はじめに
企業が保有する顧客データベース、商品データベース、業務システム上のデータベース等は、多大な時間と費用を投じて構築された企業活動上の重要な資産です。これらのデータベースが、退職した従業員等によって競合会社に持ち出され、新たなシステムの基盤として利用された場合、企業は、どのような法的手段を講じることができるのでしょうか。
今回のコラムでは、退職者が設立した会社が原告会社のリレーショナルデータベースを基にして競合システムを開発・販売した行為について、データベースの著作権(著作権法12条の2)の侵害を認め、約2億円余りの損害賠償を命じた知財高裁平成28年1月19日判決(平成26年(ネ)第10059号)を取り上げ、その概要と実務上のポイントを解説いたします。
上記知財高裁判決は、リレーショナルデータベースについて情報の選択及び体系的な構成の創作性をどのように判断するか、データベースの一部分を取り込んだ別のデータベースが複製物ないし翻案物に当たるかをどのように判断するか、データベース部分の著作権侵害について損害額算定上の寄与割合をどのように考えるかについて、判断の枠組みを示した裁判例であり、システム開発、データベース構築、退職者対応等を行う企業の実務担当者にとって参考になります。
事案の概要
本件は、以下のような経緯で紛争に至った事案です。
1審原告は、旅行業者向けシステム「旅行業システムSP」(以下「原告システム」といいます。)を開発・販売しており、原告システムには、検索及び行程作成業務用のリレーショナルデータベース(以下「原告CDDB」といいます。)が含まれていました。原告CDDBには、合計42個のテーブル、405個のフィールドが設定され、観光施設、宿泊施設、道路、駅、運行情報等のデータが格納されていました。
1審被告アゼスタは、平成17年10月に設立された旅行業システムの開発・販売会社です。同社の代表取締役(1審被告Y1)、取締役(1審被告Y2、Y3)及び従業員(1審被告Y4、Y5、Y6)には、いずれも1審原告(の前身会社)の元従業員が含まれていました。とりわけ、1審被告Y5は、原告システムの開発プロジェクトのリーダーを務めるなど、原告CDDBの体系的構成や格納情報の種類等を熟知していました。
1審被告アゼスタは、平成18年6月から、旅行業者向けシステム「旅 nesPro」(以下「被告システム」といいます。)の販売を開始し、その後、当初版、2006年版、現行版、新版とバージョンアップを重ねました。被告システムに含まれるデータベース(以下「被告CDDB」といいます。)の制作にあたり、1審被告Y5は、原告CDDBのCD等からデータをコピーして利用しました。
1審被告らは、その販売活動として、旧原告会社の顧客に対し、原告システムから被告システムへの「リプレース」(データの移行が可能な被告システムへの切替え)を勧める文書を送付するなどの活動を行いました。
1審原告は、被告システムの製造・販売行為が原告CDDBの著作権(複製権、翻案権、譲渡権、貸与権、公衆送信権)を侵害するなどと主張して、差止め、廃棄、損害賠償等を求めて提訴しました。
原審(東京地裁平成26年3月14日判決)は、被告CDDBの当初版・2006年版及び現行版については原告CDDBの複製物に当たると認める一方で、新版については原告CDDBとの同一性ないし類似性が認められないとして著作権侵害を否定し、損害賠償額についても合計1億1215万1000円の限度で1審原告の請求を認容しました。これに対し、双方が控訴したのが本件です。
なお、本判決は、後記コメントのとおり、新版に係る著作権侵害の成否、損害額算定の基礎となる利益率の認定、データメンテナンス契約に係る損害の取扱い等について、原審判断を変更し、認容額を約2億1473万円に増額しています。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 争点の内容 |
|---|---|
| 争点① | 被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか(リレーショナルデータベースの著作物性及び複製・翻案の判断方法) |
| 争点② | 1審被告らによる著作権侵害の共同不法行為の成否(個人被告らの故意・過失) |
| 争点③ | 一般不法行為に基づく損害賠償請求の成否(選択的主張) |
| 争点④ | 1審原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無 |
| 争点⑤ | 1審被告らの損害賠償責任の有無及び1審原告の損害額(著作権法114条1項に基づく算定方法) |
本コラムでは、特に実務上の関心が高い争点①、②及び⑤を中心に解説します。
裁判所の判断
前提 ―データベース及びリレーショナルデータベースの法律上の位置付け
著作権法上、「データベース」は、「論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」と定義されています(著作権法2条1項10号の3)。そして、データベースのうち、「その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」は、著作物として保護されます(著作権法12条の2第1項)。
本件の対象である「リレーショナルデータベース」は、本判決が認定するとおり、入力される個々の情報(データ)の集合体が縦の列と横の行から構成される表である「テーブル」に格納され、テーブルの縦の列は個々のデータの属性を表す「フィールド」に細分され、テーブルの横の行は1件分のデータである「レコード」を構成し、複数のテーブル間に共通のフィールド(プライマリー・キー(主キー)等)を設定し、テーブル間を関連付けることにより、相互のテーブル内の他のフィールドに格納されている属性の異なるデータを抽出・統合・集計して検索することができる機能を有するデータベースです。
本判決は、このようなリレーショナルデータベースの構造を踏まえた上で、その著作物性及び複製・翻案の判断方法を以下のとおり示しました。
争点① 被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるかについて
裁判所は、まず、リレーショナルデータベースの著作物性及び複製・翻案の判断方法について、以下のとおり一般論を示しました。
(1)リレーショナルデータベースにおける創作性の判断方法
裁判所は、データベースの著作物性に関する著作権法12条の2第1項の規定を踏まえ、創作性の判断方法について、以下のとおり判示しました。
「著作権法12条の2第1項は、データベースで、その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは、著作物として保護する旨規定しているところ、情報の選択又は体系的構成について選択の幅が存在し、特定のデータベースにおける情報の選択又は体系的構成に制作者の何らかの個性が表れていれば、その制作過程において制作者の思想又は感情が移入され、その思想又は感情を創作的に表現したものとして、当該データベースは情報の選択又は体系的構成によって創作性を有するものと認めてよいものと解される。」
そして、リレーショナルデータベースにおける体系的構成の創作性の判断にあたっての考慮要素について、以下のとおり判示しました。
「リレーショナルデータベースにおける体系的構成の創作性を判断するに当たっては、データベースの体系的構成は、情報の集合物から特定の情報を効率的に検索することができるようにした論理構造であって、リレーショナルデータベースにおいては、テーブルの内容(種類及び数)、各テーブルに存在するフィールド項目の内容(種類及び数)、どのテーブルとどのテーブルをどのようなフィールド項目を用いてリレーション関係を持たせるかなどの複数のテーブル間の関連付け(リレーション)の態様等によって体系的構成が構築されていることを考慮する必要があるものと解される。」
リレーショナルデータベースの体系的構成の創作性の判断において考慮されるべき事項を整理すると、以下のとおりです。
| 考慮事項 | 内容 |
|---|---|
| テーブルの内容 | テーブルの種類及び数 |
| フィールドの内容 | 各テーブルに存在するフィールド項目の種類及び数 |
| リレーションの態様 | どのテーブルとどのテーブルを、どのフィールド項目を用いて、どのようなリレーション関係を持たせるか |
| 正規化の程度 | データの無駄な重複を減らし、検索効率を高めるための正規化の意義及びその程度 |
(2)複製・翻案の判断手順
裁判所は、リレーショナルデータベースの複製・翻案の判断について、以下の判断手順を示しました。
「以上を前提とすると、被告CDDBが原告CDDBを複製ないし翻案したものといえるかどうかについては、まず、被告CDDBにおいて、原告CDDBのテーブル、各テーブル内のフィールド及び格納されている具体的な情報(データ)と共通する部分があるかどうかを認定し、次に、その共通部分について原告CDDBは情報の選択又は体系的構成によって創作性を有するかどうかを判断し、さらに、創作性を有すると認められる場合には、被告CDDBにおいて原告CDDBの共通部分の情報の選択又は体系的構成の本質的な特徴を認識可能であるかどうかを判断し、認識可能な場合には、その本質的な特徴を直接感得することができるものといえるから、被告CDDBは、原告CDDBの共通部分を複製ないし翻案したものと認めることができるというべきである。」
判断手順を整理すると、以下のとおりです。
| 手順 | 判断事項 |
|---|---|
| ステップ1 | 被告データベースに、原告データベースのテーブル、フィールド、格納情報と共通する部分があるかを認定 |
| ステップ2 | 共通部分について、原告データベースが情報の選択又は体系的構成において創作性を有するかを判断 |
| ステップ3 | 創作性が認められる場合、被告データベースにおいて原告データベースの共通部分の本質的特徴が認識可能であるかを判断 |
| ステップ4 | 本質的特徴が認識可能な場合、その本質的特徴を直接感得することができれば、複製・翻案に該当する |
(3)原告CDDBの著作物性に係る具体的な判断
裁判所は、原告CDDBについて、情報の選択及び体系的構成のいずれにおいても創作性を有するものと認定しました。
体系的構成の創作性については、原告CDDBは、以下の5つの体系的構成(①出発地点等に面した道路情報の検索、②道路を利用した経路探索・料金算出、③ホテル・旅館、観光施設の情報検索、④公共交通機関を利用した経路探索、⑤地図からの検索及び市区町村等からの検索)を有しているところ、これらの構成は「制作者の個性が表現されたもの」であると認定しました。
情報の選択の創作性については、1審被告らが「大型観光バスによる移動という観点は誰でも考慮すべき月並みなものであり、創作性がない」と主張したのに対し、裁判所は、以下のとおり判示しました。
「原告CDDBにおいて、道路や道路位置、代表道路地点、緯度経度情報、接続・禁止乗換、県範囲定義等を選択、選定するに当たっては、極めて多数にのぼる選択対象として幅のある中から、専ら大型観光バスでの移動を前提とした効率的な経路検索、行程表作成を可能とするという観点からの情報の選別等がされており、このような観点から行われる情報の選別は、誰が行っても同一のものになるということは到底できないから、その情報の選択には制作者の個性が表れており、創作性があるものということができる。」
(4)被告CDDB各バージョンに係る具体的な判断
裁判所は、被告CDDBの各バージョンについて、いずれも原告CDDBの共通部分の複製物ないし翻案物に該当すると判断しました。
| バージョン | 判断 |
|---|---|
| 当初版・2006年版 | 原告CDDBの共通部分の複製物 |
| 現行版 | 原告CDDBの共通部分の複製物 |
| 新版 | 原告CDDBの共通部分の複製物ないし翻案物 |
特に、新版については、原審が「体系的構成及び情報の選択のいずれについても原告CDDBとの同一性ないし類似性が認められない」として著作権侵害を否定していたところ、本判決は、その判断を変更し、複製物ないし翻案物に該当すると認定しました。
新版では、原告CDDB(テーブル数42)と一致するテーブルが20、被告CDDB(新版)(テーブル数29)の全フィールド数326のうち原告CDDBと一致するフィールドが129に減少しており、また、新たなテーブル・フィールドの追加もありました。本判決は、以下のとおり判示し、これらの追加・変更があっても、原告CDDBの体系的構成の本質的な特徴を直接感得することができると認定しました。
「被告CDDB(新版)に新たに付け加えられたテーブル、フィールド及びリレーションの存在によって生じた体系的構成の部分が創作性を有するとしても、被告CDDB(新版)においては、原告CDDBの体系的構成①ないし③及び⑤の本質的な特徴が認識可能であり、その本質的な特徴を直接感得することができるものというべきである。」
1審被告らは、「両データベース全体を比較すると、共通しないテーブル、フィールドが相当数を占めるから、本質的な特徴を直接感得できない」と主張しましたが、裁判所は、以下のとおり判示し、これを退けました。
「リレーショナルデータベースにおいては、データベースの一部分を分割して利用することが可能である。そして、被告CDDB(新版)との共通部分に係る原告CDDBの体系的構成①ないし③及び⑤は一定のまとまりを有するものとして認識可能であり、これに係る創作的表現は、データベースの体系的構成として保護されるべきであるし、その共通部分が被告CDDB(新版)全体において占める割合の大小は、原告CDDBの共通部分の上記体系的構成の本質的な特徴の同一性が維持されているか否かを直接左右するものではない。」
また、1審被告らは、「共通部分のテーブル及びフィールドは、旅行業者向けデータベースとして必要不可欠なものであり、創作性の余地はない」と主張しましたが、裁判所は、以下のとおり判示しました。
「共通部分に係る体系的構成①ないし③及び⑤については、旅行業者向けデータベースにおいて必要な構成であるということはできるものの、これを具体的に構成するに当たってどのような組合せのテーブルを設け、それぞれのテーブルにどのようなフィールドを設けるのか、どのフィールドにプライマリー・キーを定め、どのフィールドを用いてテーブル間にリレーションをとるのかなどに関しては、選択の幅があり、制作者の個性が表れるものであるから、少なくとも制作者の如何を問わず、原告CDDBと全くあるいはほとんど同一の体系的構成になるとまでいうことはできない。」
争点② 1審被告らによる著作権侵害の共同不法行為の成否について
裁判所は、1審被告アゼスタによる著作権侵害行為(複製、頒布、公衆送信、リース等)を認定した上で、個人の1審被告らについても、それぞれの関与の態様に応じて、共同不法行為が成立すると判断しました。
(1)データベースの開発に関与していない代表取締役(被告Y1)の責任
被告Y1は、原告会社(その前身会社)に在籍した経験はなく、データベースやシステムに関する専門知識も有していませんでした。しかし、本判決は、原審の判断を維持し、以下の事情を考慮して、被告Y1に著作権侵害について少なくとも過失があったと認定しました。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 被告アゼスタにおける役職 | 平成17年10月の被告アゼスタの設立当初から代表取締役を務めていたこと |
| 被告システムへの関与 | 被告CDDBを含む被告システムの開発に当初から関与していたこと |
| データコピーへの関与 | 被告Y5が、原告CDDBのCD等からデータをコピーして利用することは被告Y1と相談して決めた旨供述していること |
| 販売促進活動への関与 | 旧原告会社の顧客に対し、原告システムから被告システムへのリプレースを勧める文書を送付するなどの販売促進活動を行っていたこと |
(2)営業担当の個人被告ら(被告Y2、Y3、Y4、Y6)の責任
データベース開発に直接関与していなかった営業担当の個人被告らについても、過失を認めた点が注目されます。
裁判所は、以下のとおり判示し、これらの個人被告らの主張(データベースの設計や構造についての知識がなく、被告システムの開発にも関与していないから過失はない)を退けました。
「1審被告Y2、1審被告Y3、1審被告Y4及び1審被告Y6は、いずれも翼システム及び旧原告会社において、原告CDDBを含む原告システムの販売等の営業を担当していたことからすると、原告システムを構成する原告CDDBの内容について相応の知識を有していたものと認められる。」
「被告CDDB(当初版・2006年版)については、その体系的構成の点で原告CDDBと一致する程度が高く、情報の選択に関しても、原告CDDBに依拠したと認められる点が随所にみられること(中略)などを勘案すると、1審被告Y2、1審被告Y3、1審被告Y4及び1審被告Y6は、被告CDDB(当初版・2006年版)及び被告CDDB(現行版)が原告CDDBの共通部分の複製物であること、被告CDDB(新版)が原告CDDBの共通部分の複製物ないし翻案物であることを認識することができたものと認められる。」
裁判所が個人被告らの過失を認定するにあたり考慮した事実は、以下のとおりです。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 原告システムへの関与歴 | 旧原告会社において、原告CDDBを含む原告システムの販売等の営業を担当していたこと |
| 原告CDDBに関する知識 | 原告CDDBの内容について相応の知識を有していたと認められること |
| 販売活動の内容 | 旧原告会社の顧客に対し、原告システムから被告システムへの「リプレース」を勧める販売活動を行っていたこと |
| 被告CDDBと原告CDDBの一致の程度 | 当初版・2006年版については、体系的構成の点で原告CDDBと一致する程度が高く、情報の選択に関しても、原告CDDBに依拠したと認められる点が随所にみられること |
争点⑤ 1審被告らの損害賠償責任の有無及び1審原告の損害額について
裁判所は、著作権法114条1項に基づき、1審原告の損害額を算定しました。注目すべきは、著作権の対象がシステム全体の一部であるデータベース部分であることを踏まえ、「寄与割合」を考慮した点です。
(1)「侵害の行為がなければ販売することができた物」について
裁判所は、原告CDDBが原告システムの一部であり単体では販売されていない点について、以下のとおり判示し、原告システム全体を「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当すると認定しました。
「1審被告らが、原告システムの顧客に対して原告システムから被告システムへのリプレース販売を持ち掛け、相当数の原告システムの顧客に対して、原告システムから被告システムへの切り替えに成功していることを考慮すると、被告CDDBを含む被告システムと原告CDDBを含む原告システムとは、市場において競合関係にあるものと認められるから、原告CDDBを含む原告システムのシステム全体についても、被告CDDBとの関係で、1審原告が「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるものと認められる。」
(2)原告CDDBの寄与割合について
裁判所は、原告システム1本当たりの利益額のうち、データベース部分である原告CDDBの寄与割合を50%と認定しました。
「原告システムは、システムの各機能を実行させるプログラムとデータベース(原告CDDB)とで構成されており、プログラム部分とデータベース部分は、構成上は別のものであること、1審原告は、データベース部分である原告CDDBを単体では販売することはなく、原告CDDBを含む原告システムを一体のシステムとして販売していること、原告システムにおいては、プログラム部分とデータベース部分のそれぞれが顧客吸引力を有し、原告システムの購入動機の形成に貢献ないし寄与しているものと認められることを総合考慮すると、著作権法114条1項に基づく1審原告の損害額の算定の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額」は、原告CDDBを含む原告システムの1本当たりの利益額全額ではなく、データベース部分である原告CDDBの上記貢献ないし寄与の割合(中略)に応じて算出するのを相当と認める。」
(3)認容された損害額
裁判所は、上記の判断を踏まえ、著作権侵害に基づく損害額を以下のとおり算定し、弁護士費用2000万円を加算した合計2億1473万3000円の支払を命じました。
| 損害項目 | 金額 |
|---|---|
| 著作権法114条1項に基づく損害額(45万9000円×397本) | 1億8222万3000円 |
| データメンテナンス契約に係る損害 | 1251万円 |
| 弁護士費用 | 2000万円 |
| 合計 | 2億1473万3000円 |
結論
裁判所は、被告CDDBの当初版、2006年版、現行版及び新版のいずれについても、原告CDDBの共通部分の複製物(新版については複製物ないし翻案物)に該当すると認め、1審被告アゼスタに対し被告CDDBの複製、頒布、公衆送信の差止め及び記録媒体の廃棄を命ずるとともに、1審被告らに対し損害賠償の支払を命じました。
コメント
1. 本判決の意義
本判決は、リレーショナルデータベースの著作権侵害について、以下の点を明らかにしたものです。
(1)リレーショナルデータベースの体系的構成の創作性の判断要素
リレーショナルデータベースの体系的構成の創作性は、テーブルの内容、フィールド項目の内容、テーブル間のリレーションの態様、正規化の程度等を総合的に考慮して判断されるということです。本判決は、リレーショナルデータベースの著作物性の判断枠組みを示した先例として参考になります。
(2)共通部分に着目した複製・翻案の判断方法
リレーショナルデータベースの複製・翻案の判断は、データベース全体を比較するのではなく、共通部分について行われるということです。本判決は、リレーショナルデータベースが「データベースの一部分を分割して利用することが可能」な性質を有する点に着目し、共通部分が一定のまとまりを有するものとして認識可能であれば、その共通部分が被告データベース全体において占める割合の大小は本質的な特徴の同一性の判断を直接左右しないと判示しました。
被告側がテーブルやフィールドを追加することで侵害を免れようとしても、原告データベースの体系的構成の本質的な特徴が共通部分に維持されている限り、複製・翻案に該当すると判断される可能性があります。
(3)必要不可欠な情報項目の組合せにおける創作性
データベースを構成する個々のテーブルやフィールドが、当該分野において必要不可欠な情報項目であったとしても、それらの組合せ、プライマリー・キーの設定、リレーションのとり方等には選択の幅があるため、これらを総合した体系的構成全体としては創作性を有し得るということです。
(4)開発に直接関与しない営業担当者の過失の認定
データベースの開発に直接関与していない営業担当者であっても、原告会社における勤務経験を通じてデータベースの内容について相応の知識を有しており、原告会社の顧客に対するリプレース販売を行っていた場合には、著作権侵害について過失が認められるということです。
本判決は、データベースの著作権侵害について、開発担当者だけでなく、営業担当者を含む関与者全員の過失を肯定した点が注目されます。
(5)損害額算定における寄与割合の考慮
データベース部分の著作権侵害について損害額を算定する場合には、データベース部分のシステム全体に対する寄与割合を考慮するということです。本件では、寄与割合は50%と認定されました。
2. 本判決が原審判断を変更した点
本判決は、複数の論点について原審判断を変更しており、その結果、認容された損害賠償額は約1.9倍に増加しています。本判決と原審判断の対比を整理すると、以下のとおりです。
| 論点 | 原審(東京地裁平成26年3月14日判決) | 本判決(知財高裁平成28年1月19日判決) |
|---|---|---|
| 被告CDDB(新版)の侵害該当性 | 著作権侵害を否定(同一性ないし類似性が認められない) | 著作権侵害を肯定(複製物ないし翻案物に該当) |
| 翻案行為の差止めの可否 | 否定(態様が広範かつ多様であり、内容が限定されない) | 肯定(差止めの対象となる翻案行為の客体は別紙物件目録に特定されている) |
| 原告システムの限界利益率 | 33% | 60%(原審は限界利益率と経費率を取り違えた誤りがあるとの指摘) |
| データメンテナンス契約に係る損害 | 否定(著作権侵害との相当因果関係を欠く) | 肯定(1251万円を認容) |
| 認容された損害賠償額(合計) | 1億1215万1000円 | 2億1473万3000円 |
これらの変更点は、データベースの著作権侵害事案における主張・立証の戦略に直接影響を及ぼすものであり、特に以下の点は実務上参考になります。
第一に、データベースのバージョンアップによってテーブル・フィールドの一致率が低下しても、共通部分について体系的構成の本質的な特徴が認識可能であれば、複製物ないし翻案物に該当し得るという判断は、被告側のバージョンアップによる「侵害の希釈化」の試みに対する歯止めとなります。
第二に、損害額の算定における利益率について、限界利益率と経費率を区別して算定する必要があることが示されました。著作権法114条1項に基づく損害賠償の主張・立証においては、変動経費の費目の特定、固定費との区別、追加的人件費の算定方法等について、丁寧な主張・立証が求められます。
第三に、データベースの著作権侵害により、当該データベースを含むシステムが販売できなくなったことに加え、当該システムの購入時に通常締結されるデータメンテナンス契約に係る逸失利益も、相当因果関係のある損害として認められました。データベースを継続的なメンテナンスサービスと一体として販売する事業モデルにおいては、著作権侵害により失われる利益は単発の販売利益にとどまらないという観点が示されています。
3. 企業等に求められる対応
本判決を踏まえ、データベースを保有する企業及びデータベースを利用するシステムを開発する企業の双方において、以下の対応が求められます。
(1)データベースを保有する企業の対応
| 対応事項 | 内容 |
|---|---|
| データベースの設計内容を記録・保存する | データベースの体系的構成(テーブル、フィールド、リレーション)の創作性を主張するためには、データベースの設計過程における選択の幅、制作者の個性が表れている点を客観的に立証する必要があります。データベースの設計書、仕様書、開発過程の記録等を整備・保存しておくことが望まれます。 |
| 退職者管理を徹底する | 本件のように、退職者がデータベースの内容を知った上で競合システムを開発するケースでは、著作権侵害が認められやすくなります。退職時の秘密保持義務、競業避止義務の確認、データの返還・削除の徹底等の対応を行うことが望まれます。 |
| 早期に専門家に相談する | 競合他社が類似のデータベースを利用したシステムを販売していることが判明した場合には、早期に専門家に相談し、共通部分の特定、創作性の主張、本質的特徴の同一性の主張等の準備を進めることが望まれます。 |
(2)データベースを利用するシステムを開発する企業の対応
| 対応事項 | 内容 |
|---|---|
| 既存データベースの利用について慎重に検討する | 他社のデータベースの内容を参考にしてシステムを開発する場合には、テーブル、フィールド、リレーションの構成等が類似することにより、著作権侵害に該当するおそれがあります。共通部分の存否、創作性の有無、本質的特徴の同一性の有無等について、専門家の助言を求めることが望まれます。 |
| 開発過程を記録する | 自社のデータベースが他社のデータベースと独立して開発されたことを立証するためには、開発過程における設計判断、選択の経緯等を記録しておくことが有用です。 |
| 元他社従業員を採用する場合の対応 | 元他社従業員を採用してデータベースの開発に従事させる場合には、当該従業員が前職で取得した情報を利用しないように、開発体制、情報管理体制を整備することが望まれます。本判決では、元従業員が原告データベースのCD等からデータをコピーして利用したことが、依拠性の認定に影響を与えています。 |
| 営業担当者の認識についても注意する | 本判決は、データベース開発に直接関与していない営業担当者についても、過失を認定しています。元他社従業員を営業担当者として採用し、当該従業員が前職の顧客に対するリプレース販売を行う場合には、当該販売活動が著作権侵害行為に該当する可能性について慎重に検討する必要があります。 |
| 出資・経営参画時の事前確認を行う | 本判決及び原審は、データベースやシステムに関する専門知識を有しない出資者・代表取締役(被告Y1)についても、データのコピー方針への関与や旧顧客への営業関与等を理由として、過失を認定しています。新会社の設立や既存会社への出資・経営参画にあたっては、当該会社が利用するデータベースが他社の著作権を侵害していないかについて、事前に確認することが望まれます。 |
| 開発経緯に関する社内記録を整備する | 本件では、被告CDDBの制作経緯について、被告らの陳述書と尋問における供述に齟齬が生じたことが、事実認定の場面で被告らに不利に作用しています。データベースの開発経緯(ゼロからの設計か、既存データの利用があるか、データの入手経路等)について、社内における関係者の認識を統一し、客観的な記録を整備しておくことが望まれます。 |
おわりに
本判決は、リレーショナルデータベースの著作権侵害について、判断の枠組みを示した実務上重要な先例です。データベースは、企業活動上の重要な資産であり、その保護及び他社データベースに対する配慮は、システム開発・販売を行う企業にとって避けて通れない課題です。
データベースの著作権侵害が問題となる事案では、共通部分の特定、創作性の有無、本質的特徴の同一性の判断、依拠性の判断、損害額の算定等、専門的な検討が必要となる事項が多岐にわたります。また、本件のように、原審と控訴審で複数の論点について判断が分かれた事案では、各論点の主張・立証の進め方が結論に大きく影響することがうかがえます。さらに、退職者が競合会社を設立してデータベースの内容を利用するケースでは、退職者の関与の態様に応じた個別の責任の検討も必要となります。
当事務所は、著作権分野における相談・ご依頼を継続的に受けており、データベースの著作権侵害事案についても対応しております。データベースの保護、競合他社による侵害行為への対応、システム開発における他社データベースとの関係の整理、退職者対応、損害額の主張・立証等について、お困りの点がございましたら、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

