はじめに
アパレル業界をはじめとして、自社が販売する商品のデザインが他社により模倣されたとお考えになる場面は、多くの企業で生じます。日本では、商品デザインを保護する法的枠組みとして、不正競争防止法2条1項3号の「形態模倣」、著作権法における応用美術の著作物性、意匠法、商標法、一般不法行為など、複数の制度があります。これらは保護要件・保護期間・救済の範囲が異なり、どの主張が成り立ち、どの請求が認容されるかは、個別の商品の特徴や事案の事情によって左右されます。
今回のコラムでは、女性用婦人服のアンサンブル等のデザイン模倣が問題となった、大阪地裁平成29年1月29日判決(平成27年(ワ)第9648号、平成27年(ワ)第10930号)を取り上げます。本判決は、3つの原告商品のうち、商品1及び商品3については不正競争防止法2条1項3号の形態模倣を認めて差止・廃棄・損害賠償を命じた一方、商品2については形態模倣も応用美術の著作権侵害も一般不法行為も否定するという判断を示しています。
本判決は、商品形態の「実質的同一性」の判断に際し、共通点と相違点をそれぞれ整理したうえで、相違点が商品全体の形態に与える変化や、相違点に係るデザインがありふれたものか否かを丁寧に検討しています。また、応用美術の著作物性については、「実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性」を要求する判断枠組みを採用しています。アパレルをはじめ、デザイン要素を含む商品を扱う企業の担当者にとって、参考になる事例といえます。
事案の概要
原告は、婦人用高級服飾品の製造及び販売を行う会社です。被告は、婦人服等の製造及び販売を行う会社です。
原告は、平成26年4月以降、原告商品1及び原告商品2を、同年1月以降、原告商品3をそれぞれ販売しました。原告商品の小売価格は、商品により1万9000円から3万円(いずれも税抜価格)でした。これに対し、被告は、平成27年4月以降、被告商品1ないし3を販売しました。被告商品の小売価格は、いずれも1万円(税抜価格)でした。
原告は、被告商品1ないし3の各形態が原告商品1ないし3の各形態を模倣したものであるとして、不正競争防止法2条1項3号の形態模倣に該当することを理由に、差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求を行いました。また、被告商品2及び被告商品3については、原告商品2及び原告商品3の著作権(複製権ないし翻案権)侵害を理由とする予備的請求、及び、一般不法行為に基づく請求を併せて行いました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 被告商品1ないし3は、原告商品1ないし3をそれぞれ模倣した商品であるか(不正競争防止法2条1項3号の形態模倣の成否) |
| 争点② | 被告商品2、3による著作権侵害の成否 |
| 争点③ | 被告商品2、3の販売行為が一般不法行為を構成するか |
| 争点④ | 損害の額 |
裁判所の判断
争点① 形態模倣の成否について
裁判所は、被告商品1及び被告商品3については原告商品1及び原告商品3の形態を模倣した商品に該当すると判断した一方、被告商品2については原告商品2の形態を模倣した商品に該当しないと判断しました。
(1) 被告商品1について(形態模倣を認容)
裁判所は、原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点・相違点を以下のとおり整理しました。
| 共通点 | 相違点 |
|---|---|
| 前ボタン式で丸首襟の形状をしており、全体に透け感のある素材で構成されている点 | 原告商品1の方が被告商品1より生地の透け感が高い点 |
| 前身頃のボタン部の左右部分に、縦方向に一定幅で区切られた範囲において、ハシゴ状柄のレース生地が用いられ、上下にわたって一定間隔で、水平方向の開口部を有している点 | 原告商品1のボタンは黒色で柄はなく、等間隔に窪みがあるのに対し、被告商品1のボタンは、ベージュ色に柄があり、窪み等はない点 |
| 前身頃の上記デザイン部の外側(腕側)部分は、2種類の花柄の刺繍が施されており、裾部分は同質素材であるものの刺繍のないデザインに切り替えられ、縦向きにタックがとられている点 | 原告商品1は黒色なのに対し、被告商品1はベージュ色である点 |
| 袖口部分に上記前身頃部分と同様のレース生地の花柄が使用されている点 | (該当なし) |
裁判所は、次のとおり判示しています。
両商品は、①丸首襟の形状をしていること、②前身頃のボタン部の左右部分に、縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が設けられていること、③その外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせとなっているという、両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そして、両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから、両商品は商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるものと認められる。
もっとも、原告商品1と被告商品1には、前記のような相違点が認められるが、これらはいずれも商品全体を特徴付ける形態とかかわりがなく、また、相違点に係るデザインは、この種の部位のデザイン手法としては、いずれもごくありふれたものである。そのため、これら相違点は、わずかな改変に基づくもので商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見てささいな相違にとどまるものと認められるから、被告商品1の形態が原告商品1の形態と実質的に同一であるとの上記判断に影響を及ぼすものではないというべきである。
そのうえで、裁判所は、被告商品1の販売開始時期が原告商品1の販売開始時期にほぼ1年遅れること、被告が被告商品1の形態を独自に作り出したとの主張立証をしているわけではないことを併せ考慮し、被告商品1の形態は原告商品1に依拠して作り出されたものと認め、被告商品1は原告商品1を模倣した商品と判断しました。
(2) 被告商品2について(形態模倣を否定)
裁判所は、原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点・相違点を以下のとおり整理しました。
| 共通点 | 相違点 |
|---|---|
| 袖がノースリーブであり、裾部分には左右にスリットが入っている点 | ネックラインが、原告商品2は角部で丸みを帯びたスクエア型であるのに対し、被告商品2は通常の丸首型である点 |
| 全体が単色の生地で構成され、胸部分には、広範囲にわたって本体と同色の花柄の刺繍(大きさの異なる5輪の花及び花周辺に配置された13枚の葉)が施されている点 | 原告商品2は両脇下にダーツが取られているのに対し、被告商品2にはダーツが取られていない点 |
| 花柄の刺繍の5輪の花及び葉の大きさや位置関係並びに花弁部分及び葉に施されたステッチの種類がほぼ同一である点 | 原告商品2は、前身頃と後身頃の生地が正面から見える前肩部分で目立つように縫い合わされているのに対し、被告商品2はそのような仕上げがされていない点 |
| (該当なし) | 原告商品2は、襟首の直下に、本体と同色のレース生地での切り替え部分が設けられているのに対し、被告商品2は同切り替え部分がない点 |
| (該当なし) | 原告商品2は黄色であるが、被告商品2はベージュ色である点 |
裁判所は、次のとおり判示しています。
原告商品2と被告商品2の正面視した形態は、いずれもノースリーブであり、その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が似ており、とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが、商品正面の目立つ場所に集中している、ネックラインの形状、前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げの仕方、さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違している。
そして、これらの相違点は、ありふれた形態であるノースリーブのランニングシャツの全体的形態に変化を与えており、およそ両商品を対比してみたときに商品全体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから、両商品を背面視した形態が同一であることを考慮したとしても、被告商品2の形態は原告商品2の形態に酷似しているとはいえず、両商品の形態は実質的に同一であるということはできない。
裁判所は、被告商品2の形態は被告商品2に依拠して作られたことを「容易にうかがわせる」と認めながらも、商品正面の目立つ場所に集中する複数の相違点が全体的形態に変化を与えていることを理由に、形態模倣の成立を否定しました。
(3) 被告商品3について(形態模倣を認容)
裁判所は、原告商品3と被告商品3についても、共通点・相違点を整理したうえで、次のとおり判示しました。
原告商品3と被告商品3は、①商品全体に黒色と白色の横縞が繰り返されているだけでなく、第1横縞部分、第2横縞部分、第3横縞部分という特徴的な繰り返しパターンがほぼ同様に施されている点、②前身頃に類似するデザインの大きなりんごの柄がほぼ同じ手法で施されている点、③そのりんご部分を縁取りするようにラインストーンが同じパターンで配されている点で形態が共通しており、これらの特徴的部分で正面視した形態がほぼ同一である。そして、両商品を背面視した形態もほぼ同一であるから、両商品は商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるものと認められる。
裁判所は、長袖か半袖か、ボーダー柄の幅・間隔のわずかな差異、りんご柄に重ねられたチュールのコード刺繍の粗密の差異、ロゴの有無等の相違点について、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見るとささいな相違にとどまるとして、形態模倣の成立を認めました。
争点② 応用美術の著作物性について
裁判所は、原告商品2の花柄刺繍部分及び同部分を含む原告商品2全体のデザインの著作物性について、これを否定しました(なお、被告商品3については、争点①で形態模倣が認められたため、著作権侵害の予備的請求は別途判断されていません)。
裁判所は、応用美術の著作物性に関する判断枠組みについて、次のとおり判示しています。
純粋美術ではない、いわゆる応用美術とされる、実用に供され、産業上利用される製品のデザイン等は、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」として著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。
そのうえで、原告商品2について、次のとおり判示しています。
原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは、それ自体、美的創作物といえるが、5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく、少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また、同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても、その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても、両脇にダーツがとられ、スクエア型のネックラインを有し、襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は、専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり、前記のような花柄刺繍部分を含め、原告商品2を全体としてみても、実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。
これにより、裁判所は、原告商品2は著作権法2条1項1号にいう「著作物」と認められないとし、著作権侵害を前提とする原告の主張を採用しませんでした。
争点③ 一般不法行為の成否について
裁判所は、被告商品2について、不正競争防止法2条1項3号にも著作権侵害にも該当しないことを前提に、一般不法行為の成立に必要な要件について、次のとおり判示しています。
被告商品2の製造販売行為が不正競争防止法上も著作権法上も違法とされないことは既に説示してきたとおりであるから、同じ行為について民法上の一般不法行為責任が認められるというためには、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や商品の形態の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が認められる必要がある。
裁判所は、本件について、原告が、不正競争防止法又は著作権の保護法益とは異なる法益侵害の事実を主張するものではないこと、原告と被告がいずれも多種多様な商品を毎年販売している中で本件で問題とする商品の占める割合は僅かであり、被告の営業行為全般への違法評価には及び得ないことから、一般不法行為に基づく原告の主張を採用しませんでした。
争点④ 損害の額について
裁判所は、形態模倣が認められた被告商品1及び被告商品3について、不正競争防止法5条1項を適用し、原告商品の1着当たりの利益額に被告商品の販売数量を乗じた額を損害と認定しました。
| 商品 | 1着当たりの利益額 | 販売数量 | 損害額(元金) | 弁護士費用 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 商品1 | 5,834円 | 1,232着 | 7,187,488円 | 71万円 | 7,897,488円 |
| 商品3 | 6,901円 | 389着 | 2,684,489円 | 26万円 | 2,944,489円 |
合計1084万1977円が、被告から原告に支払うべき損害額として認容されました。
なお、被告は、被告商品1及び被告商品3が原告商品1及び原告商品3の販売終了後に販売されたものであるとして、損害との因果関係を争いました。しかし、裁判所は、原告商品1及び原告商品3が被告商品の販売後も少数の在庫品が販売されていた事実、原告が注文に応じて製造販売をしていたであろうことが認められることから、原告商品は被告商品の販売がなければ販売することができた物であるとして、因果関係を認めました。
コメント
本判決は、衣類のデザイン保護に関わる企業の担当者にとって、いくつかの参考となる判断を含んでいます。
1 形態模倣の「実質的同一性」の判断について
本判決は、形態模倣の成否について、共通点と相違点をそれぞれ整理したうえで、次の観点から判断しています。すなわち、①共通点が両商品の特徴をなす点で形態を共通させているか、②相違点が商品全体を特徴付ける形態にかかわるものか、③相違点に係るデザインがありふれたものか、④相違点が商品全体の形態に与える変化が乏しく、商品全体から見てささいな相違にとどまるものといえるか、といった観点です。
本件では、商品1と商品3については形態模倣を肯定する一方、商品2については、依拠が容易にうかがわれることを認めつつも、ネックラインの形状、前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げ、襟首直下のレース生地による切り替えの有無といった、商品正面の目立つ場所に集中する複数の相違点が全体的形態に変化を与えているとして、形態模倣を否定しました。共通点の核心となる装飾(花柄刺繍)が同一であっても、商品全体の形態に変化を与える相違点が複数あれば、実質的同一性が否定されうることを示している点で、形態模倣を主張する側にとっても、これを争う側にとっても、参考になります。
2 応用美術の著作物性について
本判決は、応用美術の著作物性について、「実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性」を要求する判断枠組みを採用しました。これは、応用美術については純粋美術と同視できる創作性を求める伝統的な判断枠組みに沿うものといえます。
本件では、衣服に施された花柄刺繍について、それ自体は美的創作物とはいえるものの、衣服に付加されるデザインであることを離れて独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性は認められないとして、著作物性が否定されました。衣類等の応用美術について著作権による保護を主張する場合には、デザインが実用的機能から離れて独立に鑑賞され得る創作性を備えていることを、具体的な根拠とともに主張立証する必要があるといえます。
3 一般不法行為の成否について
本判決は、不正競争防止法及び著作権法のいずれにも該当しない行為について一般不法行為責任を問うためには、これらの法律が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益の侵害等の「特段の事情」が必要であると判示しました。これは、知的財産関連の事件で従前から示されてきた判断枠組みに沿うものといえます。本件では、原告が被告の繰り返しの模倣行為を主張していたものの、裁判所は、両当事者が多種多様な商品を販売している中で本件商品の占める割合は僅かであるとして、被告の営業行為全般への違法評価には及び得ないと判断しました。
4 実務上の対応
本判決を踏まえると、衣類等のデザインの保護を検討する企業の担当者としては、以下の観点を整理しておくことが望ましいといえます。
(1) 新商品のデザイン段階での法的保護の整理
新商品のデザイン段階から、どの法的枠組み(不正競争防止法の形態模倣、意匠法、著作権法、商標法等)による保護が想定されるかを整理し、必要に応じて意匠登録等の手続を検討することが考えられます。不正競争防止法2条1項3号の形態模倣による保護は、最初に販売された日から3年間に限られていることにも留意する必要があります。
(2) 模倣品発見時の事実関係・証拠の早期確保
模倣品が出回った疑いがある場合には、形態模倣の主張に必要な共通点・相違点の整理、依拠性を基礎付ける事実関係(販売時期、流通経路等)の収集、損害額の主張立証に必要な販売数量・利益額の証拠の確保を、早期に行っておくことが望ましいといえます。
(3) 自社が他社商品に類似する商品を取り扱う場合の事前検討
自社が他社商品と類似する商品の製造販売を検討する場合には、共通点・相違点の客観的な評価、商品全体の形態に与える変化の有無等について、慎重な検討を行うことが考えられます。
これらの判断は、デザインの特性や事案の事情によって結論が分かれるため、個別の事情に応じた検討が必要となります。
おわりに
本判決が示した形態模倣の判断枠組み、応用美術の著作物性、一般不法行為の成立要件は、いずれも衣類等のデザイン保護に関わる実務において頻繁に問題となる論点です。商品の形態の比較分析、デザインに関する権利の主張・対応、損害賠償の請求等については、事実関係の評価や法的枠組みの選択が必要となるため、早期に弁護士に相談することが有益です。
当事務所は、不正競争防止法に基づく形態模倣事件、著作権侵害事件をはじめとする知的財産関連の紛争への対応について、ご相談・ご依頼を多数受けています。本コラムで取り上げた論点についてご検討中の事案がある場合や、デザインの保護等についてご相談がある場合には、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
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