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ブログ記事を無断で漫画化する行為と著作権侵害の成否(知財高裁平成27年5月21日判決)

はじめに

インターネット上のブログやSNSに掲載された文章を、第三者が無断で漫画や動画などの別の表現形式に作り替えて公開するトラブルは、コンテンツビジネスに携わる企業にとって身近なリスクとなっています。他方で、権利を侵害された側が、インターネット上で相手方を「盗作」などと批判した場合に、その批判自体が名誉毀損として損害賠償の対象となることもあります。

今回のコラムでは、ブログに掲載された記事を無断で漫画化して雑誌に掲載した出版社等の著作権侵害・著作者人格権侵害の責任が認められる一方で、被害者であるライターがブログ上で行った「盗作告発」の一部が名誉毀損に当たるとされた裁判例(知財高裁平成27年5月21日判決)をご紹介いたします。

本判決は、①文章(言語の著作物)を漫画という別の表現形式に変えた場合でも翻案権侵害が成立し得ること、②出版社や編集会社には掲載作品が第三者の著作権を侵害していないかを確認すべき注意義務があること、③著作権侵害の被害者であっても、事実の裏付けを超えた告発表現は名誉毀損となり得ることを具体的に示したものです。コンテンツを「利用する側」と「守る側」の双方の目線で実務上の教訓を含んでおり、出版・メディア・広報を担当される企業のご担当者にとって有益な裁判例といえます。

事案の概要

Xは、風俗関係の体験記事を執筆するフリーのライターであり、自身が管理・運営するブログに体験記形式の記事(以下「本件各記事」といいます。)を掲載していました。

Y1は、雑誌「実話大報」等を発行する出版社であり、Y2は、Y1から請け負って同雑誌の企画・編集を行っていた編集会社です。Y2から依頼を受けた漫画家Bは、本件各記事に依拠して漫画(以下「本件各漫画」といいます。)を作画し、本件各漫画は、Xの氏名やペンネームを表示しないまま、同雑誌(発行部数約10万部)の平成23年1月号及び6月号に掲載されました。

Xは、本件各漫画は本件各記事の翻案物であるとして、Y1及びY2に対し、著作権(翻案に係る権利)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)の侵害を理由とする損害賠償等を求めて提訴しました(本訴)。

これに対し、Y1及びY2は、Xが自身のブログにおいて、Y1を「盗作を繰り返し」「著作権侵害を続ける悪質極まりない」出版社であるなどと批判する記事を多数掲載し、さらに「盗作行為についてどう思う?」という投票プログラムを設置したことが名誉毀損に当たるとして、損害賠償及び記事等の抹消を求める反訴を提起しました。

第一審(東京地裁平成25年11月28日判決)は、本件各漫画のうち一部の記述についてのみ翻案を認め、Xの請求を6万6000円の限度で認容する一方、反訴については、Xに対し、Y1への40万円の損害賠償と記事等の抹消を命じました(Y2の反訴請求は棄却)。これを不服として、双方が控訴したのが本件です。

なお、以下の判決文の引用部分では、Xは「1審原告」、Y1は「1審被告ジーオーティー」、Y2は「1審被告ジップス・ファクトリー」と表記されています。

本件の争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①雑誌に掲載された本件各漫画は、ブログ記事である本件各記事の翻案物に当たるか(著作権侵害の成否)
争点②出版社Y1及び編集会社Y2に、著作権侵害についての過失が認められるか
争点③著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)侵害が成立するか
争点④Xがブログに掲載した「盗作告発」記事等は、Y1らの名誉・信用を毀損するか
争点⑤Xの「盗作告発」について、違法性阻却事由(真実性・相当性)が認められるか

裁判所の判断

争点① 本件各漫画は本件各記事の翻案物に当たるかについて

裁判所は、本件各記事と本件各漫画の内容を場面ごとに詳細に対比した上で、両者は、体験記という記述形式、場面展開、そして具体的な記述内容とその順序において共通しており、相違点は全体の対比の中ではごく一部分にとどまると認定しました。

裁判所が翻案物該当性の判断に当たり考慮した要素は、以下のとおりです。

考慮要素裁判所の認定
記述形式体験した風俗サービスの内容を自身の体験談として記述又は描写するという点で共通する
場面展開情報の検索・参加申込みから、当日の会場到着、サービスの状況、解散に至るまでの場面展開が共通する
具体的な記述内容・順序漫画の記述・描写の内容は、わずかな部分を除きほぼ記事の記述に含まれ、具体的な記述と記述順序もおおむね共通する
相違点の程度交通手段や登場人物の台詞等の相違はあるが、全体の対比の中ではごく一部分にとどまる

その上で、裁判所は、次のとおり判示し、本件各漫画は本件各記事の翻案物に当たると結論付けました。

「被告漫画1は、原告記事1に依拠し、その記述のうちの一部を省略し、かつ、その表現形式を漫画に変更したものにすぎず、全体として、原告記事1の表現上の本質的特徴を直接感得することができるから、原告記事1の翻案物に当たるというべきである。」

争点② Y1及びY2の過失の有無について

裁判所は、編集会社Y2について、次のとおり判示し、業務として漫画の作画を依頼する以上、その漫画が第三者の著作権を侵害するものでないかを確認すべき注意義務を負うとしました。

「1審被告ジップス・ファクトリーは、その業務として、Bに作画を依頼したのであるから、被告漫画1及び2が、第三者の著作権を侵害するものでないか否かを確認すべき注意義務を負うというべきである。」

そして、裁判所は、Y2が以下のいずれの確認も行わなかったことから、注意義務違反(過失)を認めました。出版社Y1についても、編集会社に対する編集経緯の確認や検索を行わなかったとして、同様に過失を認めています。

主体怠ったとされた確認行為
編集会社Y2漫画家Bに対する作画の経緯の確認
編集会社Y2原稿を提供したライターに対する執筆の経緯の確認
編集会社Y2漫画から窺われるワードや、風俗記事・漫画と一般的に関連するワード等を用いたインターネット検索
出版社Y1編集会社Y2に対する編集の経緯の確認
出版社Y1上記と同様のワード等を用いたインターネット検索

Y1らは、Xのブログは業界において無名であり、通常の検索では発見できなかったから調査は不可能であったと反論しました。しかし、裁判所は、漫画の冒頭に登場し、Y1発行の雑誌にも頻繁に登場する「三行広告」というワードで検索すればブログの存在を知り得たとして、この反論を退けました。

争点③ 著作者人格権侵害の成否について

裁判所は、本件各漫画が本件各記事の翻案物であることを前提に、次のとおり判示し、同一性保持権(著作権法20条1項)及び氏名表示権(著作権法19条1項)の侵害を認めました(もう一方の漫画についても、同旨の判断がされています。)。

「1審原告に無断で原告記事1に改変を加える行為は、1審原告が有する原告記事1に係る同一性保持権(著作権法20条1項)を侵害する行為である。」

「また、1審被告らは、被告漫画1を掲載した本件雑誌(平成23年1月号)を編集、発行するに当たり、1審原告の実名又は変名を表示しなかったのであるから、1審被告らの上記行為は、1審原告の有する原告記事1に係る氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害する行為であると認められる。」

その結果、裁判所は、Y1及びY2に対し、著作権侵害についての損害(使用料相当額)として10万円、著作者人格権侵害についての慰謝料として40万円、弁護士費用5万円の合計55万円の連帯支払を命じました。他方、Xが求めた謝罪広告の掲載については、次のとおり判示した上で、社会的名誉・声望が害されたことについての主張立証がないとして認めませんでした。

「同条にいう「名誉若しくは声望」とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉・声望を指すものであって、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情を含むものではないと解される。」

争点④ Xの「盗作告発」記事等は名誉・信用を毀損するかについて

裁判所は、名誉毀損の判断基準について、次のとおり判示しました。

「本件ブログにおいて公開された記事の内容が他人の客観的な社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記述についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断すべきである。」

その上で、裁判所は、Y1が「盗作を繰り返し」「毎月複数誌で著作権侵害を続けている」出版社であるなどと摘示するブログ記事や、Y1の「盗作行為」への評価を問う投票プログラムは、一般読者に対し、Y1が著作権侵害を繰り返す悪質な出版社であるとの印象を与えるものであるとして、Y1の社会的評価を低下させると判断しました。

争点⑤ 違法性阻却事由(真実性・相当性)の有無について

裁判所は、名誉毀損の違法性阻却に関する判断枠組みとして、公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的で、摘示事実の重要な部分について真実であることの証明があれば違法性が否定され、真実性の証明がなくても、真実と信ずるについて相当の理由があれば故意・過失が否定されるという一般的な基準を示しました。

本件では、裁判所は、出版社の出版業務に関する事実として公共性を認め、公益目的についても否定しませんでした。しかし、真実性については、次のとおり判示し、証明があったとは認めませんでした。

「原告記事1の翻案物である被告漫画1を掲載した本件雑誌(平成23年1月号)及び原告記事2の翻案物である被告漫画2を掲載した本件雑誌(平成23年6月号)に関しては、1審被告ジーオーティーによる盗作(著作権侵害)は真実性の証明があるといえるが、その他については真実性の証明がなく、1審原告が本件記事1、3ないし6において摘示した「1審被告ジーオーティーが、本件ブログから盗作を繰り返し、毎月複数誌で著作権侵害を続けている出版社である」という事実については、真実性の証明があったとは認められない。」

すなわち、裁判所は、本件訴訟で著作権侵害が認められたのは2本の漫画についてであり、Xが主張した「繰り返し」「毎月複数誌で」という規模の著作権侵害については、他の記事との対比についての具体的な主張がなく、証明がないと判断したものです。また、Y2代表者が過去に盗用の事実を認める書面を差し入れていたことについても、その書面は数度の掲載を認めたにとどまり、「毎月複数誌で著作権侵害を続けている」ことまで裏付けるものではないとして、真実と信ずる相当の理由も否定しました。

その結果、裁判所は、Xに対し、Y1への40万円の損害賠償と、該当するブログ記事及び投票プログラム(投票結果を含む)の抹消を命じました。

コメント

本判決には、翻案権侵害の判断と権利者側の発信リスクの双方について、実務の指針となる判断が含まれています。以下、順にご説明します。

(1)表現形式を変えた利用であっても翻案権侵害は成立し得ること

本判決は、文章を漫画という別の表現形式に変換した場合であっても、場面展開や具体的な記述内容・順序の共通性から、元の文章の「表現上の本質的特徴を直接感得することができる」ときは翻案物に当たると判断しました。表現形式が異なることは、翻案権侵害の成立を妨げる事情にはなりません。ブログ記事の漫画化・動画化・書籍化など、既存コンテンツを二次利用する事業を行う企業は、元となる著作物の権利者から許諾を得ることが必要です。

この点に関し、原審(東京地裁平成25年11月28日判決)は、場面の流れ(あらすじ)の共通性は表現それ自体でない部分の同一性にすぎないとして、漫画全体としての翻案を否定し、記事と漫画の記述を個別に対比した上で、一部の記述についてのみ翻案を認めていました。これに対し、本判決は、場面展開に加えて具体的な記述内容とその順序の共通性を全体として評価し、漫画全体が記事全体の翻案物に当たると判断したものです。ストーリーや場面展開といったアイデアと、著作権法上保護される表現との線引きは、同一の事件でも第一審と控訴審とで判断が分かれるほど微妙な問題であり、「あらすじが共通するだけであれば侵害には当たらない」といった単純な割り切りには注意が必要です。

また、翻案が認められる範囲の違いは、損害額にも直結しています。原審と本判決の認容額を対比すると、以下のとおりです。

損害の項目原審(一部の記述のみ翻案)本判決(全体が翻案物)
著作権侵害の損害(使用料相当額)1万円10万円
著作者人格権侵害の慰謝料5万円40万円
弁護士費用6000円5万円
合計6万6000円55万円

原審の段階では、Xの認容額(6万6000円)は、反訴でXが命じられた賠償額(40万円)を下回っていました。侵害を漫画の一部の記述と捉えるか、漫画全体と捉えるかによって、賠償額の水準が変わり得ることを示す例といえます。

(2)外部に委託したコンテンツにも確認義務が及ぶこと

本判決は、外部のクリエイターに制作を委託した編集会社と、その成果物を掲載した出版社の双方について、第三者の著作権を侵害していないかを確認すべき注意義務を認めました。裁判所が挙げた確認行為は、制作経緯の聞き取りや関連ワードによるインターネット検索といった、実行可能な範囲のものです。元ネタとなったブログが「業界において無名である」という反論が退けられている点も踏まえると、コンテンツを掲載・発行する企業は、外部委託した原稿についても、制作経緯の確認や類似コンテンツの検索といった調査を業務フローに組み込んでおくことが求められます。

(3)被害者による「盗作告発」にも名誉毀損のリスクがあること

本判決は、著作権侵害の被害者による告発であっても、証明できる事実の範囲を超えた表現は名誉毀損に当たり得ることを示しました。本件では、実際に著作権侵害が認められたにもかかわらず、「盗作を繰り返し」「毎月複数誌で」という規模についての真実性の証明がなかったため、被害者であるXが逆に40万円の損害賠償と記事の抹消を命じられています。自社の権利が侵害された場合であっても、ウェブサイトやSNSで相手方を批判する際には、証拠によって裏付けられる事実の範囲にとどめた表現とするよう、公表前に慎重な検討を行うことが重要です。

なお、名誉毀損の成立という結論は原審と本判決とで共通していますが、その理由づけは異なります。原審は、Xがブログ上で記事は「筆者の体験を基にした創作でありフィクション」であると表記しながら、告発記事では「被害総額は取材費だけで40万円超!」と記載して実際に取材・体験したかのように装った点を捉え、虚偽の事実を作出してY1を非難し、専らその社会的評価を低下させることのみを目的としたものであるとして、公益を図る目的自体を否定し、故意による名誉毀損を認定しました。

これに対し、本判決は、公共性と公益目的を認めた上で、摘示事実の真実性・相当性の証明がないことを理由としています。原審の判断は、自らの発信内容の間に矛盾があると、公益目的自体が否定され、故意まで認定されるおそれがあることを示すものであり、対外的な発信に当たっては、表現の強さだけでなく、記載内容相互の一貫性にも注意が必要です。

(4)企業に求められる対応

権利侵害への対応と発信のリスク管理は表裏一体の関係にあり、その線引きの判断には法的な検討が必要となります。侵害を発見した段階で、公表・警告・法的手続のいずれをどのような順序で行うかについて、あらかじめ弁護士に相談しながら方針を立てることが、本判決のような「加害者と被害者の逆転」を避けることにつながります。

おわりに

本判決が扱った問題は、コンテンツの二次利用に関する権利処理、外部委託先の管理、そして権利侵害を受けた際の対外的な発信のあり方という、多くの企業に共通する実務課題に関わるものです。これらの問題は、著作権法と名誉毀損の双方にまたがる判断を要するため、対応を誤ると、権利を守るための行動がかえって自社の法的責任を生じさせるおそれがあります。個別の事案に応じた適切な対応をとるためには、早い段階で弁護士に相談することが有益です。

当事務所は、著作権をはじめとする知的財産権に関する紛争対応・予防法務や、インターネット上の名誉毀損への対応について、ご相談・ご依頼をお受けしております。コンテンツの利用や権利侵害への対応にお悩みの企業のご担当者は、お気軽にご相談ください。

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