はじめに
自社が権利を持つ漫画・イラスト・記事・写真などのコンテンツが、著作権を侵害する違法サイトに掲載され、無料で閲覧できる状態に置かれてしまうケースは、後を絶ちません。このような場合、運営者に対してどの程度の損害賠償を請求できるのかは、企業にとって切実な関心事です。また、被害を受けたコンテンツが他社のキャラクター等を利用した二次創作である場合には、加害者側から「あなたの作品自体が違法なものだから、権利行使はできないはずだ」と反論されることもあり得ます。
今回のコラムでは、これらの問題が正面から争われた知財高裁令和2年10月6日判決をご紹介いたします。本件は、著名なアニメのキャラクターを利用したボーイズラブ(BL)同人誌が、複数の海賊版サイトに無断掲載されたことについて、同人誌の作者が著作権侵害に基づく損害賠償を求めた事案です。
本判決の意義は、大きく2点にあります。第一に、無断掲載サイトのページビュー(PV)数と、著作権法114条1項に基づく損害額算定との関係について、裁判所の考え方を具体的に示している点です。第二に、二次創作作品に基づく著作権侵害の主張に対して、「違法な二次的著作物に基づく権利行使であるから許されない」という反論がどのような場合に認められるのかを整理している点です。海賊版被害への対応を検討する企業にとっても、自社コンテンツと第三者の権利との関係を整理する企業にとっても、参考になる内容です。
事案の概要
本件の当事者は、次のとおりです。
| 表記 | 内容 |
|---|---|
| X | 本件で問題となった同人誌(漫画)の作者(一審原告) |
| Y社 | 本件各ウェブサイトを運営していたと認定された会社(一審被告会社) |
| Y1 | Y社の現代表取締役(一審被告Y1) |
| Y2 | Y社の前代表取締役であった亡Y3の配偶者であり、その地位を相続した者(一審被告Y2) |
Xは、著名なシリーズもののアニメの主要キャラクターを利用し、これに性的な要素を加えた二次創作のBL同人誌(本件各漫画)を制作し、同人誌即売会や書店への委託販売を通じて頒布していました。本件各漫画には、次のような共通の特徴があると認定されています。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 特徴① | 主要な登場人物(主役)は、若い男性二人である |
| 特徴② | 主役の名前が、有名なシリーズものの漫画又はアニメの登場人物と同一である |
| 特徴③ | 主役の顔貌及び体型が、原著作物の主役と酷似している |
| 特徴④ | 人間関係や場面設定、建物や小道具等に、原著作物と同一又は類似のものがみられる |
| 特徴⑤ | ストーリーの中核が、主役二人による性的な行為の場面であること(原著作物には存在しない設定) |
| 特徴⑥ | 上記場面の一部に、性的な描写が含まれること |
| 特徴⑦ | 表紙又は奥付に、原著作物の題号又は登場人物名への言及があること |
Y社は、自社が運営する複数のウェブサイトに、Xに無断で本件各漫画を掲載し、閲覧者に無料で閲覧させながら、広告掲載料により収益を上げていたと認定されました。Xは、Y社に対し、公衆送信権侵害を理由に、民法709条及び著作権法114条1項に基づく損害賠償(推定される損害額約1億9324万円のうち1000万円の一部請求)を求めるとともに、Y1及び亡Y3(Y2がその地位を相続)に対し、法令順守体制を整備すべき義務を怠ったとして、会社法429条1項に基づく損害賠償を求めました。
原審(東京地裁令和2年2月14日判決)は、Xの請求のうち219万2215円の限度でこれを認容し、その余を棄却しました。この判断に対し、双方が控訴したのが本件です。控訴審であるY社らは、新たに、Xの同人誌が原著作物の著作権を侵害する違法な二次的著作物であるから、Xがこれに基づいて権利行使をすることは信義則違反又は権利の濫用に当たるとの主張を追加しました。また、損害額の算定方法についても、双方が改めて争いました。知財高裁は、双方の控訴をいずれも棄却し、原判決を維持しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです(原判決における争点5・争点6に対応します)。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | Xの同人誌に基づく著作権侵害の主張が、信義則違反又は権利の濫用に当たるか |
| 争点② | 著作権法114条1項に基づき損害額を算定するに当たり、無断掲載サイトのPV数をそのままXが販売し得た数量として扱うことができるか |
裁判所の判断
争点① 信義則違反又は権利の濫用について
裁判所は、まず、Y社らが主張する著作権侵害(原著作物のキャラクターが複製されている)という主張について、次のとおり判断しました。漫画の「キャラクター」自体は著作物には当たらないとした上で、著作権侵害を主張するためには、原著作物のどのシーンについて侵害を主張するのかを具体的に特定する必要があるとしています。
しかしながら、漫画の「キャラクター」は、一般的には、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから、著作物に当たらない(最高裁判所平成4年(オ)第1443号、同9年7月17日第一小法廷判決、民集51巻6号2714頁)。
そうすると、シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には、そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに、そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には、その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである。
その上で裁判所は、Y社らの主張の多くが、原著作物のどのシーンの著作権が侵害されたのかを特定していない点で立証として不十分であると評価しました。さらに、仮に著作権侵害の問題が生じ得るとしても、それは主人公の容姿や服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られ、その余の部分については、Xの本件各漫画に新たに付与された創作的部分として、二次的著作権が成立し得るとしました。このため、Xがそのような二次的著作権に基づいて損害賠償を求めることが、権利の濫用に当たるとはいえないと判断しています。
また、Y社らは、本件各漫画がわいせつな内容を含むことを理由に、これに基づく権利行使は許されないとも主張しました。これに対し、裁判所は次のとおり判断しています。
たしかに本件各漫画(本件漫画11を除く。)は特徴⑤⑥を有するものであることが認められる。しかしながら、本件各漫画全体を検討してみても、それらが甚だしいわいせつ文書であって、これに基づく著作権侵害を主張し、損害賠償を求めることが権利の濫用に当たるとか、そのような損害賠償請求を認めることが公序良俗に違反するとまで認めることはできない。
以上より、裁判所は、Y社らが主張する信義則違反又は権利の濫用の抗弁をいずれも排斥しました。
争点② 損害額の算定について
裁判所は、著作権法114条1項本文が定める「受信複製物の数量」の意味について、次のとおり判断しました。
「受信複製物の数量」とは、公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本文)、単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく、ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。
その上で、Y社の無断掲載行為とXによる本件各漫画の頒布行為との違いについて、次のとおり指摘しています。
Y社は、本件各ウェブサイトに本件各漫画の複製物をアップロードし、無料でこれを閲覧させていたのに対し、Xは、有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたものであり、Y社の行為とXの行為との間には、本件各漫画を無料で閲覧させるか、有料で購入させるかという点において決定的な違いがある。
| 提供方法 | 内容 |
|---|---|
| Y社(無断掲載サイト) | 会員登録等を要せず、無料で閲覧可能 |
| X(同人誌の頒布) | 同人誌即売会や書店委託を通じ、有料で頒布 |
裁判所は、無料であれば閲覧するが、書籍を購入してまでは閲覧しようとは考えない需要者が多数存在すると推認できるとした上で、本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数量(著作権法114条1項の計算の前提となる数量)は、PV数よりも相当程度少ないと予想されると判断しました。これらの事情を総合すると、同項の適用対象となる複製物の数量は、PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当であると結論付けています。
コメント
1 本判決の意義
本判決は、海賊版サイトによる著作権侵害の損害賠償請求において実務上しばしば問題となる2つの論点、すなわち、①無断掲載サイトのアクセス数(PV数)をそのまま損害額算定の基礎とできるかという点と、②権利者の作品自体が第三者の著作権を侵害する二次的著作物であるとの主張によって権利行使が妨げられるかという点について、具体的な判断枠組みを示したものです。いずれも、コンテンツを保有する企業が海賊版被害に遭った場合や、逆に他社から権利侵害を指摘された場合に直面し得る問題です。
2 「違法な二次的著作物」の抗弁について
本判決は、他人のキャラクターや設定を利用した二次創作作品であっても、そのことだけを理由に著作権行使が信義則違反又は権利の濫用に当たるとはされない、という考え方を示しています。ポイントは、著作権侵害を主張する側が、原著作物のどの具体的表現が利用されたのかを特定する必要があるとされている点です。キャラクターという抽象的な概念それ自体は著作物に当たらないため、単に「有名な作品の登場人物を思わせる」という指摘だけでは足りません。また、二次創作作品のうち、基本的設定を超えて新たに付与された創作的部分については、その作者に独自の著作権(二次的著作権)が生じ得ることも示されています。自社の商品やコンテンツが他社のキャラクター等を参考にした要素を含む場合には、どの部分が独自の創作的表現に当たるのかをあらかじめ整理しておくことが、権利関係を検討する上で重要になります。
3 PV数と損害額算定の関係について
本判決は、海賊版サイトの被害額を検討する際に、単純な閲覧数(PV数)と、著作権法114条1項が想定する「受信複製物の数量」とは異なる概念であることを明確にしています。無断掲載サイトが無料で提供している一方、権利者自身は有料で頒布しているという相違も、損害額の推定を覆滅する事情として考慮されました。
この判断の背景には、原審(東京地裁令和2年2月14日判決)における具体的な事実認定があります。原審は、本件各漫画のPV数の合計が11万7318(1冊分に引き直すと7万6738)であったのに対し、実際の同人誌の販売総数は8513冊にとどまり、PV数の約9分の1程度であったと認定しています。また、原審は、アクセス数の推定サービスである「シミラーウェブ」の分析結果について、次のとおり判断し、これを損害額算定の根拠として採用しませんでした。
同ウェブサイトの分析結果については、同ウェブサイトが分析結果を公表した企業から事実に反するとの抗議を受けていると報じられ、グーグルが提供するGoogle Analyticsといった他のサービスによる分析結果と比較して、同一のウェブサイトであってもPV数に大きな誤差があるなど、その正確性、信頼性に疑問を呈する見解が複数みられるところである。
このことは、コンテンツが海賊版サイトに掲載されているのを発見した企業にとって、損害賠償請求を検討する際には、単にアクセス解析上のPV数や訪問者数を示すだけでは足りず、実際にどの程度の複製・持ち出しが生じたと評価できるかについて、信頼性の高い証拠を整理する必要があることを意味します。
4 著作権者であることの立証について
本件では、Xがペンネーム及びサークル名を用いて活動していたことから、原審においては、Xが本件各漫画の著作権者であるといえるかどうかも争点となりました。原審は、次のような複数の間接事実を積み重ねる形で、Xが著作権者であると認定しています。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| ① | 本件各漫画がいずれも、Xが書店委託販売の際に使用するサークル名の記載があるチラシに掲載されていたこと |
| ② | 本件各漫画の表紙にも同一のサークル名及び筆名の記載があったこと |
| ③ | 同人誌の通信販売サイトにおいて、複数の作品に付された筆名がサークル名とともに表示されていたこと |
| ④ | Xが同一の筆名を用いて出版社と著作権に関する契約を締結していたこと |
| ⑤ | 別件の著作権侵害に関する刑事事件の記録において、被害者が同一の筆名を用いるX本人として表記されていたこと |
| ⑥ | Xが印刷所に印刷を発注し、納品を受けていたこと |
| ⑦ | Xが印刷会社のウェブサイトのマイページから、印刷に係る注文履歴にアクセスできたこと |
| ⑧ | 委託先の書店からX宛てに販売結果の報告書が送付されていたこと |
このように、裁判所は、単一の直接証拠ではなく、複数の間接事実を積み重ねる形で著作権者性を認定しています。ペンネームやサークル名で創作活動を行う個人や、フリーランスへの制作委託を行う企業にとっては、契約書等による明確な権利帰属の合意がない場合に備え、発注履歴や納品記録、取引先からの報告書等を保管しておくことが、後日の紛争において著作権者であることを立証する手掛かりになり得ることを示す事例といえます。
5 役員の第三者責任について
原審は、Y社の運営実態や役員構成等を踏まえ、Y1及び亡Y3について、次のとおり判断し、会社法429条1項に基づく責任を認めました。この判断は、知財高裁においても維持されています。
取締役は、会社に対し、善管注意義務を負い(会社法330条、民法644条)、会社の事業において第三者の著作権等の権利を違法に侵害しないよう注意する義務を負うところ、亡Y3及びY1が、Y社による本件各漫画に係る公衆送信権侵害行為を防止する措置を何ら講じなかったことは任務懈怠に当たり、悪意又は少なくとも重過失が認められる。
自社の運営するウェブサイトやサービスが著作権侵害の温床になっている場合、会社自身が損害賠償責任を負うだけでなく、これを防止する措置を講じなかった役員個人も、第三者に対して損害賠償責任を負う可能性があることを示す判断です。コンテンツを取り扱う事業を運営する企業の経営者にとっても、留意しておくべきポイントといえます。
6 企業に求められる対応
以上を踏まえると、企業には次のような対応が求められます。第一に、自社コンテンツが海賊版サイト等に無断掲載された場合には、アクセス数の数字をそのまま損害額の根拠とするのではなく、実際の複製・ダウンロードの状況を裏付ける信頼性の高い証拠を収集することが望まれます。第二に、他社のキャラクターや設定を利用した二次創作・派生的なコンテンツを企画・商品化する場合には、どの部分が独自の創作的表現であり、どの部分が基本的設定にとどまるのかを、あらかじめ整理しておくことが望まれます。第三に、著作権侵害を主張する、又はこれに対して抗弁をする場合には、対象となる具体的表現を特定した上で主張を組み立てる必要があります。第四に、ペンネームや屋号で事業を行う場合や、フリーランスへ制作を委託する場合には、権利関係を裏付ける記録を整理しておくことが望まれます。第五に、自社のウェブサイトやサービスを通じて著作権侵害が生じないよう、役員がその防止体制の整備に関与することも重要です。損害額の算定方法や権利関係の評価は、事案ごとの事実関係に大きく左右されるため、具体的な対応を検討する際には、専門家の視点を踏まえた判断が有用です。
おわりに
著作権を侵害する違法サイトによる被害への対応や、二次創作・派生コンテンツをめぐる著作権関係の整理は、事実関係の調査と法的評価が密接に関わり合う分野であり、弁護士に相談することが有益です。当事務所では、著作権侵害への対応や、コンテンツビジネスに関する権利関係の整理について、ご相談・ご依頼を承っております。同様の問題でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
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