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四柱推命に基づく100種類のおみくじ文章の著作物性と複製権・翻案権侵害(東京地裁令和3年1月26日判決)

はじめに

短い文章や定型的な記載が並ぶ文書について、「これに著作権が発生するのか」「表現を少し書き換えれば別の著作物になるのではないか」というご相談を受けることがあります。この点について実務上参考となるのが、東京地方裁判所令和3年1月26日判決(平成30年(ワ)第38052号ほか。いわゆる「開運推命おみくじ事件」)です。

本判決は、四柱推命に基づく100種類の「おみくじ」の文章について、文末の表現を整える、ひらがなを漢字に改めるなどの軽微な変更を加えて販売した行為が、複製権及び同一性保持権の侵害に当たると判断しました。

今回のコラムでは、一般読者・企業のご担当者に向けて、事案の概要、争点、裁判所の判断、そして実務上の留意点をわかりやすく解説いたします。

事案の概要

原告は、四柱推命学を専門とする研究者であり、1番から100番まで100種類の「開運推命おみくじ」(本件文書1)を作成した著作者です。被告は、寺社で頒布されるおみくじを業として複製・販売している事業者です。

両者の間では、過去に二度の裁判上の和解(第1次和解・第2次和解)が成立しており、第2次和解では、被告は平成29年3月31日限りで本件文書1の複製・販売を行わないこととされていました。

ところが被告は、以下の行為を行いました。

行為内容
① 本件文書1の無断複製・販売平成29年4月1日以降も、本件文書1を本件各寺院(C寺、D寺、E寺)に対して複製・販売した。
② 本件文書2・3の作成と販売本件文書1の字句や体裁を一部変更した「開運推命おみくじ」(本件文書2・本件文書3)を作成し、「改訂版開運推命おみくじ」と称してD寺・E寺に販売した。
③ 記載内容の追加・書換え本件文書1の20番には学業運の記載がないにもかかわらず、本件文書2・3の20番に学業運として「学業においては順調平穏です。」と追記し、また、本件文書1の86番の異性運の記載を、本件文書3の86番では反対の内容に書き換えた。

原告は、これらの行為が複製権・翻案権・譲渡権及び同一性保持権を侵害するとして、差止め、複製物の廃棄、損害賠償等を請求しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①被告による本件文書1ないし3の作成、複製販売が、原告の本件文書1についての著作権(複製権、翻案権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するか
争点②原告の損害額(著作権法114条1項に基づく損害額の算定の可否を含む)
争点③差止め及び廃棄の必要性

裁判所の判断

争点① 本件文書1ないし3の作成・複製販売の著作権・著作者人格権侵害の成否について

裁判所は、まず本件文書2・3が本件文書1に依拠して作成されたことを認定した上で、本件文書2・3の作成は本件文書1の複製に該当し、原告の複製権を侵害すると判断しました。また、20番・86番の改変についても、同一性保持権の侵害を認めました。

本件文書1と本件文書2・3の関係について、裁判所は次のように判示しています。

上記の共通する運勢等の説明について、本件文書1と、本件文書2及び3の個別のおみくじの表現は、ほとんどが同一であり、本件文書1における具体的表現に修正、増減、変更が加えられている箇所を見ても、それらは文末の表現を整えたり、ひらがなを漢字に改めたりするなどの軽微かつ形式的な変更にすぎないものか、本件文書1と同じ文章に対して趣旨を分かりやすく伝えるために短い語句等を挿入、付加するなどしたものである。

そして、

以上によれば、本件文書2及び3は、本件文書1の創作性ある該当部分を有形的に再製するものであるといえ、本件文書2及び3を作成する行為は、原告の複製権を侵害するものであると認められる。

と結論づけています。

また、同一性保持権侵害については、本件文書1の20番に存在しない学業運の記載を追加したこと、86番の異性運の記載を反対の内容に改変したことをとらえ、

上記の表現の相違は、本件文書1の20番、86番の表現に改変を加えたものと認められるから、本件文書2及び3の20番、本件文書3の86番を作成する行為は、本件文書1の著作者である原告が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものと認められる。

と判示しました。

争点② 原告の損害額について

裁判所は、原告が自ら寺院に対して本件文書1を一部改変したおみくじを販売しており、被告のおみくじと競合していることから、著作権法114条1項の適用を認めました。被告は、体裁や価格の相違を理由に競合関係がないと主張しましたが、裁判所は、

いずれも「開運推命おみくじ」と題する紙のおみくじであり、その内容もほぼ同一であって、被告が指摘する事情をもって原告が販売するおみくじと被告が販売したおみくじが競合しないとは認められず、被告の主張には理由がない。

として、これを排斥しました。

単位数量当たりの利益については、原告が販売するおみくじの販売価格・経費等を踏まえ、

原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの利益額は70円を下回ることはないと認められる。

と判示しました。そして、被告のC寺・D寺・E寺に対する譲渡数量を合計8万1837枚と認定した上で、

著作権法114条1項に基づく原告の損害額は、以下の計算式のとおり、572万8590円となる。

と算定しています。

さらに、著作者人格権侵害による慰謝料についても、

本件文書1において、その内容が真逆になるような内容の改変がされることは、おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえる

と評価し、慰謝料50万円、弁護士費用50万円を加え、合計672万8590円の損害賠償を命じました。

争点③ 差止め及び廃棄の必要性について

裁判所は、過去に2回の裁判上の和解が成立したにもかかわらず、被告が第2次和解後に本件文書1に些細な改変を加えた本件文書2・3を作成・販売した経緯に照らし、

被告による、本件文書1ないし3の複製、譲渡による将来的な権利侵害のおそれが否定できず、これらについての差止請求が認められる。

として、本件文書1ないし3の複製・譲渡等の差止め、及び複製物・印刷用原版の廃棄を認めました。

他方で、おみくじの配布を補助する「年表」データの廃棄請求については、

「年表」を使用した場合であっても、具体的な説明文が本件文書1と同じになるとは限らず、本件文書1とは異なる著作物を作成することが可能である以上、「年表」が本件文書1と一体になるものであるとも認められない。

として、本件文書1と一体のものとは認められず、著作権法112条2項にいう「侵害の停止又は予防に必要な措置」に該当しないとして斥けられています。

コメント

本判決の意義

本判決は、他人の著作物について、文末表現を整える、ひらがなを漢字に改める、体裁を変更するといった軽微かつ形式的な変更を加えただけでは、複製権侵害の責任を免れることはできないという、実務上一貫した考え方を改めて確認したものです。

もっとも、この考え方は、企業の現場では必ずしも十分に浸透しているとはいえず、「少し書き換えれば問題ない」という誤解が依然として見られます。本判決は、そうした誤解に警鐘を鳴らす意義を有しています。

また、本件では、原告が一部改変して販売しているおみくじとの間に「競合関係」があると認め、著作権法114条1項の損害額算定規定の適用を肯定した点も参考になります。

被告は体裁や価格の相違を理由に競合関係を否定しましたが、裁判所は、商品の実質的な内容と用途に着目して判断しました。損害論の観点からも実務的な示唆に富む判決といえます。

企業等に求められる対応

本判決から論理的に導き出される、企業のご担当者が押さえておくべきポイントは、以下のとおりです。

ポイント内容
①「少し変えれば別物になる」という発想は通用しない他人の著作物を参照して文書・コンテンツを作成する場合には、文末表現の修正、漢字・ひらがなの変換、体裁の変更等を加えても、内容の大部分が維持されている限り、複製権侵害と評価される可能性があります。
② ライセンス期間の終了後の継続利用に注意する本件では、和解によって定められた利用許諾の期間が終了した後の販売行為が問題となりました。契約・和解等で利用許諾の期間が定められている場合には、期間満了日を正確に管理し、期間終了後は在庫も含めて利用を停止する体制を整備する必要があります。
③ 内容の「追記」や「反対の意味への改変」は同一性保持権侵害のリスクが高い著作者の許諾なく記述を追加したり、内容を反対の意味に書き換えたりする行為は、同一性保持権の侵害に直結します。著作者との契約において、改変の可否及び範囲を明記しておくことが重要です。
④ 社内のコンテンツ制作フローを整備する既存コンテンツを参照して新たな文書・商品説明・マニュアル等を作成する場面では、参照元の権利処理状況を確認するチェック体制を設けることが望まれます。

おわりに

本判決が示すように、短い文章の集合体であるおみくじであっても、創作性が認められる限り著作物として保護され、軽微な改変では侵害を免れることはできません。

当事務所では、著作権を含む知的財産権に関する紛争対応・契約審査・社内研修について、数多くのご相談を承っております。

自社のコンテンツを他社に模倣されてお困りの方、逆に、他社の著作物を参照するにあたって侵害の可能性を整理しておきたい方は、お気軽に本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりお問い合わせください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。