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職場での無断録音や業務命令違反等を理由とする普通解雇の有効性(東京地裁立川支部平成30年3月28日判決:人事担当者のための労働法)

企業の人事担当者にとって、従業員が職場で無断録音を行った場合にどのような対応を取るべきか、また、業務指示に従わない従業員に対する普通解雇がどのような場合に有効と判断されるかは、実務上のご質問やご相談を受けることが非常に多い問題です。

今回のコラムでは、従業員による職場での無断録音や業務命令違反が問題となった東京地裁立川支部平成30年3月28日判決(平成28年(ワ)第2468号地位確認等請求事件、平成28年(ワ)第2784号建物明渡等請求事件)を取り上げます。

本判決は、判断枠組みはもちろんのこと、会社(被告)側の対応として示唆に富む内容を含んでおり、実務上参考となるものです。

事案の概要

本件は、X線回析装置等の製造・販売を事業内容とする会社(被告)に、期間の定めなく正社員として雇用された従業員(原告)が、普通解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認と未払賃金の支払を求めた事案です。

会社側は、反訴として、社宅の明渡し等を求めました。

本件の主な経緯は、以下のとおりです。

時期出来事
平成26年3月原告がソフトウェア設計の正社員として入社。薄膜設計課に配属
平成26年3月~10月入社直後から業務中・会議中の居眠りが頻発し、業務の遅れ等が指摘される
平成26年10月会社が退職勧奨を実施。原告はこれを拒否
平成26年11月~平成27年10月原告が私傷病休職。復職手続を巡り、会社の許可を得ずに出社を続ける
平成27年11月製造課に配属されて復職。原告は配置転換を「退職強要」と主張
平成27年12月~平成28年4月目標管理シートの提出を拒否・趣旨に沿わない記載で提出を繰り返す
平成28年3月納期翌日の作業が未了のまま、報告なく定時退社
平成28年4月録音禁止の業務命令を拒否
平成28年6月3日録音禁止命令違反を理由に譴責処分。原告は反省せず、今後も録音を続ける旨の始末書を提出
平成28年6月27日就業規則79条4号(勤務成績不良)・9号(準ずる事由)に基づき普通解雇

本件の争点

争点内容
争点①本件普通解雇が解雇権を濫用したものか否か(労働契約法16条該当性)
争点②社宅の明渡義務及び社宅使用料の支払義務の有無

裁判所の判断

争点①(解雇権濫用の有無)について

裁判所は、以下の事情を総合的に考慮し、本件普通解雇は客観的に合理的な理由を欠くとも、社会通念上相当でないとも認められないとして、解雇権の濫用には当たらず有効であると判断しました。

(1)私傷病休職からの復職手続における問題

裁判所は、原告が就業規則に定められた復職手続を無視し、自己の見解に固執して一方的な出社を続けたことについて、以下のとおり判示しました。

「就業規則が定める復職手続を無視し、自己の見解に固執し、被告や自ら加入した労働組合からの正当な指導・指示も受け入れず、一方的な出社を続けているといわざるを得ず、会社の規則を軽視し、会社等の正当な指示も受け入れない姿勢が顕著といわざるを得ない。」

なお、原告は、居眠りは欠神発作(てんかんの一種)による意識消失であると主張しましたが、裁判所は、てんかん専門医による脳波検査の結果等を踏まえ、以下のとおり判示して、原告の主張を採用しませんでした。

「欠神発作による意識消失という原告の主張はにわかに採用できず、原告は、被告への入社以降、正当性のない居眠りを繰り返し、労務提供義務を怠っていた疑いが濃いといわざるを得ない。」

(2)目標管理シート等の提出拒否・不適切な記載

裁判所は、原告が目標管理シートの提出を拒否し、提出後も趣旨に沿わない記載を繰り返したことについて、以下のとおり判示しました。

「単に目標管理シート等の趣旨を理解しないというにとどまらず、会社の決まりを軽視し、会社の正当な指示も受け入れない姿勢が顕著といわざるを得ない。」

原告が提出した目標管理シートの問題点は、以下のとおりです。

項目内容
達成手段欄「会社の指示どおり作業をします。」とのみ記載
ウェイト欄記載なし
自己評価すべて最高ランク「S」と記載
能力評価表全58項目中3項目のみ記載し、すべて「S」
異動等の希望欄「退職強要の事実を認めてください」等10項目の要求を列記

(3)納期直前の作業放置と報告なしの帰宅

裁判所は、原告が、納期が翌日の作業を未了のまま、進捗報告をせずに帰宅したことについて、以下のとおり判示しました。

「従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、これについての注意や指導を受け入れない姿勢が顕著で、改善の見込みもないといわざるを得ない。このことは、原告が本人尋問において、納期が明朝朝一番に迫っていても残業命令がない限りは定時に帰り、命令がない限りはその旨を報告する必要もないと明言していること(中略)からも顕著であり、被告がこのような原告に任せられる仕事はないなどと判断したのも、やむを得ないものである。」

(4)録音禁止命令への違反

裁判所は、職場での無断録音の禁止について、就業規則に明文の根拠がなくても、使用者は労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、録音を禁止する権限を有すると判断しました。

「雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者である被告は、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、被用者である原告に対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されるものではない。」

また、無断録音の実害についても、以下のとおり判示しました。

「被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、原告に対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである。」

(5)製造課への配置転換の合理性

原告は、製造課への配置転換が退職強要目的の嫌がらせであると主張しましたが、裁判所は、この主張を退けました。裁判所が考慮した事情は、以下のとおりです。

考慮事情
求人票及び採用内定通知書に、「開発設計職」に職種を制限する明示的な規定がない
求人票には「ただ、設計するのではなく」と記載され、現場対応等を含む業務があることが明記されている
就業規則19条でも異動があり得ることが明記されている
原告自身が異動があり得ることを聞いていたと認めている
原告が加入していた労働組合もこの配置転換を認めていた

(6)裁判所の総合判断

裁判所は、以上の事情を総合し、以下のとおり判示して、本件普通解雇を有効と判断しました。

「原告は、もともと正当性のない居眠りの頻発や業務スキル不足などが指摘され、日常の業務においても、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、適切な労務提供を期待できず、私傷病休職からの復職手続においても、目標管理シート等の提出においても、録音禁止命令への違反においても、自己の主張に固執し、これを一方的に述べ続けるのみで、会社の規則に従わず、会社の指示も注意・指導も受け入れない姿勢が顕著で、他の従業員との関係も悪く、将来の改善も見込めない状態であったというべきである。」

また、裁判所は、会社が段階的に対応してきた点も評価しました。

「原告の一連の勤務状況等を全体として問題視しつつ、順次対応していたところ、一向に改善が見られなかったため、本件普通解雇に至ったものというべきである。」

争点②(社宅明渡義務等の有無)について

裁判所は、本件普通解雇が有効であることを前提に、原告は従業員としての地位を失ったのであるから、社宅の明渡義務を負うと判断しました。

コメント

本判決の意義

本判決は、職場での無断録音の禁止について、就業規則に明文の根拠がない場合であっても、使用者が労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づいて録音を禁止する権限を有することを認めた裁判例です。

近年、スマートフォンの普及等により、職場での無断録音が容易になっている中で、企業が録音禁止の業務命令を発する根拠を示した点で、実務上参考になります。

解雇に至るプロセスの重要性

本判決で注目すべき点は、会社が解雇に至るまでに段階的な対応を行っていたことです。本件における会社の対応の流れは、以下のとおりです。

段階対応内容
第1段階上司・同僚による注意・指導(居眠り、勤務態度、報連相の不足等)
第2段階人事課長による複数回の面談(勤務態度の改善指示、目標管理シートの作成指示等)
第3段階労働組合を交えた復職協議(配属先・復職日についての労使合意)
第4段階製造部長による業務命令(録音禁止命令、目標管理シートの書き直し指示等)
第5段階弁明の機会の付与(2回実施)
第6段階懲戒処分(譴責)及び始末書提出命令
第7段階改善が見られなかったため、普通解雇

このように、会社は、注意・指導から始まり、面談、労働組合との協議、懲戒処分と段階を踏んだ上で、それでも改善が見られなかったために普通解雇に至っています。

このことは、企業が問題のある従業員に対して解雇を検討する際には、いきなり解雇を行うのではなく、段階的な対応を踏み、その経緯を記録に残しておくことが重要であることを示しています。

録音禁止に関する就業規則の整備

本判決は、就業規則に明文の根拠がなくても録音禁止の業務命令を発することができると判断しましたが、企業としては、事前に就業規則や社内規程において、職場での録音・撮影に関するルールを明確に定めておくことが望ましいといえます。就業規則に録音・撮影の禁止やその例外を明記しておくことで、業務命令の正当性がより明確になり、従業員への周知も徹底しやすくなります。

問題行動への段階的対応と記録化

本判決から導き出される企業実務上のポイントは、以下のとおりです。本判決は、事例判断ではあるものの、人事・労務担当者にとって示唆に富む判決といえます。

ポイント内容
注意・指導の実施と記録化問題行動があった場合には、その都度、注意・指導を行い、面談記録やメール等の形で記録を残しておくこと
段階的な処分の実施注意・指導で改善が見られない場合には、懲戒処分(譴責等の軽い処分から)を検討すること
改善の機会の付与従業員に対して弁明の機会を付与し、改善の機会を十分に与えること
就業規則の整備録音禁止を含め、服務規律に関する規定を就業規則に明確に定めておくこと
配置転換等の検討解雇の前に、配置転換等の他の手段による改善の可能性を検討すること

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。