はじめに
少年が非行を犯した場合、家庭裁判所は、保護観察、児童自立支援施設等送致、少年院送致といった保護処分の中から、少年の非行性及び要保護性に応じた処分を選択することになります。とりわけ少年院送致は、少年を施設に収容して矯正教育を行う処分であり、少年の社会生活や将来に与える影響が大きいことから、その選択には慎重な判断が求められます。
今回のコラムでは、第1種少年院送致を命じた家庭裁判所の決定を、抗告審が取り消し、原裁判所に差し戻した広島高裁令和2年8月18日決定をご紹介いたします。本決定は、自立援助ホームで生活する少年(当時16歳)が、ホーム内で同居人に包丁を向けて脅迫したという示兇器脅迫の事案について、少年院送致処分の相当性を判断したものです。
本決定は、少年事件における処分選択の場面で、少年の非行性や要保護性をどのように評価し、社会内処遇と少年院送致のいずれを選択すべきかという判断枠組みを示した点で、保護者の方、学校関係者、福祉関係者にとって、参考になる判断です。
事案の概要
少年(決定当時16歳)は、自立援助ホーム(以下「本件ホーム」といいます。)で生活していました。少年は、本件ホーム内で交際相手と電話をしていた最中、被害者から繰り返し話しかけられたことに苛立ち、被害者を足蹴にしました。これに対し、被害者が少年の髪を引っ張って振り回すなどしたことから揉み合いとなり、少年は、台所から刃体の長さ約16.8cmの包丁を持ち出し、「殺すぞ」などと怒号しながら被害者に包丁を突き出して脅迫しました(示兇器脅迫)。
原審(山口家庭裁判所岩国支部)は、少年の情緒不安定さや感情統制の困難さといった問題性が、その成育歴に根差した深刻なものであるとし、社会内処遇による問題性の改善は困難であるとして、少年を第1種少年院に送致する決定をしました。
これに対し、付添人は、少年に本件前の家裁係属歴がないこと、原決定が指摘する少年の問題性を裏付ける証拠が十分でないこと、帰住先が確保されていることなどを理由に、原決定の処分は著しく不当であると主張して抗告しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件非行及び少年の問題性の評価 |
| 争点② | 少年の非行性及び要保護性の程度 |
| 争点③ | 社会内処遇の可能性と少年院送致処分の相当性 |
裁判所の判断
広島高裁は、原決定を取り消し、本件を山口家庭裁判所岩国支部に差し戻しました。
争点① 本件非行及び少年の問題性の評価について
裁判所は、本件非行について、被害者の対応によっては危険な事態に至った可能性もないではなく、軽視できる態様のものではないとしました。しかし、他方で、本件は、被害者の行動に触発された面があり、少年は一定の自制心を保っていたとうかがわれると判断しました。
「本件非行は、被害者の対応によっては危険な事態に至った可能性もないではなく、決して軽視できる態様のものではない。しかし、一方で、本件は、前記のとおり、状況を弁えない被害者の行動が発端となり、それに反発して少年が足蹴にした行為に対し、過剰ともいえる強い攻撃を被害者が行ったことに触発された面がある。少年は、行為の目的は、相手を怖がらせるためであったと供述しており、実際、刃先から被害者までの距離は数十cm程度あり、そこから更に間合いを詰めて被害者に刃先を近づけていくということまではなく、その状況からは、少年は、怒りから相当な興奮状態にあったとはいえ、一定の自制心は保っていたことがうかがわれる。」
また、裁判所は、少年の問題性が成育歴に根差していること自体は否定しないものの、少年がこれまで暴行等の粗暴な非行や不良交友関係の下での非行を行った形跡はなく、家裁係属歴もないことを指摘しました。
争点② 少年の非行性及び要保護性の程度について
裁判所は、少年の感情統制の問題は今後改善していくべき課題ではあるとしつつ、それが再非行に直結するほど深刻な状況にあるとはいえないと判断しました。
「原決定のいう少年の問題性、殊に感情統制の点は、少年にとって今後改善していくべき課題とはいえるとしても、それが再非行に直結するほどに深刻な状況にあるとまでは言い難い。他に、少年の規範意識、価値観等において、直ちに非行性につながるほどの問題があることもうかがわれない。」
裁判所が考慮した事情は、以下のとおりです。
| 区分 | 考慮事実 |
|---|---|
| 非行歴 | 本件前に家裁係属歴がない |
| 非行傾向 | 暴行等の粗暴な非行や不良交友関係の下での非行を行った形跡がない |
| 規範意識・価値観 | 直ちに非行性につながるほどの問題はうかがわれない |
| 本件非行の経緯 | 被害者にも相当な問題があった |
争点③ 社会内処遇の可能性と少年院送致処分の相当性について
裁判所は、少年の生活態度の乱れや就労意欲の乏しさは改善・是正すべき点であるとしつつ、これらが直ちに再非行のおそれにつながるとまではいえないと判断しました。そのうえで、裁判所は、本件ホームが一定の条件下で再受入れの意向を示し、少年もこの条件を守る意向を表明していたことなどを踏まえ、社会内処遇の可能性が検討されるべきであったとしました。
裁判所が社会内処遇の可能性を肯定する方向で考慮した事情は、以下のとおりです。
| 区分 | 考慮事実 |
|---|---|
| 帰住先 | 本件ホームが一定の条件下で少年を再受け入れる意向を示していた |
| 少年の意向 | 少年は受入れ条件を守る意向を表明していた |
| 受入予定施設 | 本件ホームと同系列で、就労が必要でない施設の開設が予定され、少年の受入れも検討されていた |
| 内省状況 | 少年は観護措置、調査・審判を通じて、本件非行の悪質性・危険性と自身の問題点について、ある程度理解を深めていた |
そのうえで、裁判所は、次のとおり判示しました。
「これらの点を踏まえると、原決定が説示するほど、少年に対する実効的な社会内処遇が困難であるとはいえない。少年については、家裁係属が今回初めてであり、非行の経緯・内容等からしても非行性がさほど進んでいるとは言い難く、また、再非行が強く懸念されるほど要保護性が大きいともいえない。本件は、まずもって社会内処遇の可能性が検討されるべきであり、それを見極めるため必要があれば、適切な遵守条件の下に試験観察に付するなどの措置をとることも考えられた事案といえる。」
結論として、裁判所は、少年の非行性及び要保護性が、直ちに少年院における矯正教育を必要とするほど深刻なものとはいえず、第1種少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であると判断しました。
コメント
本決定の意義
本決定は、少年事件における処分選択の場面において、社会内処遇の可能性を十分に検討する必要があることを改めて確認したものといえます。
少年院送致は、対象となる少年を一定期間、施設内で生活させ、その間の行動の自由に制約を加えるものであり、実務上、その運用には抑制的な姿勢が採られているとされています(田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法〔第4版〕』〔有斐閣,2017〕320頁)。本件非行が該当する示兇器脅迫罪(暴力行為等処罰に関する法律1条)の法定刑は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金とされており、刑法各則の中でも、いわゆる重大犯罪として位置づけられる罪種ではありません。本件のように、犯行の経緯・態様の点でも悪質性が高い水準にあると認定されたとまではいいがたく、当該少年に保護処分歴もない事案では、施設収容を選択する前に、地域社会における支援や指導によって対応できる余地があるかを、まず探ることが筋道として求められます。
本決定が示した判断枠組み
本決定が示した判断枠組みのポイントは、以下のとおり整理することができます。第1に、少年の問題性が成育歴に根差していることが認められたとしても、その問題性が再非行のおそれに直結するほど深刻なものでなければ、それのみを理由として少年院送致を正当化することはできないという点です。第2に、本件非行を評価する際には、被害者の関与など当該非行に至る経緯を含めて、その悪質性・危険性を検討する必要があるという点です。第3に、家裁係属歴のない事案では、まずは社会内処遇の可能性が検討されるべきであり、その見極めのため必要があれば、試験観察に付するなどの措置を講じることも考えられるという点です。
被害者の行動の認定の意義
このうち、本決定が被害者の行動を詳細に認定した点には、二つの意味があると考えられます。一つは、本件非行そのものの悪質性・重大性の評価を、相対的に低い方向へと方向付ける材料として機能している点です。もう一つは、本件非行が起きた要因を、感情の処理を不得意とするという少年の内面的な特性のみに集約させて捉えることはできないとする判断を支える材料となっている点です。被害者の行動についての認定は、非行事実の評価と、少年の問題性(非行性)の評価のいずれにも影響を及ぼす事情となっています。また、処遇の選択を適切に行うには、その出発点として、要保護性を判断する上で関係する各種の事情──たとえば、非行に至るまでの経緯や動機面、少年本人の人格的特徴と日常の行動傾向、家庭をはじめとする周辺環境の状況など──を、可能な限り具体的に把握しておく必要があるとされています(田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法〔第4版〕』〔有斐閣,2017〕319頁)。
本決定が、原決定と比較して、本件非行に至る経緯をやや詳しく認定していることは、こうした出発点の意義を示すものとして理解することができます。
同種の近時取消事例
なお、原審の処分選択そのものを著しく不当として取り消した近時の事例には、大阪高決令2.9.2判タ1483号119頁,東京高決令2.4.3家庭の法と裁判30号106頁,東京高決令元.8.28判タ1478号123頁,東京高決平30.10.2判タ1463号122頁,東京高決平30.7.11家庭の法と裁判20号81頁,東京高決平30.1.19判タ1456号143頁などがあり、本決定もこうした流れの中に位置づけることができます。
おわりに
少年事件は、手続が迅速に進行するうえ、付添人活動の内容によって結果が変わり得る分野です。本決定のように、原決定が抗告審で取り消される事案もあり、付添人による主張・立証の役割は小さくありません。
付添人活動を担当する弁護士には、原審段階から、少年の生活環境の調整、帰住先の確保、就労支援に関わる関係機関との調整等を行うことで、社会内処遇の可能性を具体的に示していくことが求められます。また、少年の問題性の評価に対しては、過去の非行歴や規範意識の状況等を丁寧に検証し、再非行のおそれの有無について、本件非行に至る経緯を踏まえた説得的な主張を行うことが必要となります。少年やその保護者の方が処分の見通しに不安をお持ちの場合や、抗告を検討される場合には、早期に弁護士へのご相談をいただくことが有益です。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

