2025年(令和7年)6月13日、デジタル行財政改革会議において「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」(以下「本基本方針」)が決定されました。
本基本方針は、今後の個人情報保護法改正の方向性を含む、データ駆動社会の実現に向けた政府の包括的な方針を示す政策文書です。本基本方針では、以下の3つの取組を一体的に推進することで、データとAIの好循環を形成するとしています。
| # | 取組 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | データ利活用制度の構築 | AI活用にも資する円滑なデータ連携を実現するための制度整備 |
| ② | 個人情報保護法の改正 | AI開発を含めた統計作成等の場合における同意にとらわれない本人関与の在り方等を含む改正 |
| ③ | ユースケースの創出 | 官民協働による具体的なユースケース創出の取組 |
あわせて、本基本方針は、官民データ活用推進基本法の抜本的な改正や新法の制定についても、次期通常国会(令和8年通常国会)への法案提出を目指すとしており、個人情報保護法改正と並ぶもう一つの重要な立法措置として注目されます。
今回のコラムでは、企業の実務担当者の方に向けて、本基本方針のポイントを解説いたします。
1. 基本方針の背景と目的
なぜ今、データ利活用制度の見直しが必要なのか
本基本方針は、以下の問題意識に基づいています。
| 問題意識 | 内容 |
|---|---|
| 人口減少への対応 | 生産年齢人口の急速な減少に直面する中、データとAIの社会実装こそが、生産性向上・賃金引上げ・生活の質向上をもたらす基盤となる |
| データ利活用の立ち遅れ | 国際的な指標に照らしても、我が国のデータ利活用を通じた価値の創出は依然として立ち遅れている |
| 制度面の課題 | 個人情報保護法の第三者提供規制がEU法よりも柔軟性に乏しい側面があり、データ連携を困難にしているとの指摘がある |
目指すべき将来像
本基本方針は、データやAIの利活用を社会実装することで、一人一人の生活の質を向上させ、個人の幸福・自由、Well-Beingを達成する「データ駆動社会」の実現を目標として掲げています。
そのために、データを個別組織の「内部資産」にとどめず、信頼性と安全性を確保しながら、異分野間を含むデータ連携・利活用を実現するための制度・システム面の基盤を整備するとしています。
2. 検討の基本的な視点
本基本方針は、以下の3つの視点に基づいて検討が進められています。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| データ利活用による新たな価値の創造 | データは単体では価値が限定的だが、組み合わせや蓄積により新たな価値を生む。事業者の競争と協調のバランスに配慮しつつ、法制度を含むデータ利活用環境を整備する |
| AIで強化される社会の実現とリスクへの対応 | データとAIの好循環を確立し、AI-Powered社会を実現する。一方、ハルシネーションやバイアス等のリスクにも適切に対処する |
| 透明性・信頼性の確保 | データの収集・利活用プロセスの透明性を確保し、関係当事者の信頼を確立する。個人情報保護法も技術的・社会的環境の変化に即してアップデートを行う |
3. データ利活用のための環境整備(分野横断的な改革事項)
本基本方針の中核部分であり、3つの観点から取組を進めるとしています。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 「形」や「道」を整備する | データ連携基盤の整備、データ標準化の推進 |
| 「勾配」(インセンティブ)をつける | データ収集、データ提供のインセンティブの確保 |
| 「場」をつくる | データガバナンスの強化による信頼性の高いデジタル空間の構築 |
その上で、各観点に係る取組として、以下の内容が記載されています。
| 観点 | 主な取組 |
|---|---|
| A「形」や「道」を整備する | トラスト基盤の整備(2026年度まで) / データ連携基盤の「デジタル公共インフラ」としての整備 / データの標準化(モビリティ、農業、公共事業等で2025年度に制度面を含む検討) / 国際標準への対応 |
| B「勾配」をつける | 義務的手法、補助金交付条件としてのデータ提出、デジタル公共財としての整備、対価のアプローチ等の複数の選択肢を場面に応じて取捨選択 / 中小企業のデータアクセス制限に対する競争政策的な制度検討(2025年度) |
| C「場」をつくる | 社会全体でのデータガバナンスの確保(リスクベース・アプローチ) / データセキュリティの確保(PETs等) / 「データ連携プラットフォーム」制度の構築 / 個人情報の適正な取扱い確保(個情法改正) / AI活用によるリスクへの事前対応 |
以下、企業実務に特に影響の大きい項目を解説します。
(1) トラスト基盤・データ連携基盤の整備
本基本方針は、異なる主体間でのデータ連携を円滑に進めるため、データの信頼性を確保する基盤(トラスト基盤)と、データを実際にやりとりするための基盤(データ連携基盤)の両面について、制度・技術の整備を進めるとしています。主な取組は以下のとおりです。
| 取組 | 内容 |
|---|---|
| 標準規格の策定 | データ連携を円滑化するため、国が重要分野のユースケースについて標準規格を策定する。企業のシステム対応にも直接影響し得る |
| 「データ連携プラットフォーム」制度の構築 | 個人情報や知的財産等が含まれるデータを安心して預けられるガバナンス(公平性、競争条件等)を確保した制度を構築する |
| トラスト基盤の整備 | 2026年度までに、データ連携で必要となるトラスト(信頼性の確保)について体系的なフレームワークを整備する |
| 先端技術の活用検討 | デジタルアイデンティティウォレット(DIW)やプライバシー強化技術(PETs)等の活用の在り方を検討する |
| 「デジタル公共インフラ」の整備 | 公共性の高い分野については、ID、認証、セキュリティ等に関するデータ連携基盤を「デジタル公共インフラ」として整備する |
(2) データガバナンスの確保
本基本方針は、データ利活用の信頼性確保のために、データガバナンスの重要性を強調しています。
データガバナンスとは、データを適切に利活用する取組(法令遵守、プライバシー・知的財産の尊重、データセキュリティの防護策等)を総合的に行うことを指します。
企業においては、リスクの大きさに応じた制度・技術・運用の柔軟な措置を講じ、安全性と利便性のバランスを確保することが求められます。なお、現場、リスク管理部門、マネジメント層のそれぞれが、データによる価値創造とリスクの関係について共通の正確な理解を持つことが重要であるとされています。
(3) 個人情報保護法の見直し(本基本方針が示す方向性)
本基本方針は、個人情報保護法の見直しについて、以下の方向性を示しています。
| 方向性 | 内容 |
|---|---|
| 同意にとらわれない本人関与の在り方 | AI開発を含めた統計作成等、個人の権利利益に対する直接の影響が想定されない取扱いについては、リスクに応じた本人関与の在り方を検討する |
| 事後的規律の一体的整備 | 個人が安心してデータを提供できる「信頼」を醸成するため、課徴金、命令、罰則等について、全体としてバランスの取れた形での改正を行う |
| PIA(プライバシー影響評価)の推進 | 個人情報保護法上の規律遵守にとどまらず、費用対効果も勘案しつつ、透明性・信頼性確保のための取組を推進する |
本基本方針は、これらの方向性に基づく個人情報保護法の改正案について、「早期に結論を得て提出することを目指す」としており、今後、個人情報保護委員会における具体的な制度設計が注目されます。
実務への影響: 本基本方針は、今後の個人情報保護法改正の方向性を理解するための重要な政策文書です。将来の改正法の解釈・運用においても、本基本方針が示す「データ利活用と個人情報保護の両立」という基本理念が参照される可能性があります。企業としては、本基本方針の内容を踏まえ、今後の法改正の動向を注視していくことが重要です。
4. 先行分野の改革事項
本基本方針は、以下の5つの重点分野における具体的な取組を掲げています。
| 分野 | 主な取組 |
|---|---|
| 医療 | 医療データの二次利用の制度的円滑化、EU・EHDSも参考とした包括的・体系的な制度枠組みの検討、特別法の制定を含む実効的措置の検討(2027年通常国会への法案提出を目指す) |
| 金融 | 家計の収支管理やライフプランの設計のための金融情報の「見える化」、クレジットカード分野でのAPI連携の制度的対応の検討 |
| 教育 | 教育データのオンラインでのやりとりを可能にする認証基盤の整備、データ標準化の推進 |
| モビリティ | 地域交通DXの推進、モビリティデータ連携・活用基盤の構築 |
| 産業 | サプライチェーンを通じたデータ連携(カーボンフットプリント算出等)、産業データ連携のユースケース創出 |
実務への影響: 特に医療分野においては、医療データの二次利用に関する特別法の制定が検討されており、医療関連事業者にとって大きなインパクトがあります。金融分野では、クレジットカード事業者に対するAPI導入の努力義務等の法的措置も検討されています。
5. 行政データの利活用
本基本方針は、行政データの利活用についても積極的な方針を示しています。
| 取組 | 内容 |
|---|---|
| 分野横断的な統括機能の整備 | 政府内にデータ利活用の分野横断的な統括機能を整備する |
| 行政データの品質向上 | AI利活用に対応するため、行政データの品質向上に取り組む |
| 災害時等のデータ提供の法的枠組み | 大規模災害時等における事業者から行政へのデータ提供について、法的枠組みを整備する(提供義務の法定も検討) |
| 分野間データ連携の枠組み | 仮名化された共通識別子を用いた分野間のデータ連携・解析の枠組みを検討する |
実務への影響: 災害時等の事業者から行政へのデータ提供について法的枠組みが整備される方向であり、一定の緊急事態におけるデータ提供義務の法定も検討されています。大量のデータを保有する事業者は、今後の制度設計の動向を注視する必要があります。
6. デジタル公共財の整備
本基本方針は、広く社会的課題の解決に資するデータを「デジタル公共財」と位置づけ、その整備を進めるとしています。
「デジタル公共財」とは、誰でも自由に使え、利用しても減ることがなく、複製や共有が容易なソフトウェアやデータ等を指します。「デジタル公共インフラ」(電子認証やガバメントクラウド等の共通基盤)とは区別されます。
地方創生や中小企業・スタートアップのイノベーション誘発に有用なデータについて、行政データのオープンデータ化等の形で公的な整備を進めるとされています。
7. 今後のスケジュール
本基本方針に基づく主な対応スケジュールは以下のとおりです。
| 時期 | 事項 |
|---|---|
| 2025年度 | 官民データ活用推進基本法の抜本的改正、新法等の検討 |
| 2025年末目途 | 医療データの対象範囲、情報連携基盤の在り方等の中間取りまとめ |
| 2026年度 | トラスト基盤の整備、教育分野の技術実証 |
| 2026年夏目途 | 医療データの議論の整理 |
| 令和8年通常国会 | 官民データ活用推進基本法改正等の法案提出、個人情報保護法改正案の提出を目指す |
| 2027年通常国会 | 医療データに関する法案提出を目指す |
おわりに
本基本方針は、個人情報保護法改正にとどまらない、データ利活用制度全体の再設計に向けた包括的な方針を示しています。
企業の実務担当者としては、今後予定される個人情報保護法改正への対応に加え、自社が属する業界(医療、金融、モビリティ等)における分野別の制度改革の動向や、データガバナンスの在り方、行政データの利活用に関する新たな法的枠組みの整備状況についても、継続的にフォローしていくことが望まれます。
本コラムが読者の皆様の一助となれば幸いです。
本コラムは、「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」(令和7年6月13日、デジタル行財政改革会議決定)に基づき、企業実務の観点からポイントを整理したものです。本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

