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防犯カメラ映像と間接事実の総合評価による犯人性の認定(大阪高裁令和5年7月7日判決:刑事弁護)

はじめに

店舗への侵入窃盗が発生したとき、防犯カメラの映像は有力な証拠となります。しかし、防犯カメラに映った人物が被告人と同一人物かどうか(犯人性)の判断は、必ずしも単純ではありません。

本件は、夜間に鍵を使って店舗のシャッターを開錠し、現金を窃取したという常習特殊窃盗の事案です。第1審(神戸地方裁判所尼崎支部)は、防犯カメラに映る人物と被告人との外見の類似性は認めつつも、推認力は十分でないとして被告人を無罪としました。

しかし、大阪高等裁判所は、第1審が重要な間接事実の評価を誤ったとして原判決を破棄し、被告人を有罪としました。

今回のコラムでは、上記大阪高裁判決について、概要を紹介いたします。

事案の概要

被告人は、令和3年5月4日午前2時頃、兵庫県明石市内のビル1階に入居する洋菓子店(本件店舗)に、所携の鍵を使って東側出入口シャッターの施錠を外して侵入し、店内に保管されていた現金約19万9000円を窃取したとして、常習特殊窃盗罪(盗犯等の防止及び処分に関する法律2条3号・4号)で起訴されました。

本件では、犯行を直接目撃した証人はおらず、被告人方付近・被害店舗付近・各駅構内等に設置された複数の防犯カメラ・監視カメラの映像がもっぱら間接証拠として用いられました。映像には以下の人物が記録されていました。

時間帯場所映像に記録された人物の状況
犯行前日の夕方被告人方付近・最寄り駅被告人方を出て最寄り駅に向かう人物
犯行前日の深夜複数の駅構内電車を乗り継いで被害店舗の最寄り駅(JR丁駅)に到着した人物(「〈イ〉の人物」)
犯行時刻前後(午前2時頃)被害店舗付近被害店舗付近をうろつき、店内に侵入・退出する人物(犯人)
犯行の約2時間半後山陽戊駅(被害店舗から直線距離約2.6km)駅に現れ、始発電車に乗った人物
犯行当日の朝被告人方近くの駅・被告人方駅の改札を出て被告人方に入っていく人物

原審は、事件性は認めたものの犯人性については合理的な疑いが残るとして被告人を無罪としました。これに対し、検察官は事実誤認を理由に控訴し、大阪高等裁判所は、以下のとおり、原審を破棄し、被告人を懲役3年に処しました(なお、被告人は上告しましたが、最高裁で上告棄却決定がされ、有罪が確定しています)。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容第1審の判断控訴審の判断
争点①防犯カメラ映像に映る人物と被告人との外見の類似性の推認力相当程度推認されるが、推認の程度は強固でなく同一人物と断定できない着衣等の特徴・着用状況が具体的に整合しており、全体として相当よく整合していると評価
争点②各人物の間の時間的・場所的離隔が犯人性の推認に与える影響空白時間や場所的離隔があり、同一人物と断定できない消極的事情離隔はそれほど大きくないか合理的に説明でき、推認力を減じない
争点③被告人が犯行の2時間半余り後に被害店舗付近の駅から始発電車で帰宅した事実の評価犯人性の判断において検討・考慮せず犯人性を一定程度推認させる間接事実として積極的に評価
争点④解錠できる鍵を所持していた事実の評価錠の構造が簡単であり、推認力は限定的被告人が本件犯行を実行可能であったことを示す事情として考慮
争点⑤間接事実の総合評価(犯人性の立証水準の充足)各間接事実を総合しても合理的な疑いを差し挟む余地がある間接事実の総合評価により、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証に達している

裁判所の判断

1 外見の類似性の評価(争点①)

大阪高裁は、第1審が外見の類似性について具体的な検討を怠った結果、推認力を過小評価していると指摘しました。

控訴審では、写真(静止画像)だけでなく、防犯カメラ・監視カメラの映像自体を取り調べ、着衣等の細部について以下のような具体的な検討を行いました。

着衣・持ち物押収物の特徴防犯カメラ映像上の確認内容
黒色キャップ帽つばの直近の左前部に「Kappa」と横長の白色縁取りの黒字模様が入っており、アジャスターの先端が長く余っている被告人・犯人のいずれの映像にも同様の模様と紐の飛び出しが確認できる
灰色ショルダーバッグベルトが黒色でバックル付き被告人・犯人のいずれも右肩からたすき掛けにしており、特徴が一致する
茶色系スニーカーミッドソールが白色被告人・犯人のいずれの映像にも同様の特徴が確認できる
黒色パーカー前面中央に白色の図柄があり、その上下に白色アルファベット文字(ショルダーバッグのベルトに一部隠れて判読不明)被告人・犯人のいずれの映像にも同様の特徴が確認できる

これらを踏まえ、大阪高裁は次のように判示しています。

「被告人と犯人及び〈イ〉の人物の外見は、検察官が事実取調べ請求をした、各人物の身体的特徴及び衣服の異同識別に関する鑑定書(当審検1)を取り調べるまでもなく、相当よく整合していると評価できる。」

2 犯行後に被害店舗付近の駅から帰宅した事実の評価(争点③)

大阪高裁が第1審判決の誤りとして特に重視したのが、「被告人が犯行の2時間半余り後に被害店舗から約2.6kmの山陽戊駅から始発電車で帰宅した」という事実を犯人性の判断において考慮しなかった点です。

この点について、大阪高裁は次のように判示しています。

「その時間帯や自宅から離れた地方の駅付近という場所からして、被告人が、本件犯行とは無関係の事情で同所を訪れたことは想定し難いことをも踏まえると、この事実も、被告人が犯人であることを一定程度推認させるものといえる。」

3 時間的・場所的離隔の評価(争点②)

第1審は、各防犯カメラ映像に映る人物の間に空白時間や場所的隔たりがあることを、同一人物と断定できない理由として挙げていました。

しかし、大阪高裁は、この評価には相当でない部分があると指摘しました。

たとえば、犯人が店舗を立ち去ってから被告人が山陽戊駅に現れるまでの約2時間半の空白については、次のように述べています。

「公共交通機関も動いていない未明の時間帯と、兵庫県明石市内という場所に照らして、周辺に人通りが多かったとは考え難く、被告人と外見がよく整合する第三者がたまたま居合わせて本件犯行に及んだとは考えにくい。加えて、本件犯行は未明の時間帯に敢行されており、防犯カメラ等の映像に映っている犯人が徒歩で移動していることに照らすと、犯人が、本件犯行後、被害店舗周辺で過ごした上で、付近の駅からの始発電車で移動したとしても何ら不自然ではない。」

4 間接事実の総合評価と結論(争点⑤)

各間接事実を総合評価した上で、大阪高裁は次のように判示しました。

「被告人が犯人でないとすれば、被告人が、本件犯行の前日夜以降に、本件犯行とは無関係の理由で、被告人方から遠く離れた、兵庫県明石市内にある山陽戊駅又はその周辺を訪れ、本件当日の始発電車で同駅から帰宅したところ、偶然、被告人と外見(顔貌、風体、服装等)の多数の特徴がよく整合する他人が、本件当日の未明の時間帯(午前2時前後)に、同駅からそれほど離れていない本件店舗にやって来て本件犯行に及んだことになるが、そのような偶然が重なることは考え難い。」

そして、第1審判決に事実誤認があると認定し、次のように判示しました。

「被告人の犯人性を認定しなかった原判決は、被告人と犯人(及び〈イ〉の人物)の外見の類似性について具体的な検討を怠ってその推認力を過小評価し、被告人の行動(特に、本件犯行の2時間半余り後に本件店舗からそれほど離れていない駅に現れて始発電車で帰宅したこと)が被告人の犯人性を推認させる事情であることを見落とすなどした結果、論理則・経験則等に照らして不合理な結論に至ったものというべきであり、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があると認められる。」

コメント

本判決は、防犯カメラ映像が証拠として用いられる刑事事件において、間接事実の評価と総合判断のあり方を示したものとして実務上参考になります。

(1)「犯行後の行動」が犯人性を推認させる間接事実となる

本判決が第1審と結論を分けたポイントは、「被告人が犯行の2時間半余り後に被害店舗からそれほど離れていない駅から始発電車で帰宅した」という事実を、犯人性を推認させる間接事実として評価したかどうかにあります。

犯行現場付近にいたこと自体は直接の証拠ではありませんが、時間帯・場所・被告人の弁解の欠如といった事情と組み合わせると、「偶然の一致」と合理的に説明するのが困難な事実関係とも言えます。本判決は、このような「行動の合理的説明の困難さ」を犯人性認定の枠組みに取り込んでいます。

この判断は、情況証拠による犯人性認定の総合評価という観点から第1審判決の事実誤認を指摘した最判平30.7.13刑集72巻3号324頁(米子市ホテル強盗殺人事件。情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合評価という観点からの検討を欠くなどとして、被告人の犯人性を認めて有罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとした事案。)の考え方とも整合すると見ることもできます。

(2)外見の類似性評価は「細部の具体的な検討」が求められる

本判決は、防犯カメラ映像に映った人物と被告人の外見の類似性について、顔貌だけでなく着衣・持ち物の細部(デザイン、着用の仕方、アジャスターの状態等)まで丁寧に検討するよう求めています。

映像が鮮明でなく顔の異同識別鑑定が困難な場合でも、細部の一致を積み上げることで推認力を補強できることを示した点で、実務上参考になります。

(3)間接事実の評価

第1審判決が無罪とした理由は、個々の間接事実の評価に加え、「犯行後の帰宅行動」という間接事実を犯人性判断の文脈で検討しなかったことにありました。複数の間接事実を総合評価する場面では、一つの事実を見落とすことが全体の結論を左右する場合があることを、本件は示しています。

弁護人の立場からは、個々の間接事実への評価だけでなく、当該事案における犯人性判断の文脈も踏まえた弁護方針の検討が求められると言えます。

 

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