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競合他社との会合における情報交換と価格カルテルの認定(東京高裁令和5年4月7日判決:シャッター価格カルテル事件)

はじめに

業界団体の会合、共同事業の打合せ、懇親会など、企業の担当者が競合他社の担当者と接する機会は少なくありません。こうした場面でのやり取りが、不当な取引制限(カルテル)を構成する「意思の連絡」と評価される場合があり、独占禁止法上のリスクとなります。

今回のコラムでは、業界大手のシャッター製造販売事業者3社の役員級の者が、価格引上げを話題とした会合を開いた行為について、公正取引委員会が全国規模での価格カルテル(不当な取引制限)に該当するとして排除措置命令・課徴金納付命令を発令し、その後の審判手続を経た審決の取消しを求めた事案について判断した、東京高裁令和5年4月7日判決をご紹介いたします。

本判決は、東芝ケミカル事件高裁判決(東京高裁平成7年9月25日判決)が示した枠組みに従い、競合他社との情報交換と事後の行動の一致から、価格カルテルの「意思の連絡」を推認した事例です。あわせて、本判決は、「合意の合理性」を争う主張への応答、社内通達文言の評価、「一定の取引分野」の画定、課徴金算定方法(引渡基準と契約基準)、受注調整型カルテルにおける実行期間の始期、個別取引案件の対象性、公正取引委員会の調査・審判手続における手続的瑕疵等の論点についても判断を示しており、独占禁止法に関する社内体制の整備や、競合他社との接点に関するリスク管理を検討する企業の担当者にとって、参考になります。

事案の概要

本件の当事者の立場は、以下のとおりです。

当事者立場
原告X1社、原告X3社、原告X4社(「3社」)各種シャッターの製造・施工・販売を業とする事業者
原告X2社平成19年9月30日までシャッター事業を営み、同年10月1日に吸収分割により当該事業を原告X3社に承継させた持株会社(原告X3社の完全親会社)
被告公正取引委員会

3社の特定シャッター(軽量シャッター、重量シャッター、グリルシャッター)の市場占有率の合計は、平成19年4月から平成20年3月までの期間において約92.8パーセントでした。

平成20年3月5日、原告X2社の取締役専務執行役員であったF、原告X4社の取締役専務執行役員であったG、原告X1社の取締役常務執行役員営業本部長であったHは、東京都内の飲食店において、3名のみで会食しました(本件会合)。本件会合では、鋼材価格の上昇に対応してシャッター等の販売価格を引き上げる必要があるとの認識が共有され、Fが「10パーセントくらいは欲しいですよね」と発言したのに対し、G及びHも反対することなく、「そうですよね」と回答しました。また、見積価格や積算価格の引上げ方法、新聞発表の予定等について情報交換が行われました。

本件会合の後、3社は、それぞれ社内において販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、各支店・営業所に対し販売価格引上げの指示を行いました。

公正取引委員会は、平成22年6月9日、3社に対し、上記行為が不当な取引制限(独占禁止法2条6項、3条)に該当するとして全国排除措置命令及び全国課徴金納付命令を発令しました。また、これとは別に、原告ら4社が近畿地区における特定シャッター等の受注調整を行っていたとして、近畿排除措置命令及び近畿課徴金納付命令も発令しました。

なお、近畿課徴金納付命令について、原告X2社ら及び原告X4社は課徴金減免申請を行いましたが、原告X4社は当該報告に虚偽の内容が含まれていたとされ、改正前独占禁止法7条の2第17項1号により、課徴金の減額(同条12項)が適用されませんでした。

これらの命令に対し、原告らは審判請求をし、公正取引委員会は令和2年8月31日、課徴金納付命令の一部を取り消し、その余の審判請求を棄却する旨の審決をしました。原告らは、本件審決の取消しを求めて本訴を提起しました。

本件に至る主な経緯は、以下のとおりです。

年月日出来事
平成19年5月16日近畿地区における受注調整(近畿合意)の開始
平成20年3月5日本件会合(F、G、Hの3名による会食)
平成20年4月1日見積分以降3社による販売価格引上げの実施
平成20年11月19日公正取引委員会による立入検査
平成22年6月9日公正取引委員会による排除措置命令・課徴金納付命令
令和2年8月31日公正取引委員会による審決(一部取消し、その余は棄却)
令和5年4月7日本判決(東京高裁)

本件の争点

本件には多くの争点がありますが、企業の担当者にとって参考となる主な争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①全国合意(特定シャッターの販売価格を10パーセントを目途に引き上げる旨の合意)の合理性と「意思の連絡」(独占禁止法2条6項の「共同して」)が認められるか
争点②「一定の取引分野」(同項)の画定及び競争の実質的制限の有無
争点③課徴金算定方法(引渡基準と契約基準の区別、改正前独占禁止法施行令5条1項・6条1項)の適法性
争点④近畿合意に基づく違反行為の実行期間の始期(改正前独占禁止法7条の2第1項)及び個別取引案件の対象性
争点⑤公正取引委員会の調査・審判手続における手続的瑕疵の有無

裁判所の判断

争点① 全国合意の合理性及び「意思の連絡」について

「共同して」の要件

裁判所は、独占禁止法2条6項にいう「共同して」の要件について、最高裁判決等を引用しつつ、以下のとおり判示しました。

参照条文:独占禁止法2条6項、3条

「独禁法2条6項の不当な取引制限としての「共同して…相互に(その事業活動を拘束し、又は遂行すること)」とは、本来公正かつ自由な競争(同法1条)においては各事業者が自由に決めるべき価格、品質、その他各般の事業活動に係る条件に関して、事業者らの間で一定の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成すること、例えば、その一定の競争回避的な事業活動が共同で対価を引き上げることである場合には、同内容又は同種の対価の引上げを実施することを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成したことが必要であり、かつ、それで足りるのであって、事業者相互間で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要なく、黙示的なもので足り、抽象的、包括的なものでもよく、実効性を担保する制裁等の定めがないものでも足りると解すべきである」

全国合意の「合理性」に関する主張への応答

原告X3社及び原告X4社は、そもそも全国合意のような合意自体が不合理であって、不当な取引制限の合意とはなり得ないとして、複数の主張をしました。これに対する裁判所の判断は、以下のとおりです。

番号原告らの主張裁判所の判断
「現行価格」が観念できない各社内で平米単価その他の基準に沿って成約した取引価格の水準を認識することは可能であり、3社間でも近畿合意でみられるように、共通サンプルや具体的案件を用いて算出した各社の積算価格・見積価格等を確認し合っていたから、現行価格の水準を認識することは可能であった
本社の指示による一律値上げはできない3社が、本社の指示により、現行価格から10パーセントを目途に引き上げるよう努めることは可能
「10パーセント」は目標であり、個別事情による違いは許容されるから、全国合意は無意味不当な取引制限の成立には、事業者らの間で同内容又は同種の対価の引上げを実施することを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡があれば足り、市場が有する競争機能を損なうことで足りる。意思の連絡は、個別の実施行為によって判断されるものではなく、個別取引において現行価格より10パーセント引上げができない販売価格となった事例があっても、不当な取引制限の成否を左右しない
同程度の引上げ率では3社間の価格較差が拡大するから合意はあり得ない価格の高低のみが発注の可否の考慮要素ではなく、同程度の引上げ率の値上げにより3社間の価格較差が拡大しても、競争は可能。値上げ率の合意もカルテルとして通常にあり得る
受注調整等を伴わない販売価格引上げの合意は競争回避行動にはなり得ない3社の市場占有率(約92.8パーセント)に照らせば、受注調整等を伴わない販売価格引上げの合意も、市場が有する競争機能を損なうもの

裁判所は、これらの主張をいずれも採用しませんでした。

東芝ケミカル事件高裁判決の枠組み

裁判所は、東芝ケミカル事件高裁判決(東京高裁平成7年9月25日判決)が示した、間接事実による意思の連絡の推認の枠組みを採用しました。同枠組みは、以下のとおりです。

番号意思の連絡推認のための間接事実
他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をしたこと
同一又はこれに準ずる行動に出たこと
その行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情がないこと

本件会合での情報交換について

裁判所は、本件会合がシャッター事業の大手である3社の営業部門を統括する役員級の者によって開催されたこと、Fが10パーセント程度の値上げを希望する旨具体的な数値を挙げて発言したこと、G及びHもこれに反対せず、積算価格の引上げによる値上げの方法や新聞発表の予定等について情報交換をしたことを認定し、これらは単なる世間話にとどまらず、相互に対価引上げを実施することに関する情報交換に当たるとしました。

事後の行動の一致について

裁判所は、3社はいずれも本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、本件会合後に、いずれも10パーセントの引上げ目標を定めて各支店・営業所に販売価格引上げの指示をしたことを認定しました。

独自判断の特段の事情に関する原告らの主張への応答

原告X3社は、「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率10パーセント」との記載は、社内通達担当者(I及びJ)が独自に発案したキャッチコピー又はスローガンであり、本件会合とは無関係であると主張しました。

これに対し、裁判所は、3月14日付け通達の素案には「平均目標アップ率10%」の記載がなく、決裁過程でこれが追加されたという経緯から、本件会合が影響したと推認するのが自然であると判断しました。

「上記素案及び同通達のいずれにも同じ内容で記載されているシャッターの各商品別平米単価引上げ額の「表」には、原告X3社が「引上げ幅は、いずれも10パーセントに全く及ばないものであった。」と主張する平米単価引上げ目標(平米単価1000円又は2000円。8.8パーセント~5.8パーセント)が記載されていたこと(前記(1)オ(ア)c)に照らすと、上記素案に記載がなく同通達の段階で新たに記載された「シャッターは…目標値以上とする。」、「平均目標アップ率 10%」との記載は、IやJが値上げの検討の中で積み上げてきた発想とは異質の発想により、値上げ幅の内容(結論)も大きく変容されたものと考えるのが自然である。そして、上記素案と同通達の間に関与したのは、その決裁文書(査16、60)の記載から明らかであるとおり、原告X2社及び原告X3社の各社長、専務(Fを含む。)、常務、本社部長であるから、本件会合が影響したと推認するのが自然である。」

推認を妨げる事由に関する原告らの主張への応答

原告X3社は、(i)3社間で全国合意に従った値上げ活動を行っていることを相互に認識できる事後の連絡・調整が行われていなかったこと、(ii)3社の間では平成20年4月以降も激しい価格競争が行われ(特値申請の激増等)、全国合意の不存在を示している旨を主張しました。

これに対し、裁判所は、不当な取引制限の成立には事後の情報交換は必須ではないこと、個別取引における競争の存在は意思の連絡の存否を左右しないことを理由に、これらの主張を採用しませんでした。

結論

裁判所は、以上の検討を踏まえ、全国合意を内容とする「意思の連絡」があったと推認しました。

「3社には、全国合意を内容とする意思の連絡があったと推認される。」

なお、3社のうち原告X3社は、本件会合の参加者であったFは原告X3社の役員ではないから、Fの行為により原告X3社が全国合意をすることはできないと主張しましたが、裁判所は、Fが原告X3社の親会社である原告X2社の取締役専務執行役員として原告X3社の経営管理を担い、原告X3社の価格政策に係る業務にも携わっていたことなどから、Fは原告X3社の「役員級の者」に当たると認定しました。

争点② 「一定の取引分野」の画定及び競争の実質的制限について

裁判所は、本件における一定の取引分野について、全国合意が原材料価格の高騰という全国的な事情を背景としていること、3社が全国合意に基づき本社から全国の各支店・営業所に対して値上げの指示をしていることなどから、全国における特定シャッターの販売分野であると認めました。

「全国合意は、原材料価格の高騰という全国的な事情を背景としており、3社は、全国合意に基づき、本社から全国の各支店、営業所に対して値上げの指示をしているから、全国における取引を対象としていたと認められる。そして、全国合意は、特定シャッターの取引を対象としてその販売価格を引き上げるものであり、それにより影響を受ける範囲も同取引であるから、本件における一定の取引分野は、特定シャッターの販売分野であると認められる。」

また、競争の実質的制限について、裁判所は、3社の特定シャッターの市場占有率の合計が約92.8パーセントと高いことから、全国合意により3社の意思で特定シャッターの価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされていたとして、特定シャッターの販売分野の競争機能が損なわれ、競争が実質的に制限されていたと認めました。

争点③ 課徴金算定方法(引渡基準と契約基準)について

裁判所は、改正前独占禁止法施行令5条1項(引渡基準・原則)と6条1項(契約基準・例外)の関係について、「著しい差異が生ずる事情がある」か否かの判断は、引渡基準による算定額と契約基準による算定額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるかどうかを判断して決すれば足りるとしました。

参照条文:改正前独占禁止法施行令5条1項(引渡基準)、6条1項(契約基準)

「「著しい差異が生ずる事情がある」か否かの判断は、引渡基準によった場合の算定額と契約基準によった場合の算定額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるかどうかを判断して決すれば足りるものと解せられる」

その上で、本件審決が、全国課徴金納付命令については引渡基準を適用し(対象取引が全国規模で物件金額の限定なく平準化されること等から、著しい差異なし)、近畿課徴金納付命令については契約基準を適用した(対象取引が5000万円以上に限定され、1物件当たりの売上額が高額で物件ごとの差が大きいこと等から、著しい差異あり)ことを、不合理な点はないと判断しました。

争点④ 近畿合意に基づく違反行為の実行期間の始期及び個別取引案件の対象性について

実行期間の始期

裁判所は、不当な取引制限の実行期間の始期である「当該行為の実行としての事業活動を行った日」(改正前独占禁止法7条の2第1項)について、違反行為によって具体的な競争制限効果が発生するに至った日、すなわち、その日以降の取引に違反行為の拘束力が及んでいると評価できる事業活動が行われた日であると解しました。

その上で、裁判所は、近畿合意の内容は、原告らの間で受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力すること(ゼネコンに対する営業活動の自粛を含む。)であり、当該自粛は不作為を本質とする合意の実行行為に該当するから、何らかの外部的な事業活動の徴表は必須でなく、受注予定者の決定が行われた時点で実行期間が開始すると判断しました。

「受注予定者以外の事業者の事業活動は、受注予定者に協力してゼネコンに対する営業活動を自粛するという不作為を本質とし、ゼネコンから見積依頼等がある場合には受注予定者が受注できるよう協力することであるから、何らかの外部的な事業活動としての徴表が必須であると解することはできない。」

個別取引案件の対象性

原告X2社らは、近畿合意に基づく受注調整の対象外であった4件の取引案件が課徴金算定の基礎に含まれていると主張し、原告X2社の支店長級の地位にあったPの陳述書(審A171)を提出して、これらの取引案件は支店長級会合に上程されていなかった旨を主張しました。

これに対し、裁判所は、Pの供述調書(査140、142等)の信用性を肯定し、4件いずれも近畿合意に基づく支店長級会合に上程されて受注予定者が決定された物件であると認定しました。Pの供述調書の信用性を肯定するに当たっての裁判所の判断は、以下のとおりです。

番号Pの供述調書の信用性を肯定する根拠
Pは供述調書において、審査官から提示された物件の一部を受注調整の対象外であったとしており、各物件が受注調整の対象であったか否かを相応に吟味した上で供述していたと推認される
Pは、供述調書の作成までに、自社受注物件についての受注調整に関して複数回の聴取を受けており、取引全般について一定の記憶喚起の機会を経てから供述していたと推認される
Pの陳述書の内容(自社が圧倒的に強い状況であった等から支店長級会合に上程しなかった旨)は、Pの他の供述調書(自社が圧倒的に強い状況が確認できれば、上程して他社の協力を得られた方が得であるため、結果的に全て上程していた旨)と整合せず、合理的な理由なく変遷している
Pの陳述書の内容を裏付ける客観的な証拠は存在しない

裁判所は、これらの事情から、Pの供述調書の信用性を肯定し、本件審決の認定には実質的な証拠があると判断しました。

争点⑤ 公正取引委員会の調査・審判手続における手続的瑕疵について

原告X3社は、公正取引委員会の手続的瑕疵に関し、以下の2点を主張しました。

第一に、原告X3社は、全国合意に関する会合は本件会合のみとされているところ、同会合に出席していたのは原告X2社のFであり、Fの行為を原告X3社の行為とみなすことができる根拠事実が明らかにされる必要があるが、全国排除措置命令にも、同命令に先立って原告X2社らに示された排除措置命令書案にもその記載はないから、全国排除措置命令は改正前独占禁止法49条1項、3項、5項に反し違法である旨を主張しました。

第二に、原告X3社は、審査官が、本件審判手続において、F、G及びHが本件会合において何を認識・認容していたのかという主張立証の根幹部分を、答弁書提出から1年以上経過した後に追加したことが、改正前独占禁止法58条2項及び審判規則28条に違反し、これに基づいて本件会合における全国合意を認定することは許されないと主張しました。

これに対し、裁判所は、いずれの手続的瑕疵も認められないと判断し、原告X3社の主張を採用しませんでした。

以上の判断に基づき、裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却しました。

コメント

(1)本判決の意義

本判決は、競合他社との会合における情報交換と事後の行動の一致から、価格カルテルの「意思の連絡」を推認する東芝ケミカル事件高裁判決の枠組みを、シャッター業界の事案に適用した裁判例です。役員級の者3名のみの会食における「10パーセントくらいは欲しいですよね」「そうですよね」といった一見断片的な発言と、その後の3社の社内における引上げ目標の設定・実施という事後の行動の一致から、「意思の連絡」が推認されています。あわせて、本判決は、「合意の合理性」を争う主張への応答、社内通達文言の評価、「一定の取引分野」の画定方法、課徴金算定方法(引渡基準と契約基準の区別)、受注調整型カルテルにおける実行期間の始期、個別取引案件の対象性、公正取引委員会の調査・審判手続における手続的瑕疵等の論点についても判断を示しました。

これらは、独占禁止法に関する社内体制の整備、競合他社との接点に関するリスク管理、業界団体活動の運営、公正取引委員会の調査・審判手続への対応等を検討する企業の担当者にとって、参考になります。

(2)競合他社との会合・情報交換における留意点

本判決は、競合他社との会合における情報交換が、外形上は断片的なやり取りであっても、「意思の連絡」の認定の重要な間接事実となり得ることを示しました。特に、(ⅰ)会合に出席した者の地位(営業部門を統括する役員級の者)、(ⅱ)会合の開催時期(業界全体で値上げを検討していた時期)、(ⅲ)会合での話題(具体的な引上げ率を含む値上げの方法)、(ⅳ)事後の行動の一致(同水準の引上げ目標の設定)といった事情が総合考慮されています。

企業の担当者としては、以下のような点に留意することが重要です。

第一に、競合他社の役職者との接触の場面(業界団体の会合、共同事業の打合せ、懇親会等)において、自社・他社の販売価格、値上げの方針、見積方法等の競争上敏感な情報を話題にしないことです。とりわけ、価格の引上げ率や引上げ時期、見積方法といった内容に立ち入る発言は、たとえ「具体的な合意」を意図しないものであっても、後日の「意思の連絡」の推認の根拠となるおそれがあります。

第二に、本社の経営層・営業部門の管理職層に対し、競合他社との接触に関する社内ガイドライン・行動規範を整備し、定期的な研修を実施することです。本判決においても、3社の役員級の者の会合での発言が、社内における引上げ目標の設定という事後の行動と結びつけられて評価されています。経営層・管理職層が「意思の連絡」の認定の対象となる行為を行わないよう、組織的な対応が望まれます。

第三に、業界全体で値上げや事業条件の変更が検討されている時期には、競合他社との接触に特に慎重な姿勢が求められます。本判決においても、鋼材価格の高騰を背景に3社が値上げを検討していた時期に本件会合が開催されたことが、「意思の連絡」の推認における重要な背景事情とされています。

(3)全国合意の「合理性」を争う主張への裁判所の応答

本判決は、価格カルテルの成立を争うために原告らが種々の「合理性」に関する主張(現行価格の不存在、本社指示による一律値上げの不可能性、価格較差拡大論等)をした際の応答として、不当な取引制限の成立には、事業者らの間で同内容又は同種の対価の引上げを実施することを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡があれば足りること、市場全体の競争機能の毀損で足り、個別契約ごとの引上げ実施は不要であることを示しました。

企業の担当者としては、「個別取引においては合意通りに値上げできていないから合意はない」、「合意したとされる価格は現実的に意味のない数字だから合意はない」、「同程度の引上げ率では価格差が拡大するから合意するはずがない」といった抗弁は、通常受け入れられにくいことを理解しておくことが重要です。価格カルテルの成立は、個別契約レベルでの完全な実施ではなく、各社の意思の連絡と市場全体への影響によって判断されます。

このため、競合他社との接触に関するリスク管理は、「合意の効果が個別取引に表れているか」ではなく、「意思の連絡と評価され得るやり取りや事後の行動の一致が存在しないか」という観点から行うことが重要です。

(4)社内通達・社内文書の文言と独占禁止法上のリスク

本判決は、原告X3社の「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率10%」との記載について、社内通達担当者がキャッチコピー・スローガンとして独自に発案したものであるという主張を退け、通達の素案には当該記載がなく決裁過程でこれが追加されたこと、決裁に関与したのが社長、専務、常務、本社部長等であったことから、本件会合の影響を受けたものと推認するのが自然であると判断しました。

社内通達や社内文書において、競合他社との会合等で言及された数値や方針と一致する内容を記載することは、後日「事後の行動の一致」として「意思の連絡」の推認の根拠となる可能性があります。社内通達の作成・発出に当たっては、(ⅰ)当該数値・方針の根拠を社内で明確に文書化しておくこと、(ⅱ)競合他社との接点があった場面と社内通達の関係について、後日説明可能な形で記録を残しておくこと、(ⅲ)社内通達の素案段階から決裁段階に至るまでの修正経緯を保存しておくこと等が、リスク管理の観点から重要となります。

特に、社内通達の文言を「キャッチコピー」「スローガン」として説明することは、後日の調査・審判手続において必ずしも受け入れられるとは限らない点に留意が必要です。

(5)親会社・子会社関係における役員の関与

本判決は、本件会合の参加者であったFが、原告X3社(子会社)の役員ではなく、原告X2社(親会社)の取締役専務執行役員であったにもかかわらず、X2社において子会社の経営管理を担い、子会社の価格政策に係る業務にも携わっていたことなどから、子会社の「役員級の者」に当たると認定しました。

親会社・子会社関係において、親会社の役員が子会社の経営管理や価格政策に関与している場合、当該役員の行為が子会社の行為として評価される可能性があります。グループ会社全体での独占禁止法コンプライアンス体制の整備に当たっては、親会社の役員の関与の範囲とリスクについても検討することが重要です。

(6)課徴金算定方法と実務上の留意点

本判決は、課徴金算定方法について、原則は引渡基準(実行期間において引き渡した商品の対価の額を合計する方法)であり、引渡基準による算定額と契約基準による算定額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められる場合に、例外として契約基準(実行期間において締結した契約により定められた商品の販売の対価の額を合計する方法)が適用されると整理しました。

本件においては、全国課徴金(対象取引が全国規模・物件金額の限定なし)には引渡基準が、近畿課徴金(対象取引が5000万円以上に限定・1物件当たりの売上額が高額)には契約基準がそれぞれ適用されました。両者の差異は、対象取引の地理的範囲・物件金額の限定・取引の平準化の有無に着目して判断されています。

課徴金の対象となり得る事案においては、対象取引の範囲・物件金額の分布・取引の平準化の有無等を踏まえ、適用される算定基準と課徴金額の試算を早期に行うことが、社内における意思決定や手続対応の検討に資します。

(7)受注調整型カルテルにおける実行期間と個別取引案件の対象性

本判決は、受注調整型カルテルにおける実行期間の始期について、受注予定者の決定により他の事業者が営業活動の自粛という不作為を開始する時点で実行期間が開始するとし、外部的な事業活動の徴表は必須ではないと判断しました。

受注調整型カルテルにおいては、形式的な合意成立時点ではなく、具体的な受注予定者の決定がなされた時点から、各事業者の事業活動が違反行為の拘束力の下に置かれるとの理解が示されています。事業承継があった場合についても、本件のように吸収分割により事業を承継した会社が、承継元の会社による合意の存在及び受注調整の結果を認識・認容して受注を開始した場合には、承継時点から実行期間が開始すると判断されました。事業承継の検討に当たっては、承継対象事業について独占禁止法上の問題が存在しないか、デュー・デリジェンスの段階で検証することが、後日の責任に関するリスクの把握の観点から有益です。

また、本判決は、課徴金算定の基礎に含まれる個別取引案件の対象性に関し、関係者の供述調書と陳述書の信用性判断について、供述調書作成時点での吟味の状況、聴取の経過、その後の供述変遷の合理性、客観的証拠との整合性等を総合的に評価する判断枠組みを示しました。受注調整型カルテルの調査・審判手続においては、関係者の供述証拠が認定の重要な要素となる場面が多く、社内調査の段階で関係者から聴取する内容を慎重に整理することが重要です。事後的に陳述書を提出して供述調書の内容と異なる主張を行うことは、信用性判断において不利に作用する可能性があります。

(8)公正取引委員会の調査・審判手続における手続上の留意点

本判決は、原告X3社が主張した(ⅰ)命令書案に記載がない事項を審決で認定したこと、(ⅱ)審査官が主要事実を答弁書提出から1年以上経過してから追加したことについて、いずれも手続違反には当たらないと判断しました。

公正取引委員会の調査・審判手続においては、命令書案の段階から審決までの間に、事実認定の対象や審査官の主張・立証の範囲が一定の範囲で変動する可能性があります。被審人としては、防御権の十分な行使を確保するため、(ⅰ)命令書案・答弁書段階で予想される事実認定の範囲を弁護士と協議の上で整理しておくこと、(ⅱ)審判手続中に新たな主張・立証が追加された場合には、追加立証や反論の機会を求めること、(ⅲ)手続的瑕疵があると思料される場合には早期に異議を述べておくこと等が重要となります。

(9)課徴金減免制度を利用する場合の留意点

本件において、原告X4社は近畿課徴金納付命令について課徴金減免申請を行ったものの、報告に虚偽の内容が含まれていたとされ、課徴金の減額(改正前独占禁止法7条の2第12項)が適用されませんでした(同条17項1号)。一方、原告X2社らは同様の減免申請により減額が適用されました。

課徴金減免制度(リーニエンシー)は、違反行為を自主的に申告し調査に協力することで、課徴金の減額・免除を受けることができる制度です。同じ案件で申請をしても、報告内容の正確性次第で適用・不適用が分かれる点は、本件の対比からも明らかです。減免申請を検討する場合には、(ⅰ)社内調査により事実関係を正確に把握すること、(ⅱ)報告内容の作成段階から弁護士の助言を受けること、(ⅲ)申請後も公正取引委員会の調査に誠実に協力することが、減額の確実な適用のために重要となります。

減免申請の要否、申請の順位(第1位・第2位以下で減額率が異なる)、申請の時期、社内調査の進め方等は、いずれも専門的な検討を要する論点であり、独占禁止法違反の疑義が生じた段階で早期に弁護士に相談することが、企業のリスク管理上有益です。

おわりに

独占禁止法は、価格決定、販売条件の設定、競合他社との接触、業界団体活動、入札参加など、企業活動の幅広い場面に関わる法分野です。本判決のように、競合他社との会合における情報交換と事後の行動の一致から、価格カルテルの「意思の連絡」が推認される事案は、企業の担当者にとって、社内体制の整備と日常的なリスク管理の重要性を示すものといえます。また、本判決は、社内通達の文言、公正取引委員会の調査・審判手続への対応、課徴金減免制度の活用等、独占禁止法対応の幅広い場面で参考となる判断を示しています。

このような問題については、平時の社内体制整備の段階から、また、競合他社との接触に関する疑義が生じた初期段階から、さらには公正取引委員会の調査が開始された段階から、弁護士にご相談いただくことで、社内規程・研修の見直し、リスクの整理、調査対応・審判対応、課徴金減免申請の検討等について、具体的な助言を得ることが可能です。

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本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。