03-6550-9202 (受付時間 平日10:00〜17:00)

お問い合わせ

Googleマップの口コミに対する削除請求と病院や医師に求められる受任限度(東京高裁令和3年11月4日判決)

はじめに

インターネット上の口コミ記事による風評被害は、企業や事業者にとって対応が難しい問題の一つです。特に、Googleマップの口コミのように、不特定多数の利用者が閲覧する媒体に否定的な記事が投稿された場合、削除請求を検討することが少なくありません。

今回のコラムで紹介する東京高裁令和3年11月4日判決(原審:東京地裁令和3年3月5日判決)は、医師が自院に関するGoogleマップの口コミ記事の削除をGoogle LLCに対して求めた事案において、削除請求を棄却した原判決を維持したものです。

控訴審は、原審の判断枠組みを踏襲しつつ、インターネット上の情報流通と表現の自由・知る権利との関係について踏み込んだ判示を加えており、口コミサイトにおける削除請求を検討する企業や事業者にとって、参考になる裁判例です。

事案の概要

本件の原告(控訴人)は、東京都内で内科等を診療科目とする医院を開設する医師です。被告(被控訴人)は、Googleマップ上の店舗・施設等について利用者が感想・評価を投稿できるウェブサイト(以下「本件サイト」といいます。)を管理運営する法人です。

氏名不詳の第三者は、平成31年頃、本件サイトにおいて、原告の医院について5段階評価中で最も低い「1」の評価を付した上で、原告の診察内容を批判する記事(以下「本件記事」といいます。)を投稿しました。本件記事の主な記載は、以下の4点です。

記載内容の概要
記載A原告がインフルエンザの検査をせずに自院で調合したドリンクと座薬を処方した旨の記載
記載B調合ドリンクの服用後に目眩と吐き気の症状が出た旨の記載
記載C原告を「本当にヤブ医者」と評する記載
記載D原告が咳止め薬の選択を患者に委ねた旨の記載

原告は、本件記事が原告の社会的評価を低下させ名誉を毀損するものであるとして、被告に対し、人格権に基づく妨害排除請求として本件記事の削除を求めて提訴しました。原審はこれを棄却し、原告が控訴したのが本件です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点
争点①口コミサイトにおける記事が社会的評価を低下させるかの判断基準
争点②本件記事による社会的評価の低下が受忍限度を超えるか
争点③インターネット上の情報流通と表現の自由・知る権利との関係(控訴審で追加された判示)

裁判所の判断

争点① 口コミサイトにおける記事が社会的評価を低下させるかの判断基準

裁判所は、まず、社会的評価の低下の有無は、一般の閲覧者の注意と読み方を基準として判断すべきであるとする従来の判例(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁、最高裁平成24年3月23日第二小法廷判決・裁判集民事240号149頁)に従うことを明らかにしました。その上で、医師に対する口コミについては、医師の側にもある程度の受忍が求められると判示しました。

判決は、次のとおり判示しています。

原告は●●●を開設する医師であるところ、ウェブサイトにおける病院又は医師についての口コミは、不特定多数の患者が治療を受けるべき病院又は医師を選択するのに資する貴重な情報源であり、他方、そのような不特定多数の患者の生命、身体、健康等を預かる病院及び医師としても、口コミによる自由な批判に対してはある程度受忍すべき立場にあるものというべきであるから、本件記事が原告の名誉を毀損するというためには、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が受忍限度の範囲を超えるものであることを要すると解するのが相当である。

また、判断に際しては、以下の事情を考慮すべきであるとしました。

番号考慮要素
口コミサイトの閲覧者は特定の記事のみならず他の記事をも閲覧していること
それらの記事には肯定的な評価のものもあれば否定的な評価のものもあり得ること
閲覧者はこれらの記事を総合して情報を得ていると考えられること

争点② 本件記事による社会的評価の低下が受忍限度を超えるか

裁判所は、本件記事の各記載部分(事案の概要に掲げた記載A〜D)について、一般の閲覧者の注意と読み方を基準として検討した上で、社会的評価の低下の程度は受忍限度の範囲内にとどまると判断しました。

各記載に関する裁判所の主な判示は、次のとおりです。

記載A(インフルエンザ検査と調合ドリンクの処方)について

インフルエンザの検査を行わなかったことについては、季節柄、不審に思う閲覧者もいるであろうが、医師の処置として明らかに不適切であるとまではいえない。

「ウチで調合した特別なドリンクを出します。これを飲めば全ての症状が治り直ぐ良くなります!」との発言は、医師としてはやや軽率な物言いであるが、原告がこのとおりの発言をしたかどうかは必ずしも明らかではなく、閲覧者においても、これを真に受けるとは限らず、投稿者の誇張と受け取る者も多いと解される。さらに、「変な調合ドリンク」というのも、投稿者の主観的な評価であって、閲覧者の受け取り方としてもその域を出ないものと解される。

記載B(目眩と吐き気)について

この目眩と吐き気を「ドリンクのせい」というのは飽くまでも投稿者の推測であり、仮にその推測のとおりであったとしても、一般に薬剤に副作用は付き物であるから、このことと原告の社会的評価の低下との関連性は薄いと解される。また、「怪しい調合ドリンク」というのも、投稿者の主観的な評価であって、閲覧者の受け取り方もその域を出ないものと解される。

記載C(「本当にヤブ医者」との表現)について

その「本当にヤブ医者」という表現内容からして原告の医師としての資質や能力について少なからず否定的な印象を与えるものではあるが、その評価は飽くまでも投稿者側が主観的に認識する診療経過に基づくものであって、客観的に原告の医師としての資質や能力に問題があることを示すものではなく、閲覧者の中にもそのような受け取り方をする者が多いと解される。

記載D(処方薬の選択を患者に委ねた旨の記載)について

真に原告が患者に処方薬を決めさせようとしたというのであれば、原告の医師としての資質や能力を疑わせるものというべきであるが、通常そのようなことをする医師がいるとは思われず、仮に原告が「どれにする?」というような物言いをしたとしても、それは軽い冗談であるか、その言い方自体が投稿者の誇張した表現であると受け取る閲覧者が多いと解される。

さらに、本件サイトにおける全体的な評価の分布についても考慮され、次のとおり判示しています。

本件記事は●●●に関する7件の口コミ記事のうちの一つであり、本件記事による同医院の評価は5段階中で最も低い1であるが、7件の記事を合わせた平均の評価では3.7となっていることが認められる。このことは、同医院を肯定的に評価する記事も相当数本件サイトに投稿されていることを推認させるものであって、これにより、本件記事による否定的な評価も、閲覧者によって相当程度割り引かれて受け取られるものと解される。

以上から、裁判所は、本件記事による社会的評価の低下があるとしても、その程度は受忍限度の範囲内であり、名誉毀損は成立しないと判断しました。

争点③ インターネット上の情報流通と表現の自由・知る権利との関係

控訴審は、原審の判断を引用して維持するとともに、次のとおり判示を追加しました。

控訴人による本件記事の削除請求は、本件記事の投稿者に対する訴訟ではなく、本件記事が投稿された本件サイトを管理運営する被控訴人に対する訴訟である。本件記事においては、本件記事の投稿者によって、控訴人と同投稿者との間のやり取りに関する事実や評価が記載されているが、被控訴人は、それらの事情について十分に知り得ない立場にある。

ところで、一般に、インターネットを通じた情報の流通は、国民の表現の自由や知る権利の保障に資するものとなっており、ウェブサイトにおける口コミも不特定多数の匿名者からの雑多な情報の発信と流通がされており、その一環としての意義を有しているものといえる。その情報により自らの権利が侵害されたとして、その情報の削除が求められる場合にも、上記のような基本的人権の保障との関連にも配慮が必要である。

控訴審は、サイト管理者は投稿者と被害者との間の事情を十分に知り得ない立場にあることを前提に、削除請求の判断に際しては表現の自由や知る権利への配慮が必要であるとの視点を明示したものといえます。

コメント

本判決は、人格権に基づく妨害排除請求(民法2条、198条、199条参照)として、口コミサイト上の記事の削除が求められた事案について、削除請求を否定した事例判断です。結論そのものに加えて、各記載をどのように切り分け、どのような要素を考慮して受忍限度の範囲内かを検討したかという判断の進め方そのものが、口コミサイトへの対応を検討する企業や事業者にとって、同種事案を考える上での手がかりになります。以下、実務上、特に参考となる点を整理します。

1 口コミの対象となる事業者側に求められる一定の受忍

第一に、本判決は、病院や医師に関する口コミが患者にとって重要な情報源となっていることを踏まえ、医師の側にも一定の受忍が求められることを明らかにしました。これは、飲食店、宿泊施設、士業など、消費者が事業者を選択する際に口コミを参照する業種にも同様の考え方が及ぶ余地があります。

2 サイト全体の評価分布への着目

第二に、本判決は、単一の否定的な記事のみを切り出して評価するのではなく、サイト全体における評価の分布や他の記事との関係を踏まえて、閲覧者がどのように当該記事を受け取るかを検討しています。企業や事業者は、個別の記事の削除を求めるか否かを判断する際、サイト全体における自社の評価状況を合わせて検討する必要があります。

3 サイト管理者に対する請求における表現の自由・知る権利への配慮

第三に、控訴審は、表現の自由や知る権利との関係に言及し、サイト管理者に対する削除請求には、投稿者を相手方とする訴訟とは異なる配慮が必要であることを示しました。サイト管理者は、投稿者と被害者との間の具体的な事情を把握し得る立場になく、削除請求の当否の判断には慎重な検討が求められることを示唆しています。

4 事実の摘示と意見論評の区別という視点

第四に、本判決は、各記載部分について「事実の摘示」と「投稿者の主観的な評価・意見論評」を区別して検討しています。「変な調合ドリンク」「怪しい調合ドリンク」といった表現は投稿者の主観的な評価にとどまるものと位置付けられ、「ウチで調合した特別なドリンクを出します」や「どれにする?」といった発言部分についても、投稿者による誇張として一般の閲覧者に受け取られると判断されています。名誉毀損の成否を検討する上で、記載内容のどの部分が事実の摘示に当たり、どの部分が意見論評にとどまるかの切り分けは重要な視点であり、削除請求の可否を判断する実務においても参考になります。

5 削除請求の可否に関する二段階の判断枠組み

第五に、実務上、名誉毀損を根拠とする記事の削除請求の可否は、①当該記事が対象者の社会的評価を低下させるといえるか、②違法性を阻却する事情が見当たらないといえるか、という二段階での検討が必要とされるのが一般的です。

本判決は、①の段階において、社会的評価の低下の程度が受忍限度の範囲内にとどまるとして削除請求を否定しており、②の違法性阻却事由についてまで判断に立ち入るには至っていません。企業や事業者が削除請求を検討するにあたっては、この二段階の枠組みを念頭に置き、それぞれの段階で主張・立証すべき事項を整理しておくことが有用です。

6 企業・事業者に求められる対応

もっとも、本判決は、削除請求を一切認めないものではありません。社会的評価の低下の程度が受忍限度を超える場合には、削除請求が認められる余地があります。このため、企業や事業者としては、記事の内容、表現の態様、事実の摘示と意見論評の区別、サイト全体における評価分布、投稿の背景事情などを総合的に検討した上で、削除請求、発信者情報開示請求、投稿者に対する損害賠償請求など、取り得る手段を慎重に選択することが求められます。

おわりに

口コミサイトにおける記事の削除請求は、記事の内容、サイトの性質、当事者の立場、サイト全体の評価状況など、多角的な検討を要する分野であり、対応の当否によって、企業や事業者の評判や事業活動に影響が生じ得る領域です。適切な対応を検討するにあたっては、実務に精通した弁護士に相談されることが有益です。

過去、ご相談・ご依頼をいただいたケースでは、口コミサイトやレビューサイトに投稿された記事について、事案に応じて、削除請求、発信者情報開示請求、投稿者に対する損害賠償請求などの手段を選択、あるいは組み合わせることで、ご依頼者様の事業活動への影響を踏まえた解決に導いてまいりました。

当事務所は、インターネット上の投稿に関する削除請求、発信者情報開示請求、名誉毀損・信用毀損に関する損害賠償請求など、この分野のご相談・ご依頼を広くお受けしております。口コミサイトやレビューサイトへの対応でお悩みの企業のご担当者様、事業者の方は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームりょい、ご連絡ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。