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景品表示法における確約手続の概要と注意点

2023年5月に成立した景品表示法の改正法が、一部の規定を除いて、2024年10月1日より施行されました。

今回の改正は、

①  確約手続の導入
②  課徴金制度における返金方法の弾力化
③  課徴金額の推計規定の新設
④  再違反事業者に対する課徴金の割増し規定の新設
⑤  不当表示に対する直接の刑事罰の新設
⑥  国際的な法執行に関する規定の整備
⑦  適格消費者団体による開示要請規定の導入

を内容とするものです。

今回のコラムでは、このうち、①の確約手続について、

不当景品類及び不当表示防止法の規定に基づく確約手続に関する内閣府令(令和6年内閣府令第55号。「確約府令」)

確約手続に関する運用基準(令和6年4月18日消費者庁長官決定、「確約手続運用基準」)

を踏まえ、制度の概要と実務上の注意点を解説いたします。

 

確約手続とは?

確約手続とは、景表法4条の規定による制限もしくは5条に違反する疑いのある行為(「違反被疑行為」)をした事業者が、当該違反被疑行為及びその影響を是正するための是正措置計画(確約計画)を作成して申請し、消費者庁長官から確約認定を受けたときは、当該違反被疑行為について、措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善するための制度をいいます。

確約手続は、大きく

① 消費者庁長官が、事業者に対し、景表法26条又は30条の規定による通知(「確約手続通知」)を行うことにより開始し、

② 事業者による是正措置計画又は影響是正措置計画(確約計画)」)の認定の申請、

③ 消費者庁による確約計画の認定(「確約認定」)

という流れで手続が進められます。

消費者庁表示対策課「【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要」4頁より引用

 

確約手続の開始

まず、消費者庁長官は、違反被疑行為について、確約手続に付すことが適当であると判断するとき、当該違反被疑行為をしている事業者に対し、通常の調査手続から確約手続に移行するために、①違反被疑行為の概要②違反する疑いのある法令の条項、並びに③是正措置計画の認定を申請することができることを書面により通知(確約手続通知)することができます(景表法26条)。

当該違反被疑行為が既になくなっている場合も、同様の通知を行うことができます(景表法30条)。

確約手続に付すことが適当であると判断するときとは、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるときをいいます。

なお、法的措置に係る弁明の機会の付与の通知をした後は、これらの確約手続通知を行うことはできません(景表法26条ただし書、30条ただし書)。

確約手続は、違反被疑行為について、事業者の自主的な取組により問題を解決するものであるため、消費者庁が確約手続通知を行う前であっても、違反被疑行為に関して調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなど、確約手続に関して消費者庁に相談することができるとされています(確約手続運用基準2)。

確約手続運用基準では、確約手続通知を行うか否かのは判断基準及び考慮要素について、以下の考え方が示されています。

 

(1)判断基準

「一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要がある」か否かは、違反被疑行為を事業者が早期に是正することで、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を迅速に確保し、消費者庁と事業者が協調的に問題解決を行う領域を拡大するという確約手続の趣旨を踏まえ、個別具体的な事案に応じて、①違反被疑行為等を迅速に是正する必要性、あるいは、②違反被疑行為者の提案に基づいた方がより実態に即した効果的な措置となる可能性などの観点から判断されます(確約手続運用基準5(1))。

判断を行う際には、違反被疑行為がなされるに至った経緯(景表法22 条第1項に規定する義務の遵守の状況を含む)、違反被疑行為の規模及び態様一般消費者に与える影響の程度並びに確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情が考慮されます(確約手続運用基準5(2))。

法的措置を行う場合と比較して、「より実態に即した効果的な措置となる」か否かは、個別の事案ごとに判断されますが、たとえば、確約手続運用基準において確約認定の要件をみたすために有益な措置として挙げられている一般消費者への被害回復や、取引条件の変更に該当する措置が実施される場合、これらの措置は、法的措置では必ずしも実現することができない一般消費者の被害の直接的な回復に資するものであるため、法的措置と同等以上に違反被疑行為及びその影響を是正するものと考えられます。

 

(2)確約手続の対象外となる場合

なお、事業者が以下の①(繰り返し違反の場合)または②(悪質・重大な違反被疑行為の場合)に該当するときには、確約手続通知を行わないこととされています(確約手続運用基準5(3))。

① 違反被疑行為者が、違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、景表法25 条1項の規定による報告徴収等が行われた日又は景表法7条2項若しくは8条3項の規定による資料提出の求めが行われた日のうち最も早い日から遡り 10 年以内に、法的措置を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る)

② 違反被疑行為者が、違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合

これらの場合、事業者には違反被疑行為等の迅速な是正を期待することができないと考えられるためです。

②については、故意だけではなく、故意と同視し得る重大な過失がある場合も含まれるとされているため、社内のチェックミスによって不当表示が生じた場合でも、その程度次第では確約手続の対象外となり得る点に留意する必要があります。

 

確約手続の申請等

確約手続通知を受けた事業者は、確約認定の申請をする場合、確約手続通知を受けた日から60日以内に申請する必要があります(景表法27条1項、31条1項)。

申請は、確約府令様式13の申請書を用いて行い(確約府令4条1項、14条1項)、確約計画として是正措置又は影響是正措置(総称して「確約措置」)の内容及びその実施期限等を定めます。

併せて、申請書には、①是正措置が違反被疑行為及びその影響(影響是正措置においては、違反被疑行為による影響)を是正するために十分なものであることを示す資料、②当該措置が確実に実施されると見込まれるものであることを示す資料、③その他参考となるべき資料を添付する必要があります(確約府令4条2項、14条2項)。

実務的には、確約計画の内容の検討に一定の時間を要することから、60日以内という申請期限は思いのほかタイトなのが実情です。

このため、事業者としては、調査開始の段階から、確約手続の申請を行うか否か、現実的な選択肢として可能か否か等を検討しておくことが大切です。

(1)申請時点で実施済みの措置がある場合

調査開始後、確約認定の申請までは、一定の期間を要するため、申請時点で事業者が違反被疑行為及びその影響を是正するための措置の一部を実施している場合も想定されます。

この場合、事業者は、申請時点で既に実施している措置について、その内容や実施状況についての資料を作成し、「その他参考となるべき資料」として申請書に添付することができます(確約手続府令4条2項3号、14条2項3号、運用基準6(3)ア(イ))。

(2)事業者が申請を行わない場合

確約認定の申請を行うか否かは、事業者の自主的な判断に委ねられます。事業者が確約認定申請を行わない場合は、確約手続通知の前に行われていた調査が再開されます。

事業者が確約認定申請を行わなかったとしても、その後の調査において、申請をしなかったことを理由として事業者が不利益に取り扱われることはありません(確約手続運用基準6(1))。

 

確約認定等

(1)確約認定と公表

消費者庁長官は、確約認定の申請があった場合、提出された確約計画で定められた確約措置が、①違反被疑行為及びその影響(影響是正措置においては、違反被疑行為による影響)を是正するために十分なものであること措置内容の充分性)及び②確実に実施されると見込まれるものであること措置実施の確実性)を満たすと認めるときは、確約認定を行います(景表法27条3項ないし5項、31条3項、4項)。

確約計画の認定要件は、①措置内容の充分性と②措置実施の確実性です。

①措置内容の充分性は、違反被疑行為及びその影響(一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を訴外するおそれが生じている状況)を是正する上で、十分な措置が講じられているかが判断されます。その際は、過去に措置命令等で違反行為が認定された事案等のうち、行為の概要、適用条項等について、確約手続通知の書面に記載した内容と一定程度合致すると考えられる事案の措置内容を参考にして判断されるため、少なくとも類似事案の措置命令等で命じられているのと同等の措置を講ずる必要があります(確約手続運用基準6(3)ア)。

②措置実施の確実性は、確約措置(是正措置・影響是正措置)が実施期限内に確実に実施されると見込まれるか否かによって判断されます。

確約認定がされた場合、当該確約認定に関する違反被疑行為については、法的措置は行われません(景表法28条、32条)。ただし、確約認定が取り消された場合には、確約手続通知の前に行われていた事件調査が再開されます(景表法28条ただし書、32条ただし書、確約手続運用基準9)。

また、確約認定がされた場合、消費者庁長官は、確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から、

① 認定した確約計画の概要
② 当該認定に係る違反被疑行為の概要
③ 確約認定を受けた事業者名
④ その他必要な事項

公表します。公表に当たっては、景品表示法の規定に違反することを認定したものではないことを付記するとされています(確約手続運用基準9)。

 

(2)確約認定の申請の却下

消費者庁長官は、提出された確定計画が認定要件を満たさないと認めるときは、確約認定の申請を却下します(景表法27条6項、31条5項)。却下された場合、確約手続の通知前に行われていた調査が再開されます。

確約認定申請の却下は文書によって行われ、名宛人に不認定書の謄本を送達することによって効力が生じます。不認定書には、確約認定の申請を却下した旨及び却下の理由が記載されます(確約府令8条、16条)。

 

(3)確約計画の変更

確約認定を受けた申請者が、実施期限までに認定確約措置を実施することが困難となった等の理由で認定された確約計画を変更しようとするときは、当該認定確約計画の変更の認定の申請を行い、消費者庁長官の認定(認定確約計画の変更の認定)を受ける必要があります(法27条8項及び9項、31条7項及び8項)。

法令上、変更認定申請の期限は設けられていないものの、例えば、確約措置の実施期限の直前に変更認定申請が行われた場合には、消費者庁は、そのような時期に被認定事業者が変更認定申請をすることとなった事情を考慮した上で、認定要件(措置内容の十分性及び措置実施の確実性)を満たすか否かが判断されます(確約手続運用基準8)。

 

確約措置の典型例

確約手続運用基準では、事業者が確約計画を策定する際の参考に、確約認定の要件を満たすために必要な措置及び有益な措置として、以下の①から⑦までの措置を例示しています(運用基準6(3)イ)。

① 違反被疑行為を取りやめること
② 一般消費者への周知徹底
③ 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置
④ 履行状況の報告
⑤ 一般消費者への被害回復
⑥ 契約変更
⑦ 取引条件の変更

このうち、①から④までの必要な措置は、事業者が確約認定の申請時点で既に実施している場合を除いて、確約計画において定めることが最低限、必要となる措置です。

必要な措置は、措置命令がされる場合に事業者に命じられることが多い内容と同等のものであり、事業者が確約計画の認定の申請時点で既に実施している場合を除いて、確約計画において定めることが必要です。

⑤は重要な事項として考慮される有益な措置、⑥及び⑦は有益な措置とそれぞれ位置づけられています。

 

①違反被疑行為を取りやめること

被通知事業者が違反被疑行為を継続している場合には、当該違反被疑行為を取りやめることは、措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つとされています。

 

②一般消費者への周知徹底

一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保するためには、違反被疑行為の内容について一般消費者へ周知徹底することは、措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つとされています。

 

③違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置

反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するためには、被通知事業者のコンプライアンス体制の整備等を行うとともに、当該措置について被通知事業者の役員及び従業員に周知徹底をすることが、措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つとされています。

なお、コンプライアンス体制の整備についての具体的な内容としては、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針(平成 26 年内閣府告示第 276 号)」の内容が参考となるとされています。

 

④履行状況の報告

確約措置の履行状況を、事業者自ら、または事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者(消費者庁が認める者に限る)が消費者庁に対して報告することは、措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つとされています。

事業者自身の報告で足りるか、独立した第三者(たとえば、過去に取引関係のない弁護士など)による報告を要するかは、違反被疑行為がなされるに至った経緯や、再発防止策の内容等を踏まえ、確約措置の確実な実施を確保するうえで、報告主体として適切な者であるかという観点から、事案ごとに判断されます。

 

⑤一般消費者への被害回復

例えば、違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、事業者がその購入額の全部又は一部について返金(景表法10 条1項に定める「金銭」の交付)することは、一般消費者の被害回復に資すること及び自主返金制度が設けられた法の趣旨を踏まえると、措置内容の十分性を満たすために有益な措置とされ、確約措置として返金が実施される場合には、重要な事情として考慮されます。

返金の手段・方法等は、事業者の自主的な判断に委ねられていますが、自主返金制度(景表法10条、11条)において定める内容が参考となります。

なお、確約計画において、一般消費者への被害回復措置を定める場合には、①当該措置の内容(誰に対し、どのような被害回復を行うのか)、②被害回復の対象となる一般消費者が当該措置の内容を把握するための周知の方法、③当該措置の実施に必要な資金の額及びその調達方法が具体的に明らかにされていなければ、原則として、措置実施の確実性を満たすと認めることはできないとされています(確約手続運用基準6(3)ア(イ))。

また、確約計画の認定の申請時点で、被害回復の対象者を特定できていない場合でも、被害回復を行う旨を周知する等して特定することを前提に、被害回復を行う計画を立てることは可能です。もっとも、対象者数・返金額についての見通しなど、計画が合理的なものでなければ「措置実施の確実性」を満たさないとされています。

 

⑥契約変更

例えば、違反被疑行為がなされるに至った要因が、事業者の既存の取引先(例えば、アフィリエイターの管理を委託するASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)や、表示の裏付けに係る調査業務を委託した調査会社等)にも存すると認められる事案において、取引先を変更し、又は既存の取引先との契約内容(委託業務の内容等)を見直すことは、措置内容の十分性を満たすために有益であるとされています。

 

⑦取引条件の変更

例えば、違反被疑行為が有利誤認表示(法5条2号)に違反する疑いのある行為である事案において、事業者が表示内容に合わせて取引条件を変更する場合(例えば、事業者が、サービスを一定期間内に解約した場合には例外なく代金を返金すると表示していたにもかかわらず、契約で返金を受けるための諸条件を定めていた事案において、当該契約内容を変更し返金を受ける機会を確保するような場合等)、当該取引条件の変更は、措置内容の十分性を満たすために有益であるとされています。

なお、取引条件の変更は、定型約款の変更(民法548条の4)により実施できる場合もあると考えられます。

 

おわりに

近年、消費者庁は、いわゆるNO.1表示やステルスマーケティングをはじめとして、景表法違反事例に対する執行を強化しており、事業者としては、平時の体制整備はもちろんのこと、有事の際にも迅速かつ適切に対応することができように、対応マニュアル等の作成等を進めておくことが有益です。

当事務所では、景表法や薬機法、健康増進法を中心とした広告・マーケティング法務について、メーカーや広告代理店のクライアントを中心に日頃からご相談・ご依頼を受けております。

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※本コラムの内容は、一般的な情報提供目的で作成されており、個別具体的なケースに関する法的助言を想定したものではありません。個別具体的なケースに関する対応等については別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。