するための要件について、判断を示しており、クリエイターの方やコンテンツビジネスに従事される方にとって、実務上、参考となる裁判例です。

事案の概要

原告Xは、平成16年11月から株式会社リクルートホールディングスの発行する雑誌「FromA」に連載された漫画「Mr. BEAK」の作者です。原告漫画には、同名のキャラクター(原告キャラクター)が登場します。

被告Yは、mame&coのペンネームで「うるせぇトリ」と題するキャラクター(被告キャラクター)を用いたイラストの作者であり、LINEのクリエイターズスタンプとして販売するほか、被告作品を使用したグッズを販売していました。

原告は、被告キャラクターが原告キャラクターの著作権(複製権・翻案権、公衆送信権及び譲渡権)並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するなどと主張し、差止め、廃棄及び損害賠償として合計1892万円の支払等を求めました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか
争点②原告の損害額

裁判所の判断

争点① 被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるかについて

裁判所は、まず、複製及び翻案の一般的な判断枠組みを示しました。

「著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して作成又は創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないというべきである。」

(1)原告キャラクターの特徴とその創作性

裁判所は、原告キャラクターの表現上の特徴として、以下の点を認定しました。

特徴番号原告キャラクターの表現上の特徴
特徴①頭部は髪がなく半楕円形である
特徴②目は小さい黒点で顔の外側に広く離して配されている
特徴③上下に分かれたくちばし部分はいずれも厚くオレンジ色であり、上下のくちばしから構成される口は横に大きく広がっている
特徴④体は黄色く、顔部分と下半身部分との明確な区別はなく寸胴である
特徴⑤手足は先細の棒状である

その上で、裁判所は、これらの特徴の個々がいずれもありふれた表現であることを、他の著名なキャラクターとの比較により認定しました。具体的な比較は、以下のとおりです。

原告キャラクターの特徴共通する既存キャラクター
髪を描かず頭部を半楕円形で描く点エリザベス(銀魂)、タキシードサム
目を小さい黒点のみで描く点タキシードサム、アフロ犬、ハローキティ、にゃんにゃんにゃんこ、ライトン
口唇部分を全体的に厚く、口を横に大きく描く点おばけのQ太郎
顔部分と下半身部分を明確に区別せずに寸胴に描き、手足を先細の棒状に描く点おばけのQ太郎、エリザベス

この認定を踏まえ、裁判所は、以下のとおり判示しました。

「原告作品は、上記の特徴を組み合わせて表現した点にその創作性があるものと認められるものの、原告作品に描かれているような単純化されたキャラクターが、人が日常的にする表情をし、又はポーズをとる様子を描く場合、その表現の幅が限定されることからすると、原告作品が著作物として保護される範囲も、このような原告作品の内容・性質等に照らし、狭い範囲にとどまるものというべきである。」

(2)個別の作品対比における判断

裁判所は、原告作品と被告作品の合計22組の対比を行い、いずれについても、複製にも翻案にも当たらないと判断しました。

裁判所が各作品の対比において共通して指摘した相違点(「作品に共通する相違点」)は、以下のとおりです。

比較項目原告キャラクター被告キャラクター
体色黄色白色
両目の位置小さめの黒点で顔の外側付近に広く離して配置顔の中心に近い位置に多少大きめの黒点で配置
くちばしの色オレンジ色黄色
くちばしの形状たらこのように厚い厚みが薄く、横幅も狭い

さらに、各作品の対比においては、キャラクターの姿勢、表情、持ち物、セリフ、背景描写など、具体的な表現において大きな相違があることが認定されました。

例えば、被告作品1(黒色パーマ様の髪が描かれたキャラクター)と原告作品1の対比においては、裁判所は、両作品の共通点について、以下のとおり判示しました。

「両作品は、ほぼ正面を向いて立つキャラクターにつき、目を黒点のみで描いている点、くちばしと肌の色を明確に区別できるように描いている点、顔部分と下半身部分とを明確に区別せずに描いている点、胴体部分に比して手足を短く描いている点のほか、黒色パーマ様の髪が描かれている点において共通するが、黒色パーマ様の髪型を描くこと自体はアイデアにすぎない上、その余の共通点は、いずれも擬人化されたキャラクターにおいてはありふれた表現であると認められる。」

その上で、裁判所は、具体的な表現の相違について、以下のとおり判示しました。

「原告作品1-1では、キャラクターが、いわゆるおばさんパーマ状の髪型(毛量は体の約5分の1程度で、への字型の形状をし、眉毛も見えている。)をして、口を開け、左手を上下に大きく振りながら、表情豊かに相手に話しかけているかのような様子が表現されているのに対し、被告作品1-1では、いわゆるアフロヘアー風のこんもりとした髪がキャラクターの体全体の半分程度を占めるなど、その髪型が強調され、キャラクターの表情や手足の描写にはさしたる特徴がないなどの相違点があり、その具体的な表現は大きく異なっている。」

「以上のとおり、両作品は、アイデア又はありふれた表現において共通するにすぎず、具体的な表現においても上記のとおりの相違点があることにも照らすと、被告作品1-1から原告作品1-1の本質的特徴を感得することはできないというべきである。」

(3)作品2以降の対比に共通する判断枠組み

裁判所は、作品2以降の対比においても、上記の被告作品1に関する判断と同様の枠組みを用いました。各対比において裁判所が共通して認定した事項を整理すると、以下のとおりです。

ア 共通点に関する判断

裁判所は、各対比において両作品に共通する要素を、(a)アイデアにすぎないもの、(b)ありふれた表現にすぎないもの、の2つに分類し、いずれも著作権法上の保護の対象とならないと判断しました。各作品で原告が主張した共通点と、裁判所の判断は、以下のとおりです。

対比作品原告が主張した共通点裁判所の判断
作品2サツマイモを食べているサツマイモを食べる様子を描くこと自体はアイデアにすぎない
作品3頬を膨らませて物を食べている頬が食べ物で膨らむ様子を描くことはありふれた表現である
作品4リーゼントヘアーを描いているリーゼントヘアーの頭髪を描くこと自体はアイデアにすぎない
作品5頭上に小さなキャラクターがしがみついている頭上に小さなキャラクターを配置すること自体はアイデアにすぎない
作品6腕を組んでいる腕を組むポーズはエリザベスにも見られるありふれた表現である
作品7お辞儀をしているお辞儀をする様子を描くこと自体はありふれた表現である
作品8白いワイシャツに赤いネクタイ、グレーのズボン着衣等の色や組合せはありふれた表現である
作品13くちばしの下に蝶ネクタイを着用している蝶ネクタイを着用させること自体はアイデアにすぎない
作品14目玉が飛び出し口を大きく開けている驚きの表現としてありふれた表現である
作品15アザラシのような格好で横たわっている足をすぼめて横たわる姿で脱力感を表現することはありふれた表現である
作品20角をはやした牛の着ぐるみを着ている牛の着ぐるみを着せること自体はアイデアにすぎない
作品21片方の耳を極端に大きく描いている聞き耳を立てるために片方の耳を大きく描くこと自体はアイデアにすぎない
作品22がま口財布を開けて中身が空である様子口の開いた財布を下に向けて振る様子を描くこと自体はアイデアにすぎない

イ 表現の選択の幅に関する判断

裁判所は、日常的なポーズや表情を描く場合には、表現の選択の幅が狭くならざるを得ないことを繰り返し指摘しました。裁判所がこの点を指摘した作品と、その内容は、以下のとおりです。

対比作品裁判所が指摘したポーズ・表情裁判所の判断
作品6腕を組むポーズ腕の長さの設定等により表現が自ずと制約される
作品7お辞儀をするポーズ日常的にごくありふれたポーズであり表現の選択の幅は狭い
作品10片手を上げるポーズごくありふれたポーズであり表現の選択の幅は狭い
作品11両手を上げるポーズごくありふれたポーズでありよく似た表現にならざるを得ない
作品14驚いた顔の表情顔面の表情のみを描く場合、表現の幅は更に狭い
作品17うつ伏せに横たわるポーズ日常においてよく見られるありふれたポーズである
作品18両掌を上に向けて腕を上げるポーズ日常においてよく見られるありふれたポーズである
作品19口を開けるポーズ日常においてよく見られるありふれた表情である

ウ 結論

裁判所は、22組すべての対比について、共通する部分はアイデア又はありふれた表現にとどまり、具体的な表現においては相違点があるとして、被告作品から原告作品の表現上の本質的特徴を感得することはできないと結論付けました。

以上の検討により、裁判所は、被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるとは認められないとし、争点②(損害額)について判断するまでもなく、原告の請求をすべて棄却しました。

コメント

1. 本判決の意義

本判決は、LINEスタンプなどのキャラクターイラストの著作権の保護範囲について、以下の重要な判断を示しました。

第一に、擬人化されたキャラクターの個々の特徴(髪がない、目が黒点、寸胴体型など)は、それぞれ他の著名なキャラクターにも見られるありふれた表現であり、個々の特徴単独では著作権による保護を受けないということです。

第二に、そうした特徴の「組み合わせ」に創作性が認められる場合であっても、単純化されたキャラクターが日常的な表情やポーズをとる場面を描く場合には、表現の選択の幅が限定されるため、著作物として保護される範囲は狭くなるということです。

第三に、保護範囲が狭い著作物については、具体的な表現における相違がある限り、共通点がアイデアやありふれた表現にとどまる場合には、複製にも翻案にも当たらないということです。

2. 本判決から読み取れる訴訟における立証活動の重要性

本判決の結論は、両キャラクターの具体的な表現の相違という事実に基づくものですが、判決文からは、被告側の訴訟における立証活動が裁判所の判断に影響を与えたことも読み取れます。

(1)既存キャラクターとの体系的な比較立証

本判決において、裁判所が原告キャラクターの個々の特徴を「ありふれた表現」と認定するにあたっては、被告が提出した別紙6「対比キャラクター」が重要な役割を果たしています。被告は、エリザベス(銀魂)、タキシードサム、おばけのQ太郎、ハローキティ、アフロ犬等の著名キャラクターを網羅的に証拠として提出し、原告キャラクターの各特徴が他のキャラクターにも見られることを視覚的に示しました。裁判所は、各特徴がありふれた表現であることを認定する際、この別紙6を繰り返し引用しています。個々の特徴が「ありふれている」という抽象的な主張にとどめず、具体的な既存キャラクターを提示して裁判所を説得した点は、著作権侵害訴訟における防御の手法として参考になります。

(2)原告が主張するキャラクターの特徴の再定義

被告は、原告が主張した特徴①〜⑤をそのまま受け入れるのではなく、より精緻に再定義した特徴①'〜⑤'を対置しました。例えば、原告が「頭部を半楕円形で描いている」(特徴①)と主張したのに対し、被告は「頭頂部がほとんど平らで扁平な半楕円形で描いている」(特徴①')と再定義しました。この再定義により、被告キャラクターの頭部が「きれいな半円形」である点との相違が明確になっています。このように、相手方の主張する特徴を漫然と認めるのではなく、より正確に特徴を捉え直すことで、相違点を浮き彫りにするという手法は、類似性が争われる事案における有効な防御方法といえます。

(3)数値を用いた具体的な差異の立証

被告は、手足の長さについて、体長に対する比率(手が体長の33%、足が体長の19%など)を数値化して主張しました。これにより、原告の「手足が極端に短い」という抽象的な主張に対し、客観的なデータに基づく反論を行っています。キャラクターの類似性の議論は、往々にして主観的な印象論に陥りやすい面がありますが、定量的な立証を行うことで、裁判所に対してより説得力のある主張を展開することが可能になります。

3. キャラクタービジネスに関わる企業・クリエイターが留意すべきポイント

本判決の判断枠組み及び上記の訴訟活動の分析を踏まえると、キャラクタービジネスに関わる企業やクリエイターには、以下のような実務上の留意点があると考えられます。

(1)自社キャラクターの保護を強化する観点から

シンプルなキャラクターは、著作権による保護範囲が狭くなる傾向があります。そのため、著作権のみに依拠した保護には限界があります。キャラクターの保護を強化するためには、商標登録や意匠登録といった知的財産権の取得を並行して検討することが有用です。

(2)他社キャラクターとの類似性に関するリスク管理の観点から

本判決では、原告の請求が棄却されましたが、これはあらゆる類似キャラクターの使用が許容されることを意味するものではありません。具体的な表現において既存のキャラクターとの類似性が高い場合には、著作権侵害が認められる可能性は残ります。新たなキャラクターを制作する際には、既存の著作物との関係を事前に確認し、具体的な表現レベルでの類似を避けることが重要です。

(3)紛争発生時の証拠確保の観点から

本判決では、原告作品の一部について、公表されたことを認めるに足りる証拠がないとして、イラスト全体が対比の対象とならなかった場面がありました。自社の著作物については、創作日や公表日を客観的に記録・保管しておくことが、万一の紛争時に備えるために重要です。

(4)著作権侵害を主張する場合・主張された場合の訴訟対応の観点から

本判決の被告側の訴訟活動が示すように、著作権侵害の成否は、当事者がどのような証拠を提出し、どのような主張を組み立てるかによって、結論が左右される可能性があります。著作権侵害を主張する側は、共通点が「アイデア」や「ありふれた表現」と評価されないよう、具体的な表現レベルでの同一性を丁寧に主張・立証する必要があります。

他方、著作権侵害を主張された側は、本判決の被告のように、既存の著作物との比較による「ありふれた表現」の立証、相手方が主張する特徴の精緻な再定義、定量的なデータを用いた相違点の立証など、多角的な防御を行うことが有効です。

いずれの立場においても、著作権侵害の成否に関する見通しを早期に立てた上で、適切な訴訟戦略を構築することが重要であり、専門家への早期の相談が推奨されます。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。