はじめに
建物の敷地へ第三者が無断で立ち入った場合、住居侵入罪が成立するかどうかは、住宅管理者の方はもちろん、店舗・事務所・工場などの施設を管理される企業にとっても関心の高い問題です。刑法130条前段の住居侵入罪は、住居や建物そのものへの侵入だけでなく、その周辺の「囲繞地(いにょうち)」と呼ばれる土地への侵入も処罰対象としています。
もっとも、どの範囲までが「囲繞地」に含まれるのかは、敷地や建物の構造、囲障の設置状況などにより判断が分かれ得る問題です。
今回のコラムでは、門扉の外側にある石段部分が「囲繞地」に該当するかが問題となった大阪高等裁判所令和5年5月15日判決を取り上げ、一般の読者の方にもわかりやすく解説いたします。
事案の概要
本件は、暴力団同士の抗争を背景として、対立する組織の副組長であるA氏の自宅敷地に向けて、被告人が自動車を後進させ、木製門扉の外側に設けられた4段の石段部分を上がり、自車を木製門扉等に衝突させて、これを押し倒して損壊したという事案です。
検察官は、被告人について、①住居侵入罪、②建造物損壊罪、③脅迫罪の三罪で起訴しました。これに対して、原判決(一審)は、住居侵入罪のみ有罪とし、建造物損壊罪と脅迫罪はいずれも成立しないと判断しました。
これを受け、検察官は、脅迫罪の無罪部分について事実誤認を主張して控訴し、弁護人は、住居侵入罪の有罪部分について法令適用の誤りまたは事実誤認を主張して控訴しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件石段部分が住居侵入罪の客体となる「囲繞地」に該当し、住居侵入罪が成立するか |
| 争点② | 木製門扉に自動車を衝突させた行為が、新たな害悪の告知として脅迫罪に該当するか |
裁判所の判断
争点① 本件石段部分の「囲繞地」該当性について
裁判所は、本件石段部分は囲繞地に該当しないと判断し、住居侵入罪の成立を否定しました。もっとも、木製門扉に向けて自動車を後進させた行為は、住居侵入罪の実行の着手に当たるとして、訴因の範囲内で住居侵入未遂罪の成立を認めました。
裁判所は、「囲繞地」の意義について、次のとおり判示しています。
住居侵入罪の客体には囲繞地も含まれていると解されるが、囲繞地であるためには、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門扉等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されている必要がある(最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁参照)。
その上で、裁判所は、本件石段部分の性質について、次のとおり述べています。
石段の奥の木製門扉が障壁と連続して囲障となっていることからすると、本件石段部分は、A方居宅建物、障壁及び木製門扉等によって切れ目なく囲まれている囲障の外側に位置していると考えるのが素直な見方である。さらに、原審記録によれば、本件石段部分を上がった先に郵便受けやインターフォンが木製門扉の両脇の各門柱付近にそれぞれ設置されていることが認められるから、第三者が、管理者の事前の承諾を受けることなく、本件石段を上ってこれらを使用することが想定されているとみるのが自然で、本件石段部分が、外形上、第三者が一般に立ち入ることが禁止されている土地ともいえない。
裁判所が、本件石段部分を囲繞地に該当しないと判断するにあたって考慮した事実は、以下のとおりです。
| 観点 | 考慮事実 |
|---|---|
| 囲障の構造 | 木製門扉が障壁と連続して囲障を形成していること |
| 本件石段部分の位置関係 | 本件石段部分が、居宅建物・障壁・木製門扉等により切れ目なく囲まれた囲障の外側に位置していること |
| 郵便受け・インターフォンの設置状況 | 石段を上がった先の門柱付近に、郵便受けやインターフォンが設置されていること |
| 第三者の立入りの想定 | 第三者が、管理者の事前の承諾なく石段を上り、郵便受け等を使用することが想定されているといえること |
| 防犯カメラの位置付け | 本件石段部分の防犯カメラは立入者の素性を把握するためのものと解され、第三者の立入りが禁止されていないこととは矛盾しないこと |
| 色・段差の評価 | 公道との色の違いや石段程度の高さの違いでは、囲障による立入禁止の意思の明示として足りないと解されること |
もっとも、裁判所は、訴因の範囲内で住居侵入未遂罪が成立すると認めました。その理由は、次のとおりです。
被告人が、木製門扉(各門柱間の幅が212cmの2枚引き戸)に向けて自動車(日産エクストレイル。車体の幅176cm、高さ167cm)を後進させ、4段の本件石段を上り、自車を木製門扉及び北側門柱に衝突させ、木製門扉を押し倒して破損させたほか、南北の門柱をいずれも傾けさせるなどしたことからすれば、相応の速度で自動車を後進させたと推認できる。この行為は、運転席に乗った被告人が自動車ごと木製門扉内に侵入する具体的危険を備えたものといえ、客観的には住居侵入の実行の着手に該当し得る。後進という制御が難しい運転方法でそのような行為を行った被告人には、そのような事態になったとしても構わないとの考えがあったとみるのが合理的で、住居侵入の未必の故意があったものと認められる。
争点② 脅迫罪における新たな害悪の告知該当性について
裁判所は、本件行為が新たな害悪の告知に該当しないとした原判決の判断に誤りはないとして、検察官の控訴を棄却しました。
裁判所は、次のとおり判示しています。
暴力団同士の抗争事件が相互に威嚇や報復攻撃を繰り返すものであることは肯認できるとしても、その一環として行われた攻撃のすべてが、威嚇、すなわち将来の加害の予告と解することができるわけではないし、そのようなものを選別するための一義的に明白な基準があるわけでもない。本件行為についてみても、相応の実害が生じているから、過去に行われた暴力団抗争事件の報復として行われたにすぎないとみる余地があるし、弁護人が主張するように、挑発行為としてなされた可能性も排斥できず、検察官がいうような解釈が唯一のものとまでは言い切れない。
また、裁判所は、本件後に被害者A氏が鉄製ポールを設置するなどして防御態勢を強化したことについても、次のとおり判示しました。
粗暴な犯罪の被害を受けた者が再被害を恐れるのは一般にみられる事象であって、Aにおいても同様の心情を抱いたにすぎないとも考えられるのであり、害悪の告知を認定する理由として不十分である。
コメント
本判決は、住居侵入罪の客体である「囲繞地」の範囲について、最高裁昭和51年3月4日判決の基準を具体的な事案にあてはめ、丁寧な検討を加えた事例判断として、実務上参考になるものです。
本件で「囲繞地」該当性が争点となった理由
本件で被告人自身が立ち入った場所は、本件石段部分にとどまり、木製門扉の内側にまでは及んでいません。住居侵入罪の「侵入」の意義については、身体の全部が住居等に入り込むことを要するとの考え方(全部侵入説)が通説とされていることから、本件では、被告人が立ち入った本件石段部分が囲繞地に該当するか否かが、住居侵入罪の成否を分ける判断対象となりました。
原判決と本判決の着眼点の違い
原判決と本判決は、いずれも最高裁昭和51年3月4日判決を参照しつつ、本件石段部分の位置付けをめぐって異なる結論に至りました。
原判決は、敷地東側の障壁の中央部がコの字型に西側へへこみ、へこんだ部分に4段の石段が設けられているという構造に着目し、本件石段部分は、障壁によって明示された敷地と道路の境界線の内側に位置していると評価しました。そのうえで、石段部分の外観や段差により外部との交通が制限されており、外来者がみだりに立ち入りを許される場所ではないことが外形上明らかであるとして、本件石段部分は囲繞地に当たると判断しました。
これに対して、本判決は、石段の奥にある木製門扉が障壁と連続して囲障となっていることに着目し、本件石段部分は、居宅建物・障壁・木製門扉等によって切れ目なく囲まれている囲障の外側に位置していると判断しました。そして、本判決は、公道との色や石段程度の段差の違いだけでは、管理者の立入禁止の意思が囲障によって明示されたとはいえず、囲障の設置により立入禁止の意思がより明示されるのは囲障の内側であると解するのが社会通念に沿うとして、本件石段部分の囲繞地該当性を否定しました。
本件石段部分を、障壁により画された敷地の内側と見るか、木製門扉を含む囲障の外側と見るかという着眼点の違いが、両判決の結論を分ける要因となったと読み取ることができます。
「囲障」該当性の考え方
本判決は、公道と石段最上段との間の約59cmの段差や、石段の色が公道と異なることをもって、囲障による立入禁止の意思の明示として足りるとは解していません。学説においても、囲障とは、塀を設けたり石を積み上げたりすることで、通常の歩行ではこえることのできない設備を指すと説明されてきました(団藤重光編『注釈刑法(3)各則(1)』238頁[福田平]参照)。本判決は、このような囲障の意義を前提とした判断として位置付けることができます。
本判決のポイントと実務上の示唆
本判決のポイントは、以下の2点に整理することができます。
ポイント① 連続する囲障の外側に位置する土地は原則として「囲繞地」に該当しないこと
本判決は、囲障(門扉・塀等)が連続して設置されている住宅等において、その囲障の外側に位置する土地は、原則として「囲繞地」に該当しないとの考え方を示しました。
本判決は、郵便受けやインターフォンが門扉の外側に設けられ、第三者の立入りが想定される場合には、その外側の土地が住居の管理者により排他的に管理される附属地とはいえないとの理解に立っているものと読むことができます。
ポイント② 既遂に至らない場合でも住居侵入未遂罪が成立し得ること
本判決は、住居侵入が既遂に至っていない場合であっても、門扉に向けて自動車を後進させるなど、客観的に侵入の具体的危険性を備えた行為があり、未必の故意が認められるときには、住居侵入未遂罪が成立し得ることを示しました。
もっとも、囲繞地該当性は、敷地の形状、囲障の設置状況、門扉の有無、立ち入った場所の位置関係など、個別具体的な事情によって左右されるものであり、これまでにも様々な判断が示されてきました。
本判決も、その射程は本件の事実関係に即した範囲にとどまるものと解すべきですが、木製門扉を含む囲障の連続性に着目した判断手法や、囲障として機能する設備についての考え方を示した点において、同種事案を検討する際の一つの視点を提供するものといえます。
本判決を踏まえますと、住宅や施設を管理する立場の方にとっては、以下の点を検討することが有益と考えられます。
| 検討事項 | 内容 |
|---|---|
| 囲障の連続的な設置 | 住居侵入罪・建造物侵入罪による保護の対象としたい範囲について、門扉・塀等の囲障を連続的に設置し、立入禁止の意思を外形上明示しておくこと |
| 立入許容領域と立入禁止領域の区別 | 訪問者に郵便受け・インターフォン等の利用を許容する領域と、立入りを禁じる領域を、物理的な構造により区別しておくこと |
| 囲障としての性質の確保 | 囲障に該当するには、通常の歩行ではこえることのできない程度の設備が求められると解されることから、高低差や色の違い、防犯カメラの設置のみでは、立入禁止の意思の明示として不足する可能性があること |
また、本判決は、脅迫罪の成否について、暴力団抗争を背景とする加害行為であっても、そのすべてが将来の加害の予告と評価されるわけではなく、具体的な行為態様や背景事情を踏まえた個別の検討が必要であることを確認しました。この点は、取引先や近隣等との間でトラブルが生じ、相手方の行為が脅迫に当たるかを検討する場面でも、示唆のある判断といえます。
おわりに
住居侵入罪・建造物侵入罪の成否は、敷地や建物の構造、囲障の設置状況、立入りの態様など、個別の事情により判断が分かれる繊細な問題です。また、脅迫罪の成否についても、行為の意味合いを背景事情を踏まえて評価する必要があり、専門的な検討が求められます。
このような問題は、被害に遭われた方にとっても、敷地や施設の管理を行う立場の方にとっても、事前・事後の対応について弁護士に相談することが有益です。
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