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メディアスクラム(集団的取材行為)と共同不法行為責任(東京高裁令和4年10月26日判決)

はじめに

芸能人や著名人の逮捕・事件をめぐる報道の場面では、多数の報道関係者が一か所に集まり、いわゆる「スクープ競争」が展開されることがあります。このような集団的取材活動(メディアスクラム)において、個々の記者やカメラマンが相互に意思を疎通させていなかったとしても、その集団的な行動によって第三者に損害が生じた場合、報道機関は法的な責任を負うのでしょうか。

東京高裁令和4年10月26日判決は、シンガーソングライターの逮捕報道をめぐって生じた車両損傷と傷害について、複数の新聞社・雑誌社の記者やカメラマンによる集団的取材行為が民法上の「共同の不法行為」にあたるとして、各社の共同不法行為責任(民法719条1項前段)を認めました。

報道機関はもとより、多数の関係者が集まる場面での法的リスクを考える上で参考となる裁判例です。

今回のコラムでは、上記東京高裁判決について、概要を紹介いたします。

事案の概要

平成28年(2016年)11月28日、あるシンガーソングライター(以下「A」といいます。)が覚せい剤取締法違反の被疑事実により逮捕されるとの報道がなされました。A宅周辺には、複数の新聞社・雑誌社(以下「被告各社」といいます。)の記者やカメラマンのほか、ユーチューバーや野次馬等を含む100人を超える人々が集まっていました。

Aの子(以下「原告X2」といいます。)は、Aを乗せた乗用車(以下「本件車両」といいます。)を自宅のガレージ(以下「本件ガレージ」といいます。)から発進させようとしました。

しかし、ガレージのシャッターが開くと、報道陣等は私有地であるガレージ前の敷地に無断で立ち入り、本件車両に向かって一斉に殺到しました。本件車両は報道陣等に取り囲まれて動けなくなり、原告X2は発進を断念してガレージに引き返しました。

その後、本件車両をガレージ内に後退させてシャッターを閉めようとしたところ、報道陣等の一部がガレージ内に留まり続けたほか、新たにシャッターをくぐり抜けてガレージ内に入り込む者まで現れたため、シャッターの降下が途中で自動停止しました。灯りの消えた暗いガレージ内は無秩序な混乱状態となり、原告X2が車を降りて自宅へ戻ろうとした際、ガレージ内にいた記者等が持っていたカメラ等の撮影機材が原告X2の顔に当たり、負傷しました。

本件車両を所有する会社(以下「原告会社」といいます。)と原告X2は、被告各社に対し、共同不法行為(民法715条1項本文・719条1項前段)に基づく損害賠償を請求しました。原審(東京地判令和2年10月23日)は、原告らの請求をいずれも棄却しましたが、本判決はこれを変更して一部を認容しました。

本件の争点

本件の争点は以下のとおりです。

争点内容
争点①報道陣等による集団的行動は、民法719条1項前段の「共同の行為」(客観的関連共同性)にあたるか
争点②被告各社の記者等の行為と、本件車両の損傷(物損)との間に因果関係が認められるか
争点③被告各社の記者等の行為と、原告X2の負傷(人損)との間に因果関係が認められるか
争点④被告各社の記者等に過失(損害発生の予見可能性・回避可能性)が認められるか
争点⑤損害額(テレビ局各社から受領した解決金の扱いを含む)

裁判所の判断

1 「共同の行為」性について(争点①)

裁判所は、民法719条1項前段の共同不法行為が成立するためには、「不法行為の要件を満たす行為を数人が共同の行為として行い、他人に損害を加える必要がある」と整理しました。

本件集団的行動については、報道陣等が相互に意思を連絡したり歩調を合わせたりして行動したわけではないという事実は認めつつも、裁判所は次のように判示しています。

「本件集団的行動は、本件集団がひとかたまりの集団と化して、無断で個人住宅であるA自宅の敷地及びそのガレージ内に立ち入り、本件車両に向かって殺到し、その周囲を取り囲んで動けなくし、一部の者がその車体に接触して、意図したことではなかったにせよ、本件物損という結果を発生させたものであり、そのような結果を発生させる高度の危険性を有するものであった。そうすると、本件集団を構成する個々の報道陣等の行為は、相互に意思を連絡し、又は歩調を合わせて行ったものとはいえないとしても、客観的に関連し共同するものであったというべきであるから、本件集団的行動は、これらの者の共同の行為であったと認められる。なお、これらの者の行為の中には、被控訴人らの記者等のように取材・報道活動として行われたものだけでなく、野次馬等のように興味本位ないし個人的な情報収集活動として行われたものなども含まれていたと考えられるが、そのことは上記判断を左右するものではない。」

すなわち、裁判所は、集団的行動がある結果を発生させる高度の危険性を有していたかどうかを判断の基準(メルクマール)として、客観的な関連共同性の有無を認定しました。事前の意思連絡がなくても、また取材目的の者と野次馬が混在していても、集団としての行動に危険性が伴っていれば「共同の行為」にあたるとされた点が、本判決の特徴と言えます。

なお、原告X2の負傷(人損)との関係についても、同様の枠組みで判断がなされています。

「本件車両が発進を断念し、本件ガレージ内に戻ってからは、控訴人やAが自宅内に戻るため本件車両から降りることが容易に予測されるから、本件シャッターが途中まで下りた後、灯りの消えた中、報道陣等でごった返し、無秩序な状態と化した本件ガレージ内に留まり、又は新たに本件シャッターをくぐり抜けて本件ガレージ内に入り込んだ報道陣等の行為は、控訴人に本件負傷を生じさせる高度の危険性を有するものであり、客観的に関連し共同するものであって、それらの者の共同の行為であったというべきである。」

2 因果関係について(争点②③)

物損(車両損傷)との関係について、裁判所は次のように判示しました。

「被控訴人らの記者等5名は、いずれも、その程度や態様に差異はあるものの、本件ガレージ前敷地等において、本件集団から離脱することができたにもかかわらず、殺到する報道陣等の中を、カメラ等の撮影機材を持ちながら、前方の本件車両に向かって移動していたのであるから、その行為は、少なくとも客観的には、前記共同の行為を介して本件物損の発生の一因となっていたということができる。したがって、被控訴人らの記者等5名の行為と本件物損との間には因果関係が認められる。」

人損(原告X2の負傷)との関係については、被告各社のうちスポーツニッポン・デイリースポーツ・産経の3社(以下「被告3社」といいます。)の記者等3名が本件集団的行動の一環としてシャッターをくぐり抜けてガレージ内に立ち入ったことを認定した上で、裁判所は次のように判示しました。

「被控訴人3社の記者等3名は、本件集団的行動の延長ないし一環として、本件シャッターが途中まで下りた後、これをくぐり抜けて本件ガレージ内に立ち入ったものであるから、共同の行為に加わったというべきであり、その行為は、少なくとも客観的には、前記共同の行為を介して本件負傷の発生の一因となっていたということができる。したがって、被控訴人3社の記者等3名の行為と本件負傷との間には因果関係が認められる。」

3 過失について(争点④)

物損については、被告各社の記者等5名が「100人を超える報道陣等が本件車両に向かって殺到していることを認識したはずであるから、これによって本件車両に損傷が生じるおそれがあることを予見することができ、かつ、本件集団から離脱するなどして本件物損の発生の一因となることを回避することができた」にもかかわらず、自らの意思で共同の行為に加わったとして、過失が認められました。

人損については、被告3社の記者等3名について次のように説示しています。

「被控訴人3社の記者等3名は、真っ暗な状態の本件ガレージ内において、報道陣等が本件車両の周囲を取り囲み、降車してきた控訴人らに誤って危害を加えてしまう危険があることを予見することができ、かつ、そうした危険のある本件ガレージ内に立ち入らないようにすることが容易にできたにもかかわらず、自らの意思で前記共同の行為にその一員として加わったというべきである。」

4 結論

以上の判断を踏まえ、本判決は次のとおり命じました。

  • ・物損について:被告各社は連帯して原告会社に4万2279円(及び遅延損害金)を支払う(民法715条1項本文・719条1項前段)
  • ・人損について:被告3社(スポーツニッポン、デイリースポーツ、産経)は連帯して原告X2に11万6700円(及び遅延損害金)を支払う(同前)

コメント

本判決の意義

本判決の意義は、事前の意思連絡や明示的な役割分担がない場合であっても、集団としての行動が一定の危険性を有するものであれば、民法719条1項前段の「共同の行為」にあたりうることを明確にした点にあります。

この考え方の背景には、最高裁昭和43年4月23日判決(民集22巻4号964頁)が示した「共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加えた場合」という基準にあります。本判決は、この枠組みを集団的取材行為の場面に当てはめ、「結果を発生させる高度の危険性」を持った集団行動であれば、個々人の意思連絡の有無を問わず客観的関連共同性が認められると判断しました。

また、因果関係の認定についても、各記者等の行為が「共同の行為を介して損害発生の一因となっていること」で足りるとの立場を採っている点も、実務上注目されます。

企業に求められる対応

本判決から、報道機関や各種メディア企業の実務対応としては、次の点が重要と言えます。

1 集団取材現場でのリスク管理体制の整備

本判決は、意思連絡がなくても集団として危険な状況が生じれば共同不法行為責任が発生しうることを示しました。

大規模な集団取材が見込まれる場面では、現場の混乱を防ぐための人員管理や指揮系統の整備が求められます。

2 記者・カメラマンへの行動基準の周知

本件では、「集団から離脱できたにもかかわらず離脱しなかった」という点が過失の根拠とされました。

危険な状況では取材を継続せずに離脱するという判断ができるよう、現場での行動基準を社内ガイドラインとして明文化し、日頃から周知することが重要です。

3 私有地への立入りの厳格なコントロール

本件では、私有地であるガレージ前敷地への無断立入りが行為の違法性を基礎づける一事情となっています。

取材の緊急性や報道の自由を理由としても、私有地への無断立入りは正当化されません。この点は、特に現場取材のルールとして徹底する必要があります。

本判決は、個別の事案に関する判断であり、同種事案であっても具体的な事実関係によって結論が異なることがあります。集団的取材活動に伴う法的リスクの評価や、自社の取材マニュアル・ガイドラインの整備については、ぜひ弁護士にご相談ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。