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キャラクター商品化権の独占的利用権者による第三者に対する損害賠償請求の要件(東京地裁令和2年6月25日判決)

はじめに

キャラクターやコンテンツのライセンスビジネスでは、権利者から「独占的ライセンス」を取得することが、事業の基盤となります。しかし、独占的ライセンス契約を締結したにもかかわらず、市場では第三者が同じキャラクターの商品を販売している――そのような場合に、ライセンシー(利用権者)は、その第三者に対して損害賠償を請求できるのでしょうか。

今回のコラムでは、ロシアのアニメ映画のキャラクター「チェブラーシカ」の商品化を巡り、ロシアの映画スタジオから独占的利用権の付与を受けたと主張する会社が、日本でぬいぐるみ等のキャラクター商品を販売していた事業者に対して1億円超の損害賠償を請求したものの、利用権者が商品化権を「専有しているという事実状態」がないとして請求が棄却された裁判例(東京地裁令和2年6月25日判決)をご紹介いたします。

本判決は、独占的利用権者が契約外の第三者に損害賠償請求をするための要件を、一般論として明示した点に特徴があります。「独占契約を結んだ」というだけでは第三者に対抗できず、市場での現実の販売や、権利者(ライセンサー)による独占の裏付け行為が必要になるという判断は、ライセンスを受けて事業を行う企業にとっても、ライセンスを許諾する企業にとっても、契約設計と運用を考える上で有益な裁判例です。

事案の概要

Xは、アニメーション作品のライセンス等を業とする米国法人であり、Yは、キャラクター商品の企画・製造・販売等を業とする日本の有限責任事業組合です。

本件の背景には、ロシアの映画スタジオ(判決文の表記に従い「SMF」といいます。)を起点とする、次のような二重のライセンス関係がありました。

時期出来事
平成17年Yの組合員であった企業(判決文では「TXBB」)が、SMFとの間で、チェブラーシカ等のキャラクターの商品化等に係る独占的利用の許諾契約を締結(期間は平成26年12月31日まで。3万米ドルの支払により10年延長可能)。以後、日本でキャラクター商品の販売が行われる
平成26年秋頃SMFが、香港の法人にも本件キャラクターの商品化権をライセンス。TXBB側は抗議するとともに更新料の振込先口座の提供を求めたが、SMFは回答しなかった
平成27年SMFが、TXBB側に対し、契約違反を主張して更新料の支払に必要な合意書の作成を拒絶。TXBBはYを脱退
平成28年8月Xが、SMFとの間で、本件キャラクターの商品化権等に係る独占的利用権の付与を内容とする契約を締結(期間は令和3年8月31日まで)

Yは、平成28年10月以降も、日本において、本件キャラクターを利用したぬいぐるみ、トートバッグ、雑貨、食品等の多数の商品の販売を続けていました。Xは、Yのこの販売行為が、Xの独占的利用権を侵害するとして、不法行為に基づき、損害賠償金1億1000万円等の支払を求めて提訴しました。

これに対し、Yは、そもそもキャラクターの商品化権がSMFに帰属しているか自体に疑義があること(米国では帰属を否定した判決があること)、Y側の契約が承継・更新等により存続していること、Xの契約の有効性にも疑義があることなど、多岐にわたる反論をしました。

なお、以下の判決文の引用部分では、Xは「原告」、Yは「被告」と表記されています。

本件の争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①独占的利用権者は、契約外の第三者に対して、どのような要件の下で損害賠償を請求できるか
争点②Xについて、本件キャラクターの商品化権を「専有しているという事実状態」が認められるか

このほか、判決文には、商品化権のSMFへの帰属、Y側の契約の承継・更新・解除、黙示の利用許諾、損害額などの争点も掲げられていますが、裁判所は、争点②を否定したことにより、これらについては判断していません。

裁判所の判断

争点① 独占的利用権者が第三者に損害賠償請求するための要件について

裁判所は、まず、独占的利用権者の法的地位について、次のとおり判示しました。

「独占的利用権者は、商品化権の権利者に対し、契約上の地位に基づく債権的請求権を有するにすぎないが、このような地位にあることを通じて本件キャラクターに係る商品化権を独占的に使用し、これを使用した商品の市場における販売利益を独占的に享受し得る地位にあることに鑑みると、独占的利用権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても、一定の法的保護が与えられるべきである。」

その上で、裁判所は、第三者に対する損害賠償請求が認められるための要件を、次のとおり示しました。

「独占的利用権者が、契約外の第三者に対し、損害賠償請求をすることができるためには、現に商品化権の権利者から唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか、そうでないとしても、商品化権の権利者において、利用権者の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じる客観的状況を創出しているなど、当該利用権者が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要というべきである。」

すなわち、①唯一の許諾を受けた者として現に市場で商品を販売しているか、②そうでなくても、権利者が、利用権者の独占を確保する行為(侵害者への警告や法的措置等)によってこれに準じる客観的状況を作り出していることのいずれかにより、「専有の事実状態」があることが必要である、という枠組みです。

争点② Xに「専有の事実状態」が認められるかについて

裁判所は、以下の事実を認定し、Xについて専有の事実状態を否定しました。

観点考慮された事情
Xの販売実績Xは、契約締結後、本件キャラクターを利用した商品を日本において販売したことがない
権利者の侵害排除行為SMFは、YやTXBB等に対し、権利侵害の警告、利用行為の差止請求・損害賠償請求、Xからサブライセンスを受けるよう求める通告のいずれも行っていない
権利者の姿勢SMFは、Xから求めがあったにもかかわらず、Xが独占的利用権を有することを書面等で明確にする対応を一切とらず、かえって、利用権をXとYの双方に設定した二重譲渡の状態にあることを認めつつ、Yの利用権を優先させるかのような姿勢を見せていた
他者へのライセンスSMFは、Y側との間で利用権設定に向けた交渉や合意を行っていたほか、香港の法人にも本件キャラクターの利用権を付与していた

その上で、裁判所は、次のとおり結論付け、その余の争点を判断するまでもなく、Xの請求を棄却しました。

「このような本件事案における事実状態をもってしては、権利者とされるSMFによって、利用権者たる原告の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為が行われたとはいえず、…原告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在しているということはできないというべきである。」

なお、Xは、SMFの代表者による「Xに独占的利用権を与えた」旨の陳述書を提出していましたが、裁判所は、その陳述書以外に、SMFがXへの独占的利用権の付与を積極的に認める姿勢を明らかにした形跡が全く見当たらないなどとして、結論を左右しないとしました。

コメント

本判決は、二重ライセンスをめぐる特殊な経緯を持つ事案についての事例判断ですが、ライセンスビジネスの実務について、以下の点で示唆に富むものといえます。

1 「独占契約を結んだ」だけでは、第三者に権利行使できないこと

著作権についての利用許諾(ライセンス)は、権利者に対する債権的な地位にすぎず、特許権の専用実施権のような登録制度に基づく独自の権利ではありません。本判決は、独占的利用権者の利益にも一定の法的保護を認めつつ、第三者への損害賠償請求には、①唯一の許諾を受けた者としての現実の販売、又は②権利者による専有確保行為によるこれに準じる客観的状況、という「専有の事実状態」を要求しました。契約書上の「独占」の文言だけでは足りず、市場と権利者の行動に裏付けられた実態が必要になる、という整理です。独占的ライセンスを取得した企業は、契約締結後、速やかに事業を開始して独占の実態を作ることが、権利保護の観点からも意味を持ちます。

2 ライセンサーの協力がなければ、独占は機能しないこと

本件でXの請求が否定された事情の中心は、権利者であるSMFが、競合するYに対して警告も法的措置も一切とらず、Xの独占的地位を書面で確認することすら拒み続け、香港の法人への重ねてのライセンスや、Y側を優先するかのような対応まで見せていたことにあります。独占的ライセンシーの地位は、ライセンサーの協力なしには守れません。ライセンス契約の設計においては、①ライセンサーの侵害排除義務・協力義務(第三者の侵害があった場合に警告・訴訟等の措置をとること、ライセンシーの権利行使に協力すること)、②権利の帰属や独占性を証明する書面の交付義務、③これらが履行されない場合の対価減額や解除・補償などを定めておくことが、実務上の対応として考えられます。

3 海外の権利者・古い作品のライセンスには、権利の来歴の確認が不可欠であること

本件では、そもそもキャラクターの商品化権がSMFに帰属しているのかという根本の点についても争いがあり、Yからは、帰属を否定した米国判決の存在も指摘されていました(裁判所は、この点を判断するまでもなく請求を棄却しています。)。旧ソ連時代の作品のように権利の帰属関係が複雑な海外コンテンツについては、ライセンス取得前に、権利の来歴(チェーン・オブ・タイトル)の調査を尽くし、契約においても権利の帰属に関する表明保証や、その違反時の補償を確保しておくことが不可欠です。本件のような二重ライセンスの紛争は、権利者側の管理が不十分な場合に生じやすく、巻き込まれた場合の損失は、ライセンシー側が負うことになりかねません。

4 既にライセンスを受けて事業を行っている側にとっての意味

本判決は、第三者から「自分こそが独占的ライセンスを得た」と主張されて損害賠償を請求された事業者側にとっては、相手方に専有の事実状態がなければ請求は認められない、という防御の枠組みを示すものでもあります。もっとも、本件のYも、自らの契約の承継・更新等について多岐にわたる主張立証を強いられており、二重ライセンスの紛争に巻き込まれること自体が大きな負担です。ライセンス契約の更新手続(本件では更新料の支払をめぐる行き違いが紛争の一因となりました。)や、権利者とのやり取りの書面化を平時から徹底しておくことが、この種の紛争の予防と対応の基礎になります。

おわりに

本判決が扱った問題は、キャラクターに限らず、コンテンツ、ブランド、ソフトウェアなど、ライセンスを基盤とするあらゆるビジネスに共通するものです。独占的ライセンスの実効性は、契約書の文言だけでなく、権利の来歴の確認、ライセンサーとの関係構築、事業の実態づくりといった運用に支えられており、その設計には、裁判例を踏まえた専門的な検討が必要となります。

当事務所は、著作権をはじめとする知的財産権に関するライセンス契約の作成・レビュー、海外権利者との契約交渉、ライセンスをめぐる紛争対応について、ご相談・ご依頼をお受けしております。キャラクター・コンテンツビジネスの展開や、競合するライセンス主張への対応をご検討中の企業のご担当者は、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。