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競合製品が自社製品にそっくりでも、専門業者向けの取引なら不正競争にならない?(知財高裁令和5年9月13日判決)

はじめに

自社の製品と酷似した外観の競合品が市場に出回った場合、不正競争防止法に基づき、その販売の差止めや損害賠償を求めることができるかは、企業の法務・知的財産担当者にとって重要な関心事です。もっとも、商品の形態(デザイン・外観)自体が不正競争防止法上保護されるためには、商標等とは異なる特別の要件を満たす必要があり、また、たとえ外観が酷似していても、需要者の間で誤認混同が生じるおそれがなければ、不正競争行為には当たりません。

今回のコラムでは、知財高裁令和5年9月13日判決をご紹介いたします。本件は、シーメンス アクチエンゲゼルシャフト(以下「シーメンス」といいます。)が、CKD株式会社(以下「CKD」といいます。)に対し、自社製品と酷似した形態の製品を販売する行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張して、製造等の差止め及び廃棄を求めた事案です。

本判決の意義は、需要者が専門的な事業者に限られ、慎重な検討を経て取引が行われる業界においては、たとえ商品の形態が酷似していても、需要者の間で誤認混同が生じるおそれは限定的であると判断した点にあります。自社製品の外観を模倣された企業にとっても、他社製品の互換品・代替品の販売を検討する企業にとっても、参考になる判断です。

事案の概要

本件の当事者は、次のとおりです。

表記内容
シーメンス(控訴人・原審原告)ドイツ法人。中圧Bガス供給用のガス遮断弁(原告製品)を日本国内で昭和60年から販売
CKD(被控訴人・原審被告)東証プライム市場上場企業。原告製品の互換品として、被告製品を平成31年から販売

原告製品は、昭和60年、ランディスギア社の販売代理店を通じて日本での販売が開始され、その後、ランディスギア社のガスバルブ事業がシーメンス・ビルディング・テクノロジー社に譲渡され、同社がシーメンスに吸収合併されたことに伴い、現在はシーメンスが販売しています。原告製品の需要者は、中圧Bガス(大規模な商業施設や工場向けの比較的高圧な都市ガス)を用いるボイラー又はバーナーを製造する専門事業者であり、日本国内には約30社しか存在しません。

CKDは、平成7年頃から原告製品とは異なる形態の旧製品を販売していましたが、平成31年、需要者からの要望を受け、原告製品の互換品として現行の被告製品を開発・販売するに至りました。その結果、被告製品の形態は、原告製品と類似したものとなりました。

シーメンスは、原告製品の形態が自社の周知な商品等表示に該当し、CKDが被告製品を製造・販売する行為はこれと類似の商品等表示を使用するものとして不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張して、CKDに対し、被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求めて提訴しました。

原審(東京地裁令和4年12月23日判決)は、原告製品の形態は商品等表示に該当せず、仮に該当するとしても、需要者において誤認混同が生じないことは明らかであるとして、シーメンスの請求を棄却しました。認定事実としては、次のような事情が指摘されています。

考慮要素内容
需要者はガスボイラーメーカー・ガスバーナーメーカー等の専門業者約30社に限られ、一般消費者が店頭で見比べて購入する製品ではないこと
高度の安全性が求められる製品であり、不具合が生じると多大な損失が生じ得ること
需要者は2~3年かけてテストを繰り返しながら慎重に採否を検討し、製品内部の構造等についても詳細な情報を要求すること
被告製品は、原告製品の機能やアフターサービスに対する需要者の要望を受けて、原告製品の互換品として開発されたものであること
被告製品の価格は約50万円と高額であり、原告製品も同程度であると推認されること
両社とも、宣伝広告において製品の形態自体を強調していないこと

シーメンスは、この判断を不服として控訴しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①原告製品の商品等表示性(原告製品の形態が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するか)
争点②原告製品と被告製品の類似性
争点③混同のおそれの有無

裁判所の判断

知財高裁は、まず争点③(混同のおそれの有無)から検討し、これが否定されることをもって控訴を棄却しており、争点①及び争点②については判断を示していません。以下では、知財高裁が実際に判断した争点③についての判断内容をご紹介します。

争点③ 混同のおそれの有無について

知財高裁は、中圧Bのガス遮断弁の需要者及び取引の実情について検討した上で、次のとおり判断しました。

このような中圧Bのガス遮断弁の製品の性質、これを踏まえた需要者及び販売者の製品導入に至る過程、これらの諸要素と製品の形態自体の関係等に照らすと、需要者は、取引に際して、当該製品の安全性及び信頼性のほか、その出所(製造元及び販売元)についても慎重に確認した上で製品を購入するといえ、仮に、需要者が、製品の形態から特定の出所を想起し得るとしても、相応の期間と調整を要する取引の過程において、容易にその取引先すなわち出所(製造元及び販売元)を識別するに至るといえるから、製品の形態から想起し得る出所自体が需要者の購買行動に与える影響は極めて限定的というべきである。このような取引の実情の下においては、被告製品が、その形態によって、需要者をして、被告製品は控訴人が製造した製品であると誤信するおそれがあるとか、被告製品を製造又は販売する者と控訴人との間に許諾その他の緊密な関係があると誤信するおそれがあると認めることはできない。

その上で、知財高裁は、シーメンスの主張、すなわち、①業界の事情に精通した需要者は被告製品を見て無断コピー品との印象を持ち、精通していない需要者は控訴人と被控訴人との間に緊密な関係があるとの印象を受けるおそれがある、②不正競争防止法2条1項1号が種々の行為類型を定めていることからすれば、譲渡時のみならず需要者が広く商品に触れる時点でも混同が生じ得る場合に保護が及ぶ、との各主張について、次のとおり判断し、いずれも排斥しました。

しかし、上記①については、原告製品が需要者の間でよく知られた製品であったとしても、前記(1)のとおり、中圧Bのガス遮断弁の需要者にとって、製品の形態から想起し得る出所自体がその購買行動に与える影響は極めて限定的というべきであるから、被告製品の形態が、需要者をして、被告製品を製造又は販売する者と控訴人との間に許諾その他の緊密な関係があると誤信するおそれがあるとは認められない。上記②については、被控訴人のいかなる行為をもって「広く需要者が商品に触れることで混同が生じ得る時点」が生じるとする趣旨か判然としないが、その点を措くとしても、前記(1)のとおり、需要者は、取引に際して、当該製品の安全性及び信頼性のほか、その出所(製造元及び販売元)についても慎重に確認した上で製品を購入するといえ、仮に、需要者が、製品の形態から特定の出所を想起し得るとしても、相応の期間と調整を要する取引の過程において、容易にその出所を識別するに至るといえるから、そのことのみをもって混同のおそれがあると認めることはできない。控訴人の主張はいずれも採用することができない。

以上より、知財高裁は、次のとおり結論付け、控訴を棄却しました。

以上のとおり、被告製品の販売等により、需要者が被告製品を原告製品と誤認混同するおそれがあるものとは認められないから、その余の争点について判断するまでもなく、被控訴人が被告製品を販売等することは、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するとはいえない。

コメント

1 本判決の意義

本判決は、商品の形態が他社の製品と酷似している場合であっても、需要者が専門的な事業者に限られ、慎重な検討を経て取引が行われる業界においては、不正競争防止法上の「混同のおそれ」が否定され得ることを示した点に意義があります。商品の外観・デザインの模倣をめぐる紛争は、業種を問わず生じ得るものであり、自社製品の模倣品が現れた企業にとっても、他社製品の互換品・代替品の販売を検討する企業にとっても、参考になる判断です。

2 商品形態の「商品等表示」該当性について(原審の判断枠組み)

知財高裁は、混同のおそれの有無(争点③)を否定したことにより、原告製品の形態が「商品等表示」に該当するか(争点①)及び原告製品と被告製品が類似するか(争点②)については判断を示していません。もっとも、原審(東京地裁令和4年12月23日判決)は、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有すること(特別顕著性)、かつ、特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告等により需要者において特定の事業者の出所を表示するものとして周知であること(周知性)を要するとした上で、本件製品のように、需要者が製品の形態自体に着目せずに購入するような取引の実情がある場合には、たとえ一定の周知性があるとしても、出所表示機能を欠くために「商品等表示」に該当しないと判断しました。この判断枠組みは、知財高裁によって直接是認されたものではありませんが、商品形態の保護を検討する上での土台として参考になります。

もっとも、この判断枠組みについては、控訴審においてシーメンスから異論が示されています。従来の裁判例(知財高判平成24年12月26日判タ1408号235頁等)は、商品の形態が客観的に顕著な特徴を有し、かつ需要者の間で周知性を獲得しているかをまず判断した上で、これを満たす場合に商品等表示としての保護を認めるという順序で検討するのが一般的とされます。シーメンスは、原審の「出所表示機能を有するものではないと認められる場合には、特別顕著性又は周知性があるとはいえない」という論理は、この従来の判断順序を逆転させるものであると主張しました。知財高裁は、争点③のみで結論を導いたため、この論理構成の当否そのものについては判断していません。商品形態の保護要件をめぐるこの論点は、本判決を通じて確定的に判断されたものではない点に留意が必要です。

なお、商品形態が「商品等表示」に該当しないとされる裁判例には、主に2つの系統があるとされています。一つは、商品形態を安易に保護すると商品そのものの独占につながり自由な競争を阻害しかねないことから、競業者が混同を防ぐための手段を誠実に講じている場合には商品形態の識別力自体が弱まるとする考え方です(東京高判平成6年3月23日判時1507号156頁参照)。もう一つは、商品の技術的な機能や効用を実現する上で他に選びようのない、いわば必然的な形態については、特許制度等によらずに実質的な独占状態を無期限に生じさせる結果を避けるため、そもそも商品等表示には当たらないとする考え方です(知財高判平成28年7月27日判タ1432号126頁参照)。

原審の事案は、これらいずれの類型にも単純には当てはまらないものでした。原告製品の形態には一定の技術的合理性があるとしても、他に選択肢のない必然的な形態とまでは言い切れず、また、需要者が専門業者に限られるという特殊な取引実態があったためです。実務上は、原審が、こうした事案の特殊性を踏まえ、商品の形態が実際の取引の中で出所を示す機能を果たしているといえるかという観点から、特別顕著性・周知性の要件そのものを判断するという枠組みを新たに示したものと位置付ける見方があります。もっとも、この枠組みが上記の各裁判例とどのように整合するのか、どの範囲の事案に及ぶのかについては、今後の実務や議論の集積を待つ必要があると考えられます。

3 専門的な取引における「混同のおそれ」の判断について

本判決は、需要者が専門的な事業者に限られ、製品の安全性・信頼性を重視して長期間かけて慎重に検討を行うような取引実務がある場合には、たとえ商品の形態が酷似していても、需要者は取引の過程で出所(製造元・販売元)を容易に識別するに至るため、形態の酷似のみをもって誤認混同のおそれがあるとはいえないとの考え方を示しています。この判断は、一般消費者向けの商品と異なり、専門的な事業者間の取引においては、商品の外観よりも、取引の過程における出所確認の実態が重視されることを示すものといえます。

なお、不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」には、被冒用者と冒用者との間で直接の営業主体の混同を生じさせる行為(狭義の混同惹起行為)だけでなく、両者の間に緊密な営業上の関係やグループ関係があると誤信させる行為(広義の混同惹起行為)も含まれると解されています(最高裁平成10年9月10日判決・判時1655号160頁参照)。本件でシーメンスが主張した「控訴人と被控訴人との間に緊密な関係があるとの誤信を生じさせるおそれ」は、この広義の混同惹起行為に当たるものですが、本判決は、専門的な需要者による慎重な出所確認の実態を踏まえ、この広義の混同のおそれについても否定しています。

4 企業に求められる対応

以上を踏まえると、企業には次のような対応が求められます。第一に、自社製品の形態を不正競争防止法によって保護しようとする場合には、特別顕著性・周知性の要件を満たすよう、製品デザインの独自性や宣伝広告の実態を整理しておくことが望まれます。第二に、需要者が専門的な事業者に限られる商品を扱う企業においては、混同のおそれの判断に当たり、取引の実情(発注方法、検討期間、製造者名等の明示の有無等)が重視されることを踏まえた対応が必要です。第三に、他社製品と類似した外観の製品を販売する場合には、需要者による出所識別を容易にする表示(製造者名の明示等)を整えることが、紛争予防の観点からも有用です。第四に、商品形態の保護をめぐる紛争は、業界の取引実態の評価に大きく左右されるため、具体的な対応を検討する際には、専門家の助言を得ることが有用です。

おわりに

商品の形態や外観の模倣をめぐる紛争は、業界の取引実態の評価が結論を左右する分野であり、弁護士に相談することが有益です。当事務所では、不正競争防止法に関するご相談やご依頼を承っております。同様の問題でお困りの際は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。