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コミュニティFMのサイマル配信と「自主制作番組」該当性(知財高裁平成28年12月21日判決)

はじめに

スマートフォンアプリを通じたラジオ番組のインターネット同時配信(サイマル配信)は、コミュニティFM放送事業者にとって聴取エリアを拡大する有力な手段となっています。もっとも、放送番組で使用する商業用レコードのインターネット利用については、レコード製作者の権利(送信可能化権)が及ぶため、一般社団法人日本レコード協会との利用許諾契約の範囲内で行うことが必要となります。

今回のコラムでご紹介する知財高裁平成28年12月21日判決(リスラジ「おすすめ番組まとめ」チャンネル事件)は、コミュニティFM放送事業者が音楽配信アプリ「Listen Radio(リスラジ)」の「おすすめ番組まとめ」チャンネルにおいて配信していた音楽番組が、レコード利用許諾契約上の前提となる「自主制作番組」(自ら制作し放送するラジオ番組)に該当するか否かが争われた事案です。

放送番組の「自主制作」性の判断枠組みを示した先例として実務上参考となるため、紹介いたします。

事案の概要

控訴人らは、いずれも市区町村の一部の区域において地域に密着した情報を提供するために制度化されたFM放送局(コミュニティ放送局)を運営する事業者です。被控訴人は、商業用レコードに関するレコード製作者の送信可能化権等の管理を行う著作権等管理事業者です。

控訴人らは、被控訴人との間で締結したレコード利用許諾契約に基づき、所定の使用料を支払うことを条件として、自ら制作し放送するラジオ番組(自主制作番組)について、放送と同時にインターネットで配信(サイマル配信)するために、被控訴人が管理するレコード(管理レコード)を録音・送信可能化することができることとされていました。

ところが、控訴人らは、株式会社エムティーアイ(以下「MTI」といいます。)が提供する音楽配信アプリ「リスラジ」上の「おすすめ番組まとめ」チャンネル(一定の音楽番組を自動的に切り替えて24時間連続して聴取できる機能)を利用して、音楽番組(以下「本件各音楽番組」といいます。)の配信を行っていました。

被控訴人は、本件各音楽番組の配信が利用許諾契約の前提となる「自主制作番組」に当たらないとして、控訴人らとの間の利用許諾契約の更新を拒絶しました(以下「本件更新拒絶」といいます。)。これに対し、控訴人らは、本件更新拒絶が著作権等管理事業法(以下「管理事業法」といいます。)16条所定の正当な理由のない利用許諾の拒否に該当する等として、無効であることを主張し、利用許諾契約に基づく契約上の地位の確認を求めて訴えを提起しました。

原審の東京地裁平成28年6月6日判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却し、本判決もこれを維持しました。すなわち、本件は、地裁・知財高裁の二審を通じて、本件各音楽番組が控訴人らの「自主制作番組」に該当しないとの結論が一貫して維持された事案です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件更新拒絶が管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)といえるか(その前提として、本件各音楽番組が控訴人らの「自主制作番組」に該当するか)
争点②本件更新拒絶が信義則に反し、無効であるといえるか
争点③本件更新拒絶が独禁法上の「共同の取引拒絶」又は「その他の取引拒絶」に該当するため、無効(民法90条)といえるか
争点④本件更新拒絶が独禁法上の「取引条件等の差別的取扱い」に該当するため、無効(民法90条)といえるか

裁判所の判断

知財高裁は、控訴人らの控訴をいずれも棄却し、原判決の結論を維持しました。各争点に関する判断は、以下のとおりです。

争点① 本件更新拒絶の管理事業法16条該当性(本件各音楽番組の「自主制作番組」該当性)について

裁判所は、争点①について、まず本件更新拒絶の理由を確認し、検討の出発点を次のとおり示しました。

「本件更新拒絶の理由が、控訴人らがリスラジのまとめチャンネル機能を利用して配信する本件各音楽番組が控訴人ら・被控訴人間の本件利用許諾契約において管理レコードの利用許諾の前提となっている『自ら制作し放送するラジオ番組』(自主制作番組)に当たらず、同番組における管理レコードの配信が本件利用許諾契約に反するとされている点にあることは明らかである。よって、まず、この点に誤認がないかどうか、すなわち、本件各音楽番組が控訴人らの自主制作番組といえるか否かについて検討する。」

そのうえで、裁判所は、「自主制作番組」の意義について、コミュニティ放送における「自社において制作する放送番組」の概念を踏まえて判断する枠組みを示しました。すなわち、総務省開催の有識者会議の整理によれば、「自社において制作する放送番組」とは自社が「制作著作」となるものをいい、「制作著作」とは「発意と責任を有し、制作に必要な手配をするものとしての権利と責任の主体の表示」とされています。

裁判所は、この理解を前提に、利用許諾契約における「自主制作番組」該当性についても、以下の観点から判断するのが相当であると判示しました。

「本件各音楽番組が控訴人らの自主制作番組といえるか否かについては、まずは、本件各音楽番組が、控訴人らの発意と責任により制作されたものといえるかどうか、前記5つの区分のうち『再放送』以外のいずれかに該当し得るものであるかどうかという観点から検討するのが相当であり、その際、控訴人らが地域密着メディアとして独自性のある番組制作が求められていることからすれば、番組制作の全体を通じてコミュニティ放送事業者の自主制作番組であるといい得るだけの主体的な関与が行われているか否かという点を考慮してこれを決するのが相当である。」

そのうえで、裁判所は、本件各音楽番組について、以下の事実を指摘しました。

番号認定された事実
本件各音楽番組は、MTIが、コミュニティ放送局の番組放送枠を買い取り「スポンサー」となることで音楽情報番組を流してもらい、これをサイマル配信するアプリであるリスラジを開発提供することを企画して始まったものであり、控訴人ら側からの企画・提案によるものではないこと
MTIと当時の子会社であるリッスンジャパンは、未放送時間枠を活用するためレコード製作者らに利用を呼び掛けており、その説明資料には、本件番組はリッスンジャパンが提供する音楽番組であると明記されていたこと
リスラジの24時間放送サービス開始時のプレスリリースもMTIが行っており、音楽番組に特化したラジオアプリであることなどを謳い文句としていたこと
本件各音楽番組で使用される楽曲はFM KENTOが調達し、選曲についてはMTIから情報提供を受けており、MTIの広告代理店CWLが調整した放送枠に合わせて編成され、楽曲の間にMTIが運営する音楽配信事業のCMが流れる編成となっていたこと
リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを利用すると、各番組が自動的に切り替わり24時間連続して音楽番組を視聴することができ、その際、各放送局固有のCMは流れず、画面上には現に放送中の楽曲のみならず、それまでに放送された楽曲名及びアーティスト名が表示されること
リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルで流れる本件各音楽番組は、繰り返し配信されている番組が、異なる放送局の異なる番組名の番組として配信されているにもかかわらず、内容が完全に同一であること
本件各音楽番組の制作費は全てMTIが負担しており、控訴人らはこれを負担していないこと、また、番組ファイルの納品も少なくとも一定時期まではMTIが行っていたこと

これらの事実を総合し、裁判所は、本件各音楽番組について、次のとおり判示しました。

「本件各音楽番組は、飽くまでMTIの企画により、MTIのサービスに合致するよう制作されるものであって、全体を通じてMTIの意向が強く反映され、経済的負担もMTIが負っているものであるということができる。」

「以上によれば、本件各音楽番組はMTIの発意と責任の下で制作されていると認めるのが合理的であって、およそ控訴人らの主体的な関与の下で制作されたものとはいえず、控訴人らの『完全局制作』や『制作会社協力』に当たらないのはもちろんのこと(この点は、控訴人らも争っていない。)、『共同制作』や『制作委託』にも当たらないというのが相当である。」

裁判所は、控訴人らが指摘する諸事情(番組企画への参加を控訴人らが自主的に判断していたこと、選曲等に関する意向や要望をFM KENTOに伝えていたこと、納品後に検収を行っていたこと、放送枠を安価で提供することにより実質的に制作費を負担していたこと等)についても、本件各音楽番組の自主制作番組該当性を左右するものではないと判示しました。

そして、被控訴人がコミュニティ放送事業者に対して管理レコードの利用許諾権限を有するのは「自主制作番組」に限られるところ、本件各音楽番組がこれに該当しない以上、被控訴人は本件各音楽番組の配信に関する利用許諾権限を有していないと判断したうえで、次のとおり判示しました。

「リスラジの『おすすめ番組まとめ』チャンネルを通じての本件各音楽番組の配信については、そもそも本件利用許諾契約の効力は及ばないものと解されるから、そのような配信に係る管理レコードの利用許諾は、本件利用許諾契約に反するものであるし、もともと、被控訴人に与えられた許諾の権限の範囲外のものでもある。このことを明確にし、契約違反状態を解消するために、被控訴人が、本件利用許諾契約の自動更新をせずに本件更新拒絶をし、正しい契約の趣旨を明確にした3月6日契約書案……を提示して、新たな契約文言での利用許諾契約締結の申込みの誘引をしたことは、正当である。したがって、本件更新拒絶は、管理事業法16条所定の正当な理由のない利用の許諾の拒否には該当しない。」

争点② 信義則違反について

裁判所は、被控訴人が、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルについて、配信開始後間もない時期から問題視し、関係団体との協議を重ねて、明確に被控訴人の利用許諾権限の範囲外であることも伝えていたという経緯を認定したうえで、次のとおり判示しました。

「被控訴人が、最終的に、協議が整う見込みがないと判断して、本件利用許諾契約を自動更新させないという対応をとったことが、信義則に反するとはいえないし、協議の継続中に契約が自動更新されたことをもって、直ちに被控訴人が控訴人らによる本件各音楽番組の配信を黙示に承諾したとか、黙認したと評価することも相当でない。」

争点③ 独禁法上の「共同の取引拒絶」「その他の取引拒絶」該当性について

裁判所は、本件更新拒絶が、控訴人らによる契約違反状態を解消し、正しい契約の趣旨を明確にするために行われたものであるから、契約に基づいた正当なものであるということができ、これを正当な理由がない共同の取引拒絶であるとか不当な取引拒絶であると認めることはできないと判示しました。

争点④ 独禁法上の「取引条件等の差別的取扱い」該当性について

裁判所は、本件更新拒絶が、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに参加しているコミュニティ放送局だけを差別的に取り扱うために行われたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、また、本件各音楽番組とミュージックバードがコミュニティ放送事業者に供給している音楽番組とで不当に取扱いを異にしているとの控訴人らの主張も失当であるとして、独禁法上の「取引条件等の差別的取扱い」には該当しないと判断しました。

コメント

本判決は、放送番組の「自主制作番組」該当性について、放送事業者自身の「発意と責任」の有無及び番組制作の全体を通じた主体的な関与の有無という観点から、企画・編成・制作・経済的負担等の諸事情を総合的に考慮して判断する枠組みを示した点に意義があります。

本判決のポイントとして、以下の点を挙げることができます。

(1)「自主制作番組」の実態的判断―形式的な番組名義では足りない

放送事業者が、形式的には自社の番組として放送している場合であっても、番組の企画段階から第三者(スポンサー等)の主導により制作され、制作費の負担、楽曲の選定、放送枠の調整、番組音声データの提供等の主要な工程において当該第三者の意向が強く反映されている場合には、当該番組は放送事業者の「自主制作番組」とは認められない可能性があります。

(2) 利用許諾契約上の用語と放送制度上の概念の連動

本判決は、レコード利用許諾契約上の「自主制作番組」要件の解釈について、コミュニティ放送に関する総務省の有識者会議で示された「制作著作」の概念を参照しています。著作権等管理事業者との利用許諾契約においては、契約上の用語が放送制度上の概念を踏まえて解釈される場合があることに留意する必要があります。

(3) 「自主制作番組」の判断要素―原審判決による整理

本判決と同様の判断枠組みを採用した原審判決においては、自主制作番組の判断にあたり、コミュニティ放送事業者が、①番組制作に関する法律上の権利義務の帰属主体であること、②番組制作に関する経済的な収入・支出の主体であること、③制作業務の主要な部分を自ら担当することが必要である、と要素を分節化して整理されています(東京地裁平成28年6月6日判決)。本判決の「発意と責任」「主体的な関与」という判断枠組みを具体的に検討する際の参考になります。

(4) サービス全体の構造との関係での「自主制作」性の判断

サイマル配信の仕組みを通じて、複数の放送局の番組を組み合わせ、結果として24時間連続して音楽を聴取できるようなサービスを構築する場合には、各放送局における個別の番組としての「自主制作」性が、サービス全体の構造との関係で慎重に判断され得ることが示されました。

(5) 著作権等管理事業者の許諾権限の範囲の把握

被控訴人による更新拒絶が「管理事業法16条にいう『正当な理由がなく』利用の許諾を拒んでいる」ものに当たらないと判断された前提として、本判決は、被控訴人がレコード製作者から管理委託を受けている範囲(許諾権限の範囲)に着目しています。著作権等管理事業者が許諾できる利用範囲は、管理委託契約により画定されており、利用者側としても、その範囲を踏まえて利用許諾契約の内容を把握しておく必要があります。

(6) 配信サイト・配信サーバの契約上の特定と許諾範囲

原審判決は、レコード利用許諾契約書に記載された配信サイト・配信サーバ以外からのサイマル配信は、許諾の範囲に含まれないことも明示的に判示しています(東京地裁平成28年6月6日判決)。本件においても、控訴人らが契約書上配信サイトとして掲記していたのはCSRA(コミュニティ放送事業者の任意団体)が運営するウェブサイトであり、リスラジ用に用いられていたMTI側の配信サーバーは、契約書上の配信サイト・配信サーバとして掲記されていなかったという事情がありました。

レコード利用許諾契約においては、配信先(配信サイト・配信サーバ)を契約書上いかに特定するかが、許諾範囲を画する役割を果たし得るのであり、配信先を変更又は追加する場合には、事前に契約内容の変更等を行う必要があることに留意する必要があります。

おわりに

本判決のように、放送番組の「自主制作」性、著作権等管理事業者との利用許諾契約の解釈、サイマル配信に係る権利処理等は、放送・配信ビジネスを行う事業者にとって、サービス設計の段階から契約の締結・運用、紛争対応に至るまで、実務上判断に迷う場面が多い分野です。具体的なサービスの仕組みや契約書面、関係事業者間の役割分担を踏まえた検討が必要となるため、早期に弁護士にご相談いただくことが有益です。

当事務所では、著作権法、著作権等管理事業法、放送・配信ビジネスに関する契約・紛争その他の知的財産分野について、ご相談・ご依頼を承っております。本判決に関連する論点や、レコード・楽曲の利用に係る契約の見直し、サイマル配信その他のインターネット配信サービスの設計に関するご相談など、お気軽にお問い合わせください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。