はじめに
書籍、論文集、データベース、ウェブコンテンツなど、複数の素材を選択し配列して作成された「編集著作物」は、企業活動の中で広く活用されています。編集著作物の著作権を取得する場面や、編集著作物に含まれる素材を継続的に利用する場面では、編集著作権と個々の素材の著作権との関係や、長期にわたる使用許諾の解約の可否といった論点が問題となることがあります。
今回のコラムでは、ある宗教団体の創始者が執筆した論文を編集して作成した著作物「生命の實相」と、同創始者が著作した「聖経 甘露の法雨」について、これらの著作権を有する公益財団法人が、出版社及び宗教団体に対して、書籍の差止め等を求めた事案について、知財高裁平成28年2月24日判決をご紹介いたします。
本判決は、編集著作権と素材の著作権との関係について判断を示すとともに、編集物の素材の著作権者による単独での使用許諾の解約の可否、無償・期間の定めのない継続的な使用許諾の解約に正当理由が必要となる場面等についても判断を示した裁判例です。編集著作物の権利関係や、長期にわたる使用許諾の見直しを検討する企業の担当者にとって、参考になります。
事案の概要
故A氏(以下「亡A」といいます。)は、昭和5年頃に宗教団体「生長の家」を創始し、多数の論文を執筆して関連月刊誌に発表していました。亡Aは、それらの論文の文章の一部を改め、小見出し等を付して系統立てて編纂し、「生命の實相」の題号を付して書籍化しました(本件著作物1)。亡Aはまた、「聖経 甘露の法雨」を執筆しました(本件著作物2)。
本件の当事者の立場は、以下のとおりです。
| 当事者 | 立場 |
|---|---|
| 被控訴人事業団(公益財団法人生長の家社会事業団) | 本件著作物1及び本件著作物2の著作権者 |
| 被控訴人光明思想社(株式会社光明思想社) | 本件著作物2の出版権者 |
| 控訴人教文社(株式会社日本教文社) | 「生命の實相」各種版及び控訴人書籍を出版してきた出版社 |
| 控訴人生長の家(宗教団体「生長の家」) | 本件覚書に基づき控訴人経本を信徒に交付してきた宗教法人 |
本件における著作物・書籍の対応関係は、以下のとおりです。
| 著作物・書籍 | 内容 | 関係者 |
|---|---|---|
| 本件著作物1「生命の實相」 | 亡Aが自身の論文を編纂した編集著作物 | 著作権者:被控訴人事業団 |
| 控訴人書籍(「生命の教育」) | 本件著作物1から5本の論文を選択・配列した書籍 | 出版:控訴人教文社 |
| 本件著作物2「聖経 甘露の法雨」 | 亡Aによる自由詩の著作物 | 著作権者:被控訴人事業団/出版権者:被控訴人光明思想社 |
| 控訴人経本 | 本件著作物2を肌守り用・霊牌用として複製したもの | 製作・頒布:控訴人生長の家 |
亡Aは、昭和21年1月8日、社会厚生事業等の目的で被控訴人事業団を設立する寄附行為(本件寄附行為)を行い、書面には基本資産として「A著作「生命の実相」の著作権」が記載されました。本件著作物2(「甘露の法雨」)の著作権についても、本件寄附行為等により被控訴人事業団に移転しました。
控訴人教文社は、被控訴人事業団から本件著作物1の使用許諾(本件許諾)を受けて、「生命の實相」の各種版を出版してきました。本件においては、控訴人教文社が「生命の實相」頭注版第14巻、第25巻及び第30巻に収録された論文のうちから5本の論文をまとめて編集した書籍(控訴人書籍)の出版が問題となりました。なお、控訴人書籍は、原審(東京地方裁判所平成27年3月12日判決)において、5本の論文の選択、章名・小見出しの付加、「生長の家」の理念に基づく教育法を理解し易い順番への配列に創作性があり、本件著作物1とは別個の編集著作物に当たると認定されています。
控訴人生長の家は、昭和34年11月22日、被控訴人事業団及び控訴人教文社との間で「聖経「甘露の法雨」の複製承認に関する覚書」(本件覚書)を作成し、信徒の宗教的要望に応えるため、「甘露の法雨」を「肌守り用」又は「霊牌用」に限って「非売品」として複製し、信徒に交付することについて、被控訴人事業団及び控訴人教文社が著作権・出版権を主張せず異議を申し立てない旨の合意がなされました。控訴人生長の家は、本件覚書に基づき、昭和34年頃以降、奉納金や永代供養料と引換えに信徒に対し、肌守り用・霊牌用の経本(控訴人経本)を交付してきました。
亡Aの死亡後、亡Aの著作物の著作権の帰属や管理を巡って当事者間で紛争が生じ、被控訴人事業団は、平成24年1月、控訴人生長の家に対し、本件覚書による使用許諾を平成24年3月31日限りで終了する旨を通知し(本件解約通知)、また、平成26年7月24日には、控訴人教文社に対し、本件許諾を解約する旨の意思表示をしました。
被控訴人事業団及び本件著作物2の出版権者である被控訴人光明思想社は、控訴人教文社による控訴人書籍の出版が本件著作物1の著作権侵害に当たり、控訴人生長の家による控訴人経本の出版が本件著作物2の著作権及び出版権侵害に当たるとして、出版の差止め・損害賠償等を求めて本訴を提起しました。原審判決を受けて、控訴人らが本件控訴を提起したのが本件です。
本件に至る主な経緯は、以下のとおりです。
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和21年1月8日 | 亡Aが本件寄附行為により被控訴人事業団を設立し、本件著作物1の著作権を移転 |
| 昭和34年11月22日 | 被控訴人事業団・控訴人教文社・控訴人生長の家の間で本件覚書を作成 |
| 昭和41年4月頃 | 控訴人教文社が控訴人書籍の初版を発行 |
| 昭和60年6月17日 | 亡A死去 |
| 平成19年頃〜 | 亡Aの著作物の権利関係を巡り、当事者間に紛争が発生 |
| 平成24年1月4日 | 被控訴人事業団が控訴人生長の家に対し本件解約通知 |
| 平成25年11月 | 本訴提起 |
| 平成26年7月24日 | 被控訴人事業団が控訴人教文社に対し本件許諾を解約する意思表示 |
| 平成27年3月12日 | 原審判決(東京地方裁判所) |
| 平成28年2月24日 | 本判決(知的財産高等裁判所) |
本件の争点
本件には多くの争点がありますが、企業の担当者にとって参考となる主な争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件著作物1(「生命の實相」)の素材である論文の著作権が、本件寄附行為により被控訴人事業団に移転したか |
| 争点② | 本件許諾の解約(控訴人教文社に対する解約)が有効か(編集物の素材の著作権者単独による解約の可否、解約の正当理由の有無) |
| 争点③ | 本件覚書に係る合意の解約(控訴人生長の家に対する解約)が有効か(無償・期間の定めのない使用許諾の解約と正当理由の有無) |
裁判所の判断
争点① 本件著作物1の素材論文の著作権の帰属について
裁判所は、編集著作権と素材の著作権との関係について、両者は別個独立して譲渡の対象となり得るものの、両者の権利者が同一である場合に編集物の著作権を譲渡する際、編集著作権のみを譲渡する趣旨か素材の著作権を含めて譲渡する趣旨かは、個別具体的な事情によって判断されるべきものであるとしました。
「一般に、編集著作権とそれを構成する素材の著作権は、別に観念することができ、また、それぞれ別個独立して譲渡の対象となり得るものであるとはいえるが、編集著作権を有する者と素材の著作権を有する者が同一である場合に、編集物の著作権を譲渡するとき、編集著作権のみを譲渡する趣旨であるのか、それを構成する個々の素材の著作権を含め譲渡する趣旨であるのかは、個別具体的な契約締結に至る経緯、契約内容、その他の事情により、判断されるべきものである。」
控訴人教文社は、著作権法61条2項を類推又は準用して、編集著作物の譲渡契約において素材の著作権の譲渡が特掲されていないときは譲渡人に留保されたものと推定すべきと主張しました。しかし、裁判所は、この主張を独自の見解であって採用の限りでないとしました。
「著作権法61条2項を類推又は準用して、編集著作物に該当する編集物に係る著作権の譲渡契約において、編集物を構成する素材の著作権を譲渡する旨特掲されていないときは、これが譲渡人に留保されたものと推定するべきであるとする控訴人教文社の上記主張は独自の見解であって、採用の限りでない。」
その上で、裁判所は、亡Aから被控訴人事業団に対し、本件寄附行為により、戦前に出版された「生命の實相」の題号を付した10種の書籍に係る著作権が、その素材である各論文の著作権を含めて移転されたものと判断しました。判断に際して考慮された事情は、以下のとおりです。
| 番号 | 考慮された事情 |
|---|---|
| ① | 「生命の實相」には装丁等が異なる各種の版があるところ、被控訴人事業団と控訴人教文社は、被控訴人事業団を著作権者として「生命の實相 全巻(各種各版)」の出版契約を締結していたこと |
| ② | 控訴人教文社は、被控訴人事業団に対し、その設立時から「生命の實相 全巻(各種各版)」の印税を支払っていたこと |
| ③ | 本件確認書(亡Aの相続人らの代表と被控訴人事業団との間で作成されたもの)において、「生命の實相」頭注版についても、被控訴人事業団に著作権が帰属していることが確認されていたこと |
| ④ | 本件著作物1に係る著作権登録上、譲渡された著作権が「生命の實相」の特定の種類や版に限定されていないこと |
| ⑤ | 本件寄附行為に関する書面及び本件確認書中に、亡Aが、素材である各論文の著作権を自己に留保し、編集著作権のみを被控訴人事業団に寄附する意図であったことをうかがわせる記載が存在しないこと |
争点② 本件許諾の解約の有効性について
裁判所は、控訴人書籍の出版に関する本件許諾は、平成26年7月24日付けの被控訴人事業団の解約により終了したと判断しました。
なお、本件許諾の内容については、原審において、控訴人書籍の出版に関する本件許諾は、被控訴人事業団と控訴人教文社との間で締結されていた昭和49年契約(「生命の實相」の出版許諾契約)や、本件各使用許諾契約(頭注版各巻についての出版使用許諾契約)に基づくものではなく、控訴人書籍について別途締結された黙示の許諾であると認定されています。原審が黙示の許諾を認定した根拠は、以下のとおりです。
| 番号 | 黙示の許諾の認定根拠 |
|---|---|
| ① | 控訴人書籍が「生長の家」の重要な書籍として控訴人教文社により40年以上にわたり版を重ね、被控訴人事業団も「生長の家」の教義に基づく活動のために控訴人書籍を利用していた一方で、被控訴人事業団は控訴人書籍の出版に異議を述べていなかったこと |
| ② | 控訴人書籍の初版を出版した当時、亡A、控訴人教文社及び被控訴人事業団は、相互に協力して「生長の家」の伝道のために活動していたこと |
| ③ | 被控訴人事業団と控訴人教文社との間で、控訴人書籍を出版の対象とした契約書が作成されていないこと |
その上で、原審は、本件許諾が無償かつ期間の定めのないものであるが、被控訴人事業団が本件許諾を解約するためには、両者間の信頼関係が破壊されたことなど正当な理由が必要であるとし、控訴審もこの認定を引用しています。
控訴人教文社は、編集著作物の出版については、編集著作権者と素材の著作権者の許諾を必要とするから、解約についても両者の合意が必要であり、民法544条1項により編集著作権者と素材の著作権者の全員からの解約が必要であるか、又は著作権法65条2項の準用ないし類推適用により両者の合意が必要であると主張しました。しかし、裁判所は、編集物を構成する素材の著作権者の使用許諾と、編集著作権者の使用許諾とは、法的には別個独立の契約であり、また、両者は著作権を共有しているわけではないとして、これらの主張を退けました。
「編集著作物を出版するについて、編集物を構成する素材の著作権者から使用許諾を受けるのみならず、編集著作権者からも使用許諾を受ける必要があるとしても、上記各使用許諾は法的には別個独立の契約であるから、編集物を構成する素材についての使用許諾を解約するにつき、その意思表示を契約当事者ではない編集著作権者と共に行わなければならない理由はない。
また、編集著作権者と編集物を構成する素材の著作権者は、著作権を共有しているわけではないから、編集物を構成する素材についての使用許諾を解約するにつき、共有著作権者ではない編集著作権者の同意を得なければならない理由はない。」
裁判所は、解約の正当理由についても、控訴人教文社が別件訴訟1において、被控訴人事業団が本件著作物1の著作権を有することを否定する主張を行ったこと、また、初版革表紙「生命の實相」復刻版等の印税について被控訴人事業団に未払があったこと(消滅時効の援用により5万円のみが確定)から、被控訴人事業団と控訴人教文社との間の信頼関係が破壊されたものとして、解約の正当理由があると判断しました。
その結果、本件許諾は平成26年7月24日に終了し、控訴人教文社による控訴人書籍の複製・頒布は、被控訴人事業団の本件著作物1を構成する論文に係る著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものと判断されました。
争点③ 本件覚書に係る合意の解約の有効性について
裁判所は、本件覚書に係る合意について、被控訴人事業団が、控訴人生長の家に対し、本件著作物2を肌守り用・霊牌用として信徒に複製・頒布することを、期限の定めなく、無償で許諾したものと解されるとした上で、その解約には、当事者間の信頼関係が破壊されたことなど解約を正当とする理由が必要であると判示しました。
「本件覚書に係る合意を解約するには、当事者間の信頼関係が破壊されたことなど解約を正当とする理由が必要であると解すべきである。」
裁判所がこのように判断した根拠として挙げた事情は、以下のとおりです。
| 番号 | 解約に正当理由が必要と判断された根拠 |
|---|---|
| ① | 被控訴人事業団が亡Aが創始した宗教団体「生長の家」の宗教的信念に基づき社会厚生事業等を行うために設立された財団法人であり、亡Aの本件寄附行為により本件著作物2の著作権を有するに至ったこと |
| ② | 控訴人経本が、専ら控訴人生長の家の宗教活動上使用されているものであること |
| ③ | 本件覚書に係る合意が、亡Aの同意の下、所定の経緯及び目的により締結されたものであること |
| ④ | 本件覚書の内容、特に、本件覚書による取決事項については亡Aの同意を要する旨規定されており、少なくとも、著作権者である被控訴人事業団による自由な解約を認めない趣旨であったと解されること |
被控訴人事業団は、解約を正当とする理由として、①公益法人化に伴う無償許諾継続の不可、②控訴人経本の頒布が「非売品」とはいえないこと、③控訴人生長の家による別件訴訟1の第2事件の提起、④控訴人生長の家のブラジル伝道本部に対する印税納付申入れ、⑤控訴人生長の家が控訴人教文社の著作権侵害行為に関与したこと、の5点を挙げました。しかし、裁判所は、③については当事者間の信頼関係に影響を与えるものであったとしながらも、①②④⑤については正当理由たり得ないとし、③のみでは信頼関係が破壊されたものとはいえないとして、解約の正当理由を否定しました。
その結果、控訴人生長の家による控訴人経本の複製・頒布は、本件覚書に係る合意に基づくものであって、本件著作物2の著作権侵害及び出版権侵害には当たらないと判断されました。
コメント
(1)本判決の意義
本判決は、編集著作物に関する複数の論点について判断を示したものです。第一に、編集著作権者と素材の著作権者が同一人物である場合に、編集物の著作権を譲渡する際、素材の著作権も含めて譲渡されたか否かは、契約締結に至る経緯、契約内容その他の事情により判断されるべきものであることを明確にしました。第二に、編集著作物の素材の著作権者が、その素材の使用許諾を、編集著作権者の同意を得ずに単独で解約することができることを示しました。第三に、無償かつ期間の定めのない継続的な使用許諾の解約には、合意の経緯、内容、目的等に照らし、当事者間の信頼関係が破壊されたことなど解約を正当とする理由が必要となる場合があることを示しました。
これらの判断は、編集著作物を作成・利用する企業や、長期にわたる使用許諾関係を有する企業の担当者にとって、契約設計や紛争対応を考えるうえで参考になります。
(2)編集著作物の著作権譲渡と素材の著作権の取扱い
編集著作物の著作権と、その素材を構成する個々の著作物の著作権とは、別個独立の権利として観念され、それぞれ譲渡の対象となります。もっとも、編集著作物の著作権者と素材の著作権者が同一である場合、編集物の著作権を譲渡する際に素材の著作権までを含めて譲渡したのか、編集著作権のみを譲渡したのかは、契約書の文言だけでなく、譲渡に至る経緯、譲渡後の運用、関連する確認書や登録の状況等の個別具体的な事情から判断されることになります。
本判決は、著作権法61条2項(著作権の譲渡契約において翻訳権・翻案権・二次的著作物の利用権の譲渡が特掲されていないときの留保推定)の類推適用を否定しました。これは、編集著作物の譲渡においては、素材の著作権の譲渡が特掲されていないからといって、当然に素材の著作権が譲渡人に留保されたとは推定されないという意味です。
企業が編集著作物の著作権を譲渡又は譲り受ける場合、譲渡の範囲を巡る後日の紛争を回避するため、契約書において、編集著作権と素材の著作権の譲渡対象を明示しておくことが有益です。
なお、本件においては、控訴人書籍が本件著作物1の論文を素材としつつ、それ自体独立した編集著作物であると原審において認定されました。本件著作物1を構成する素材論文の著作権を被控訴人事業団が有していたとしても、本件著作物1を素材として作成された別個の編集著作物である控訴人書籍の編集著作権は、被控訴人事業団に当然に帰属するわけではないとされ、結果として被控訴人光明思想社による控訴人書籍に係る出版権の取得も認められませんでした(一審・控訴審ともに同旨)。編集著作物が重層的に存在し得る場面(既存の編集物の素材を選択・配列して新たな編集物を作成する場面等)では、それぞれの編集著作権の帰属関係について別個に検討が必要となります。
(3)編集物の素材の著作権者単独による使用許諾の解約
編集著作物を出版する際には、編集物を構成する素材の著作権者と編集著作権者の双方から使用許諾を受けることが必要となる場面があります。もっとも、本判決によれば、これら二つの使用許諾は法的には別個独立の契約であり、編集著作権者と素材の著作権者は著作権を共有しているわけではないため、素材の使用許諾の解約は、編集著作権者の同意を得ることなく素材の著作権者が単独で行うことができます。
企業が編集著作物に含まれる素材を利用する立場にある場合、編集著作権者からの使用許諾だけでなく、素材の著作権者からの使用許諾も独立して必要となり得ること、また、素材の著作権者が単独で当該使用許諾を解約し得ることを念頭に置いて、利用関係を整理しておくことが重要となります。
(4)無償・期間の定めのない継続的使用許諾の解約と正当理由
本判決は、本件覚書に係る合意(無償・期間の定めのない使用許諾)の解約について、合意の経緯、内容、目的等から、自由な解約を予定しない趣旨であったと解されるとして、解約には当事者間の信頼関係の破壊など正当理由が必要であると判断しました。同時に、許諾者が解約の正当理由として挙げた5つの事情のうち、4つは正当理由に当たらず、残る1つだけでは信頼関係が破壊されたとまではいえないとして、解約を無効と判断しました。
無償・期間の定めのない使用許諾は、契約書の文言上は容易に解約できるようにも見えますが、合意の経緯や趣旨、長年にわたる運用の実態等によっては、解約に正当理由が必要となる場合があります。企業が長期にわたる使用許諾関係を見直す際には、合意の趣旨、目的、運用の経緯等を整理し、解約の正当理由となり得る事情の有無を慎重に検討することが望まれます。
また、本判決は、解約の正当理由となり得る事情として、訴訟における主張の内容や印税の未払等を挙げる一方で、許諾者側の事情変動(公益法人化等)のみによる一方的な解約は正当理由となり難いとの判断を示しています。長期の継続的な使用許諾関係を見直す際には、相手方との事前協議や条件変更の打診を経ることが、後日の紛争防止につながります。
なお、本件覚書に係る合意の解約の有効性については、原審と控訴審で結論が異なっています。両審の判断を対比すると、以下のとおりです。
| 項目 | 原審(東京地方裁判所平成27年3月12日判決) | 控訴審(本判決) |
|---|---|---|
| 解約の正当理由要件 | 正当理由が必要 | 正当理由が必要 |
| 信頼関係破壊の評価 | 破壊されたと認定 | 破壊されたとまではいえないと認定 |
| 結論 | 解約有効 | 解約無効 |
| 主な考慮事情 | 控訴人生長の家による別件訴訟1の第2事件提起、生長の家ブラジル伝道本部に対する印税申入れ等から、当事者間の信頼関係が破壊されたと評価 | 別件訴訟1の第2事件提起は信頼関係に影響を与える事情ではあるとしながらも、本件覚書の経緯・内容、控訴人経本の利用態様、被控訴人事業団が本件覚書とは別に本件著作物2を出版することが可能であった(実際に被控訴人光明思想社等との間で出版契約を締結)こと等を総合考慮 |
両審ともに、本件覚書に係る合意の解約には正当理由が必要であるとの判断は共通していましたが、信頼関係破壊の評価が異なる結果となっています。継続的使用許諾の解約の場面では、合意の経緯・内容・利用態様等の総合考慮が必要となり、結果の予測には専門的な判断を要する場面が多いといえます。解約を検討する段階で弁護士にご相談いただくことが、紛争防止と解約の有効性確保の観点から有益です。
おわりに
編集著作物の権利関係、著作権の譲渡契約の解釈、編集著作物の使用許諾の解約、長期にわたる継続的な使用許諾の見直しは、いずれも実務上、判断に迷う場面が多い論点です。契約書の文言だけでは判断しきれない要素が多く、当事者間の交渉経過、運用の実態、関連する書面の整合性等を踏まえた検討が必要となります。
このような問題については、契約締結や使用許諾の見直しの段階から、また、紛争が顕在化した初期段階から弁護士にご相談いただくことで、契約条項の設計、解約通知の準備、訴訟戦略の検討について、具体的な助言を得ることが可能です。
当事務所では、著作権法に関するご相談・ご依頼を継続的に承っております。編集著作物に係る権利関係の整理、著作権譲渡契約や使用許諾契約の設計・見直し、契約解約を巡る紛争への対応など、お困りの際は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

