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週刊誌に掲載された国会議員に関する「口利き」疑惑記事と名誉毀損(東京高裁令和4年10月27日判決)

週刊誌による政治家や著名人に対するスキャンダル報道は、社会の関心を集める一方で、報道される側の社会的評価を大きく傷つけることがあります。報道機関は「真実性の証明」または「真実と信じたことについて相当の理由があったこと(相当性)」が認められれば、名誉毀損による損害賠償責任を免れることができますが、そのためには取材において十分な裏付け調査が求められます。

今回のコラムでは、週刊誌に掲載された国会議員(当時の国務大臣)に関する「口利き」疑惑記事について、東京高裁が原判決を変更し、出版社に対して330万円の損害賠償を命じた東京高裁令和4年10月27日判決を取り上げます。

本判決は、ほぼ同一の証拠関係を前提としながら第1審とは逆の結論を示した事例であり、相当性が認められるためには、取材源の供述や周辺事情の積み重ねでは足りず、報道の核心部分について客観的な裏付けが求められることを明らかにした点で、報道機関のみならず、社内調査や情報発信を行う企業・個人にとっても参考になる裁判例です。

事案の概要

本件は、現職の参議院議員であり、当時の内閣で国務大臣を務めていた控訴人が、被控訴人(出版社)が発行する週刊誌「週刊文春」に掲載された記事によって名誉を毀損されたとして、慰謝料1000万円および弁護士費用相当額100万円の合計1100万円の損害賠償を求めた事案です。

問題となった記事は、概ね次の二つの事実を摘示するものでした。

区分内容
摘示事実①ある会社経営者(B)が、控訴人事務所から紹介された税理士(A)に対し、着手金100万円を支払って、自身の会社の青色申告承認取消処分に関し、国税当局への「口利き」を依頼した。
摘示事実②控訴人本人が、Bと面会した際、上記100万円を国税当局への「口利き」の対価と認識しながら、Aに自己が管理する金融機関の口座に振り込ませて受け取ろうとし、さらに、旧知の国税局長とされる人物に電話を掛けようとした。

原審(東京地裁)は、控訴人の請求を全部棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件記事がいかなる事実を摘示するものとして理解されるか(摘示事実の特定)
争点②摘示事実①について、真実性または相当性が認められるか
争点③摘示事実②について、真実性または相当性が認められるか
争点④損害の額

裁判所の判断

争点① 摘示事実の特定について

控訴人(一審原告)は、本件記事中の個別の記載ごとに細かく摘示事実を立てるべきであると主張するとともに、真実性・相当性の証明対象を摘示事実の「重要な部分」に限定する判例法理は、表現の自由や迅速性が要請される新聞記事に固有のものであり、迅速性が求められない週刊誌等の記事には及ばないと主張しました。

しかし、裁判所は、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、本件記事は前記のとおりの摘示事実①および摘示事実②を読者に伝えるものであると整理した上で、ある記載が「Aが控訴人の『右腕』であった」との評価部分のように、摘示事実①の重要な部分とは認められないものもあると判断しました。また、「重要な部分」に限定する判例法理は週刊誌等の記事についても妥当するとして、控訴人の主張を採用しませんでした。

争点② 摘示事実①の真実性・相当性について

裁判所は、摘示事実①の重要な部分(Bが税理士Aに着手金100万円を支払って国税当局への「口利き」を依頼したこと)については、Bおよびその関係者の供述に加え、書類送付状や振込履歴を示す照会回答書等の客観的な資料が存在することから、被控訴人が真実であると信じたことには相当の理由があると判断しました。

判決は、次のように述べています。

「X氏(B)が、Aに対し、着手金100万円を支払って自身の会社(B’)の青色申告承認の取消処分に関し国税当局への『口利き』を依頼したとの摘示事実①の重要な部分については、B及びDの供述のほか、本件送付状、本件照会回答書等の客観的な資料が存在することから、被控訴人が真実であると信じたことに相当の理由があると認められる」

争点③ 摘示事実②の真実性・相当性について

これに対し、裁判所は、控訴人本人が直接「口利き」に関与したという摘示事実②については、真実性も相当性も認められないと判断しました。

判決は、次のように述べています。

「摘示事実②は、真実であるとは認められず、また、被控訴人が、本件記事掲載当時、摘示事実②を真実であると信じたことに相当の理由があるとも認められない。」

裁判所は、Bおよびその関係者の供述以外に客観的な裏付けがないこと、A自身も控訴人への100万円の交付については明確な供述をしていないこと、そして、控訴人がBと面会したとされる日に時間的余裕がなかったこと等を指摘しました。

判決は、取材の問題点について次のようにも述べています。

「控訴人が、平成27年9月4日、控訴人事務所を訪れたBと面会したという摘示事実②の重要な部分について、重大な疑問があり、これについては、被控訴人が、前記のとおり、当日の控訴人の具体的なスケジュールについて更に調査をし、Bらに再調査をするなど、適切に取材をすれば、容易に判明したはずであるにもかかわらず、被控訴人が十分な調査をしなかった結果、本件雑誌の発行当時には明らかにはならなかったということができる。」

裁判所は、被控訴人の取材の問題点として、以下の事情を考慮しました。

番号考慮された事情
1参議院議員会館の面会申込書および控訴人のスケジュール表に、当該日にBと面会した記載がなかったこと
2控訴人は当時国務大臣を務める多忙な国会議員であり、スケジュール表は行動準則として正確性と完全性が求められていたこと
3被控訴人は控訴人事務所から面会の事実を否定する回答を得たにもかかわらず、当日のスケジュールを確認するなどの反面調査を行っていないこと
4当日、控訴人は本会議出席後に羽田空港から飛行機で佐賀県に移動しており、Bと面会して事情を聴き「口利き」電話をする時間的余裕は認められないこと
5摘示事実②に沿う供述者であるBおよびDは、いずれも控訴人に悪感情を抱いている可能性が否定できず、供述の信用性を慎重に検討する必要があったこと
6摘示事実②の行為は公職者あっせん利得罪等の犯罪に該当し得る行為であり、控訴人が自らの立場を危うくするような言動をBらの面前で行うこと自体、不自然かつ不合理であること

裁判所はさらに、週刊誌について次のように判示しています。

「新聞記事と比較して、知る権利に奉仕する程度が低く、迅速性も要求されない場合であって、雑誌等の記事についても」相当性の判断において慎重な取材が求められる旨を述べています。

争点④ 損害の額について

裁判所は、慰謝料300万円および弁護士費用相当額30万円の合計330万円の支払を命じました。

判決は、慰謝料額の算定の理由について、次のように述べています。

「(ア)控訴人が、本件雑誌の発行当時、現職の国会議員であり、国務大臣を務め、当時のG内閣の唯一の女性閣僚として相応の注目と社会的評価を受けていたこと、(イ)摘示事実②は、控訴人が公職者としての犯罪に該当し得る行為を行ったと摘示するとともに、控訴人が金銭を収受して税務行政を歪めようとしたとの印象を与えるものであり、その社会的評価を相当に低下させるものであること、(ウ)被控訴人は、週刊誌(マスメディア)である『週刊文春』の発行者として社会的に大きな影響を与え得る立場にあり、相当の発行部数がある本件雑誌に本件記事を掲載して販売したことにより、摘示事実②に係る情報が社会内に大量に伝播・流布されたと認められること、その他本件に現れた一切の事情を勘案すると、摘示事実②を記載した本件雑誌の発行によって控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては300万円が相当であり、これと相当因果関係のある弁護士費用相当額のうち、被控訴人が負担すべき金額としては、……30万円とするのが相当である。」

コメント

1 本判決の意義

本判決は、週刊誌報道による名誉毀損の場面において、報道機関が「真実と信じたことの相当性」を主張するためには、取材源(情報提供者)の供述に加え、客観的な裏付け資料による検証や、否定的な回答を得た場合の反面調査が求められることを改めて示した判決です。

なお、本判決は、上告棄却および上告受理申立不受理により確定しており、実務上の参考価値が高い判断といえます。

2 第1審と本判決とで結論が分かれた点

本件において注目すべきは、ほぼ同一の証拠関係を前提としながらも、第1審判決と第2審判決(本判決)とで結論が分かれた点です。両者の評価の対比を整理すると、以下のとおりです。

論点第1審判決(請求棄却)本判決(330万円認容)
摘示事実②に沿う情報提供者の供述の評価複数の情報提供者から相互に整合する供述が得られていたとして、相当性を肯定する根拠とした。供述以外に客観的な裏付けはなく、情報提供者が控訴人に悪感情を抱いている可能性も否定できないとして、慎重な検討が必要であったとした。
周辺資料(書類送付状・照会回答書等)の評価摘示事実①を裏付ける客観的資料として相当性を肯定する根拠とした。控訴人本人の関与を直接示すものではなく、第三者名義の口座への振込みという周辺事実を示すにとどまると評価した。
平成27年9月4日の面会の存否スケジュール表に記載がない等の疑義は認めつつも、「あり得ない話とまではいえない」とした。面会の存否について「重大な疑問がある」とし、当日の控訴人の時間的余裕からみても面会の事実は認められないとした。
国税局長への電話・100万円受領の言動法人税法上の処分基準に裁量の余地があること等から、事実経過として「自然」であると評価した。国会議員である控訴人がそうした言動を関係者の面前で行うこと自体、「不自然かつ不合理」であると評価した。
国税局長とされる人物の取材対応控訴人との接触を明確には否定しなかったことを、相当性を肯定する一事情とした。上記の事情を相当性を肯定する根拠としては評価しなかった。
結論(相当性の有無)被控訴人が真実と信じたことに相当の理由があるとして、控訴人の請求を棄却した。真実性も相当性も認められないとして、330万円の損害賠償を命じた。

このように、同じ証拠関係を前提としながらも、本判決は、報道の核心となる事実について個別に裏付けの有無を検証する手法を採り、相当性を否定しました。取材段階でいかに核心部分の裏付けを尽くしておくかが、後の訴訟における結論を左右することを示唆する事例といえます。

3 「総体的な評価」と「核心事実の個別の裏付け」

本件は、取材プロセスを「総体として評価する」ことと、報道の核心となる事実を「個別に裏付ける」こととが別物であることを浮き彫りにした事例ということができます。

第1審は、被控訴人の取材経過の全体像を概観した上で、複数の情報提供者から得た供述や周辺資料の積み重ねを総合的に評価して相当性を肯定しました。

これに対して、本判決は、「Bが平成27年9月4日に控訴人事務所を訪れて控訴人と直接面会した」という、摘示事実②の核心となる事実そのものについて客観的裏付けがあるかを正面から問い、その点に限ってみれば、被控訴人による調査が尽くされていないと評価しました。

企業における社内調査や取引先調査、SNS等を通じた情報発信の場面においても、「全体としてそれなりに調べた」ことが、必ずしも「ある人物が特定の日時に特定の言動を行った」という核心事実を裏付けたことにはならないという点は、実務上、留意しておく価値があります。

4 調査主体の属性に応じた調査水準

本判決は、被控訴人が大手出版社であり、国会議員に対する取材を継続的に行ってきた立場にあったことを指摘しています。すなわち、国会議員のスケジュール管理の実情や、面会の事実の否定について反面調査をするための具体的な方法について、被控訴人は当然に知り得る立場にあったと評価できるため、相当性が認められるかどうかの判断に当たっては、その立場にふさわしい水準の取材・調査を尽くしたといえるかが問われることになります。

この視点は、報道機関に限らず、社内調査や取引先調査、情報発信を担う部門を有する企業にとっても重要な示唆を含んでいます。一般に、調査主体の経験・規模・専門性が高いほど、求められる調査水準も相応に引き上げられると考えられるためです。

5 慰謝料額の算定

慰謝料額の算定に関して、一般に名誉毀損の損害額を判断する際の考慮要素としては、加害行為の動機・目的の悪質性、真実性または相当性が欠ける程度、毀損された情報の伝播範囲や情報伝播力、被害者の社会的地位、社会的評価が低下した程度、被害者が被った社会生活上・営業上の不利益等が挙げられます。

本判決は、こうした一般的な考慮要素を本件の具体的事情に当てはめ、現職の国会議員かつ国務大臣という被害者の立場、犯罪該当行為を摘示する記事内容の悪質性、週刊誌という媒体の有する社会的影響力と発行部数の大きさ等を総合的に勘案した上で、慰謝料300万円という金額を認定したものと位置づけられます。

6 企業等に求められる対応

本判決から、報道機関、さらには、SNSなどで情報発信を行う企業や個人が留意すべき点として、次の3点を挙げることができます。

番号留意点本判決における関連する指摘
1情報提供者の供述だけに依拠することなく、客観的資料による裏付けを行う必要がある。本判決は、Bらの供述を裏付ける供述以外の客観的な証拠はない旨を指摘しています。
2対象者から否定的な回答を得た場合には、その回答を弾劾するための追加調査を行う必要がある。本判決は、控訴人事務所からの否認回答に対し、被控訴人がそれ以上の反面調査を行っていない旨を指摘しています。
3情報提供者が対象者に悪感情を抱いている可能性がある場合には、その供述の信用性を慎重に検討する必要がある。本判決は、情報提供者と対象者との関係性についても、その供述の信用性を慎重に検討する必要があったとしています。

おわりに

週刊誌報道やインターネット上の投稿によって名誉を傷つけられた場合の対応、または、自社の発信内容について名誉毀損のリスクを事前に検討したい場合には、いずれも事実関係の整理、証拠の確保、法的構成の検討等、専門的な判断が求められます。

早期に弁護士に相談することで、適切な対応方針を立てることができ、被害の拡大や紛争の長期化を防ぐことが可能となります。

当事務所は、名誉毀損・プライバシー侵害・誹謗中傷対応や、報道・出版・SNS発信に関する法的助言について、被害を受けられた方からのご相談・ご依頼はもちろん、発信側の立場からのリスク検討に関するご相談・ご依頼もお受けしております。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。