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ウェブサイトに掲載された利用規約のキャンセル料条項と定型約款(民法548条の2)規制(東京地裁令和4年3月1日判決)

はじめに

自社のウェブサイトに利用規約やキャンセルポリシーを掲載し、ウェブ上の手続だけで契約を締結するビジネスモデルは、業種を問わず広がっています。平成29年の民法改正(令和2年4月施行)により、こうした「定型約款」について、どのような場合に契約の内容となるのか(組入れ)、どのような条項が合意から除外されるのか(不当条項規制)を定めるルール(民法548条の2)が新設されましたが、その解釈・適用を具体的に示した裁判例は、いまだ多くありません。

今回のコラムでは、ライブ会場の利用契約について、ウェブサイトに掲載された利用規約のキャンセル料条項が定型約款として契約の内容になるか、そして、新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言下でのキャンセルが「利用者都合」によるものとしてキャンセル料の発生を認められるかが争われた裁判例(東京地裁令和4年3月1日判決)をご紹介いたします。

本判決は、①ウェブサイト上の規約の表示方法や同意取得の仕組みを具体的に認定して定型約款の組入れを認め、②キャンセル料条項が「相手方の利益を一方的に害する」不当条項に当たるか否かを双方向のバランスから判断し、③緊急事態宣言下であっても当然にはキャンセル料の支払を免れないことを示した事例です。ウェブ完結型の取引を行う企業にとって、規約の設計・運用とキャンセル対応の両面で参考になる裁判例といえます。

事案の概要

Xは、ジャズライブバー等の飲食店を経営する会社であり、Yは、ジャズのボーカル担当として活動する音楽家です。Yは、令和2年2月及び3月、Xとの間で、Xの店舗を会場とするライブ出演(会場利用)契約を2件締結しました(出演日は同年4月8日と5月20日。以下「本件契約1」「本件契約2」といいます。)。

Xは、ウェブサイト上に「一般出演枠利用規約」(以下「本件規約」といいます。)を掲載しており、本件規約には、「利用者都合」によるキャンセルの場合には出演日まで179日以内であれば6万円のキャンセル料が発生する一方、「店舗都合」によるキャンセルの場合には出演者の前回の報酬額又は1万5000円のいずれか多い方を店舗側が支払う、といったキャンセル条項が定められていました。

その後、新型コロナウイルス感染症が拡大し、令和2年4月7日には東京都を含む区域に緊急事態宣言が発令され、東京都はライブハウス等への施設使用停止等の要請を行いました。Yは、本件契約1については、出演当日に店舗を訪れず、当日夜に「緊急事態宣言が出た為、自粛させて頂きました。」とのメールを送信しました。本件契約2については、Xが、規模縮小・無観客配信・営業時間の短縮等の複数の選択肢を提案し、出演日の1週間前には営業時間を繰り上げた上でステージ数を3回から2回に減らす提案をしたところ、Yは、出演日の2日前に、緊急事態宣言継続中のため自粛する旨を連絡しました。

Xは、いずれのキャンセルも「利用者都合」によるものであるとして、Yに対し、本件規約に基づくキャンセル料各6万円(合計12万円)等の支払を求めて提訴しました。

なお、以下の判決文の引用部分では、Xは「原告」、Yは「被告」と表記されています。

本件の争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件規約(キャンセル料条項を含む)は、定型約款として本件各契約の内容に含まれるか(民法548条の2第1項)
争点②キャンセル料条項は、相手方の利益を一方的に害する条項として、合意しなかったものとみなされるか(民法548条の2第2項)
争点③本件各キャンセルは、「利用者都合」によるものとして、キャンセル料が発生するか(緊急事態宣言の影響)

裁判所の判断

争点① 本件規約が定型約款として契約の内容に含まれるかについて

裁判所は、Xのウェブサイトにおける本件規約の表示方法や契約手続の仕組みについて、以下の事実を認定しました。

認定された事情内容
規約の公開とリンクウェブサイトのトップページを含むすべてのページに「ライブ利用規約」のハイパーリンクが設定され、クリックすると本件規約が表示される
FAQでの案内「キャンセルは可能ですか?」との質問に対し、日程確定後は利用規約所定のキャンセル料が発生する旨の回答を記載し、規約へのリンクを設定
日程仮押さえ時のメール日程確定後の変更・取消しには費用が発生する旨を記載し、キャンセルに関するFAQページへのリンクを設定
日程確定時の操作利用規約に同意するとのチェック操作が要求され、その際に本件規約へのリンクが設定
取引実績Yは、本件各契約より前に、Xとの店舗利用契約を60回以上締結していた

その上で、裁判所は、次のとおり判示し、本件規約が定型約款として本件各契約の内容に含まれると認めました。

「以上の点に照らせば、被告は、少なくとも、本件キャンセル等規定を含めて利用契約につき規約が存在すること自体は認識した上、その内容を契約の内容とする旨の黙示の合意(改正後民法548条の2第1項1号)をしたことが明らかと言うべきである。」

なお、Yの訴訟代理人が後にウェブサイト上で操作したところ、本件規約とは内容の異なる「キャンセル規約」と題するページも存在していたことが認められています。しかし、裁判所は、開発環境にあるものが表示されたのであり一般公開の趣旨ではないというXの説明が直ちに合理性を欠くとはいえず、本件各契約の締結過程で示されていたのは本件規約であるとして、この点は結論を左右しないと判断しました。

争点② キャンセル料条項が「一方的に害する」条項に当たるかについて

Yは、キャンセル料条項は、店舗側が低廉なキャンセル料で容易にキャンセルできる点などで出演者の利益を一方的に害するものであり、民法548条の2第2項により合意しなかったものとみなされるべきであると主張しました。

裁判所は、この条項について、出演者に不利な面と、そうとまではいえない面の双方を検討しました。

評価考慮された事情
出演者の利益を害する面「店舗都合」のキャンセル料の下限(1万5000円)が、「利用者都合」の場合に利用者が支払う金額(6万円)よりも低廉である
出演者の利益を害する面実態として出演者が自ら集客の負担をする場合が多い一方、店舗側はライブチャージの一部等を収受できる
一方的に不利とまではいえない面「店舗都合」の場合でも、出演者の前回の報酬額が多額であればその金額を支払う必要がある
一方的に不利とまではいえない面出演者は、店舗の利用自体について支払を要さず、無償で使用できる
一方的に不利とまではいえない面出演者は、ライブチャージの金額を自ら決定でき、増額すれば店舗側の取り分を除いた残額が自身の報酬になる

その上で、裁判所は、次のとおり判示し、Yの主張を退けました。

「これらの点に照らすと、本件キャンセル等規定の内容は、全体として出演者に対し一方的に不利な内容とまでは言い難い。」

「以上から、本件キャンセル等規定については、信義則(民法1条2項)に反して出演者の利益を一方的に害するとは認められない。」

争点③ 「利用者都合」によるキャンセルと認められるかについて

まず、裁判所は、前提として、緊急事態宣言下での出演の実施に「事実上相当の困難又はその懸念があったことは否定し難い」としつつも、次のとおり判示し、本件各契約に基づく債務が履行不能になったとはいえないとしました。

「上記の緊急事態宣言等の経過をもって、本件各契約に基づく債務が社会通念上履行不能とまでは解することができないと言わざるを得ない。」

その理由として、裁判所は、東京都による施設使用停止等の要請(新型インフルエンザ等対策特別措置法24条9項)は法律上の強制処分の性質を有しないこと、本件店舗は飲食店営業の許可を受けたサロン風の店舗であり、感染拡大の場として指摘されていた典型的なライブハウス等の状況と類似していたかには疑問があることを挙げています。

その上で、裁判所は、2つの契約について、結論を分けました。

本件契約1(当日不出演)について、裁判所は、次のとおり判示し、「利用者都合」によるキャンセルとしてキャンセル料6万円の発生を認めました。

「被告は、債務が社会通念上履行不能とまでは言えない契約(前記(1))につき、原告に無断で契約の定める対応をしなかったものと評価せざるを得ない。出演についての事実上の困難又はその懸念(前記(1))を考慮しても、具体的合意等に至らないまま店舗を訪れなかったことに照らせば、上記評価が覆されるものではない。」

本件契約2(店舗側の変更提案後のキャンセル)について、裁判所は、Xが当初の契約どおり実施する可能性を明示的に示さないまま、営業時間の繰り上げ・短縮とステージ数の削減(3ステージから2ステージ)等の提案をしたことについて、「当初の契約内容とは大きく異なるもの」であり、出演者の報酬がライブチャージの発生する時間帯の来客数によって定まることに照らせば、報酬への期待との関係で大きな不利益をもたらし得るとしました。そして、次のとおり判示し、キャンセル料の発生を認めませんでした。

「債務が社会通念上履行不能とまでは言えない契約(前記(1))について、原告が上記のような提案を行い、これを受けて被告がキャンセルに至った経過に照らせば、本件利用契約2のキャンセルについては、むしろ「店舗都合」の該当性を検討し得ると解されるところであり、少なくとも「利用者都合」に当たると認めることはできない。」

なお、Xは、本件規約にはXがタイムテーブルを変更できる旨の規定があると主張しましたが、裁判所は、次のとおり判示し、この主張を退けました。

「同規定は、単に「タイムテーブルを変更する」ことにつき定めるのみであり、ライブチャージの発生する時間帯及びステージ数を一方的に大きく変動させることを許容するものとは直ちに解し難い。」

以上により、裁判所は、本件契約1についてのみキャンセル料6万円及び遅延損害金の支払を命じ、本件契約2に係る請求を棄却しました。

コメント

本判決は、個別の事実関係に即して判断されたいわゆる事例判決であり、一般的な判断基準を示したものではありません。もっとも、定型約款に関する民法548条の2が実際の紛争でどのように適用されるかを示した例として、ウェブサイト上の規約に基づいて取引を行う企業にとって、以下の点で実務上の示唆に富むものといえます。

1 ウェブ上の利用規約も、表示と同意取得の設計次第で契約の内容となること

本判決は、①全ページへの規約リンクの設置、②FAQでのキャンセル料の案内、③手続過程でのメールによる注意喚起、④日程確定時の同意チェック操作という一連の仕組みを認定した上で、定型約款の組入れ(民法548条の2第1項1号の合意)を認めました。ウェブ完結型の取引で自社の規約を確実に契約内容とするためには、規約を単にサイト内のどこかに掲載しておくだけでなく、契約手続の中で相手方が規約の存在を認識し、同意する機会を組み込んでおくことが重要です。本件でXが採用していた仕組みは、その設計の参考になります。

もっとも、本判決は、複数の事情を積み上げて組入れを認めたものであり、どの要素があれば足りるのかという基準を示したものではありません。また、本件では、相手方に60回以上の取引実績があったという事情もあるため、初めて利用する相手方との関係でも同様の結論となるかは、事案ごとの検討が必要です。

他方、本件では、公開中のウェブサイト上に、適用される規約とは内容の異なる「キャンセル規約」のページが存在していたことが、紛争を複雑にする一因となりました。裁判所は、開発環境のページであるというXの説明を受け入れましたが、適用される規約がどれであるかを明確にし、旧版や開発中のページが閲覧できる状態を残さないという、ウェブサイトの管理面の教訓も読み取ることができます。

2 キャンセル料条項は、双方のバランスを踏まえて有効性が判断されること

本判決は、キャンセル料条項が民法548条の2第2項の不当条項(相手方の権利を制限し又は義務を加重する条項であって、信義則に反して相手方の利益を一方的に害するもの)に当たるかについて、条項の不利な面と有利な面の双方を挙げて総合的に判断し、結論として組入れを認めました。事業者側の視点では、キャンセル料の金額や事業者側・利用者側の負担の非対称性が大きい場合には、条項が合意から除外されるリスクがあることを意味します。自社の規約のキャンセル条項について、取引全体の対価関係の中でバランスの説明がつくかどうかを点検しておくことが望まれます。

なお、本件の相手方は、音楽家として反復して出演契約を締結する立場にありましたが、相手方が消費者である取引では、消費者契約法(平均的な損害を超えるキャンセル料を無効とする9条1号等)による別途の規制があります。本判決の判断が消費者取引の場面にそのまま及ぶものではない点には、注意が必要です。

3 緊急事態宣言下でも、当然にはキャンセル料を免れないこと

本判決は、法律上の強制力を伴わない行政の要請にとどまる限り、緊急事態宣言下であっても契約上の債務が当然に履行不能となるものではないとした上で、事業者との具体的な合意に至らないまま当日不出演とした本件契約1については、「利用者都合」のキャンセルとしてキャンセル料の発生を認めました。感染症や災害等の局面でも、契約の相手方と協議し、変更・解約の条件について合意を形成しておくことの重要性を示すものです。もっとも、本判決は、本件店舗が飲食店営業の許可を受けたサロン風の店舗であり、感染拡大の場として指摘されていた典型的なライブハウスと類似するかには疑問があるという個別事情を考慮しており、施設の性質や要請の内容によっては、異なる判断があり得ます。

他方で、本件契約2については、事業者側が当初の契約内容と大きく異なる変更を提案し、これを受けて相手方がキャンセルした場合には、「利用者都合」のキャンセルとは認められないと判断されました。また、規約中の変更権限の条項(タイムテーブルの変更規定)も、相手方の対価への期待を一方的に大きく変動させる変更までは許容しないと限定的に解釈されています。事業者としては、やむを得ず契約内容の変更を提案する場合であっても、当初契約どおりの履行の選択肢を示すかどうか、変更が相手方の対価にどう影響するかに注意しないと、かえってキャンセル料を請求できなくなり、又は自らが「事業者都合」の負担を負う可能性があることを踏まえておく必要があります。

この点の判断は、本件規約の「利用者都合」「店舗都合」という文言の解釈によるものであり、その意味で射程は本件と類似の規約を用いる場面に限られます。しかし、当初の契約と大きく異なる内容を提案した側が、相手方のキャンセルを相手方の都合によるものとして扱うことはできないという実質的な考え方は、キャンセル料を巡る他の紛争でも参考になると考えられます。

4 企業に求められる対応

本判決を踏まえると、ウェブ上で取引を行う企業には、①規約の組入れプロセス(表示・同意取得・その記録)の設計と点検、②キャンセル料条項をはじめとする規約内容の双方向のバランスの確認、③不可抗力や行政の要請が生じた場合の取扱いを規約上明確にしておくこと、④契約内容の変更を提案する際の進め方と記録化、といった対応が求められます。規約の作成・見直しには、定型約款に関する民法のルールと裁判例の動向を踏まえた検討が必要となりますので、弁護士に相談しながら進めることが有益です。

おわりに

本判決が扱った問題は、ウェブサイト上の利用規約の有効性と、感染症等の不測の事態が生じた場合のキャンセル対応という、ウェブで取引を行う企業に共通する実務課題です。定型約款の制度は施行から間もなく、裁判例の蓄積もこれからの分野であるため、自社の規約が有効に機能するかどうかは、個別の設計・運用に応じた法的な検討が必要となります。

当事務所は、利用規約・約款の作成やレビュー、キャンセル料をはじめとする契約トラブルへの対応について、ご相談・ご依頼をお受けしております。ウェブサービスや店舗ビジネスの規約整備、キャンセル対応にお悩みの企業のご担当者は、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。