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連件登記申請における後件のみを代理する司法書士の調査確認義務(東京地裁令和2年1月31日判決)

はじめに

不動産取引の現場では、売主を名乗る者が真の所有者になりすまし、偽造された登記関係書類を用いて売買代金をだまし取るという、いわゆる「地面師」事案が後を絶ちません。こうした事案では、買主企業が多額の売買代金を支払った後に、前主から中間業者への所有権移転登記が偽造書類によるものであることが判明し、買主自身への所有権移転登記までもが却下されてしまうことがあります。

このような場面において、買主企業は、自社が依頼した司法書士に対して、前件(中間業者への移転登記)の書類確認を怠ったとして損害賠償を求めることが少なくありません。もっとも、後件(自社への移転登記)のみを受任した司法書士が、前件の書類の真否についてまで調査確認義務を負うか否かは、必ずしも明確ではありません。

今回のコラムでは、いわゆる連件登記の後件のみを受任した司法書士の調査確認義務の範囲が争われた東京地方裁判所令和2年1月31日判決を取り上げ、不動産取引に関わる企業の担当者の方にもわかりやすく解説いたします。

事案の概要

本件は、原告(不動産業者である株式会社)が、有限会社ドリームライフ(以下「ドリームライフ」といいます。)から、土地(以下「本件土地」といいます。)を売買代金1億2000万円で買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」といいます。)を締結したものの、本件土地の真の所有者であるBから、ドリームライフへの所有権移転登記の申請に必要な登記済権利証及び登記識別情報通知書がいずれも偽造に係るものであったため、ドリームライフへの所有権移転登記申請(以下「別件移転登記」といいます。)が却下され、その結果として、原告への所有権移転登記申請(以下「本件移転登記」といいます。)も却下された事案です。

原告は、本件移転登記の申請手続を司法書士である被告に委任していたところ、被告が登記申請書類を調査確認すべき義務を怠ったとして、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、ドリームライフに支払った売買代金1億2000万円相当の損害賠償を求めました。

本件売買契約に基づくドリームライフから原告への本件移転登記と、別件売買契約に基づくBからドリームライフへの別件移転登記は、いわゆる連件登記として同時に申請されることが予定されていました。別件移転登記の申請手続は、当初は被告が受任する予定でしたが、決済の数日前に、Bの希望により、別の司法書士(C司法書士)が担当することとなり、被告は本件移転登記(後件)のみを受任することとなりました。

決済当日には、原告の従業員、被告、C司法書士から委任を受けたE弁護士、ドリームライフの会長、Bを名乗る者及びBの債権者を称する者2名が同席しましたが、C司法書士自身は決済に立ち会いませんでした。被告は、別件移転登記に係る書類について、必要な書類が揃っているかどうかという形式的な確認を行いましたが、原告からドリームライフへの送金完了後に交付された別件移転登記の登記済権利証及び登記識別情報通知書が偽造されていたことを発見できず、その結果、別件移転登記の申請が却下され、本件移転登記の申請も却下されました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号内容
争点①別件移転登記における登記関係書類の真否や登記義務者の同一性を確認する旨の特約が原告と被告との間で成立していたか
争点②被告が、本件において、別件移転登記に関する書類の真否確認等について調査確認すべき注意義務を負っていたか
争点③損害の発生及び過失相殺の可否

裁判所の判断

裁判所は、争点①及び争点②についていずれも被告の責任を否定し、原告の請求をいずれも棄却しました。

争点① 特約違反の有無について

裁判所は、原告と被告との間で、別件移転登記における登記関係書類の真正や登記義務者の同一性の確認についての特約が成立していた事実は認められないと判断しました。

裁判所は、特約の存否について、以下の事情を考慮しました。

観点内容
書面・メール等の有無特約の内容を記した契約書等はなく、特約の存在を裏付ける書面やメール等も存在しなかった
業務日誌の記載被告事務所内で用いられていた業務日誌には、C司法書士が別件移転登記を担当することとなった旨の記載はあったものの、原告から別件移転登記に係る特約について依頼された内容や承諾した事実等は一切記載されていなかった
追加報酬の有無別件移転登記に係る登記関係書類の真否確認等を行う特約が締結されたのであれば、それに伴う追加の報酬等の話題が生起しうるところ、本件においては、そのような特約に係る報酬は何ら話題にもされず、予定もされていなかった
別件移転登記に係る報酬被告は、別件移転登記の申請手続をC司法書士が担当することとなったことから、別件移転登記に係る報酬は受け取っていなかった

これらの事情を踏まえ、裁判所は、次のとおり判示しました。

これらの事情を総合すると、原告と被告との間で、別件移転登記における登記関係書類の真正や登記義務者の同一性の確認についての特約が成立していたことを認めるに足りる証拠はなく、同事実は認められない。

なお、原告担当者であるDは、被告に対して本件移転登記に係る手続だけを依頼したつもりはなく、別件移転登記及び本件移転登記のいずれについての登記関係書類の真正や登記義務者の同一性の確認も依頼していた旨を証言しました。しかし、裁判所は、Dの上記証言について、次のとおり判示し、これを採用しませんでした。

確かに当初は、原告は本件移転登記と別件移転登記の各申請手続をいずれも被告に依頼する予定であったものの、後に、ドリームライフからの連絡を受けて、別件移転登記の申請手続についてC司法書士という別の司法書士が担当することとなり、その結果として、被告は本件移転登記の申請手続のみを担当することとなったものであるから、Dの上記証言は採用できない。

争点② 注意義務違反の有無について

裁判所は、本件において、被告は別件移転登記に関する書類の真否確認等について調査確認すべき義務を負わないとして、被告に注意義務違反は認められないと判断しました。

(1) 連件登記における後件司法書士の調査確認義務に関する一般論

裁判所は、まず、連件登記申請における後件のみを代理する司法書士の調査確認義務について、次のとおり判示しました。

登記申請手続が連件登記申請の方法により行われる場合において、前件の登記申請手続を代理する別の司法書士がいるときは、後件の登記申請手続を代理する司法書士は、原則として、前件の登記申請手続書類について必要な書類が揃っているか否かを形式的に確認するという契約上ないしは信義則上の義務を負うにとどまるが、前件の登記申請手続を代理した司法書士がその態度等からおよそ司法書士としての職務上の注意義務を果たしていないことを疑うべき事情があるなど、特段の事情がある場合については、例外的に、前件の登記申請手続書類の真否等について調査確認すべき契約上ないしは信義則上の義務を負うと解するのが相当である。

裁判所は、その理由について、前件の登記申請手続を代理する司法書士がいる場合には、前件の書類の真否等は前件の司法書士が調査確認すべき義務を負っていることや、後件の司法書士は前件の登記申請手続について何らの委任を受けているわけではないことを挙げています。一方で、連件登記申請においては、前件の登記申請が実現しなければ後件の登記申請も実現できない関係にあり、司法書士に求められる専門性及び職責にも鑑みると、後件のみを代理する司法書士であっても、例外的に、書類の形式的確認にとどまらない調査確認をすべき場合がありうるとも判示しています。

(2) 本件における特段の事情の有無

裁判所は、本件において、前記特段の事情があるとは認められないと判断しました。原告は、C司法書士が決済の数日前にいきなり別件移転登記申請を代理することとなったこと、決済の際に立ち会わず、しかも決済前日にこのような事情を被告事務所のGに連絡してきたのみであることなどから、特段の事情が認められると主張しました。

しかし、裁判所は、以下の事情を踏まえ、原告の主張を採用しませんでした。

観点裁判所の判断
司法書士変更の時期別件移転登記の申請手続を代理する司法書士が決済の数日前に決まったことについては、種々の理由から決済の直前に司法書士が変更になることも想定できるものであり、この点のみをもってC司法書士に何らかの不審な事情があるとまではいえない
本人確認の実施C司法書士は、決済前日に登記義務者であるBの本人確認を行った旨を被告事務所に電話で伝えており、これらの事情からC司法書士が司法書士としての職務上の注意義務を果たしていないことを疑うのは困難である
決済への立会いC司法書士自身は決済当日に立ち会っていなかったが、C司法書士の所属する事務所の代表弁護士であるE弁護士に手続を委任し、E弁護士が決済に立ち会っているのであるから、C司法書士の決済への立会いがなかったことを踏まえても、C司法書士が本件で取った行動が特に不自然なものとまでいうことはできない
決済時の同席者の言動決済の際、Bの債権者と称する男性2名が別件移転登記に係る登記済権利証及び登記識別情報通知書を持っており、これらを被告には渡さない旨述べていた点については、別件売買契約にやや不審な事情があったことが窺えるものの、Bの債権者と称する男性の態度にやや不審な点があるという程度にとどまり、C司法書士に関する事情ではない

これらを踏まえ、裁判所は、C司法書士がおよそ司法書士としての職務上の注意義務を果たしていないと疑うべき事情があるとは認められず、その他の事情を考慮しても、特段の事情があるとは認められないと判断しました。そして、被告は、前件の登記申請手続書類について必要な書類が揃っているか否かの形式的確認を行っているから、被告には義務違反はないと結論づけました。

(3) 登記識別情報通知書の表記等に関する原告の主張について

原告は、別件移転登記の登記識別情報通知書において、本件土地の表示が「番」ではなく「番地」と表記されており、また、登記識別情報の上からかぶっているシールが固く貼付されていて剥がれないという不審な点があったにもかかわらず、被告がこれらを看過したと主張しました。

しかし、裁判所は、原告の上記主張について、次のとおり判示し、いずれも採用しませんでした。

そもそも被告は別件移転登記に関する書類の真否等について調査確認すべき義務を負わないのであるから、原告の上記主張は採用できない。

あわせて、裁判所は、「番」と「番地」の違いについて一見してその違いに気付くことが可能なものというにはためらいがあること、シールの剥がれにくさは利用者の感覚的な見地からの微妙な問題であること、本件において、別件移転登記の登記識別情報通知書が被告に交付されたのは決済が終了し、原告からドリームライフへの着金が確認された後であったことから、この段階で被告に調査確認を要求するのは困難であることも指摘しています。

コメント

本判決は、いわゆる連件登記申請の方法により所有権移転登記が行われる場面において、後件の登記申請手続のみを代理する司法書士が、前件の登記申請手続書類の真否等について調査確認すべき義務を負うかどうかについて、その判断枠組みを示した事例として実務上参考になるものです。

連件登記における後件司法書士の調査確認義務の判断枠組み

本判決が示した判断枠組み

本判決は、後件のみを代理する司法書士の調査確認義務について、以下の判断枠組みを示しました。

区分内容
原則後件の登記申請手続を代理する司法書士は、前件の登記申請手続書類について、必要な書類が揃っているか否かを形式的に確認する契約上ないしは信義則上の義務を負うにとどまる
例外前件の登記申請手続を代理した司法書士が、その態度等からおよそ司法書士としての職務上の注意義務を果たしていないことを疑うべき事情があるなど、特段の事情がある場合には、後件の司法書士であっても、前件の登記申請手続書類の真否等について調査確認すべき契約上ないしは信義則上の義務を負う

この判断枠組みは、前件の登記申請手続を代理する司法書士が別に存在する場合には、その司法書士が前件書類の真否等について調査確認義務を負っていることを前提とし、後件の司法書士は前件について委任を受けていない以上、原則として実質的な調査確認義務を負わないという整理に基づくものです。

一方で、連件登記申請においては、前件の登記申請が実現しなければ後件の登記申請も実現できないという関係に立つことから、例外的に、書類の形式的確認にとどまらない調査確認義務が認められる場合があるとされています。

判断枠組みの背景にある委任契約の構造

本判決の判断枠組みについては、連件登記申請における委任契約の構造との関係から見ると、その意義をより理解しやすくなります。連件登記申請では、前件と後件のそれぞれについて、別個の登記権利者と登記義務者の間の登記が問題となり、各司法書士は、自らの依頼者からの委任に基づいて当該登記の申請手続を代理することになります。後件のみを受任した司法書士にとって、前件の登記申請手続は、自らが委任を受けた業務の範囲の外に位置するものといえます。

そうすると、後件のみを代理する司法書士に対し、原則として前件書類の真否等まで実質的に確認する義務を課すこととすれば、自らの委任業務の範囲を超えて、別の依頼者間で行われる登記手続にまで実質的な確認義務を負担することとなり、司法書士間の役割分担や報酬関係との整合性との関係でも問題が生じうるところです。

本判決は、こうした連件登記申請における委任構造を踏まえ、後件司法書士の調査確認義務の発生場面を、前件司法書士の職務遂行に疑問を抱くべき事情等が客観的に認められる例外的な局面に絞ったものとして理解することができます。

本判決前の裁判例の状況と本判決の位置付け

本判決の意義をより的確に捉えるためには、本判決が出された当時の裁判例の状況も踏まえることが有益です。

後件のみを受任した司法書士の前件書類に対する注意義務をめぐっては、本判決以前から訴訟上の主要な論点となっており、東京高裁・東京地裁の各レベルにおいて複数の判断が積み重ねられてきました。判断の分かれ目は、後件司法書士に注意義務が及ぶ範囲をどこまで広く捉えるかという点にあり、本判決以前の主な裁判例を整理すると、以下のとおりです。

立場裁判例判断の概要
後件司法書士の注意義務を比較的広く認める立場東京高判平成30年9月19日(判時2392号11頁)「前件申請の却下事由その他前件申請のとおりの登記が実現しない相応の可能性を疑わせる事由が明らかになった場合」に注意義務が及ぶとして、後件司法書士の責任が認められうる場面を相応に広く設定
後件司法書士の注意義務を限定的に解する立場東京高判令和元年5月30日(判時2440号19頁)、東京地判平成30年9月13日(判時2440号27頁)、東京地判平成29年11月14日(判時2392号20頁)、東京地判平成27年12月21日(判タ1425号282頁)後件司法書士が注意義務を負うべき場面をより絞り込み、責任を認めない判断

本判決は、後者の流れに位置付けられる判断であり、「特段の事情」が認められる例外的な場面に限って前件書類の真否等についての調査確認義務を認めるという枠組みを示しています。連件登記申請における司法書士の責任の有無は、関与する司法書士の役割や具体的な取引の経緯によって判断が分かれうる領域であり、今後の同種事案においても、事案ごとの個別事情を踏まえた検討が必要となります。

最高裁令和2年3月6日判決との関係

本判決は、連件登記申請の事案における後件司法書士の責任の有無について判断したものですが、本判決と近接した時期に出された判例として、最二小判令和2年3月6日(民集74巻3号149頁、判タ1477号30頁)も併せて参照することが有益です。

最二小判令和2年3月6日の概要は、以下のとおりです。

項目内容
事案の特徴本件と異なり、後件登記の申請手続を担当した司法書士と、当該司法書士との間に直接の委任関係を持たない中間買主との関係において、当該司法書士の不法行為責任の有無が争われた事案
第三者に対する義務発生の枠組み登記申請の委任を受けた司法書士は、委任者以外の第三者についても、当該登記に係る権利の得喪・移転について重要かつ客観的な利害を有しており、そのことが司法書士において認識可能であって、かつ当該第三者が司法書士から相応の注意喚起等を受けられるとの正当な期待を抱いているといえる場合には、当該第三者に対しても、注意喚起をはじめとする適切な措置を講ずる義務を負う
義務違反の判断要素疑いの程度、当該第三者の不動産取引に関する知識・経験の程度、当該第三者の利益を保護する他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無・態様等を踏まえ、司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じて、諸般の事情を総合考慮

両者は、委任関係の有無という前提を異にしますが、後件登記の申請手続のみを担当する司法書士の責任の有無が問題となる場面において、いずれも責任の成立する局面を一定の限定的な要件のもとで認めるという方向性を共有しているといえます。後件司法書士の責任の有無を検討するに当たっては、本判決の判断枠組みに加えて、最二小判令和2年3月6日が示した第三者に対する義務との関係も視野に入れて、事案を分析することが有益です。

「特段の事情」の判断における視点

本判決は、特段の事情の存否について、前件の登記申請手続を代理する司法書士の態度等を中心に検討しています。本件において裁判所は、①司法書士の変更が決済直前であったこと自体は不審な事情とまではいえないこと、②前件の司法書士が決済前日に登記義務者の本人確認を行った旨を被告事務所に伝えていたこと、③前件の司法書士が決済当日に立ち会わなかったとしても、同じ事務所に所属する弁護士に決済立会いを委任していたこと、を踏まえて、前件の司法書士の態度に不審な点はないと評価しています。

また、決済の場における買主以外の第三者(本件におけるBの債権者を称する者)の言動について、別件売買契約に何らかの不審な事情があることを窺わせるとしても、それは前件の司法書士の職務遂行に関する事情とは区別して評価されています。後件の司法書士の調査確認義務の有無が問題となる「特段の事情」とは、あくまで前件の司法書士の業務遂行に向けられたものであるという視点は、同種事案を検討するうえで参考になります。

なお、本判決は、別件移転登記の登記識別情報通知書における「番」と「番地」の表記の違いや、登記識別情報の上にかぶせられたシールが剥がれにくいという点について、被告に注意義務違反は認められないと判断していますが、これは、本件において被告がそもそも別件移転登記の書類の真否等について調査確認すべき義務を負わないことを前提とした判断です。

仮に「特段の事情」が認められ、後件のみを代理する司法書士であっても前件書類の真否等について調査確認すべき義務を負う場面では、書類の表記や形態の不審点について、より踏み込んだ確認や調査が求められることとなり、結論が異なる可能性があります。この点は、不動産取引の場面で前件の登記関係書類に何らかの不審な事情がうかがわれる場合、後件を担当する司法書士に対してその点を共有し、必要な確認を依頼しておくことの実務上の意味を示唆しているといえます。

特約による調査確認義務の拡張について

本判決は、後件の司法書士が前件の登記申請手続書類の真否等についても調査確認することを内容とする「特約」が締結された場合には、後件の司法書士もその範囲で調査確認義務を負いうることを前提としています。

もっとも、本件では、特約の存在を裏付ける書面やメール等が存在しないこと、特約に伴う追加の報酬が話題にもされていなかったこと、別件移転登記に係る報酬を被告が受け取っていなかったことなどから、特約の成立は否定されました。後件の司法書士に通常の業務範囲を超えた調査確認義務を負わせるためには、その委任内容を書面等で明確にし、これに対応する報酬の合意を伴わせるなど、客観的に認識可能な方法で意思表示を残すことが想定されているといえます。

不動産取引に関わる企業の担当者の方への示唆

本判決を踏まえますと、不動産取引に関わる企業の担当者の方が留意すべき視点として、以下のような点が考えられます。

視点内容
司法書士の業務範囲の確認連件登記申請における後件のみを依頼する場合、当該司法書士は、原則として、前件の登記申請手続書類について形式的な確認を行うにとどまり、書類の真否等について実質的な調査確認義務を負わないことを理解しておくことが有益である
前件書類の確認を求める場合の対応後件の司法書士に対して、前件の登記申請手続書類の真否や登記義務者の同一性確認まで求める場合には、その業務範囲・追加報酬等を含めて書面・メール等で明確に合意しておくことが有益である
前件司法書士の選任過程の把握前件の登記申請手続を代理する司法書士が、いつ・誰の意向で・どのような経緯で選任されたか、決済への立会いや本人確認をどのような形で行うかといった点を、決済前にできる限り確認しておくことが有益である
取引相手方の確認真の所有者と売主との間に中間業者が介在し、同日に2つの売買契約が締結・決済されるという取引形態については、後日、登記関係書類の真否が問題となった場合のリスクを踏まえ、買主自身としても、取引相手方や前件売主の本人確認等につき、必要な確認を行っておくことが有益である
紛争発生時の責任追及の限界登記関係書類が偽造されていた場合に、後件のみを担当した司法書士に対する責任追及には、前件の司法書士の態度等に関する「特段の事情」が必要とされるなど、一定の限界があることを踏まえた検討が必要となる

おわりに

不動産取引において、売主側の登記関係書類が偽造されていたために登記申請が却下され、買主が多額の売買代金相当の損害を被るという事案は、近年も少なからず発生しています。こうした場面において、関与した司法書士に対する責任追及が可能かどうか、その範囲はどこまで及ぶかといった点は、本判決が示すとおり、連件登記の構造や委任契約の内容、関与した司法書士の態度等を踏まえた個別具体的な検討が必要となります。

また、こうした問題は、紛争が顕在化した後の責任追及の場面のみならず、不動産取引を行う企業として、契約・決済に至るまでの過程でどのような調査・確認を行い、どのような委任契約を司法書士との間で締結しておくべきかという、事前の体制整備の場面においても重要な意味を持ちます。

このような問題は、事案の具体的な事情に応じて、早期に弁護士に相談することが有益です。当事務所では、不動産取引に関する紛争や、司法書士の業務に関する責任の有無をめぐる紛争を含め、企業の不動産取引に関する法律問題について、ご相談・ご依頼をお受けしております。不動産取引に関するお悩みや、事前の体制整備についてお考えの方は、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。