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特定少年の強盗事件で保護処分(少年院送致)を選択した決定(東京家裁令和6年5月16日決定:少年事件)

はじめに

令和3年の少年法改正により、18歳・19歳の「特定少年」については、一定の重大犯罪を犯した場合に原則として検察官送致(逆送)の対象とされる、いわゆる原則逆送事件の範囲が拡大されました。もっとも、家庭裁判所は、諸般の事情を考慮して「刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」には、保護処分を選択することができます(少年法62条2項ただし書)。

今回のコラムでは、特定少年(犯行時18歳)がカッターナイフを用いて現金を強取した強盗事件において、刑事処分以外の措置を相当と認め、第1種少年院送致・収容期間3年とした東京家庭裁判所令和6年5月16日決定(令和6年(少)第568号)を紹介します。

本決定は、改正後の少年法のもとでの保護処分選択の判断枠組みと考慮要素を具体的に示した事例として、実務上参考になります。

 

事案の概要

少年(犯行時18歳・特定少年)は、令和5年△月×日午後11時38分頃から同日午後11時43分頃、マッサージ店内において、店の経営者に対し、あらかじめ準備したカッターナイフを示して「金を出せ」などと脅迫し、反抗を抑圧した上で現金5000円を強取しました(強盗罪・刑法236条1項)。

少年は、上京中に所持金が尽き、滞在費を得るためには人から奪うしかないという短絡的な考えのもと、本件犯行に及んでいます。被害額は5000円にとどまり、後に被害者との示談が成立し、全額の弁償と宥恕が得られています。

少年には、知的な制約と自閉スペクトラム症の疑いがあり、情緒や社会性は年齢に比して未熟であったと認定されています。また、家庭裁判所への係属歴はなく、捜査段階から一貫して本件犯行を認め、反省の態度を示していました。

強盗は「短期1年以上の懲役に当たる罪」に該当するため、本件は少年法62条2項2号所定の原則逆送事件に当たります。本決定は、同項ただし書を適用し、刑事処分以外の措置が相当と認めた上で、少年を第1種少年院に送致し、収容期間を3年と定めました。なお、本決定に対して抗告・再抗告がなされましたが、いずれも棄却されています。

 

本件の争点

争点①:刑事処分以外の措置(保護処分)が相当と認められるか

本件は原則逆送事件に当たるため、家庭裁判所は原則として検察官に送致しなければなりません。しかし、少年法62条2項ただし書は、「犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」には保護処分等を選択できると定めています。本件では、この要件を満たすか否かが問題となりました。

争点②:保護処分として少年院送致を選択することが相当か

特定少年に対する保護処分には、①6か月の保護観察、②2年の保護観察、③少年院送致の3種類があります(少年法64条1項)。処遇の選択に際しては「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内」でなければならず、本件では少年院送致が相当か否かが問題となりました。

争点③:少年院への収容期間をどのように定めるべきか

特定少年を少年院送致とする場合、「3年以下の範囲内で、犯情の軽重を考慮して」収容期間を定めなければなりません(少年法64条3項)。本件では、収容期間をいかに定めるべきかが問題となりました。

 

裁判所の判断

争点①:刑事処分以外の措置の相当性

裁判所は、まず犯情の観点から、被害額が5000円と軽微にとどまること、示談成立・全額弁償・被害者の宥恕が得られていることを指摘した上で、「本件の犯情は、相応に重いものの、検察官送致とするほど重いとはいえない」と判断しました。

その上で、少年の知的な制約・自閉スペクトラム症の疑いを背景とした情緒・社会性の未熟さ、家庭裁判所への係属歴がないこと、捜査段階からの一貫した反省態度等を総合的に考慮し、次のとおり判断しました。

19歳(犯行時18歳)という少年の年齢を踏まえても、保護処分を許容しうる特段の事情があると認められ、少年法62条2項ただし書に該当する。

争点②:少年院送致の相当性

裁判所は、「本件の犯情は相応に重く、保護処分の選択として少年院送致も許容される」と判断しました。

その上で、少年の問題性を詳細に分析し、発達特性と養育環境が本件非行の背景にあること、実母への過度な依存が形成された経緯、問題解決能力の不足等から再非行に及ぶリスクの高さを指摘して、次のとおり述べています。

少年の本件非行につながった問題性は、少年の発達特性と養育環境を背景としており、本件犯行の動機形成経緯をみても、その問題性は大きい。少年は、審判において、自身の特性を踏まえて病院に通院する意向を示したり、被害者等への謝罪の気持ちを述べたりしており、本件後に一定の内省の深まりが認められるものの、少年の問題性の大きさを踏まえると、その改善は容易ではないといえる。

また、社会内処遇を選択した場合のリスクについては、次のとおり述べています。

社会内処遇を選択した場合、少年が、問題解決能力の不足等から、本件のように視野が狭くなり不適切な対処方法を選択して再非行に及ぶ可能性が高いと認められる。少年については、保護処分歴がないことを踏まえても、社会内処遇を選択するのは相当ではなく、少年院に収容して、強固な枠組みの下で、少年の資質上の問題性を踏まえた指導を受けさせ、問題対処能力や社会適応性を身に着けさせることが、再非行を防止する上で必要不可欠である。

争点③:収容期間

裁判所は、本件が原則逆送事件となる強盗の事案であること、犯情の悪質性を踏まえ、収容期間を上限の3年と定めました。

 

コメント

1 本決定の意義

令和3年少年法改正により、特定少年(18・19歳)に対する原則逆送事件の対象は大幅に拡大されました。しかし、本決定は、強盗という重大犯罪に該当する事案であっても、少年の発達特性・未熟さ・反省の態度・被害回復の実現等の諸事情を総合的に考慮することで、刑事処分ではなく保護処分(第1種少年院送致・収容期間3年)を選択した事例です。

改正少年法のもとでの保護処分選択の判断枠組みと考慮要素を具体的に示した点で、今後の実務の参考となる決定といえます。

2 判断枠組み——総合考慮説による検討

少年法62条2項ただし書の適用に際して、実務上は「保護不適の推定を破るに足りる特段の事情」の存在が必要とされています。特段の事情の判断方法については、①犯情を中心に判断する犯情説(二段階説)と、②犯情を含む諸事情を総合的に考慮する総合考慮説の考え方があり(廣瀬健二編『少年事件重要判決50選』〔立花書房、2010〕201〜205頁を参照)、後者の考え方が有力です。

本決定は、実務上の多数を占める総合考慮説の立場に立ち、犯情のみならず、少年の発達特性・情緒の未熟さ・反省状況・被害回復の実現等を幅広く考慮した上で、保護処分を許容し得る特段の事情を肯定したと評価できます。。

3 少年院の収容期間の設定

特定少年を少年院送致とする場合の収容期間(少年法64条3項)は、3年以下の範囲で犯情の軽重を考慮して定められます。この収容期間には仮退院後の保護観察の期間も含まれるため、少年院での矯正教育と社会復帰後の支援の双方を見据えた設定が必要となります。実務上は、決定の時点で少年の具体的な改善の見通しを正確に予測することは困難であることから、処遇の柔軟性を確保するため、一定の幅を持たせた期間が選択されることが多いとされています。

本決定が上限の3年を定めたのは、本件が原則逆送事件となる強盗の事案であり、犯情の悪質性を踏まえたものと考えられます。

4 少年事件対応における留意点

本決定が示すように、少年の発達特性(知的な制約・自閉スペクトラム症の疑い等)は、少年法上の保護処分選択において重要な考慮事情となります。少年が非行に至る背景に発達特性や養育環境上の問題がある場合、これらの事情を適切に家庭裁判所に伝えることが、処遇選択に大きく影響します。

少年事件においては、付添人(弁護士)に早期に相談し、少年の特性や生育環境についての詳細な情報提供や意見具申を行うことが、適切な処遇の実現につながる重要な要素となります。少年やその家族が困難な状況に直面した際には、速やかに専門家へ相談をすることが大切です。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。