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美術館が所蔵する作品をグッズ・広報物に複製・販売する行為と著作権侵害(東京地裁平成30年6月19日判決)

はじめに

美術館が所蔵する美術作品を、ミュージアムショップで販売するグッズや広報物に利用することは、広く行われています。しかし、美術作品の「所有権」と「著作権」は、別の権利であることに留意する必要があります。

今回のコラムでは、美術館が所蔵する着物作品を、作品集、絵葉書、クリアファイル等のグッズに無断で複製・販売したことが著作権侵害に当たるかが争われた、東京地裁平成30年6月19日判決(平成28年(ワ)第32742号)を紹介いたします。

上記東京地裁判決は、美術作品の所有権と著作権の関係、美術館における著作物の利用許諾の範囲、著作権法47条(展示に伴う複製)や同法32条1項(引用)の適用範囲など、美術館運営や文化施設を運営する企業にとって問題となることが多い論点を含んでおり、実務担当者にとっては参考となるものです。

事案の概要

故久保田一竹氏は、「一竹辻が花」という独自の染色技術を用いた創作着物を制作した芸術家です。原告A(故一竹氏の長男)と原告工房(「一竹辻が花」の技術を継承する法人)は、一竹作品等の著作権を保有していました。

原告工房は、平成6年に一竹美術館を設立しましたが、経営難に陥り、平成22年に民事再生手続を経て、美術館の土地・建物・着物作品等の所有権を訴外ICFに譲渡しました。その後、訴外ICFから被告(株式会社FCF)に美術館の所有権が移転されました。

被告は、美術館を運営する中で、一竹作品等を以下のようなグッズ・広報物に複製し、美術館のショップで販売したり、入場者等に配布したりしていました。

種類概要
作品集一竹作品51点等を掲載し、日本語版・英語版を販売
小冊子一竹作品22点を掲載し、販売
カレンダー一竹作品等をカレンダーに複製し、販売
絵葉書一竹作品を絵葉書に複製し、販売
一筆箋一竹作品をデザインに使用し、販売
クリアファイル一竹作品をデザインに使用し、販売
ハンカチ一竹作品をデザインに使用し、販売
わさびチューブ・石鹸一竹作品をラベルに縮小して使用し、販売
入場券・しおり・ポスター一竹作品を複製し、入場者に配布・展示
パンフレット・割引券・チラシ一竹作品や旧HPコンテンツの文章を複製し、配布
ホームページ・Facebook旧HPコンテンツや一竹作品を掲載・投稿

また、被告は、制作工程を説明した文章(制作工程文章)や、旧ホームページに掲載されていた文章(旧HPコンテンツ)についても、一部改変の上、被告作品集やパンフレット等に複製していました。

原告らは、被告の行為が著作権(複製権、譲渡権、公衆送信権)および著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして、差止めおよび損害賠償を求めました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①制作工程写真、美術館写真、制作工程文章および旧HPコンテンツの著作物性の有無
争点②著作権および著作者人格権の主体
争点③複製等の成否
争点④明示または黙示による利用許諾の有無
争点⑤権利濫用の有無
争点⑥著作権法47条の抗弁の成否(展示に伴う小冊子への複製)
争点⑦著作権法32条1項の抗弁の成否(引用)
争点⑧損害額
争点⑨消滅時効の成否
争点⑩差止めの必要性

裁判所の判断

争点① 著作物性の有無について

(1)制作工程写真・美術館写真について

裁判所は、制作工程写真および美術館写真のいずれについても、著作物性を否定しました。

裁判所は、以下のように判示しています。

「制作工程写真は、別紙『制作工程写真目録』記載のとおり、故一竹による『辻が花染』の制作工程の各場面を撮影したものであるところ、これら制作工程写真の目的は、その性質上、いずれも制作工程の一場面を忠実に撮影することにあり、そのため、被写体の選択、構図の設定、被写体と光線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず、誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって、撮影者の個性が表れないものというべきである。」

美術館写真についても同様の理由で、著作物性が否定されました。

(2)制作工程文章について

裁判所は、制作工程文章の著作物性を肯定しました。

裁判所は、制作工程文章について、以下の点を考慮しています。

考慮事実内容
表現上の制約各制作工程を説明するという目的上、一定の制約がある
他の文章との比較故一竹自身が作成した同内容の文章(甲41)とも表現が異なっている
具体的表現の独自性各制作工程文章の具体的表現は、作成者の経験を踏まえた独自のものとなっている

裁判所は、以下のように判示しています。

「制作工程文章が、同様に『辻が花染』の制作工程について説明した故一竹作成の文章(甲41)とも異なっていることに照らしても、各制作工程文章の具体的表現は、その作成者の経験を踏まえた独自のものとなっており、作成者の個性が表現されているといえるから、制作工程文章は全体として創作性があり、著作物と認められる。」

(3)旧HPコンテンツについて

裁判所は、旧HPコンテンツの著作物性も肯定しました。

裁判所は、以下のように判示しています。

「旧HPコンテンツ1及び2はいずれも歴史的事実に関する記述ではあるものの、その事実の取捨選択、表現の仕方には様々なものがあり得、その具体的表現には筆者の個性が表れているといえるから、創作性があり、著作物と認められる。また、旧HPコンテンツ3及び4はいずれも仏語ないし英語の翻訳であるが、翻訳の表現には幅があり、用語の選択や訳し方等その具体的表現に翻訳者の個性が表れているといえるから、創作性があり、著作物と認められる。」

争点② 著作権および著作者人格権の主体について

裁判所は、制作工程文章および旧HPコンテンツについて、原告Aが著作権および著作者人格権を有すると認めました。

裁判所は、制作工程文章について、以下の事実等から、原告Aが作成したものと認定しています。

考慮事実内容
制作工程文章の性質「一竹辻が花」の技法に精通した者が作成したものと考えられること
作成の経緯制作工程文章が掲載された欧州巡回作品集の出版元である訴外一竹辻が花の代表は原告Aが務めていたこと

なお、被告は、欧州巡回作品集の奥付の著作権表示が訴外一竹辻が花であること等を主張しましたが、裁判所は、奥付の著作権表示は編集著作物としての欧州巡回作品集の著作権者を表示しているにすぎないと判断しました。

争点③ 複製等の成否について

裁判所は、制作工程文章および旧HPコンテンツについて、被告による複製ないし翻案の成立を認めました。

被告作品集における制作工程に関する文章は、制作工程文章と全く同一か、またはほとんど同一であり、全体として制作工程文章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると判断されました。

また、旧HPコンテンツについても、被告作品集、被告パンフレット、被告特別割引券および被告HPの各文章との間で、複製ないし翻案の成立が認められました。

争点④ 明示または黙示による利用許諾の有無について

(1)明示の利用許諾

被告は、美術館の売買に関する契約書(不動産等売買等契約書および附属合意書)の条項を根拠に、原告らから著作権の利用許諾を受けていたと主張しました。

裁判所は、被告が根拠とする各契約条項を検討し、いずれも美術館の展示作品の著作権利用については規定していないと判断しました。裁判所が検討した条項とその判断は、以下のとおりです。

契約条項被告の主張裁判所の判断
不動産等売買等契約書5条3項契約書類の承継は著作権の利用権の承継を含む施設の維持・管理等に関する契約書類等の引渡しを規定するものであり、著作権利用について規定していない
附属合意書6条「一竹辻が花」等の名称の使用許諾は著作物利用の前提登録商標の使用許諾に関する規定であり、著作権利用について規定していない
不動産等売買等契約書26条・附属合意書4条1項協力義務には著作権の利用許諾を含む運営協力について協議すること等を規定するのみで、著作権利用について規定していない
附属合意書4条2項・5条協力内容の具体化は著作権利用の許諾を裏付ける著作権利用について規定していない
附属合意書7条写真の著作権の帰属は著作物利用の許諾を意味する写真の著作権の帰属を規定しているのみで、展示作品自体の著作権利用について規定していない

また、そもそも上記契約の当事者は訴外ICFであり、仮に利用許諾がされていたとしても、被告が当然に利用許諾を受けることにはならないと判断されました。

(2)黙示の利用許諾

裁判所は、単に権利行使をしていなかったことから直ちに黙示的な許諾があったものと認めることはできないと判断しました。

裁判所は、以下のように判示しています。

「単に権利行使をしていなかったことからただちに黙示的な許諾があったものと認めることはできず、そのほか原告らが積極的に被告の行為を容認していたといった事情を認めるに足りる証拠はないから、原告らが被告による著作権利用を黙示的に許諾していたことを認めるに足りず、被告の主張は採用できない。」

争点⑤ 権利濫用の有無について

被告は、原告らが美術館と展示品等の売却により利益を得ている上、附属合意書で約した協力義務も履行していないにもかかわらず、著作権侵害を主張することは利益の二重取りであり、権利濫用に当たると主張しました。

裁判所は、この主張を退けました。裁判所は、以下のように判示しています。

「不動産等売買等契約書(乙9)及び附属合意書(乙11)により売買の対象とされたのは一竹美術館の土地建物と展示作品の所有権であり、これに著作権は含まれておらず、また、(中略)その利用許諾もなされていない。そして、上記売買の後、訴外Cの経済的出捐で一竹美術館の維持・運営が行われており、それにより一竹作品等の離散が防止されている面があるとしても、そのことから直ちに、原告らが有している着物作品等の著作権及び著作者人格権の権利行使が制限されることにはならない。」

争点⑥ 著作権法47条の抗弁の成否について

被告は、被告小冊子、被告パンフレットおよび被告特別割引券が著作権法47条の「小冊子」に該当すると主張しました。

裁判所は、著作権法47条の「小冊子」の意義について、以下のように判示しています。

「著作権法47条の『小冊子』とは、観覧者のために展示作品を解説又は紹介することを目的とする小型のカタログ、目録又は図録等をいい、観覧者に頒布されるものであっても、紙質、装丁、版型、展示作品の複製規模や複製態様、展示作品の複製部分と解説・資料部分の割合等を総合考慮して、観賞用の画集や写真集等と同視し得るものは『小冊子』に当たらないと解するのが相当である。」

その上で、裁判所は、各配布物について「小冊子」該当性を否定しました。理由は以下のとおりです。

配布物裁判所が「小冊子」該当性を否定した理由
被告小冊子一竹作品22点を上質紙にオールカラーで掲載し、鑑賞用の作品集と同視し得る上、美術館自体の紹介を主目的としており、著作物の解説・紹介以外を主目的とするものである
被告パンフレット作品についての解説や紹介は一切記載されておらず、また日本語以外のものはHP上にアップロードされ、観覧者以外にも配布されている
被告特別割引券割引券という性質上、美術館外部で多数人に配布されるものであり、観覧者のための著作物の解説・紹介を目的とするものではない

争点⑦ 著作権法32条1項の抗弁の成否について

被告は、被告小冊子、被告パンフレット等における一竹作品等の複製が著作権法32条1項の「引用」に当たると主張しました。

裁判所は、以下のように判示して、引用の抗弁を退けました。

「被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ及び被告Facebookは、いずれも一竹美術館の顧客誘引目的に作成されたものであるところ、それらにおける一竹作品等の利用は、一竹美術館に顧客を誘引するために、一竹作品が美術館の展示品であることを示すもので、それ自体が主たる内容として用いられているものである。」

裁判所は、これらの利用はそもそも引用に当たらないか、少なくとも公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内で行われているものとは認められないと判断しました。

争点⑧ 損害額について

裁判所は、以下の方法で損害額を算定しました。

商品算定方法損害額(原告A)損害額(原告工房)
被告作品集著作権法114条1項(推定覆滅30%)547万5,421円40万5,465円
被告小冊子著作権法114条1項(推定覆滅90%)104万7,623円
被告絵葉書著作権法114条2項(推定覆滅30%)462万2,203円
被告一筆箋著作権法114条2項(推定覆滅30%)126万8,600円
被告ハンカチ著作権法114条2項(推定覆滅30%)15万5,240円
その他の商品著作権法114条3項(使用料相当額)各商品ごとに算定各商品ごとに算定
弁護士費用140万円10万円
合計1,555万5,154円68万8,115円

被告作品集と被告小冊子については、原告作品集との代替性を認めた上で、著作権法114条1項に基づき、原告の利益額を基礎として損害額を算定しました。ただし、販売ルートの相違等を考慮し、推定が覆滅される割合を認定しています。

被告絵葉書、被告一筆箋および被告ハンカチについては、原告らが同種商品を販売していることから、著作権法114条2項の適用を認めました。一方で、被告カレンダー、被告クリアファイル、被告わさびチューブおよび被告石鹸については、原告らの販売商品とは異なるとして同項の適用を否定し、著作権法114条3項に基づき算定しました。

争点⑨ 消滅時効の成否について

被告は、原告Aが平成24年に販売中止の申入れを行っていたことから、平成25年3月28日以前の損害賠償請求権は時効消滅していると主張しましたが、裁判所は、原告Aが平成24年に販売中止の申入れを行った事実を認めるに足りる証拠はないとして、時効消滅を否定しました。

争点⑩ 差止めの必要性について

裁判所は、被告が著作権侵害の成立を全面的に争っていること等を考慮し、差止めの必要性を認めました。

コメント

1 本判決の意義

(1)所有権と著作権の区別

本判決は、美術作品の「所有権」を取得したとしても、「著作権」まで当然に取得できるわけではないことを改めて明確にしました。美術館やギャラリーの運営にあたっては、作品の所有権とは別に、著作権の帰属および利用許諾の有無を確認することが不可欠です。

(2)利用許諾の明確化の必要性

裁判所は、美術館の売買に関する契約書の各条項を丁寧に検討した上で、いずれの条項も著作権の利用許諾を規定するものではないと判断しました。

美術館や展示施設の譲渡の際には、著作権に関する利用許諾の内容と範囲を契約書に明記する、あるいは、必要に応じて別の契約として締結をするなどの方策を検討する必要があります。

(3)黙示の利用許諾の認定は容易ではない

裁判所は、権利者が一定期間、権利行使をしていなかったという事実のみでは、黙示の利用許諾を認めませんでした。

このことは、権利行使をしなかったことが権利の放棄や許諾を意味するわけではないことを示しています。もっとも、著作権者の立場からみると、侵害行為を認識した場合には、早期に異議を述べることが望ましいといえます。

(4)著作権法47条(小冊子)の適用範囲

裁判所は、著作権法47条の「小冊子」に該当するか否かについて、紙質、装丁、複製態様等を総合的に考慮しつつ、観賞用の作品集と同視し得るものや、著作物の解説・紹介以外を主目的とするもの、観覧者以外に配布されるものは「小冊子」に当たらないとしました。

美術館が展示に伴う配布物を作成する際には、この基準に照らして検討することが重要です。

(5)引用(著作権法32条1項)の適用範囲

裁判所は、顧客誘引目的で作品を利用し、作品自体が主たる内容として用いられている場合には、引用には当たらないと判断しました。広報物やSNSへの投稿においても、著作物の利用が「引用」に該当するためには、著作権法の要件を満たす必要があります。

2 企業に求められる対応

本判決を踏まえると、美術館やミュージアムショップを運営する企業、文化施設の譲渡・取得に関わる企業は、以下の対応が求められます。

場面求められる対応
施設の譲渡・取得時著作権の帰属を確認し、利用許諾の範囲を契約書に明記する
グッズの企画・販売時著作権者からの利用許諾を事前に取得する
広報物の作成時著作権法47条や32条1項の適用要件を確認し、要件を満たさない利用については著作権者の許諾を得る

また、著作権者の立場からも、本判決は参考になります。本判決では、黙示の利用許諾の主張は退けられましたが、裁判所は、権利者が長期間にわたり権利行使をしていなかった事実についても検討しています。

著作権者としては、自らの著作物が無断で利用されていることを認識した場合には、早期に異議を述べることが望ましいといえます。加えて、著作物の利用を許諾する場合には、利用の範囲、条件および対価等を書面で明確にしておくことが、将来の紛争を防止する上で有益です。

おわりに

本判決は、美術館運営における著作権の取扱いについて、多くの実務上の示唆を与えるものです。美術作品の所有権と著作権の関係、利用許諾の範囲、著作権法上の権利制限規定の適用範囲など、個別の事案に応じた検討が必要な論点が多く含まれています。

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