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連続する2つの交通事故と民法719条の共同不法行為の成否(福岡高裁令和2年12月8日判決)

はじめに

複数の加害者が関与する交通事故では、誰が、どの範囲で責任を負うのかが問題となります。とりわけ、運送業や物流業などのように従業員が業務で車両を運転する事業を行う企業にとっては、従業員が関与した事故についての責任の所在は、重要な関心事項です。

今回のコラムで紹介する福岡高裁令和2年12月8日判決(令和2年(ネ)第411号、同第547号)は、自転車の運転者が2台の中型貨物自動車に時間差で衝突・轢過された事案について、民法719条1項前段の適用及び同項後段の類推適用の可否を判断した裁判例です。

本判決は、連続して発生した複数の交通事故について共同不法行為の成否を検討する際の考慮要素や立証責任の所在を整理しており、同様の事案に直面した企業担当者にとって参考となる先例です。

事案の概要

自転車を運転していたBは、被控訴人Y1が運転する中型貨物自動車(以下「Y1車」)に後方から衝突され、道路上に倒れました(以下「第1事故」)。その後、およそ8分から9分が経過した後に、亡Y2が運転する中型貨物自動車(以下「Y2車」)の右前輪に頭部を轢過され、Bの身体がY2車の車底に引っかかって約4.7m移動しました(以下「第2事故」)。Bは死亡し、その唯一の相続人であるX(控訴人)が、Y1、亡Y2の相続人(Y3・Y4)及び亡Y2の使用者であった被控訴人会社に対し、損害賠償を求める訴えを提起しました。

控訴人は、第1事故と第2事故は一連一体の事故であるとして民法719条1項前段の適用を主張し、仮に同項前段の適用がないとしても、いずれの事故でBが死亡したのか不明であるから同項後段が(類推)適用されるべきであると主張しました。

原審である福岡地方裁判所久留米支部は、控訴人のY1に対する請求を688万6109円及びその遅延損害金の限度で認容し、その余の請求を棄却したため、控訴人が控訴し、Y1が附帯控訴を提起しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為が成立するか(民法719条1項前段の適用、同項後段の類推適用の可否)
争点②Bの過失の有無及び過失割合
争点③損害額

以下では、本件の中心となる争点①を中心に、裁判所の判断を紹介します。

裁判所の判断

争点① 被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為が成立するかについて

裁判所は、民法719条1項前段の適用及び同項後段の類推適用のいずれも否定し、被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為は成立しないと判断しました。

(1) 民法719条1項前段の適用について

裁判所は、以下の事情を踏まえ、第1事故と第2事故は一連一体のものとは評価できず、かつ、第2事故による成傷とBの死亡との間の因果関係を積極的に認めるに足りる証拠がないとして、民法719条1項前段の適用を否定しました。

番号裁判所が考慮した事情
第1事故と第2事故との間に、およそ8分から9分の空時間があったこと
その間、被控訴人Y1は、警察や消防に順次電話による連絡を行いつつ、発煙筒をたいて後続車に注意喚起するなどの行動をしていたこと
Bの身体に対する成傷について、第1事故によるものと第2事故によるものとで区別できること

裁判所は、以下のとおり判示しています。

第1事故と第2事故との間におよそ8分から9分の空時間があり、その間、被控訴人Y1は警察や消防に順次電話による連絡を行いつつ、発煙筒をたいて後続車に注意喚起するなどの行動をしていたこと(認定事実(4)、同(5))、Bの身体に対する成傷について第1事故によるものと第2事故によるものとで区別できること(認定事実(6))に照らせば、第1事故と第2事故は一連一体のものとは評価できず、かつ、第2事故による成傷とBの死亡との間の因果関係を積極的に認めるに足りる証拠がないから、本件に民法719条1項前段は適用できない。

(2) 民法719条1項後段の類推適用について

裁判所は、まず、民法719条1項後段の趣旨について、以下のとおり整理しました。

民法719条1項後段の趣旨は、関連共同性を欠く数人の加害行為により損害が生じ、その損害が当該数人中誰かの行為によって生じたことは明らかであるけれども、誰が生じさせたか不明の場合(いわゆる択一的競合の場合)において被害者保護のため、右数人全員に連帯して賠償責任を負わせる規定と解される。

その上で、本件は、第1事故は被控訴人Y1、第2事故は亡Y2の行為によるものとそれぞれ区別でき、同項後段の本来的な適用場面ではないとしつつ、Bが第2事故によって死亡した可能性があると認められる場合には、同項後段の被害者保護の趣旨を踏まえて類推適用することにより、連帯して賠償責任を負わせることができると判断しました。そして、裁判所は、Bが第2事故によって死亡した可能性があることは、同規定を類推適用するための要件事実であり、その立証責任は控訴人にあるとしました。

次に、裁判所は、鑑定意見その他の証拠に基づき、Bは第1事故により死亡したものと十分推認できるとして、第2事故によって死亡した可能性があるとは認められないと判断しました。その根拠とされた具体的な事情は以下のとおりです。

番号裁判所が考慮した事情
鑑定では、Bは第2事故発生時点でほとんど絶命していたと判断されていること
Bが第2事故発生時に生存していれば、頭部の損傷状態からして大量の出血があったはずであるが、そのような痕跡が認められないこと
その他の臓器も損傷していたのにほとんど出血の跡がなく、生活反応が認められないこと
ほぼ全ての肋骨が骨折しており、特に右後背部の損傷が酷く、骨折の状態から呼吸できない状態と認められること
Bは第1事故により約28.1m先まで、搭乗していた自転車と一緒にはね飛ばされたこと
被控訴人Y1車のフロントガラスが割れ、中型貨物車両の前部ボディーが凹損しているという客観的状況が認められること
被控訴人Y1が、1回目の消防との通話及び警察への通報の際、Bの意識がなかった旨を述べており、第1事故後、Bの意識はなかったと認められること

控訴人は、被控訴人Y1が第2事故発生直前にBがうめき声を上げて手を挙げた旨を述べていたことを指摘しましたが、裁判所は、以下のとおり判示して、同供述等を採用しませんでした。

被控訴人Y1供述等は、陳述の時点により、挙げた手が右であったり、左であったりするなど、必ずしも明確な陳述をするものではない。

被控訴人Y1は、第1事故を引き起こした直後の混乱した心理状態であり、かつ、Bの生存を願う希望的観測が含まれている可能性を排斥できず、さらには、願望による記憶の変容が生じやすく、その意味で供述の客観性に疑問が残るといわざるを得ない

また、亡Y2車の車底にBの血痕が付着していた点についても、裁判所は、Bの身体が車底に引っかかって約4.7m移動した際に付着したと認められるものであり、それ以前にBが死亡していたという推認と矛盾しないと判断しました。

結論として、裁判所は、以下のとおり判示し、共同不法行為の成立を否定しました。

主にBの解剖所見に基づく鑑定意見のみならず、その他の各証拠を踏まえて検討すれば、Bは、第1事故により死亡したものと十分推認できるというべきであって、第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない。

してみると、本件に民法719条1項後段は類推適用できない。

以上により、裁判所は、被控訴人Y1と亡Y2との間に共同不法行為は成立せず、控訴人の亡Y2の相続人(Y3ら)に対する請求及び被控訴人会社(使用者責任)に対する請求にはいずれも理由がないと判断しました。

争点② Bの過失の有無及び過失割合について

裁判所は、本件事故現場が主要な幹線道路(バイパス道路)であり、その規格や用途は自動車専用道路に準じたものであったこと等を踏まえ、自転車を運転していたBにも進路変更に関する注意義務違反等の過失があると判断し、原判決の過失割合を維持しました。

控訴人は、事故当日の横風、雨天、上り坂等の悪条件によりBが不可抗力でふらついたと主張しましたが、裁判所は、気象観測記録等に照らしてBの進路に上記のような影響を与えるほどの横風があったとは認められないとし、また以下のとおり判示しました。

仮に天候、道路状況等の要因によって、自転車のハンドルを確実に操作できない状況に至っていたのであれば、Bは自転車の搭乗(運転)自体を差し控えるべきだったというべきである

争点③ 損害額について

裁判所は、被控訴人Y1に対する請求について、原判決が認容した688万6109円及びその遅延損害金の限度で認容し、その余の請求はいずれも棄却しました。

コメント

本判決は、先行する交通事故によって被害者が路上に転倒し、その後、別の車両によって轢過されるといった、いわゆる二重轢過事案について、共同不法行為の成否を判断するにあたっての枠組みを示した事例として、実務上参考となります。

(1) 民法719条1項前段の「一連一体の事故」該当性について

本判決は、民法719条1項前段の「一連一体の事故」該当性の判断にあたり、事故間の時間的間隔、その間における加害者の行動、身体に対する成傷が事故ごとに区別できるか等の客観的な事情を総合的に考慮する枠組みを示しました。時間的・場所的に近接しているだけでは、ただちに一連一体の事故とは評価されないことが示唆されます。

(2) 民法719条1項後段の類推適用の前提となる論理構造

本判決の検討構造を整理すると、本件では、第2事故が第1事故の存在を前提として発生している(第1事故がなければ第2事故も生じない)という条件関係があることから、第1事故の加害者であるY1は、被害者との関係では既に損害全部について賠償責任を負う関係にあることが前提とされています。したがって、本件は、誰の行為により損害が生じたか判別できないという意味での「加害者不明」の典型事案には当たりません。

もっとも、本判決は、被害者保護の観点から、第2事故の加害者である亡Y2(及びその使用者)にも責任を及ぼし得る枠組みとして、同項後段の類推適用の可能性を示しました。原告が同項後段の類推適用にこだわる実益は、連帯して賠償責任を負う主体を増やすこと(加害者個人の資力不足や保険限度額等に備え、責任主体を確保すること)にあると考えられます。

(3) 類推適用における立証責任の所在

本判決は、各加害者の行為を区別できる事案であっても、被害者が後行事故によって死亡した可能性があると認められる場合には、被害者保護の趣旨を踏まえて同項後段を類推適用し得るとしました。その上で、本判決は、その可能性があることは類推適用の要件事実であり、立証責任は被害者(原告)側にあると判断しました。これは、連続事故の事案において被害者側が負うべき立証の重さを明確にしたものといえます。

(4) 原審と控訴審の判断枠組みの違い

本件の原審(福岡地方裁判所久留米支部令和2年6月12日判決)は、共同不法行為の成否に関する争点を「第2事故発生時にBが生存していたか」と端的に設定した上で、鑑定意見やY1の供述の信用性を検討し、第2事故発生時にBが生存していたと認めるに足りないとして、共同不法行為の成立を否定しました。原審の判断は、結論に至る筋道において、民法719条1項前段の適用と同項後段の類推適用とを明示的に区別する構造にはなっていませんでした。

これに対し、本判決(控訴審)は、結論としては原審の判断を維持しつつも、①第1事故と第2事故が「一連一体」のものといえるかを検討して同項前段の適用を否定し、②本件は同項後段が本来的に想定する場面(加害者不明の場合)には当たらないと整理した上で、③類推適用のための要件事実(Bが第2事故によって死亡した可能性があること)を析出してその立証責任の所在を明示し、④本件では当該立証がないとして類推適用も否定するという、より整理された法的枠組みを提示しました。

本判決は、同項前段・後段の適用関係について分析的な枠組みを示した点に、先例としての意義を見出すことができます。

(5) 本判決の射程

もっとも、本判決の示した枠組みが妥当する射程については、慎重に判断する必要があります。本判決は、先行事故の加害者が損害全部について既に賠償責任を負うことが明らかな事案において、後行事故の加害者にも同項後段の類推適用により責任を及ぼし得るかを論じたものにとどまります。したがって、複数の行為者のいずれが損害を発生させたのか判別できないという、加害者不明の典型事案において、因果関係の立証責任をいかに分配すべきかという論点は、本判決の直接の判断対象とはなっていないことに留意する必要があります。

加えて、民法719条1項後段の立証責任の所在をめぐっては、学説上、次のような議論の蓄積があります。被害者側において、加害者を特定できないという事情自体を要件事実として立証することを求めたものだとする見解がある一方、同条項は因果関係の立証責任を加害者側に転換する趣旨のものであり、加害者が自らの加害行為と損害との間に因果関係のないことを証明できた場合に責任を免れると捉える見解も主張されています。本判決が、類推適用の局面において請求者側に立証責任を負わせたことは、こうした議論の蓄積との関係でも、一つの参照点となり得る判断といえます。

(6) 過失相殺に関する本判決の判断枠組み

本件のもう一つの論点は、自転車運転者であるBの過失の有無及び過失割合です。原審はY1とBの過失割合を7対3と認定し、本判決もこれを維持しました。

過失割合の認定にあたり、両判決は、以下のような要素を総合的に考慮しています。

番号裁判所が考慮した要素
Y1車が、法定速度(時速60km)を超過する時速60〜70km程度で走行していたこと(道路交通法22条1項違反)
Y1車が、自転車を追い越す際に第2車線への車線変更を行わず、道路交通法20条3項後段に定める方法によっていなかったこと
Y1車が中型貨物自動車であったこと
事故当時、雨天であり、深夜で事故現場付近が暗かったこと
Bが合図することなく、約45度の急角度で右方向に進路を変更したこと
本件道路が主要な幹線道路(バイパス道路)であり、その規格・用途が自動車専用道路に準じたものであったこと

特に、本判決は、本件道路のような道路特性を踏まえれば、一般的な道路を通行する場合よりも高い注意義務が自転車運転者に課されるとの立場を示し、進路を変更する際に後方からの車両の動静に注意することを怠って突如として進路変更をした場合には、自転車運転者にも道路交通法26条の2第2項の過失が認められ得るとしました。幹線道路における自動車と自転車の過失割合の認定にあたり、参考となる判断です。

(7) 企業実務への示唆

本判決から、従業員が運転する車両が関与する可能性のある業種(運送業、物流業、営業車両を使用する事業など)に従事する企業においては、以下のような対応が求められると考えられます。

第1に、事故直後の通報・対応記録の重要性です。本判決では、被控訴人Y1が消防及び警察への通報の際にBの意識がない旨を述べていたことが、Bの死亡時期の認定にあたって重視されました。具体的には、原審が認定した事実によれば、本件では以下のようなタイムラインが事実認定において重要な役割を果たしています。

時刻出来事
午前0時9分頃第1事故発生
午前0時10分頃〜12分頃Y1が消防に119番通報(1回目の消防との通話)、Bの意識がない旨を述べる
午前0時13分頃Y1が警察に110番通報、Bには意識も反応もなく倒れたままである旨を述べる
午前0時14分頃消防鳥栖本部から救急車に対し、傷病者に意識がない旨の通報である旨が伝達される
午前0時16分頃〜17分ないし18分頃消防からY1に架電(2回目の消防との通話)、Y1は救急隊員の指示により発炎筒を使用し、後続車への注意喚起を行う
午前0時17分頃〜18分頃第2事故発生

このタイムラインは、事故発生直後の通報内容や通話記録が、第三者の記録として自ずと保存される性質を有し、後日の責任判断にあたり有力な資料となり得ることを示しています。事故対応時の通報内容や通話記録は、従業員の初動対応については社内で手順を整え、通報時の発言内容が記録される可能性を念頭に置いた訓練を行うことが考えられます。

第2に、二次事故の防止対応です。被控訴人Y1が第1事故後に発煙筒をたいて後続車に注意喚起を行っていた事実は、事故間の一連一体性を否定する方向で考慮されており、結果的に本件では共同不法行為の成立を否定する一要素となりました。一般論としても、二次事故防止のための具体的行動をとることは、被害拡大の防止のみならず、事後の責任判断においても意味を持ち得ると考えられます。

第3に、事故態様や事故現場の客観的な記録・保全の重要性です。本判決では、解剖所見、車両の損傷状況、現場の出血状況、気象観測記録等の客観的な証拠が死亡時期の認定に用いられました。ドライブレコーダー映像、現場写真、車両の損傷状況の記録等は、複数当事者が関与する事故において各当事者の寄与を区別するための資料となり得るため、事故発生時の証拠保全の体制を整えておくことが考えられます。

おわりに

複数の加害者が関与する交通事故については、責任の所在、立証責任の分配、損害賠償の範囲等について、複雑な法的判断が求められます。特に民法719条1項前段・後段の適用・類推適用の可否については、事実関係の綿密な分析と法的解釈の両面が求められます。

従業員や自社車両が関与した交通事故への対応、被害者・加害者いずれの立場からの法的対応、訴訟に向けた証拠収集・立証方針の策定等については、弁護士に早期に相談することが有益です。

当事務所は、交通事故に関する相談・ご依頼を受けており、企業の担当者の方からの業務車両関連のご相談にも対応しております。本判決のように複数当事者が関与する事案についても、事実関係の整理から訴訟対応に至るまで、経験に基づく対応が可能です。事故発生直後の初動対応に関するご相談、社内での事故対応マニュアルの整備についてのご相談等も承っておりますので、ご関心のある方は本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりお問い合わせください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。