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応用美術(実用品)の著作物性と工業デザインの保護(知財高裁平成28年10月13日判決:幼児用練習箸事件)

はじめに

家庭用品や工業製品など、実用に供される量産品のデザインについて、著作権法による保護を受けられるのか、というご相談をいただくことが、少なくありません。実用品のデザインは、意匠法、不正競争防止法、特許法など複数の知的財産法によって保護される一方で、著作権法による保護の範囲は、限定的に解されています。

今回のコラムでは、幼児用練習箸の製品形態及びデザイン画について、著作物性が問題となった、知的財産高等裁判所平成28年10月13日判決(いわゆる「幼児用練習箸事件」)を紹介いたします。

本判決は、応用美術(実用品のデザイン)の著作物性を判断する際の考慮要素を具体的に示している点で、自社製品のデザイン保護を検討する企業の方や、競合他社から著作権侵害の主張を受けた企業の方にとって、参考となる裁判例です。

事案の概要

控訴人(一審原告。以下「KJC社」といいます。)は、「エジソンのお箸」という商品名の幼児用練習箸(原告各製品)19種類及びそのデザイン画(原告図画)について、著作権を有していると主張する会社です。

被控訴人(一審被告。以下「スケーター社」といいます。)は、「デラックストレーニング箸」という商品名の幼児用練習箸(被告各商品)20種類を製造・販売している会社です。

KJC社とスケーター社の間には、本件訴訟以前にも、不正競争防止法(商品等表示)及び特許権侵害を理由とする訴訟が大阪地裁で行われ、いずれの請求も棄却されていました(平成26年5月12日に確定)。

KJC社は、平成27年9月28日、被告各商品の製造・販売は、原告各製品及び原告図画に係る著作権(複製権及び翻案権)を侵害するとして、製造販売の差止め、廃棄、損害賠償(2400万円のうち100万円)を求める訴えを東京地裁に提起しました。なお、KJC社は、訴え提起時には意匠権侵害も主張していましたが、当該意匠権は被告各商品の販売開始後に出願・登録されたものであり、新規性欠如により無効審判で無効とされるおそれがあるとスケーター社から指摘されたため、後に当該請求を放棄しました。

一審判決は、原告各製品及び原告図画のいずれについても著作権侵害を認めず、KJC社の請求をいずれも棄却しました。これを不服としたKJC社が控訴したのが、本件です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①原告各製品(幼児用練習箸)の著作物性及び被告各商品による著作権侵害(複製権・翻案権)の成否
争点②原告図画(デザイン画)の著作物性及び被告各商品による著作権侵害(複製権・翻案権)の成否
争点③KJC社の損害額

裁判所の判断

争点① 原告各製品(幼児用練習箸)の著作物性及び著作権侵害の成否

裁判所は、原告各製品について、著作物性を認めることはできないとして、KJC社の請求を棄却しました。

原審(東京地裁平成28年4月27日判決)は、実用品のデザインの著作物性について、以下の基準を示しました。

「実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは、その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の『文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』に当たらないというべきである。」

これに対し、KJC社は、原審において、「実用に供される機能的な工業製品やそのデザインであっても、他の表現物と同様に、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性を肯認すべきである」と主張していました。原審は、この主張に対し、著作権の保護期間の長さにも言及したうえで、上記基準を超えて保護対象を広げる解釈は採用しないと判示しました。

「著作権は原則として著作者の死後又は著作物の公表後50年という長期間にわたって存続すること(著作権法51条2項、53条1項)などをも考慮すると、…現行の法体系に照らし著作権法が想定していると解されるところを超えてまで保護の対象を広げるような解釈は相当でないといわざるを得ず、原告の上記主張を採用することはできない。」

そのうえで、原審は、原告各製品の以下の事情に照らし、原告各製品は実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えているとはいえず、著作物には当たらないと判断しました。

番号認定された事情
原告各製品は、幼児が食事をしながら箸の正しい持ち方を簡単に覚えられることを目的とした練習用箸であり、量産される工業製品であること
各リング(人差し指用、中指用、親指用)の位置・向きは、3指の位置を固定して正しい箸の持ち方の手の形になるという目的に適った位置・向きであり、人体工学に基づいて設計されていること
箸本体を上部の円形部材等で連結させているのは、箸先の交差を防止するという機能を果たす目的によるものであること

控訴審(本判決)は、原審の判断を基本的に維持したうえで、KJC社が主張する①「キャラクターが表現された円形部材により最上部で結合された連結箸である点」、②「1本の箸に人差し指と中指を入れる2つのリングを有し、かつ、他方の箸に親指を入れる1つのリングを有して、合計3つのリングが設けられている点」について、付加判断として、以下の3点を指摘しました。

第一に、控訴審は、実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上、美的観点を全く捨象することは相当ではなく、何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが、必要であるとの考え方を示しました。

「実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上、美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく、何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である(これは、美術の著作物としての創作性を認める上で最低限の要件というべきである)。」

第二に、控訴審は、原告各製品の形態は一様ではなく、KJC社が主張する①の特徴は、19種類の製品全てに共通する特徴ではないと指摘しました。具体的には、原告製品11〜13は最上部で結合されておらず、原告製品7・8・10・14〜19の連結部分は単純な円形部材ではない、といった点が挙げられています。

第三に、控訴審は、原告各製品の機能(幼児の練習用箸)を実現するために、2本の箸を連結すること、指の全部又は一部を固定することは、いずれもありふれた着想にすぎないと判示しました。

「原告各製品は、幼児が食事をしながら正しい箸の持ち方を簡単に覚えられるようにするための練習用箸であって、その目的を実現するために、2本の箸を連結する、あるいは、箸を持つ指の全部又は一部を固定するというのは、いずれもありふれた着想にすぎず…。また、かかる着想を具体的な商品形態として実現しようとすれば、箸という物品自体の持つ機能や性質に加え、練習用箸としての実用性が求められることからしても、選択し得る表現の幅は自ら相当程度制約されるのであって、美術の著作物としての創作性を発揮する余地は極めて限られているものといえる。」

加えて、控訴審は、箸を連結すること自体や連結部分にキャラクターを表現することは、いずれもアイデアであって表現ではないとも判示しました。

「箸を連結すること自体はアイデアであって表現ではない(なお、連結部分にキャラクターを表現することも、それ自体はアイデアであって、著作権法上保護すべき表現には当たらない。)」

以上を踏まえ、控訴審は、KJC社の主張①②の点は、いずれも実用的観点から選択された構成ないし表現にすぎず、総合的に見ても何ら美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えるものではないとして、原告各製品の著作物性を否定しました。

争点② 原告図画(デザイン画)の著作物性及び翻案権侵害の成否

裁判所は、被告各商品が原告図画の翻案権を侵害するとはいえないとして、KJC社の請求を棄却しました。

控訴審は、翻案の判断基準について、最高裁江差追分事件判決を引用し、以下のように判示しました。

「著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうが、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解すべきである。」

そのうえで、控訴審は、KJC社が表現上の本質的特徴を共通にすると主張する部分は、争点①で検討した①②の点と同じであり、これらの点に創作性が認められないことから、KJC社の主張は、結局のところ、表現上の創作性がない部分において同一性を主張するにすぎないと判断しました。

加えて、控訴審は、原告図画は原告製品1〜6を図示したものであって、連結部分の左右に大きな円形の耳が描かれているのに対し、被告各商品はいずれも連結部分にそのような耳を備えておらず、両者は一見して明らかに異なる物品であるとも判示しました。

なお、依拠性についても、被告各商品が原告図画に依拠して作られたとの事実を認めるに足りる証拠がないとされています。

争点③ KJC社の損害額

裁判所は、争点①及び争点②について、いずれも著作権侵害の成立を否定したことから、損害額については判断していません。

コメント

本判決は、幼児用練習箸の製品形態及びデザイン画について、著作物性を否定し、著作権侵害の成立を認めなかった事例です。本判決を踏まえ、企業が実務上留意すべき点として、以下の点が挙げられます。

(1)応用美術(実用品)の著作物性の判断基準

実用品(応用美術)の著作物性については、原審が「実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではない」とする基準を示し、控訴審もこれを基本的に維持しています。原審は、その理由として、著作権が長期間にわたって存続することにも言及しており、実用品の著作物性は限定的に解されるべきとの立場が示されています。

KJC社は、控訴審において「美的という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは相当でない」と主張しましたが、控訴審は、「美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく、何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である」として、何らかの美的特性を必要とする立場を示しました。

実用品のデザインについて著作権法による保護を主張するためには、当該デザインが、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが、求められます。

(2)アイデアと表現の区別

控訴審は、「箸を連結すること自体はアイデアであって表現ではない」、「連結部分にキャラクターを表現することも、それ自体はアイデアであって、著作権法上保護すべき表現には当たらない」と明示しました。著作権法は表現を保護する法律であり、アイデアそのものを保護するものではないという原則が、改めて確認されています。

自社製品のデザインの保護を検討する際には、保護を求める要素が「アイデア」と「表現」のいずれに該当するかを、慎重に検討することが望まれます。

(3)機能的形態の創作性の限界

控訴審は、機能的な実用品については、「選択し得る表現の幅は自ら相当程度制約されるのであって、美術の著作物としての創作性を発揮する余地は極めて限られている」と判示しています。実用品においては、機能を実現するための形態が一定の制約を受けるため、その範囲では創作性が認められにくくなります。実用品のデザインについて著作権法による保護を求めるためには、機能の実現とは離れた美的工夫の存在を、具体的に示すことが求められます。

(4)実用品の保護法体系と権利化のタイミング

原審は、実用品のデザインの保護について、著作権法のほか、意匠法、不正競争防止法、特許法等が用意されている旨を指摘しています。それぞれの法律は、保護対象・要件・保護期間が異なり、例えば、意匠法は工業上利用可能な物品の形状等を保護対象とし、不正競争防止法による商品形態の保護は、実質的に同一の形態等の要件の下、3年の期間に限定されています(同法2条1項3号、同条5項、19条1項5号イ等参照)。

特に、原審は、原告各製品について、以下のように判示し、KJC社が著作権法による保護を求めている対象は、本来、意匠法が保護を予定している対象であることを明示的に指摘しています。

「原告各製品について原告が保護を求めているところのものは、結局のところ、…意匠法が意匠として保護を予定している量産され工業上利用可能な物品の形状等そのものであり、原告製品9と同一の形状とみられる意匠について現に意匠登録もされている(ただ、被告各商品の販売開始時期に比してその出願・登録が遅かったにすぎない。)」

本件において、KJC社は、過去に不正競争防止法及び特許権侵害を理由とする先行訴訟を提起していずれも棄却され、本件訴訟においては意匠権侵害請求も提起したものの、意匠登録が被告各商品の販売開始後に出願・登録されたものであったため、新規性欠如のおそれがあるとして請求を放棄しています。

実用品のデザインを保護するためには、各法律による保護の対象と要件を踏まえ、製品の販売開始前など、適切な時期に必要な権利化を進めることが、求められます。

(5)翻案権侵害における創作性の重要性

控訴審は、翻案権侵害の判断基準として、最高裁江差追分事件判決を引用し、「表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」との原則を確認しました。本件では、KJC社が共通すると主張する部分そのものに創作性が認められなかったため、翻案権侵害も成立しませんでした。著作権侵害を主張する際には、共通点に創作性が認められるかを、慎重に検討することが求められます。

(6)工業用デザイン画の著作物性と侵害判断における留意点

原審は、原告図画について、原告各製品ないしこれに類似する製品を製作するための工業用のデザイン画の域を出ないものと認められるとし、「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)には当たらないと判断しました。また、純粋に白黒のスケッチ画として見たとしても、3次元の被告各商品とは形状や色彩等において異なり、被告各商品から原告図画の表現形式上の本質的特徴を感得することはできないと判断しました。さらに、被告各商品が原告図画に依拠して作られたとの事実を認めるに足りる証拠もないとも判示しました。

工業用のデザイン画について著作権法による保護を主張する場面では、デザイン画自体の著作物性、3次元化された製品との表現上の本質的特徴の同一性、依拠性の各要素について、いずれも具体的な立証が求められます。

おわりに

本判決は、実用品のデザイン保護を検討する企業や、競合他社から著作権侵害の主張を受けた企業に対し、応用美術の著作物性の判断基準、アイデアと表現の区別、実用品の保護法体系の在り方を、改めて示すものです。自社製品のデザイン保護や著作権侵害の主張・反論を検討する場面では、紛争リスクが顕在化する前の段階で、弁護士に相談することが有益です。

当事務所は、著作権法を含む知的財産分野について、幅広く相談・ご依頼を受けています。本判決と類似する事案に直面されている企業の方、自社製品のデザイン保護のために最適な権利化戦略をご検討の企業の方は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、ご連絡ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。