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YouTubeへの根拠なき著作権侵害通知による動画削除と不法行為責任(大阪高裁令和4年10月14日判決)

動画共有プラットフォーム「YouTube」には、著作権者が自己のコンテンツの著作権を侵害すると考える動画についてYouTubeに「著作権侵害通知」を提出し、対象動画を削除させることができる仕組みがあります。

この仕組みを利用して競合する動画投稿者の動画を削除させた行為について、大阪高等裁判所令和4年10月14日判決(以下「本判決」)は、通知者らに不法行為責任を認め、損害賠償の支払を命じました。

YouTubeに動画を投稿する企業・個人にとって、また著作権侵害通知を行う可能性のある権利者にとって、重要な示唆を含む判決です。

今回のコラムでは、上記大阪高裁判決について、概要を紹介いたします。

 

事案の概要

Xは、YouTube上でかぎ針編みの動画(トリニティスティッチおよびメランジ編みの作品制作動画、以下「X動画」)を匿名チャンネルに投稿し、広告収益を得ていました。Y1も同様に編み物動画を投稿しており、Y2はY1の内縁のパートナーです。Y1のチャンネルはY2が経営する古物商の一部門として管理運営されていました。

令和2年2月6日、Y1は、X動画がY1の動画(以下「Y1動画」)の著作権を侵害するとして、YouTubeに2本のX動画を対象とする著作権侵害通知を提出しました。その結果、X動画は同日中に削除され、Xに著作権侵害警告が送信されました。

Xはその後、個人情報(本名・住所)が通知者に開示されるリスクを避けるため代理人弁護士を通じてYouTubeに異議申立てを行いましたが、日米の著作権法の相違(日本にはフェアユースに相当する規定がないこと等)が正確に理解されなかったためか受理されず、Xが本訴を提起した後、削除から約半年後(206日後)にようやくX動画が復元されました。なお、Y1らからXに対して著作権侵害を理由とする訴訟提起はされませんでした。

XはY1・Y2に対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点① Y1の著作権侵害通知による不法行為の成否

争点② Y2の共同不法行為の成否

争点③ 損害の発生およびその額

 

裁判所の判断

争点①(Y1の不法行為の成否)

(1)YouTubeへの動画投稿と法律上保護される利益

裁判所はまず、YouTube投稿者が有する法律上の保護利益について、次のとおり判示しました。

YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。

また、収益化されたチャンネルにおいては、YouTubeへの動画投稿によって、投稿者は収益を得ることができるから、正当な理由なく投稿動画を削除する行為は、投稿者の営業活動を妨害する行為ということになる。したがって、この側面からも、投稿者は、正当な理由なく投稿動画を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解することができる。

(2)著作権侵害通知と不法行為の成立

次に、著作権侵害通知と不法行為の関係について、以下のとおり判示しました。

著作権侵害通知をする者が、上記のような注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYouTubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては、当該著作権侵害通知をした行為は、投稿者の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為を構成するというべきである。

なお、Y1らは「著作権侵害通知による削除はYouTubeの規約上予定されたことであり、投稿者はこれに同意してサービスを利用しているから、社会的に許容し得る限度を超えた違法なものとはいえない」と主張しましたが、裁判所はこれを退けています。

(3)著作権侵害通知の法的根拠の欠如

本件侵害通知のうち1つは、X動画の「動画全体」について「編み目(スティッチ)の著作権侵害」があるとするものでした。しかし、編み物の編み目(スティッチ)は「毛糸によって小物又は衣類を作成するに当たっての技法のアイデア又はその技法により毛糸が編まれた編み物の最小構成単位にとどまるものであって、思想又は感情の表現とは認められないから、それ自体を著作物と認めることはできず(知的財産高等裁判所平成24年4月25日判決(甲19)・裁判所HP参照)」として、著作物性が否定されました。

もう1つの侵害通知は「著作権、翻訳権の侵害」があるとするものでしたが、Y1がY1動画での著作権侵害に当たると主張した口頭説明部分も、「編み目に関するアイデアであって表現それ自体ではない部分、又は編み方の説明としてありふれたものであって表現上の創作性が認められない部分にすぎず」著作物性が否定されました。

以上から、本件各著作権侵害通知はいずれも法的根拠を欠くものと認定されました。

(4)Y1の過失・著作権侵害通知制度の濫用

裁判所は、以下の事情を総合考慮した上で、Y1には必要な注意義務を怠った過失があるばかりか、著作権侵害通知制度を濫用したとまで認定しました。

控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。

不法行為の成立を支えた具体的事情としては、次のものが挙げられています。

・編み目に著作物性が認められないことをY1自身がかねてから認識していたにもかかわらず、法的検討をしないまま著作権侵害通知を提出したこと

・著作権侵害の成立要件である依拠性の検討が全くなかったこと

・削除されたXから「どの動画の著作権を侵害したのか教えてほしい」と問い合わせがあったにもかかわらず、回答をせず専らXを困惑させる対応に終始したこと

・著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるような相手に対し、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行ける」などと強迫的ともいえるメッセージを送り示談を強く求めたこと

・本訴提起後もY1らは著作権侵害を理由とする裁判手続をとろうとしなかったこと

・X以外の複数の競合チャンネルに対しても同様に著作権侵害通知を一斉提出し、不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められること

争点②(Y2の共同不法行為の成否)

Y2は、著作権侵害通知が問題となった後に初めて関与するようになったとして共同不法行為の成立を否定しましたが、裁判所は次のとおり判示して、Y2の共同不法行為責任を認めました。

控訴人Bは、平成31年4月頃や令和2年1月16日から、繰り返し、CチャンネルがY1(控訴人B)個人ではなく会社組織により運営され、盗作疑惑に関しては役員会議等の判断により方針が決定されているなどとYouTube上で述べていたことが認められる。さらに……控訴人D(Y2)自身も、本件侵害通知がされた令和2年2月6日の翌日である同月7日午前4時41分には、控訴人Bからの依頼を受け、Cの代表取締役を名乗って、Pにメッセージを送信し……著作権は当社が持っているので著作権侵害等を理由として損害賠償請求裁判をする所存である旨通知したほか……繰り返し、著作権侵害関係について自己がCの責任者又は関係者であることを示す言動をしていたことが認められる。

以上によれば、控訴人Dが、本件侵害通知を含む一連の著作権侵害通知について把握していなかったとは考え難く、むしろ、控訴人Bが、Eの一部門であるCの活動として、複数名に著作権侵害通知等をしていることを認識しつつ、控訴人Bのそうした行動に助力ないしは加担していたと推認するのが相当である。したがって、本侵害通知による不法行為につき、控訴人Dも、共同不法行為者として、控訴人Bと同様の責任を負うべきものと認められる。

なお、Y2は本件侵害通知がされた後に初めて関与するようになった旨陳述しましたが、裁判所は上記認定事実に照らしてこれを信用しませんでした。また、本件侵害通知の約1週間後に削除中のX動画を視聴したとも陳述するなど、陳述内容に一貫性がなかったことも信用性を否定する事情として指摘されています。

争点③(損害の発生とその額)

裁判所が認定した損害の内訳は以下のとおりです。

損害項目認定額主な理由・考慮事情
精神的損害(慰謝料)20万円削除期間が206日間に及んだこと、動画制作に相応の労力・時間を要していたこと、削除後もY1が「2度あることは3度ある、3度目は命取りです」などと脅迫的なコメントを投稿するなど事後的にも誠意ある対応をしなかったこと等を考慮
広告収益に関する経済的損害1万7929円削除期間中(206日間)にX動画から得られたはずの広告収益相当額。削除前の実績収益を基礎に、投稿直後は視聴数が多く漸減する傾向等を踏まえて算定
弁護士費用4万3585円本件の内容・難易等に鑑み、本件侵害通知と相当因果関係のある範囲で認定
合計26万1514円Y1・Y2が連帯して支払を命じられた

これに対し、Xが請求した以下の損害項目については、いずれも認められませんでした。

請求項目結論理由
チャンネル全体の収益性低下による損害否定通知前後・復元後の各時点における収益変動を示す具体的な数値の立証がなかった
視聴者の信頼低下による視聴数減少の損害否定同上

なお、Y1らは「XがYouTubeに速やかに異議申立てをしなかった」として損害軽減義務違反を主張しましたが、裁判所は、異議申立てをすると個人情報が通知者に開示されるリスクがあること等を踏まえ、代理人弁護士への委任に一定の期間を要したことはやむを得ないとして、この主張を退けました。

 

コメント

本判決の意義

本判決は、YouTubeへの著作権侵害通知によって動画を削除させた者の不法行為責任が問題となった、わが国初のリーディングケースと位置付けられます。

これまで、著作権侵害通知に基づく動画削除はYouTubeの規約上想定された出来事であり、投稿者がその規約に同意している以上、通知者は責任を問われないとも言われたりしていました。しかし、本判決は、規約への同意にかかわらず、注意義務を怠った根拠なき著作権侵害通知によって動画を削除させた場合には不法行為が成立し得ることを明確にしました。

不法行為の成立要件

もっとも、本判決は「著作権侵害通知の内容が事後的に著作権侵害に該当しないと判断されたからといって、直ちに不法行為が成立するわけではない」という立場をとっています(「その態様如何によっては……不法行為を構成するというべきである」)。

著作物性や著作権侵害の有無は、専門的な判断を伴うため、通知の内容が結果的に誤りであったというだけで責任を問われるものではありません。不法行為の成否は、著作権侵害通知の内容の正確性についての確度、事前の調査・検討内容、通知をした動機、対象動画の内容、事後的な対応の態様など、諸般の事情を総合考慮して判断されることになります。

本件は、先行判例(知財高裁平成24年4月25日判決)から編み目の著作物性が否定されることが明らかであったにもかかわらず、Y1がそれを認識した上で何らの法的検討もせず、競合する投稿者の動画を排除する手段として著作権侵害通知制度を利用したという悪質な事情が重なったケースです。具体的にどのような場合に不法行為責任が認められるかは、今後の裁判例の集積を待つことになります。

企業に求められる対応

(1)著作権侵害通知を行う場合

著作権侵害通知を行う際には、事前に以下の各点を確認・検討することが求められます。

確認事項内容本件での問題点
著作物性の確認自社が著作権を有すること(対象コンテンツに著作物性があること)編み目(スティッチ)はアイデアにすぎず著作物性が否定されることを認識しながら通知した
依拠性の確認対象動画が自社コンテンツに依拠して作成されたといえること依拠性の検討が全くなかった
通知内容の正確性の確認著作権侵害通知の内容が事実と正確に対応していること「動画全体」が侵害対象とされたが、具体的な該当箇所すら特定されていなかった

もちろん、専門家(弁護士・弁理士)への相談が有効ですが、本判決は、仮に相談をしていたとしても「真摯な相談がされたものとはおよそ考えられない」場合には過失の免責とはならないと判断しており、形式的な相談では足りない点に留意する必要があります。

また、著作権侵害通知を競合者の排除目的で利用することは、単なる過失にとどまらず制度の濫用として評価され得ることに十分注意が必要です。

(2)著作権侵害通知を受けた場合

自社の動画が著作権侵害通知によって削除された場合、速やかに専門家に相談することが重要です。

異議申立てを行うと本名・住所が通知者に開示されるリスクがあることから、本件と同様に代理人弁護士を通じた対応が実務上有効です。また、通知者が異議申立て後10営業日以内に裁判手続をとらなければ削除された動画は復元されることも、対応を検討する際の参考になります。

さらに、動画の広告収益に関する損害賠償を求める場合には、著作権侵害通知を受ける前後の収益データを具体的に保全・記録しておくことが、損害立証の観点から極めて重要です。本件では、削除期間中の各動画の広告収益については損害が認められた一方、「チャンネル全体の収益性低下」については具体的な数値による立証がないとして損害が認められませんでした。YouTube上では各動画の収益分析データを期間を区切って確認・保存できますので、平時から定期的にデータを適切に記録・管理しておくことが大切です。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。